酒やドラッグより勉強!〈シラフ〉になりゆく英国のZ世代
Illustration: Dan Evans

酒やドラッグより勉強!〈シラフ〉になりゆく英国のZ世代

2001年以降、違法薬物を使用するティーンエイジャーは半減した。
Max Daly
London, GB
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP

1980年代のロンドン南西部で育った筆者にとって、飲酒や薬物乱用は特別なことじゃなかった。私自身、14歳の頃には酒を覚えていた。なぜそう断言できるかというと、その年齢でラガーを飲みすぎ路上事故を起こし、犯罪歴がついたからだ。中学校ではみんなでセーターの袖に染み込ませたティペックス(修正液)を嗅ぎ、昼食の時間にはEmbassy and Rothmans(タバコ)を吸い、校外のレクリエーションではよくわからないスプレー缶を吸っていた。大学ではキマった状態で耐久チェスに興じ、森でLSDやマジックマッシュルームをやりまくり、パンクライブでひたすら酒を飲みまくった。

今の十代はそれをどう思うのだろうか? Z世代は、1980年代、90年代、ゼロ年代のキッズたちと比べて〈ハイ〉なのか? 英国の若者は、べろべろに酔っ払う放蕩世代なのか、それとも清教徒的な生活を是とする世代なのか?

メディアの主張をみていると、どういうことなのかよくわからなくなる。今の十代はアルコールを好まず、オーガニックフードや極端なヨガにのめり込み、まるで敬虔な修行僧のようだ、というような記事は以前からよく見かけるが、かと思えば次の記事には覚せい剤による十代の死亡事故が増加しているとか、笑気ガスや合成大麻が学校に蔓延しているとか、英国人女子は世界でもっとも飲酒量が多いとされていたりする。

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これだけの条件が揃っていれば、薬物乱用が増加していると考えるほうが自然だ。違法薬物はインターネットでも街中でも、これまでにないほど手に入りやすくなっている。さらに、以前に比べれば社会的にも受け入れられているし、薬物乱用の処罰は軽くなっている。しかし、実際には逆だ。長いスパンで見ると、喫煙、飲酒、薬物乱用は急激に減っている。1980年代半ばには、11〜15歳の子どものうち55%が喫煙経験あり、62%が飲酒経験ありだった。しかし今では、喫煙経験があるのは18%、飲酒経験は38%だ。また、違法薬物の使用は2001年には29%だったが、今は15%と半減している。

十代後半から二十代前半の若者にも同じことがいえる。おそらく未来の世界では、英国の若者による違法薬物乱用率がピークに達したのは1998年と記録されているはずだ。誰もがリッチで、誰もがブリットポップを聴いていたこの時代には、16〜24歳の若者の31.8%に違法薬物の経験があった。いっぽう、2016年には18%に減っている(主に大麻の使用が漸減)。2012年からリバイバルが始まるものの、現在のコカイン/MDMAの使用は、2001年と2008年のピークに比べれば少ない。アンフェタミン(フェニルアミノプロパン)、ハルシノジェン(幻覚剤)、ラッシュなどの薬物は、十代にとって今やマイナースポーツ並みの普及率だ(人口全体でみても減っている)。

いったい何が起きているのか。かつて薬物取引の主役だった十代が、薬物も飲酒もしなくなったのはなぜだろう。

その答えを求め、私は作家のクロエ・コンビ氏に話を聞いた。彼女は元中学校教師で、2015年の著書『Generation Z: Their Voices, Their Lives』では2000人のティーンエイジャーに取材をしている。彼女はセックス、恋愛、家庭、学校、犯罪、健康、そしてこれらの問題がどう薬物に関連しているかを十代の若者たちと話し、〈スナップチャット世代〉の特徴について独自の考察を深めた。

まず彼女は、今の若者たちはまったく酒や薬物をやらない退屈な世代である、という神話を否定した。「パーティー三昧だったのが、突然家でカモミールティーを飲むようになるとは思いません。飲酒も薬物も、十代の生活において消え去ったわけではないんです」と彼女は指摘する。「たとえば上流階級の若者のあいだでは、コカインが今かなり流行っていて、私立学校では大きな問題となっているんです。また、大麻に夢中になる若者も相当数います。安いし手に入れやすいので。(大麻は)ゲームカルチャー、団地カルチャーと密接に結びついていますね」

とはいえ、コンビ氏の取材からは、飲酒や薬物をやらない若者が増えている理由もみえてくる。コンビ氏は、この20年の徹底した反薬物/反喫煙/反飲酒教育が効果を発揮しているのだろう、という。「子どもにいちばん大きな影響を与えるのは他の子どもです。『自分はクスリもお酒もやらない』と主張するのはダサいことじゃない。むしろ今では100%受け入れられます」

彼女は、自身が学生時代を過ごした1990年代との違いについてこう語る。「90年代の15歳が憧れていたのはリアム・ギャラガーでしたが、今はエド・シーラン。私が学生だったときはブリットポップ全盛期で、それに付随するようにコカインも流行っていました。でももう今は、薬物と密接に関わるような『Loaded』的な魅力っていうのはないんでしょう」

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コンビ氏の著書において、薬物にまつわる証言の多くが、若者自身ではなく、彼らの親世代の問題飲酒/薬物乱用についてだ。それは若い世代にとって警告となっている。多くの若者は、自分の家のなかにいるロールモデルを見ているからこそ、酒や薬物に嫌気が差しているのだ。

「これは取材中、何度も聞いた話です。英国内、北から南まで、自分の親の飲酒習慣が心配だ、と話す子は何百人もいました」と彼女は回想する。「本当にたくさんの子が、自分の親はお酒を飲みすぎている、問題飲酒をしている、完全にアルコール依存症だ、と証言しました」

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(Photo: Jake Lewis)

また、スマホが飲酒や薬物の代わりになっていることも指摘できる。十代の若者が集まって遊べる場所がどんどん減っているなか、コンビ氏のいう「孤立した交際」がスマホを通して増加し、その結果、飲酒や薬物乱用が減少している。しかし、SNSによりまったく新しいレベルの自意識が生まれたことが、飲酒や薬物乱用の程度に実に大きな影響を与えている、と彼女は指摘する。「私たちの暮らす社会はどんどん空虚になり、イメージが重要視されています。〈ドラッグはやめてケールを食べよう〉みたいな。十代の若者は、酒も薬物もやらず、家でグリーンスムージーを飲み瞑想に励めば、容姿も髪の毛も美しくなる、と考えているんです」。当然ながら、美しい髪の毛はインスタ映えする。

コンビ氏によると、もっとも影響力が強いのは、スマホにより強化された、社会にはびこる強迫観念だという。Z世代の人間関係は友達グループだけに留まらない。十代の〈パパラッチ〉だっている。しかも彼らはプロのパパラッチ以上に倫理観がない。

「若者のあらゆる行動が動画に収められる今、前後不覚状態になった自分がカメラに映ると体裁が悪い、と彼らは意識しているんです。だからそうならないようにする。メディアでは飲酒や薬物でハメを外した状態が晒し上げにされる文化があり、社会的な恥の意識が子どもたちにも浸透しているんです。パーティーでぐでんぐでんになれば、InstagramやSnapchatで晒される可能性が高い。若者はいつだって残酷ですからね。漏らして床で意識を失っているひとがいれば、ほとんど全員が写真を撮りますよ」

コンビ氏の話の裏付けを取るべく、私自身も十代の若者に話を聞いてみた。英国・サリー出身で16歳(2017年の取材当時。以下同様)のエマは、彼女や友人たちは、酒や薬物で醜態を晒すと自分のパブリックイメージが損なわれるという事実に敏感で、その意識の高さは男子とは比べものにならないという。「女子は魅力的な自分を演出したいから、自制心を失ったり、吐いたり、めちゃくちゃに乱れることがないように、かなり気をつけてる」

また、今回私が取材をしたティーンエイジャーの多くが、ハイになってられるほど暇じゃない、と答えた。彼らはSNSで忙しいだけじゃなく、どんどん熾烈になる競争を生き残るのに忙しい。コンビ氏も、取材で何度もこういう発言を聞いたという。「時間に余裕がないんです、あらゆるプレッシャーがのしかかっているから。結果が求められ、彼らが人生で何をするかばかりが注目される」と彼女は指摘する。「今や、偶然クールな仕事に就くことができるなんてありえません。大学への意識も一変しました。かつては、学費を無駄にするような大学生活をしても別に構わない、という感じでしたよね。でも今は、8万ポンド(約1100万円)の借金を背負うことになるんだから、慎重に大学生活を送らないと、となっているんです」

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この10年だけでも如実な変化があった。2009年にロンドンにやってきた26歳のハンナも、違いを感じるという。「私が18歳のときと比べると、今は遊びに出かけてもお酒を飲まなかったり、半年禁酒するっていうことが普通になってると思います。自分は飲まないんで、っていう発言は、自分は飲む、という発言と同じくらい、社会的に受け入れられるようになっている。薬物に関しても、若いひとたちは自分のメンタルヘルスをちゃんと考えていて、記憶を飛ばしたいと思うより、自意識や周囲への意識を高めることを重要視していると思います」

若者の飲酒離れは、飲酒文化で有名な英国の評判にとって大した脅威ではないのか? それとも、飲酒や薬物は、今後20年で若者世代にとって過去の遺物となるとされているタバコと同じ道を辿るのだろうか。

「今は教育レベルが上がり、健康への意識が高まっているので、このトレンドは続くと思います」とコンビ氏は推測する。「とはいえ、どう楽観的に考えたとしても、世界がよりハッピーになるとは思いませんね。人間には、周りの環境からの逃避が何らかのかたちで必要です。飲酒や薬物は快楽ももたらしますし、そもそも人間はパーティーをしないではいられない生き物です」

エマにとって、「私たちを待つ世界、私たちの足元にあるとされる世界」のプレッシャーから逃れるための最良の方法は、上の世代のように酔っ払ったり、ハイになることではなく、勉強することだという。

「私の周りでは、親が自分の子の人生にどんどん投資しています」と彼女は証言する。「でも私たちは親の生活をみて育ってきた。親世代は、毎日疲れ切って不満を抱きながらも、週末のために生きる、という精神で日々を過ごしてます。私たちは自ずとそれを反面教師にしてる。過剰な飲酒や薬物乱用は、今のティーンの生活に入り込む余地はない。だって、他にもやることがたくさんあるから」

@Narcomania / idrawforfood.co.uk

This article originally appeared on VICE UK.