アート・バーゼル香港の話題作:高さ490メートルの高層ビルを点滅する光で包み込む
香港と言えば、高層ビルが立ち並び、ネオンが輝く都市だ。その様子は、西九龍文化地区 (WKCD/※1)が「未来の美術館」と謳うM+(ミュージアム・プラス)が運営するウェブサイト、M+'s digital archiveがよく表している。
金融都市としてのイメージが強い一方、近年アートでも注目を集める香港で5月15日〜18日の4日間にわたり開催されたアジア最大級のアートイベント、<アート・バーゼル香港>。このイベントで、Alva Notoとしても知られるドイツのサウンド・ビジュアルアーティスト、カールステン・ニコライが披露した『α(alpha plus)』は、高さ490メートルのインターナショナル・コマース・センター(ICC)のビル全体を、巨大な灯台のように仕立て上げた作品だ。光のインスタレーションを組み込み一定の周波数を同期させ、パルス(※3)を放ちセンター全体を点滅させるという仕組みだ。
Carsten Nicolai Art Basel in Hong Kong 2014 © MCH Messe Schweiz (Basel) AG
15日に行われた初披露で同作品は、1時間弱の間、眩しく点滅するきらめきと拍動するサウンドで、辺り一面の空を文字通り覆い尽くした。またニコライは、ICCの真向かいに位置する埠頭Pier4で平行光線ショーを行い、作品はさらに際立った。幾何学的に水平に点滅を繰り返すスピーカーサイズの巨大な光構造をミニマルテクノのビートとシンクロさせ、ビル全体をいつもと全く異なるアートに仕立て上げたこの作品は、ベルリンを拠点に活動するニコライのBerghain(ベルグハイン)(※4)的な一面をも彷彿とさせる。
プロジェクトのコンセプト
プロジェクト全体についてニコライは、「人間の神経作用を光の点滅で表したもの」だと簡潔に語る。光のインパルスが、オーディエンスのムードやクリエイティビティにどう影響を与えるかを探りたいのだと言う。その影響が科学的にはすぐに証明されなくとも、そびえ立つICCタワーを絶え間なく上下するまばゆい光は、道行く人々の注目を集めるには十分だったと言えるだろう。 蛍光灯の光をビル中の窓に点してそびえ立つ巨大な建物は束の間、光とそれにシンクロして響く電子音により、まばゆいネオンで包み込まれたアート作品に創り替えられた。
この夜、口数の少ないニコライからプロジェクトの詳細を聞くことは出来なかったが、ビジュアル構成を見れば、ニコライが好むところの、ランダムで自己組織化されたパターンを基軸にしていることが分かる。
この夜、光のインスタレーションを終えたニコライは、香港のアーティスト、ナディム・アバス(Nadim Abbas)によるインスタレーション作品『Apocalypse Postponed』に立ち寄った。貯蔵庫に見立てたインスタレーション内でABSOLUTウォッカを使ったカクテルが飲めるというコンセプトのこのアート・バーで、DJをするためだ。そして、今しがた自らの作品がオーディエンスたちに与えたインスピレーションどおりの、フルスロットルのトランスをかけ続けた。
光のインスタレーションは17日までの3日間行われ、ICCが面する九龍のビクトリア・ハーバーと香港のカルチャーの中心地は、ニコライの作品が放つまばゆい光に照らされ続けた。常に斬新な世界観を見せてくれるニコライの次なるプロジェクトにも、また新たな期待が寄せられる。
ニコライの作品について詳しくは、彼のサイトで見ることができる。
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脚注:
(※1)西九龍文化地区(WKCD):香港、九龍地区にある、文化とエンターテインメントの発展を目的として建設が進められている政府出資の巨大文化ゾーン。数多くのビジュアルアート美術館、劇場、コンサートホール等の建設が進んでいる。
(※2)M+(ミュージアム・プラス)」:西九龍文化地区で建設が進んでいるビジュアルカルチャー美術館。2017年オープン予定。
(※3)パルス:ここでは、一定の幅を持った矩形波(波の形)のこと。同期した光の情報を伝える。
(※4)Berghain(ベルグハイン):ドイツ、ベルリンにある巨大なクラブ。世界最高峰クラブと謳われる、ベルリンのテクノカルチャーの中心地。