状況:月末。ポキ丼を注文できる日々は、とうの昔に過ぎ去った。部屋のマットレスに転がって、今晩は何を食べようかと悩む。ワルテグ(簡易食堂)にインドネシア料理を食べにいく気分でもないし、財布はすっからかんだ。
ルームメイトと共用の狭いキッチンの棚を漁ってみる。よかった、棚の中はインスタント麺の小さな袋でいっぱいだ。ひとつ取り出し、湯を沸かして、どんぶりに粉末スープを入れる。麺を茹でれば10分後には完成だ。結局、夕飯の買い出しにいく必要はなかった。
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1週間こんな生活が続く。でも、いったいいつまで? インスタント麺にまつわる恐ろしい都市伝説はたくさんある。食べると頭が悪くなる、虫垂炎になる、最悪の場合はがんになるとか…。果たしてこれは本当なのか?
懸念:インスタント麺が身体に悪いと考えられている主な理由はひとつ。アジアのあらゆる加工食品に含まれる、添加物番号E621グルタミン酸ナトリウム(MSG)、もしくは〈うま味調味料〉だ。いっぽう、麺をコーティングするワックスが消化器官に良くないとして、麺自体も有害だという声も聞こえてくる。
MSGは身体に悪いのか? そんなことはない。米食品医薬品局(Food and Drug Administration)は、食用としてMGSの安全性を認めている。それでも米国人はMSGを怖がるので、中華料理のテイクアウトメニューには「MSGは使用していません」と明記するのが当たり前になっている。事の発端は、米国で中華料理が広まった1960年代、MSGはしびれや頭痛を引き起こす、と客が訴えたこと。マスコミはすぐにこれを〈中華料理店症候群(Chinese Restaurant Syndrome)〉と名づけたが、実際には、そんな病気は存在しなかった。
さらに、MSG自体に依存性があるわけでもない。MSGは自然界にも存在する物質で、チーズやトマトなどに含まれる。『Guardian』が引用したウェブサイトによれば、「MSGが化学物質だというのは、水や空気が化学物質であるのと同じ」だという。現在MSGは、料理に塩味と同時にうま味を加える添加物〈スーパーソルト〉として多用されている。
では、発がん性のうわさはどこから広まったのか。ジャカルタの病院〈Brawijaya Women and Children’s Hospital〉に勤める栄養士、デラ・ラッシュマディア・アナー(Della Rachmadia Annur)に電話でインタビューし、インスタント麺が、がんの原因になると考えられている理由を訊いた。
「インスタント麺によって、がん細胞が活発化することもありますが、それはコンビーフやチキンナゲットなど、どんな加工食品にもいえることです」とデラ。「麺にも粉末スープにも保存料が使われており、大量のナトリウムが含まれるので、もともと糖尿病や高血圧のひとにとっては有害かもしれない。でも、インスタント麺自体が、がんの直接的な原因になることはありません」
前述のワックス・コーティングについても同じだ。そもそもインスタント麺メーカー側は、麺にワックス・コーティングは施していない、と明言しており、たとえワックスを使っていたとしても全く問題ない、というのが多くの栄養学者の見解だ。ワックスは様々な野菜や果物の皮に付着しているが、リンゴを食べてがんになったという話は聞いたことがない。
最悪の場合:もちろん、発がん性がないからといって、インスタント麺は身体に良いワケは決してない。ある研究によれば、定期的にインスタント麺を食べ続けると、高血圧、高血糖、体脂肪の増加、コレステロール値の異常な増加につながる恐れがあるという。ナトリウムや飽和脂肪酸を多く含む食べ物についても同じだ。
2009年、6歳の少年がインスタント麺の食べ過ぎで腸管壁浸漏症候群になったとして、大々的に報道された。両親曰くこの少年はインスタント麺「中毒」で、マスコミはすぐに、彼がインスタント麺の食べ過ぎで病気になった、と騒ぎ立てた。
しかし、のちに医師たちは、病気の原因はインスタント麺ではない、と発表した。本当の原因は、この少年がインスタント麺以外何も口にしていなかったこと。彼はフルーツや野菜、タンパク質をまったく摂らずにインスタント麺、つまり、加工された炭水化物を食べ続けており、その結果、消化器官に異常が生じたのだ。
「インスタント麺は、米やイモなど他の糖質源となる食品より、消化に時間がかかります」とデラは説明する。「インスタント麺を食べたあと満腹感を覚えるのは、身体が必死に消化しているため。インスタント麺を食べ続けると、麺に含まれる糖質が体内に蓄積され、最悪の場合は糖尿病になる恐れもあります」
起こりうること:大のインスタント麺好きのアディット(Adit)。彼は長年、毎日欠かさずにインスタント麺を食べ続けてきた。インスタントのミーゴレンを食べ続けて、彼の身体には何が起きるのだろう。「だいたいは便秘かな」と彼は答えた。「それから腹痛も」。あるとき、アディットは医師から腸炎と診断された。しかし具合が悪いにもかかわらず、彼はインスタント麺を食べ続けた。今ではアディットはインスタント麺の摂取量を減らそうとしており、1週間に1〜2食という制限を設けているという。
「以前は腹が痛くなっても、断つのは1日か2日だった」とアディット。「長くても1週間かな。バナナをたくさん食べてから、またインスタント麺に戻っていた」
腹痛がつらいのは確かだが、がんにはほど遠い。
どうすればいいか:お金に余裕があるなら、毎日インスタント麺を食べるのはやめたほうがいい。毎日食べ続けたところで、がんにはならないかもしれないが、ゆくゆくは病院のお世話になる可能性が高い。そうすれば、健康的な食生活を送る以上にお金がかかる。
では、麺が大好きな人は? 家で自分でつくればいい。健康の秘訣は、必ずしもサラダを食べ続けることだけではない。鶏肉や野菜など、新鮮な食材で料理するだけでもいいのだ。
それも面倒だというなら、インスタント麺を食べ続けたってかまわない。ただし、赤身の肉や新鮮な野菜など、栄養価の高い食品を多く取り入れてバランスをとること。身体に悪いモノを四六時中食べ続けるのではなく、ときどき食べるくらいなら、後ろめたい思いをしなくてすむはずだ。
もちろん、私たちはあなたの食事を取り締まる警察じゃない。どうしてもインスタント麺を食べたいならお好きにどうぞ。ただ、食べるさいは充分に注意しよう。