ある金曜の夜、私はアリゾナ州フェニックスにある小さなパンク系ライブハウスで、ヴァージン・ピニャ・コラーダを浴びるように飲んでいた。友人から「一度観にいくように」と薦められていたバンドが、ようやくバーの隣にあるステージに立ったようだ。友人のメールには「そのバンドの演奏は、ほとんどロボットがやっている」と書いてあった。疑いながらフロアの扉を開けると、ヴォーカルである〈JBOT〉の唸り声が耳をつんざいた。彼はヒトであったが、バンドを先導しているのは、〈GTRBOT 666〉と〈DRUMBOT 0110〉という2体のロボットだった。ダブルネックのギター/ベース、洪水のようなビートで耳が潰れそうになった。
彼らは、1996年に結成されたCAPTURED! BY ROBOTSというヘヴィメタル・バンドだ。20年以上前にJBOTは、バンドのためにロボットをつくったのだが、ロボットたちの反乱に遭い、目玉をくり抜かれて無理矢理ロボットバンドのフロントマンにさせられた…という設定らしい。神に見捨てられたこの惑星のなかで、おそらく最高のメタルバンドである彼らをもっと知りたくて、私はJBOTに連絡をした。彼らは最新アルバム『Endless Circle of Bullshit』を引っ提げて、〈20 Years of Suffering:20年にわたる苦しみ〉ツアーの真っ最中。ちょうどルイジアナ辺りをツアーしているところだった。
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どういうわけでロボットとバンドを組むことになったんですか?
俺は何年も、いろんなバンドで演奏してきた。でもすぐにうんざりしてしまう。バンドにメンバー・チェンジは付きものだが、ドラッグをやっている人間も多かったし、ワガママだし、酒に溺れていたし、とにかくメンバーの抱えるあらゆる問題に対処するのが嫌だった。それが大きなストレスになり、バンド活動をやめたんだが、どうしてもバンドをまたやりたくなった。しかし、イライラしなくて済むメンバーは、なかなか見つからなかったんだ。そんなとき、あるバンドが、ライブでクレイジーな曲を演奏するために、カセットプレイヤーを使っているのを目撃した。ちょうどギタリスト探しに苦労していたときだった。よし、俺もこういうクレイジーな曲をやろう、と計画したが、もちろん真似はしたくなかった。それで他に何ができるか考えた結果、ギタリストのロボットを造ろうと決めた。最初はあまりいい出来じゃなかったが、望みどおりに作動してくれた。更にドラマーにもうんざりしていたから、ドラムのロボットもつくった。〈必要は発明の母〉というだろ?
自分でロボットを設計して組み立てたんですね。ロボット工学の知識はあったんですか?
いや、まったくない。初めはクソロボットしか出来なかったが、つくりながら学んだ。決して諦めなかった。
ロボットたちは実際に音楽を演奏しているんですか? それとも録音に合わせて真似をしているだけですか?
すべてを演奏している! 当て振りの曲はない。実際にロボットたちが演奏してるんだ!
どう作曲するんですか? どうプログラムして、ロボットにメタルを演奏させるんですか?
作曲は、キーボードを通してコントロールする、ロボットの楽器を演奏しながら進めている。要はシーケンシングの問題だ。音を〈機械的〉にしないためのコツがたくさんある。すごく苦労するのが〈ズレ〉の問題だ。音を出させるシーケンスでは、まず継電器を駆動させ、空気を通すためにバルブを開ける。その空気がシリンダーに入り、ドラムスティックが下りる。そうやってドラムから出た音が耳に届く。ズレの問題を回避するのは難しいが、長くやっているから、今はうまくやれているよ。
あなたのことを調べているときに、COMPRESSORHEADというドイツのコピーバンドを見つけました。彼らも同じくメタルバンドで、ロボットがメンバーにいるようです。知っていましたか?
彼らは2年ぐらい前から活動してるよね。少し話をした。何をやってるか知りたかったんだ。彼らは、これまでいろんなロボット楽器を制作していて、その後バンドを組むようになったんだ。いいやつらだけど…悪く取らないでほしいが、ロボットの演奏はイマイチだった。見た目はすごいんだけどね。それがロボット・バンドの問題なんだ。ロボットは好きに造れるだけに、バンドが何をしたいかが浮き彫りになる。彼らはターミネーターみたいなデカいロボットをつくっていた。でも俺はもっとスカムだ。ガラクタからロボットをつくる。それに彼らはコピーバンドだが、俺は政治的な曲をたくさん書いている。数年前からこの路線を始めたが、これが地獄への近道だと感じている。
ロボットのバンドにいるあなたにお尋ねします。人間とテクノロジーの関係についてどう思いますか?
テクノロジーは破滅へと至る最も確実な道だろう。技術革新の反対者にはなりたくないが、インターネットのなかった時代が懐かしい。昔のほうがみんなよっぽど幸せだった。インターネットによって、世界中の魔法と生の音楽は失われてしまった。YouTubeでバンドのライブを観れるんだから、どうしてライブに出かける必要がある? 人間性というのは奇妙なものだ。そこにテクノロジーを加えたときのバランスの取り方を、まだ人間は学んでいない。レストランに行けば、誰もがスマホに夢中になっている。今や切り離せなくなっている。うんざりするよ。人間関係や友情が破壊されているんだ。大きな穴に落ちて、そこから出られないようなものだ。
音楽的な影響は誰から受けましたか?
ジャズの学位を持っているが、リラックスするための音楽を聴く必要はもうない。聴くのは怒り狂った音楽だけだ。WORMROT* 、KILLDOZER* 、そしてストーナーメタル、パワーバイオレンスだ。拳を突き上げて暴れたくなるような、激情と怒りが感じられる曲が好きだ。今の世の中には、激しい怒りを感じる現実が本当にたくさんあるからね。
** 米国・ウィスコンシンのジャンクバンド。
メンバーであるロボットは、メンテナンスが大変そうですが、ライブ中に壊れたりしませんか?
故障は付き物だ。念のために予備の部品をたくさん持ち歩いている。何度かライブを中断する羽目にも遭った。でも何とか乗り切らないとダメだ。ライブ中に故障が起きたときは、ありとあらゆる対処をする。例えば、ツインペダルをつなぐ棒が壊れたときは、誰かに洋服ハンガーを探してもらったりね。
初めてあなたのライブを体験した人たちの反応はどうですか?
ロボット・バンドというと、ビープービープーいってる脳足りんエレクトロニカをみんな想像しがちだ。これまで見たロボット・バンドや楽器は、どれもヘッポコでヘタクソだった。でも俺のロボットはハンパじゃない。もし、ロボットが最大出力で演奏するのを見たくて、メタルとかグラインドコアが好きだったら、俺たちのバンドをお薦めする。俺はそういうミュージシャンであり、俺のロボットはそういうロボットなんだ。俺たちは本物だ。