ティーンエイジャーが支える廃れゆく町のサーカス

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ティーンエイジャーが支える廃れゆく町のサーカス

イングランドのノーホーク州にあるグレート・ヤーマスの経済状況は芳しくない。多くの商店が店閉まいを迫られる中、この町にあるサーカスだけが、常に満員御礼となっている。ショーの中盤で板敷きの舞台が水の中に落ち、スイミングプールが新たな舞台となるというヒポドローム・サーカス場は、この町の人々を魅了し続けている。

(Top photo: Roni, Liv and Becky. All photos by Nick Warner)

ニック・ワーナー(Nick Warner)は故郷であるイングランド、グレート・ヤーマスで、ヒポドローム・サーカス(Hippodrome Circus)で働く人々の生活を、15年にわたり記録し続けている。そこには、1903年の開業以来、サーカスのためだけに使われている英国唯一の建物がある。そこで、夏のショーに出演するために訓練を受けることが、地元のティーンエイジャーの通過儀礼となっている。

グレート・ヤーマスの人々にとってのサーカスの重要性、伝統的にサーカスがもたらす文化的影響について、ワーナーに取材した。

サーカス専用の建物について教えてください。サーカスといえばテントで各地を転々とするものだと思っていたので、このようなコンセプトのサーカスがあるとは知りませんでした。

そうですね。そこにあるのに、誰にも知られていないのがとても不思議です。客席は800あります。学生時代からの親友がオーナーで、彼は3代目です。私は少年時代、たくさんの時間をそこで過ごしました。
私の友達も、みんなそうです。だから私たちは、このサーカス場を知りつくしています。とても驚くような建物で、舞台は誰もが想像するような板敷きでできていますが、その下には水を張ったプールがあります。ショーの中盤で、板敷きの舞台が水の中に落ちると、スイミングプールが新たな舞台になります。そんな仕掛けのあるサーカス場は世界でも3つしかないはずです。私の故郷のグレート・ヤーマスの海辺には、本当にクレイジーなサーカス場があるんです。ノーフォーク州では誰もが知っていますが、それ以外の地域の人々は、そこにサーカス場があるのを知りません。

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あなたが撮影したティーンエイジャーにとって、サーカスは週末だけの仕事ですか? それとも、日々、サーカスに専念しているのですか?

ヒポドロームでのショーは、昔は、1年に2シーズンでしたが、今は4シーズンです。サマー・ショー、クリスマス・ショー、イースター・ショー、ハロウィン・ショーがあります。ヤーマスは、ブラックポールと同じような保養地です。ここで働く多くの若者は、ショーの期間中、学校や大学には通っていません。サーカスは非常にハードな仕事です。1日2回、週7日間、公演は続きます。サマー・ショーは、およそ12週間に及びます。毎日専念しなければできません。ハロウィン・ショーは、それに比べて短く、およそ10日間の公演です。

各パフォーマンスのために、どのくらいの期間、練習するのですか?

私は、おもにダンサーを撮影しています。ダンサーは、サーカス専属の振付師とともに1カ月から2、3カ月は練習します。それぞれのショーの準備開始からオープニングまで、実際のリハーサルは2カ月間に及びます。もちろん全ての制作期間を含めると、それよりずっと長い時間を要します。ジャック・ジェイ(Jack Jayサーカスのオーナー)と今日話ましたが、彼らは6月に始まるサマー・ショーの準備をしている最中です。さらに、サマー・ショーまでの間には、イースター・ショーが開催されます。それにも企画や振り付けなどが必要です。したがって、全日操業のようなものです。ショーが開催されていないあいだも、次のショーの練習や準備をしているのです。

ある意味、風変わりなユースセンターのようですね。若者を引き込んで、木の上で40本ものタバコを吸ったり、公園でビールを飲んだりする以外の物事を教えているのですね。

ヒポドローム・サーカスが地元住民にとって、とても誇らしく魅力的であり続けているのは、そのポイントが大きいです。これは素晴らしいことです。サーカスは、一般的に廃れてきていますが、ヤーマスでは、どういうわけか盛況です。ジャックが引き継いでからは、年に2回のショーが4回になりました。より大掛かりなセットデザインにも、お金をかけています。ノーフォーク州以外からショーを観に来る人は、ほとんどいません。毎年、観客は同じです。サーカスを支え、繁栄させているのは、現地コミュニティーなんです。たくさんの若者にとって、サーカスには大きな可能性があります。ロンドンのハックニーにあるサーカス・センター(National Center for Circus Arts)で学ぶ、私より少し年下の、ここのサーカスで育った若者たちもいます。彼らは現在、世界規模のサーカスで活躍しています。

廃れゆく海辺の町で生活している若者が、サーカスでチャンスを掴めるなんて、ある意味、コミュニティーの安全な避難場所のようですね。

その通りです。この町の人口推移の現状を把握してはいませんが、ヤーマスには非常に大きな移民のコミュニティーがあります。したがって、東欧はじめ、大陸の人々も生活しているのですが、それぞれ独自のサーカス文化を持っています。このようなショーを公演するにはお金がかかるし、他のどの場所とも変わらず、チケット代も安くはありません。ショーの内容からすれば高くはありませんが、チケットは、12ポンド(約1700円)、15ポンド(約2100円)、18ポンド(約2600円)、ときには、20ポンド(約2900円)になることもあります。それでも、ヤーマスにはたくさんの観客がいます。サーカスの存続が重要だからこそ、裕福でない観客も来るんです。

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ヤーマスでは最大のアトラクションのひとつですね。

ヤーマスの景気は、これまでで最悪です。海辺に沿って歩き、町の中心を通ると、私が育った頃と比べて、かなりひどい状態なのがわかります。60~70%の店が閉店してしまい、人っ子ひとり見あたりません。買い物や外出の際は、ノーウィッチに行きます。サーカスがある、海辺のゴールデンマイルには、アーケードや、小さなビーチ用品元がありましたが、ほとんどが閉店しました。しかし、どういうわけか、サーカスだけが繁盛しています。これがどれほど大きな意味を持つか、みなさんに伝わるかわかりませんが、ロンドンではチケットが完売しないサーカスショーがたくさんあるのに、ヤーマスでは全シーズン、チケットが完売します。

リヴとマイルズ(Liv and Miles)

ロニ(Roni)

Miles and Roni

シャーロット(Charlotte)

リヴ(Liv)

ロニ, ベッキー, トニー(Roni, Becky and Tonie)

ベッキー(Becky)

リヴとトニー(Liv and Tonie)

マイルズ(Miles)