突然発症する食物アレルギーの不思議

hrana u teglama

2013年、私の消化器官は、文字通り悲惨な状態になった。原因不明の症状によって、お腹がねじれるような感覚にさいなまれ、何時間もトイレでうずくまっていた。さらに、腕や口のまわりに蕁麻疹が出たり、喉が狭くなったように感じることもあった。呼吸に支障はなかったが、とにかく不安だったので、病院で症状を診てもらうことにした。

医師の指示で、私は8品目のアレルゲン食品を控える〈除外ダイエット〉を始め、そのあとで食物アレルギーの検査を受けることになった。私は乳糖不耐症(牛乳に含まれる乳糖を消化吸収できず、著しい下痢や体重増加不良をきたす疾患)ではあるが、今までいちどもアレルギーを発症したことがなかったので、本当に食べ物が原因なのか疑わしく思っていた。

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しかし数週間後、先生から驚くべきニュースを知らされることになる。私はなんと大豆アレルギーだったのだ(これ以降、私は自分が大豆アレルギーであることを、何度も身をもって思い知らされることになる)。

私は幼い頃からずっと大豆を食べてきた。中国系の母は、料理にふんだんに大豆を取り入れていて、我が家の食卓には、醤油から豆腐、枝豆、テンペまで、ありとあらゆる大豆食品が並んでいた。それなのに、どうして私は突然アレルギーを発症したのだろう。

先生の答えは「わかりません」だった。

食物アレルギーにはいまだに謎が多く、確かなのは患者数が増え続けているという事実くらいだ(過去10年で20%増)。2019年1月、米国の医学誌『The Journal of the American Medical Association(JAMA)』に掲載された論文によると、調査対象となった40443名の成人のうち、約10.8%が食物アレルギーであることが発覚し、その半数近くが成人してから少なくとも1種の食物アレルギーを突然発症したという。彼らの25%は、私と同様、子どもの頃はいちども食物アレルギーを発症したことはなかった。

「かなり意外な結果でした」と述べるのは、同論文の筆頭著者で、小児科医院〈Ann & Robert H. Lurie Children’s Hospital of Chicago〉に務める小児科医、ルチ・グプタ(Ruchi Gupta)だ。「成人のアレルギー患者のうち、少なくとも半数は、幼少期から食物アレルギーだったと推測できます。それとは別に、大人になってから食物アレルギーを発症するグループが現れたんです」

患者本人にとってもややこしい状況だ、とグプタ医師は言明する。たしかに彼らは、自分の身体に何が起こったのか、何が変わったのか、と不思議に思わずにはいられない。

シカゴ大学(University of Chicago)の科学者、キャスリン・ネグラー(Cathryn Nagler)教授は、食物アレルギーが急増した原因として、除外される要因はいくつかあるという。「私たちの仮説では、患者数の増加は遺伝によるものではありません」と教授。「遺伝子はそれほど早く変わるものではありません。原因は環境によるもので間違いないでしょう」

ネグラー教授らは、アレルギーの増加は、私たちの微生物叢(体内のバクテリア)を変化させる環境要因によって説明できる、と考えているという。

その二大要因は、「抗生物質の誤用と、食事における食物繊維の不足です」と教授は説明する。「あなた自身が抗生物質を服用しないようにしていても、抗生物質はかなり安定性の高い薬で、私たちが気づいていなくても、食べ物や水道水に含まれています。食物繊維の不足は、以前から問題視されてきました。米国人は、食物繊維の少ないファストフードや加工食品を好むことで有名ですから」

バクテリアのなかには、食物繊維をエサとする種もいる。私たちの摂取する食物繊維が不足すると、バクテリアの割合が変化する。ある種が減少すれば、他の種が増加するのだ。同様に、抗生物質もある種を殺し、別の種を増やすことで、微生物叢を構成するバクテリアの種類や割合を変える可能性がある。

2019年1月、『Nature』誌に掲載された別の論文で、ネグラー教授たちのチームは、微生物叢と食物アレルギーの関係性にもう一歩踏み込んだ。彼らは、健康な乳児の腸内細菌を無菌マウスに投与すると、マウスの牛乳に対するアレルギー反応を防止できることを発見した。しかし、牛乳アレルギーを発症している乳児の腸内細菌を投与されたマウスは、牛乳に対する重篤なアレルギー反応を起こした。そのマウスは、初めて牛乳を与えられたさい、アナフィラキシー反応を起こした。

「健康な乳児の細菌を投与されたマウスが、アレルギー反応から完全に守られていたことは、火を見るよりも明らかです」とネグラー教授は断言する。

研究チームは、健康なマウスとアレルギー反応を起こしたマウスの体内の微生物を調べ、〈アナエロスティペス・カッカエ(Anaerostipes caccae)〉というバクテリアがマウスのアレルギー反応を防止していることを突き止めた。

彼らがマウスの遺伝子発現における違いを比較し、程度の差はあれ活性化している遺伝子を調べたところ、腸上皮(小腸と大腸の内側の薄い膜)における違いが明らかになった。研究の次なるステップは、前述のアナエロスティペス・カッカエがこの膜をどのように変化させ、その変化が免疫反応にどのような影響を与えているのかを明らかにすることだ。

この新たな発見は、ネグラー教授のチームが実施した他の研究結果とも完全に一致していた。2014年、教授らは〈クロストリジウム菌(clostridia)〉というバクテリアがナッツアレルギーを防ぐ可能性があることを発見した(興味深いことに、アナエロスティペス・カッカエはクロストリジウム属の細菌の一種だった)。教授によれば、クロストリジウム属の細菌は、酪酸という化合物を産生し、これが健康な微生物叢にとって重要な栄養源になるという。

2015年、ネグラー教授とイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学(University Federico II of Naples)のロベルト・ベルニ・カナーニ(Roberto Berni Canani)准教授は、牛乳アレルギーの乳児と健康な乳児、それぞれの腸内細菌の決定的な違いを発見した。さらに、食事管理によって牛乳への耐性をつけた乳児の便は、酪酸を多く含むことがわかり、酪酸がアレルギー防止において重要な役割を果たしている可能性を裏付けた。

2016年6月、ネグラー教授は、人工の酪酸を腸に届ける錠剤を製造する会社〈ClostraBio〉を共同設立。同社は今、アレルギー発症を防ぐバクテリアとして期待されるアナエロスティペス・カッカエを、ひとつの〈生きる治療薬〉として開発することを目指しているという。

現時点では、食物アレルギー患者の選択肢は多くない。いちばんの対策は、対象となる食品をひたすら避けることだ。私自身、神経質なほどに食品ラベルを読みこんだり、レストランのウェイターを問い詰めたりするが、それでも充分ではない。いちばん最近の曝露は、機内でのことだった。見知らぬ親切な乗客が、私の喉のかゆみを抑えるためにのどあめをくれたのだが、そのあめに大豆が入っていたのだ。決して愉快な体験ではなかったが、命に関わるようなアレルギー反応は起きなかったので、私は幸運だった。2018年には、機内でプレタ・マンジェ(英国のフードチェーン)のゴマ入りのサンドイッチを食べた15歳の少女が死亡した例もある。

致命的なアレルギーをもつひとびとは、必死に治療法を探している。なかには、アレルギーの原因食物を少しずつ摂取して過敏性を取り除いていく、という経口免疫療法を試みるひともいる。2018年、科学誌『Science Magazine』の記事で、ライターのジェニファー・カズン=フランケル(Jennifer Couzin-Frankel)は、現在世界で3000人以上がピーナッツの免疫療法を実践しており、その方法は卵、牛乳、木の実などにも応用されている、と述べた。「数十年間、患者に提供できる治療法といえば〈回避〉しかなかった分野に、免疫療法は劇的な変化をもたらした」と彼女は記している。

ただ、アレルギー患者を原因食物に曝露するこの治療法は、決して万能とはいえない。なかには、重篤なアレルギー反応を引き起こしてしまう患者もいる。2017年には、米国アラバマ州で経口免疫療法を受けていた3歳児が死亡。施術や投与量の調整中に症状が悪化したケースもある。

個人的には、大豆を少しずつ食べていやな思いをするよりも、善玉菌を刺激する薬を飲むほうがずっといい。しかし、ネグラー教授によると、微生物叢に関わるあらゆる治療法は、免疫療法と併用しなければならないという。耐性をつくるには、免疫療法とバクテリアによる防御反応の両方が必要で、このふたつはパズルのピースのようにきっちりかみ合っている、と教授は考えている。

「体内のバクテリアの防御反応を治療しなければ、根本的な問題は解決しません」と教授は断言する。

「食物アレルギー患者の増加の背景には、さまざまな原因があります」と説明するのは、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina Chapel Hill)のアレルギー専門医で免疫学者のアフマド・ハマド(Ahmad Hamad)だ。彼はネグラー教授の研究には関わっていないが、次のように評価した。「微生物叢には、食物抗原への感作や耐性を誘導する役割がある可能性が高い、ということを、ネグラー教授は見事に証明しました」

さらに、ハマド医師は、最近実施されたランダム化比較試験で、ピーナッツの経口免疫療法を受けている子どもにプロバイオティクス(善玉菌)を与えたところ、アレルゲンへの反応が低下した、と述べた。これは、前述の免疫療法とバクテリアによる防御反応というふたつのアプローチを組み合わせた例だ。

周りに大豆アレルギーだと打ち明けると、大豆を食べ過ぎたのか、とよく訊かれる。飲食店の店員に、アレルギーを真剣に捉えてもらえなかったこともある。アレルギーではなく〈健康のため〉に大豆をとらないひともいるからだ。

グプタ医師によると、彼女の論文が『JAMA』で公開されたとき、多くのメディアが盛んに取り上げたのは、ひとつの統計だけだったという。食物アレルギーと判明したのは対象者の約10%だったが、その倍近くのひとが自分は食物アレルギーだと信じこんでいた、という事実だ。しかし、彼らの症状は食物アレルギーとは合致しなかった。

米国のTV番組『The Daily Show』で、ホストのトレバー・ノアは、この研究について、「数え切れないほどの米国人の生活に影響を及ぼしているアレルギー。しかし最近の研究によれば、もっとも多い病気は心気症だとわかりました」とコメントした。

しかし、ここで肝心なのは心気症ではなく、アレルギーとは全く別の症状である食物不耐症だ。アレルギーは免疫系による反応だが、不耐症は特定の食べ物に対する予測可能な過敏反応で、免疫系以外の原因によって生じる。たとえば乳糖不耐症は、免疫系の問題ではなく酵素の分泌不足によって引き起こされる。彼女はどちらの症状にも科学的根拠があると考えており、前述の実験で食物アレルギーではなかった対象者は、アレルギーのふりをしていたのではなく、私たちの多くが食べ物の副作用に悩まされていることを示しているという。

近年のグルテンフリー志向の高まりにいらだっているひともいるだろう。しかしだからといって、特定の食事のニーズを敵視していいわけではない。

大豆の食べ過ぎでアレルギーになったのか、と問われると、総合的な食習慣や環境要因が原因ではなく、自分が悪いような感覚に襲われる。グプタ医師によれば、世界の食物アレルギーの傾向を鑑みると、たしかによく食べられているものが食物アレルギーの原因となる可能性が高く、もっとも多いアレルギーは国によって少しずつ異なるという。たとえば、ヨーロッパでは、ヘーゼルナッツアレルギーがもっと多いが、米国では違う。とはいえ、何かの食べ過ぎがアレルギー発症につながるという証拠は一切ない。

むしろ、アレルギーを誘発する可能性の高い食べ物への曝露が、防御反応を高める場合もある(これこそが経口免疫療法の大前提だ)。〈Learning Early About Peanut Allergy(LEAP)〉試験では、ピーナッツアレルギーを発症するリスクの高い460名の乳幼児のうち、生後早期にピーナッツを摂取した乳幼児は、アレルギーを発症しなかった。この結果は、「乳児のアレルギー誘発性食品の摂取を遅らせるべきという、かつてのアドバイス(最近は変わりつつある)が、食物アレルギーの増加の一端となっていた可能性があります」とハマド医師は指摘する。

つまり、今のところは、特定の食品への過剰曝露がアレルギーを発症するという証拠も、食物アレルギーが個人の責任であるという証拠もないのだ。

ネグラー教授によると、私の症状は自力ではどうしようもないものだという。「環境による影響を示しているんですよ」と彼女はいう。「あなたの遺伝子が変わったわけじゃない。私が説明するとしたら、理論上は、何かが偶然あなたの微生物叢の構成を変えたことで、あなたの身体が大豆に敏感になってしまった、ということです。防御反応における何らかの欠陥か、善玉菌の減少によるものでしょう」

大人になってから発症したアレルギーがどれほど続くかはわからない。成長したらアレルギーが完治したという子どもはいるが、私のような成長期を過ぎた大人はどうなるのだろう。「難しい質問ですね。私たちはこれからも観察を続けていかなければいけません」とグプタ医師は答えた。「コホート研究の対象として、長期的に追跡できる成人の数はまだ充分ではなく、原因を追求するにはより多くの対象者を集める必要があります」

今のところ、大人の食物アレルギー患者に与えられている選択肢はふたつ。経口免疫療法を試すか、バクテリアの錠剤の発売を待つか、そのどちらかだ。それまでは、ぜひアレルギーの友人に優しく接してあげてほしい。私には、他人が味噌汁をすするのを物欲しそうに眺めることしかできないのだから。

This article originally appeared on VICE US.