女性の社会的地位、格差についての議論が増えるのと同時に、〈女性が働きやすい職場〉〈女性が輝ける社会〉〈女性がつくる未来〉を目指し、女性を応援する制度や価値観を生みだそうとする動きが社会全体に広がっている。だが、ここでいう〈女性〉とは、果たしてどんな女性なのか。女性に関する問題について真剣に考えている女性、考えていない女性、そんなのどうでもいい女性、それどころじゃない女性、自分にとって都合のいい現状にただあぐらをかいている女性。世の中にはいろんな女性がいるのに、〈女性〉とひとくくりにされたまま、「女性はこうあるべきだ」「女性ガンバレ」と応援されてもピンとこない。
「いろんな女性がいるんだから、〈女性〉とひとくくりにしないでください!」と社会に主張する気は全くないし、そんなことを訴えても何にもならない。それよりも、まず、当事者である私たち女性ひとりひとりが「私にとって〈女性〉とは何なのか」本人独自の考えを持つべきではないのか。女性が100人いたら、100通りの答えを知りたい。
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Ayako、Aoi
「女性とは」と考えたことはありますか?
Ayako:ないですね。私は中学、高校と女子校に通っていたので、思春期に男女の違いや社会での立ち位置について真剣に考えてきませんでした。学校は女子だけで成り立っている世界だったので、自分が女性だということも特に意識したことはなかったです。
Aoi:私も考えたことないです。女性の地位とか、会社での待遇とか、社会的によく話題にあがるテーマではありますけど、私は自分が女性だからという理由で不利益を被った経験もなかったので。でも、今私たちがやっていることは、私たちが女性だからやりやすいことなのかなとは感じます。
おふたりは何をされているんですか?
Ayako:私たちはふたりとも身長が150cm前後と小柄なのですが、その特徴を活かして、身長155cm以下の小柄な女性向けのファッションブランド〈COHINA〉を立ち上げて、なかなか似合う服に出会えない小柄な女性のための服を販売しているんです。
小柄だとどういう服が似合わなくなるんですか?
Aoi:例えばボトムスは、丈が長すぎたら切らなければならないですよね。そうするとシルエットが変わってしまうので、自分が欲しいボトムスをそのままのシルエットで手に入れられないんです。ワンピースなども大きすぎると服に着られているような印象になり、胴長にみえてしまいます。気づけばサイズ的に着れる服しか着れずに、自分が本当にしたい格好ができなくてモヤモヤした経験が私自身もあります。
小柄だということをコンプレックスに感じているんですか?
Aoi:私は小学生の頃から、いつも背の順の列の先頭だったので、自分が小柄だということは自覚していましたが、それがイヤだとは感じなかったし、コンプレックスもありませんでした。でも年齢が上がるにつれて、自分に合う服がないと感じるようになり「小柄だから着れない服があってもしょうがないかな」と諦めていたんです。
Ayako:私もコンプレックスというより、小柄なのは自分の大きな特徴だと捉えていますね。ただ、身長が自分の第一印象を大きく左右する感覚はあります。小柄だと、服のテイストがすごく絞られるというか。「仕事ができる女性にみられたい」「カッコイイ系にみられたい」「清楚にみられたい」と、みんな色々な欲求があるはずなのに、身長のせいで選択肢が狭まるのは不便だなと感じていました。
自分の実体験から悩みを解消できる服をつくりたいと考えたんですね。もともとファッションにも興味はあったんですか?
Aoi:ファッションは好きでしたけど、ものすごく時間やお金を遣うタイプではありませんでしたし〈COHINA〉を始める前まではファッションに関わる仕事に就きたいと考えたこともありませんでした。
Ayako:私もそうですね。まさか自分がファッションブランドを立ち上げるなんて想像していませんでした。大学時代、いろいろな会社でインターンシップを経験するなかで、なるべく仲介を挟まずに自分たちがつくったモノを消費者のもとに直接届けるというビジネスモデルに出会ったんです。私もそのビジネスモデルで、小柄な女性向けの服をつくりたいと考えました。
でも当時はファッションブランドを立ち上げる方法やノウハウも全然なかったんですよね? そのなかでどのようにブランドを立ち上げたんですか?
Ayako:起業家をサポートする〈Shopify〉というサービスで、誰でもネットショップをつくれるんです。これが私たちのお店なんですが、このサイトをいちから自分たちでつくるのではなくて、〈Shopify〉のサービスを利用して、お店を出しています。ブランドを立ち上げた当初から、日本だけではなく、ゆくゆくは各国の小柄な女性たちに〈COHINA〉の服を届けたいと考えていたので、グローバルでいちばん利用されている〈Shopify〉を選んだんです。
Ayako:たまにポップアップとして、デパートなどの店舗で販売することもありますが、基本的にはこのサイトを使って服を販売しています。インターネットがある時代だからできたことですね。
Aoi:本当にそう。今年の4月から、毎日1時間のインスタライブをやっているんです。商品を紹介したり、たまに商品企画を視聴者さんと一緒にやって、みなさんからの意見をもらっています。途中までデザインしたサンプルを試着して見せて、色や機能性などの意見をもらうんですよ。
新しいですね。
Aoi:〈COHINA〉のお客様には、小さい子どものいる女性も多いんです。そうなると「授乳しやすいように前が開くほうがいいよね」とか「ここにポケットが付いていたらいいね」と、実際にその服を着てどう生活するかを想像して服をつくることができます。その感覚を捉えることができるのは、私たちが小柄であり女性だから想像しやすいし、商品企画に活きているとは感じます。
おふたりがつくった服を売る、というよりは、小柄な女性たちみんなの意見をきいて、みんなで服をつくっているんですね。
Ayako:そうですね。〈COHINA〉を立ち上げてから「私も小柄な女性向けのファッションブランドをやりたいと思っていたんです」といってくれる女性もいたので、みんなやりかたを知らなかっただけで、本当は小柄な自分に似合う服が欲しいという気持ちをもっていたんだな、と。私たちもアパレル経験がなかったからこそ、どうしたらシルエットがスッキリ見えるか、みんなが何色を求めているのか、と実際に当事者の女性たちの声をきいて、学びながらつくるというスタイルで仕事ができています。
仕事をするうえで、女性だったから得をしたこと、または損をしたことはありますか?
Aoi:女性だから損をした、という感覚はあまりないですけど、強いていえば、体調面でパフォーマンスが左右されるのは女性の辛い部分ですね。「月にいちど生理がくるって、頻度高くない?」といつもふたりでキレています(笑)
Ayako:それは本当にしんどい部分でありますね。〈得〉といってしまっていいのかはわからないけど、今は社会的に、女性の扱いが変わろうとしている時代じゃないですか。だからこそ、女性は後押ししてもらいやすいという側面はあるな、とは感じますね。もし私たちがビジネスを始めるタイミングが今じゃなかったら「絶対にやめておいたほうがいい」と否定されたかもしれないけど、女性が応援される今だから「今っぽくていいね、応援するよ」という捉えかたをされやすいのかな、と。
Aoi:確かに、時代が変化している今だからこそ、女性が何かをするとなると注目されやすいのかな、とは感じますね。
では、社会に応援される女性たちのなかに、自分たちも含まれているという自覚はあるんですね。
Ayako:うーん、それは全然ないですね。確かに今だから応援されやすい側面はあるとは感じますけど、自分たちがそのムーブメントをつくって、世の中を動かしているんだ、という自覚やアイデンティティは正直ないです。私たちは自分が好きなことをしているだけだし、産まれたらたまたま女性だっただけ。
Aoi:自分が女性だから、と考えて行動することは本当にないし、逆に〈女性だから〉と意識されることのほうが抵抗があります。〈個人〉にはそれぞれ得意なこと、不得意なことがあります。でも、その個人差に性差が少なからず影響するのだろうな、という考えかたですね。
Ayako:〈男性〉〈女性〉と意識しなくていい社会に早くなればいいですね。男性とか女性とか、そんな広い括りで捉えられても困るし。
あなたにとって〈女性〉とは何ですか?
Aoi:私にとっては、ただの身体的特徴のひとつでしかないですけど〈COHINA〉のお客さんたちは、女性で、かつ小柄という私と同じ身体的特徴をもっているじゃないですか。だからこそ私たちにできることはあるはずなので〈COHINA〉に関わるうえでは、自分が小柄な女性だということはすごくメリットです。
Ayako:私にとって女性は、〈バッジ〉みたいなものですね。〈女性〉というバッジ以外にも、みんないろんなバッジをつけている気がするんです。そのバッジをだれかにアピールする、しないは自分の自由だし、相手がそのバッジをどう受け取るかも自由だけど、確かに付いているバッジというイメージです。
今の時代、女性にはいろいろな人生の選択肢があるなかで、おふたりはどういう選択をして生きていきたいですか?
Aoi:私は、自分の気持ちに嘘をつかない選択をしたいですね。誰かの意見とか、社会からのイメージに囚われて、自分がやりたいことを諦めることはしたくないんです。自分が本当にやりたいことに背くと絶対に後悔するので、心の動くほうに進んでいきたいです。そういう意味で、今は女性が自由な選択をしやすい時代なのでありがたい部分はありますね。〈COHINA〉も、私たちや小柄な女性たちが自分の着たい服を諦めなかったからこそ生まれたブランドだと考えています。
Ayako:女性は、愛するモノやヒト、愛することがあるとすごく満たされるし、そのひとの幸せに繋がるのかなと感じるので、どうしてもこれが大切だ、というなにかをもっていたいです。〈COHINA〉は、それこそ自分たちの大切な〈子ども〉なんです。自分が産んで、みんなに愛されるようにご飯をあげたりお世話をして、教育方針について話し合って、本当にみんなで育てているという感覚があります。
Aoi:その感覚は私もすごく感じます。〈COHINA〉の服を思わず「この子」と呼んじゃいますから(笑)。親心ってこういうかんじなのかな。みんなに愛される子に育って、いつか世界に羽ばたいてほしいです。
Ayako:身長155cm以下の女性たちが服を選ぶときの、いちばん最初の選択肢になれるようなブランドに育ったら嬉しいです。