子宮を取っても私は〈女性〉

「ここ2年くらいはずっとお腹や腰が痛くて、そういう行為には消極的だった。でも、いざ取ってみたらね、〈ヤる気マンマン〉なの。どんな感覚なのかすごく気になる」

女性の社会的地位、格差についての議論が増えるのと同時に、〈女性が働きやすい職場〉〈女性が輝ける社会〉〈女性がつくる未来〉を目指し、女性を応援する制度や価値観を生みだそうとする動きが社会全体に広がっている。だが、ここでいう〈女性〉とは、果たしてどんな女性なのか。女性に関する問題について真剣に考えている女性、考えていない女性、そんなのどうでもいい女性、それどころじゃない女性、自分にとって都合のいい現状にただあぐらをかいている女性。世の中にはいろんな女性がいるのに、〈女性〉とひとくくりにされたまま、「女性はこうあるべきだ」「女性ガンバレ」と応援されてもピンとこない。

「いろんな女性がいるんだから、〈女性〉とひとくくりにしないでください!」と社会に主張する気は全くないし、そんなことを訴えても何にもならないだろう。それよりも、まず、当事者である私たち女性ひとりひとりが「私にとって〈女性〉とは何なのか」本人独自の考えを持つべきではないのか。女性が100人いたら、100通りの答えを知りたい。

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あなたにとって〈女性〉とは?

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正岡涼子(54)

「〈女性〉とは?」と考えたことはありますか?

そんなの、今まで考えたことなかった。男性じゃないなら、私は女性、と思うしかないし。でも、今回の入院が色々考えるきっかけになったかな。

入院の経緯を教えてください。

いきなり高熱が出たから、最初はインフルエンザかと思って病院に行った。そしたら、原因は〈卵巣〉にあると。左側の卵巣が炎症を起こして、腹水も溜まってるって。緊急入院することになった次の日、5時間半かかって、子宮、卵巣、卵管の摘出手術を受けた。

術後、経過はどうですか?

開腹した傷は少し痛むけど、身体のなかの痛みは無くなったね。手術前日は、お腹が痛すぎてイスに座って話なんかできなかったから。

身体のなかに、子宮、卵巣、卵管がないのはどのような感覚ですか?

〈何かがなくなった〉という感じはあまりしない。私の体重が56kgで、摘出した臓器が約400gだから、大きさでいえばたいしたことないし。痛みがなくなって、スッキリはしてるかな。

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摘出した子宮。丸い臓器が子宮、その周りについているのが卵巣、卵管。医師曰く、炎症がひどく、摘出の際にボロボロと崩れてしまったそうだ。
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子宮とともに摘出した子宮筋腫。直径7センチ。

子宮、卵巣、卵管を摘出したことで、心境の変化はありましたか?

手術前は、ちょっと〈おセンチ〉になった。でも、いざ取ってみたらね、〈ヤる気マンマン〉なの。若い頃から異性にはだらしなかったというか、好奇心は旺盛だったけど、ここ2年くらいはずっとお腹や腰が痛くて、そういう行為には消極的だった。なのに、子宮とか卵巣をとってスッキリしたら、ヤる気が戻ってきた。おかしいよね、子宮はもうないのに。「夏頃には試してみようかな」なんて、今は思える。過去に30センチの超巨根黒人とヤったことがあって、子宮がないいま、ヤれるのか試してみたい。膣は伸びるというし、どんな感覚なのかすごく気になる。

摘出前に、子宮や卵巣を意識する瞬間はありましたか?

私は生理不順で、10代の頃から産婦人科に通っていたから、他の女性よりも余計に意識していたかもしれない。子宮筋腫もあったし、つわりもひどかったし、子宮に振り回されてばかりだったな。

子宮のせいで、嫌な思いばかりしてきたんですか?

大変なこともたくさんあったけど、子どもを産んだら辛かったことなんて全部吹っ飛んて、ただただ「女に生まれてよかった」と思えた。

若い頃から、出産願望は強かったんですか?

元々子どもは好きだったけど、病院の先生から「卵をつくる薬を飲まないと妊娠はできない」と言われていたから、自分が母親になるなんて全く想像していなかった。なのに、30歳で突然妊娠したから、びっくりしたし怖くなった。

何が怖かったんですか?

だって怖くない? お腹のなかで、だんだんヒトが育っていくんだよ? 冷静に考えたらおかしいじゃない。みんな、そんなの当たり前だと思ってるかもしれないけど、お腹がだんだん膨らんでいって、お腹のなかが動くようになって、ここに手がある、足があるってわかるようになる。ヒトのなかでヒトをつくるって、すごいことだよ。

〈怖い〉という感情が、どのタイミングで〈女に生まれてよかった〉に変化したんですか?

最初は怖かったし、とにかくつわりがひどくて辛かった。気持ち悪くて何も食べられなかったから、24時間点滴をしてたし、唾液も飲み込めなくて、トイレットペーパーに全部出したり。でも、妊娠5ヶ月を過ぎた頃から、だんだんお腹のなかで子どもが動くようになって、存在を感じるよういになった。たまに動かないと「死んじゃったのかな」なんて不安になったし、「元気? 生きてる?」とお腹のなかの子どもに話しかけているうちに、だんだん気持ちが変わってきたかな。

昔、柳澤 伯夫って政治家が「女性は子どもを産む機械」みたいな発言をしてバッシングを受けたことがあった。血が通ってるんだから、女性は機械じゃないし、あの発言はバカだと思うけど、子どもを産むっていうのは〈究極のよろこび〉だとは思う。この気持ちは、男性にはわからないかもしれないけど。

「男性にはわからない」理由は、子宮や卵巣がないからですか?

男性には、出産できるシステムが身体にないから。古い考え方かもしれないけど、子どもを産めるシステムが女性だけにある以上、女性っていうのは男性が守るためにあると思う。男性だって、本当は女性を守りたいし、女性だって本当は守ってほしいと思ってるのに、それを棚に上げたいまの社会が目指す男女平等はおかしいよ。ただ、女がクソ生意気になってるだけ。男性も、女性と同じように子宮や卵巣を持っていて、どっちが産むか相談して決められたら良いのに、と前から思ってた。

もし男性にも子宮や卵巣があるとしたら、子宮や卵巣のない、あなたの性別は?

女性だね。女性として、男性とヤりたいと思ってるから、私は女性。子宮や卵巣があるかどうかは、性別とは関係ない。手術前にちょっとおセンチになったのは、子宮や卵巣がなくなることで〈女性じゃなくなる〉のが悲しかったわけじゃなくて、ただ、〈究極のよろこび〉をもう2度と味わえない事実が、ちょっと悲しかっただけ。子宮の有無や、子どもを産めるかどうかでは、性別は決まらない。

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では、今回摘出した、子宮、卵巣、卵管は、あなたにとって何だったのですか?

何だったんだろう。〈ホルモンタンク〉かな。男性にモテた時期もあったけど、それは外見だけでモテてたわけじゃなくて、ホルモンタンクのおかげでもあったのかな、と。摘出した今は、新たなホルモンタンクができている気がするんだよね。これからが女性としての第2の人生なんじゃないかって、すごくわくわくしてる。

第2の人生、女性としてどう生きたいですか?

新しいホルモンタンクを大事にしたい。私の知り合いのオカマがさ、よく「子どもが産めないから女には勝てない」って言うんだよ。いくら見た目をカルーセル麻紀くらい綺麗にしたって、女には勝てないって。でもそういう人のほうが、自分の性について何の疑問も持たずに生きてる人よりもよっぽど、自分の性について強く意識してるし、自分の性を誇ってるし、大事にしてる。私も、女性としてのこれからの人生を大事に生きていきたいね。とりあえず、何よりもまずは、早く社会復帰できるように頑張りたいかな。