今こそ聴きたい『スーパードンキーコング』のサウンドトラック

スーファミが手元にないあなたは、ひたすら「Aquatic Ambience」をリピートしまくってほしい。
Hilary Pollack
Los Angeles, US
AN
translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
今こそ聴きたい『スーパードンキーコング』のサウンドトラック
Image courtesy of Nintendo

1970年代半ば、『San Francisco Chronicle』紙で長らくコラムを担当したハーブ・カーンは〈ノスタルコホリック(ノスタルジー+アルコホリック)〉という造語を生み出した。輝かしい過去に執着、あるいは中毒になり、現代、もっといえば未来と同じように、過去にだってダメな部分や問題もあったのだ、ということを認識できない状態を指す(とはいえカーン自身も、かつてのサンフランシスコは今よりよかった、というような過度に感傷的で、問題も多く含む考えを表明し、批判された)。「ノスタルジアというものは厄介なものだ」。1976年8月の記事で、カーンはこう書いている。「今から10年後の私たちが、『あれらは一体どこへ行ってしまった?』と畏敬の念と驚嘆をもって振り返るものは何だろうか」

1994年、7歳の私はスーパーファミコン(SNES)の『スーパードンキーコング』を夢中になってプレイしていたが、そのときの私は、四半世紀後の自分がそのゲームのBGMを懐かしみ、文章を書くなんて想像していなかった。

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『スーパードンキーコング』は、その「卓越した3Dグラフィック」(『The New York Times』1994年12月4日)だけでなく、魅力的なゲームプレイ、タル投げやダチョウライドなど多様なアクション、終わりが見えないボーナスステージなど、リリース直後から高く評価された。子供の頃、私は兄弟と本作のソフトをレンタルショップで借りて、何時間もプレイした。誰もがそうだったはずだ。VGChartzの記事によると、本作は全世界で930万本を売り上げ、スーパーファミコンのソフトとしては史上3番目のセールスを記録している。本作の印象的な特徴のひとつとして、サウンドトラックが挙げられる。完成度の高い電子音楽で、作曲家のデヴィッド・ワイズ氏を伝説と崇める熱狂的なファンも多い。

『スーパードンキーコング』発売当時の私はGREEN DAYの『ドゥーキー』ばかり聴いていて、ゲーム音楽の良し悪しというものについては何もわかっていなかった。しかし最近、彼氏にSNES CLASSIC EDITION(2017年発売。ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコンの海外版)を借りて以来、ドンキー&ディディーと繰り出す冒険に何時間も没頭し(私は大人だし、外出禁止だったのもあるからいいのだ)、本作のサウンドトラックに夢中になっている。

グルービーでトライバルな雰囲気の「DK Island Swing」から、水中ステージで流れるセクシーでニューエイジ的な「Aquatic Ambience」まで、私の記憶の中で(私だけではなくみんなもそうだと思うが)すべてのトラックがどこかのステージ、そしてそこで感じたフラストレーションと堅く結びついている。そうでなくとも、単純に16ビットゲーム史に残る名曲ばかりだ。レベル5の「カントリーファクトリー」で使用されている「Fear Factory」は、インダストリアル、ユーロダンス、トランスなど、90年代初頭に隆盛した音楽ジャンルを取り入れながら、時代を先取したサウンドに仕上げられている。ワイズ氏がフィールドレコーディングで収録した虫や鳥の声、雨音、広い空間内のリバーブ、風の音などといった素材がミックスされた楽曲もある。

「みんなからは、ビデオゲームに合うピコピコ音をつくる変な仕事だ、と思われていました」と2014年のインタビューでワイズ氏は語る。「当時は音楽だと見なされていなかったんです。今のように賞賛されるようなこともありませんでした」。現在は彼に惜しみない賞賛が送られている。『The Independent』はかつて彼を「モーツァルトとスティーブ・ウォズニアックの英国的融合」と表現した。

子供の頃にプレイしていたゲームに大人たちがノスタルジアを感じている、と片付けてしまうのは浅慮だし、現状を正しく捉えていないといえるだろう。そういってしまうと、自分の「ノスタルコリズム」があまりに強力で、無益なものに感じられる。ただ、今は、というかいつだって、私たちは日常から逃避をしたっていいはずだ。そしてYouTubeの穴へと潜った私は、広範で熱心なファンベースを見つけた。彼らはサウンドトラックをただ愛しているだけじゃなく、楽曲を新しいかたちで生かすべく専心している。合唱とオーケストラのドンキーコングソングカバーはさすがに奇妙では、という感じだが、「Aquatic Ambience」にホワイトノイズをミックスした楽曲には非常に心揺さぶられた(Soundcloudには「Aquatic Ambience」のリミックスがおよそ500曲ある)。

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YouTubeで公開されているドンキーコングのサウンドトラック動画には切々たるコメントが寄せられており、ファンたちの憧憬がもっともよく表れた場となっている。両親といっしょにプレイしたのが懐かしい、曲を聴いて泣いてしまった…。ベースドロップやキーボードのキラキラ音に、彼らは〈郷愁〉のようなものを感じているのだ。このサウンドトラックは「人間としての頂点」を象徴している、と断言するコメントも見受けられた。

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私自身はさすがにそこまでのレベルには達していないが、それでも『スーパードンキーコング』のサウンドトラックが最高なことは間違いないので、スーパーファミコンでも何でもいいのでぜひ本作をプレイし直すことをオススメする。ゲーム自体も、30歳を超えた今でも充分楽しめる(「ふぶきの谷」は今のほうが苦戦するかも)。


『スーパードンキーコング』のサウンドトラックはYouTubeで視聴可能。eBayなどの中古品出品サイトでスーパーファミコンを探してみるのもオススメだ。