封鎖された街を滑走─豪州スケーターが語る武漢での生活

新型コロナウイルスの感染状況が最も深刻な武漢市で、街が封鎖される瞬間を体験したオーストラリア人のインラインスケーターに話を聞いた。
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translated by Nozomi Otaki
封鎖された街を滑走─豪州スケーターが語る武漢での生活
All images via Rob Kellet and Josh Nielsen

今、中国武漢市をスケートで滑るのは、決して良いアイデアとはいえないかもしれない。しかし、つい数週間前にそれをやってのけたローラースケーターがいる。今年2月、オーストラリア出身のプロのインラインスケーター、ロブ・ケレットとジョシュ・ニールセンは、閑散とした武漢の通りを駆け抜ける動画をYouTubeにアップした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、ふたりは中国で最も感染が深刻な同市で身動きがとれなくなってしまった。彼らは車の消えた大通りを満喫しながらも、混迷を極めていく状況を把握できずにいた。

完全に封鎖された街で数週間過ごしたあと、ロブとジョシュは第二次隔離期間としてオーストラリアのクリスマス島へと避難させられた。VICEはふたりを取材し、無人の武漢でのスケートや、新型コロナウイルス最前線での生活について話を聞いた。

──まず初めに、おふたりが武漢を訪れたきっかけを教えてください。
ロブ:僕らは中国のテーマパークのパフォーマーなんだ。国内のあちこちの都市に同じ系列のテーマパークがあって。ドリームワールド(※オーストラリアのテーマパーク)がステロイドでもっと巨大でクレイジーになったみたいな場所なんだけど、そのなかにスケートパークがあって、観客が僕らのパフォーマンスをみにくるんだ。

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ジョシュ:そこから僕たちの中国での冒険が始まったんだ。2013年が最初の年で、それから2019年までほぼ毎年行っていた。ローラーブレードを始めて15年になるけど、ここ10年はいろんな場所を回ってる。

rollerblading wuhan

──武漢の封鎖中、滑る機会はたくさんありましたか?
ロブ:封鎖前は毎日のように滑ってた。正式に封鎖される前から人通りは減っていたから、滑るためのコンディションはかなり良かった。封鎖後はすぐに滑りたくてたまらなかったけど、1週間雨が続いたから3回しか滑れなかった。そのなかの1日でビデオを撮ったんだ。

──封鎖された、人けのない武漢を滑るのはどうでした?
ロブ:楽しかったよ。僕らが街全体を思うままに支配してた。治安も心配するほどじゃなかったし、人通りに対処しなくていいから滑りやすかった。大通りのど真ん中からハイウェイまで、どこでも好きな場所で滑れたのが良かった。がらんとした街はどこか現実離れしてて、ちょっと気味が悪かった。こんなに人が少ない中国は不思議な感じ。

──感染が広がる前の武漢の様子は?
ロブ:他の中国の街と同じで、すし詰め状態だよ。でも、武漢はたくさんの大きな湖に囲まれた、美しい街。交通量はとにかくすごかった。僕たちの部屋のバルコニーから第二環状線が見えたんだけど、毎日道が押しつぶされそうなくらい車が走ってた。

ジョシュ:そうだね、普段トリックなんかを撮ろうとするときは、人が通り過ぎるのをひたすら待たなきゃいけない。どんな場所でも常に人でごった返してるから。

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──封鎖が発表されたときはどう思いました?
ジョシュ:最初はそこまで心配してなかった。街が封鎖されてもいつも通りの生活が続くと思ってたから。封鎖には3つの段階がある。最初の段階では武漢の境界線を封鎖し、空港や都市間の電車を閉鎖する。その翌日には、武漢を通る幹線道路が封鎖され始めた。軍がバリケードを張ったから、武漢から出ようとしたひとはUターンして街に戻らなければいけなかった。

ロブ:次の段階では地区ごとの封鎖が始まった。別の地区へ移動するのに特別な許可が必要になる。それから第三段階では、すべての建物が封鎖される。
中国のアパートはめちゃくちゃ大きくて、建物は全部同じものをコピーアンドペーストしたみたいにそっくりなんだ。僕らが住んでるところは27階建てなんだけど、最後の段階では、建物全体が封鎖された。食料品を買いにいくときは、警備員からチケットをもらわなくちゃいけない。買い物は1日おきで、1時間って決まってる。僕が恋人とジョシュと一緒に住んでたときは、交代で出かけるようにしてた。

──食料品、水、生活必需品を確保するのは大変でしたか?
ジョシュ:いや、意外なことに店の在庫は充実してたんだ。僕らがいたときは第三段階に入っていたけど、店にはまだ食べ物がたくさんあった。でも外に出てみると、通りには誰もいなかった。普段は混み合ってる街に人がいないのはちょっと不気味だった。

ロブ:ある夜、コンビニに食べ物を買いにいって部屋に戻る途中、大きい交差点を通ったときに「ハロー!」って叫んだら、自分の声が通りの端まで響き渡った。他には一切音がしなかったから。

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──不気味とおっしゃいましたが、おふたりが見たり体験したなかでもっとも驚いたことは?

ロブ:まだ街が封鎖される前にジョシュと滑りに出かけたとき、バスに乗ってたら、彼女から職場でマスクを着用するようにいわれたっていうメールが来た。だからジョシュに、僕たちもマスクを買うべきかも、だんだん深刻な状況になってきてるみたい、って伝えたんだ。それで顔を上げて周りをみると、文字通り全員がマスクをしてることに気づいた。運転手も含めてね。マスクをしてないのは僕らだけだった。マジか、って思ったよ。

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バスを降りてから近くの薬局でマスクを探したんだけど、ひとつも残ってないっていわれた。ウォルマートにも行ったんだけど、食料を買いだめする客でごった返してて、ここにもマスクはなかった。それから薬局を何軒か回ったけど、マスクはなかった。武漢全体でマスクは売り切れだ、なんていう店主もいた。ありがたいことに、そこで働いていた女性が僕たちの話を聞いて、自分のためにとっておいたマスクを分けてくれたんだ。その後もマスクは全然入荷しなかった。

ジョシュ:いちばんびっくりしたのは、第二環状線を20分か30分おきに救急車が通っていたことかな。今思い返してみると、救急車が車線を跨いで止まっていたこともあった。防護服を着た男が3人降りてきて、ストレッチャーを引き出してビルに入っていった。僕らは15分か20分そこで待っていたけど、結局彼らは戻ってこなかった。

──コロナに感染したと思われる人には会いましたか?
ジョシュ:Vlogの映像を撮りにいったとき、自転車に乗った男性に話しかけられた。どこから来たのかとかあれこれ訊かれたんだけど、彼はくしゃみと咳がひどくて。彼はマスクをしてたけど、ロブは「何なんだよ、勘弁してくれ」って感じで後ずさりしてた。

ロブ:(笑)すごく気さくなひとだったんだけど、あのときは「どうしよう、最悪だ、こいつ具合悪そうじゃん」って思って。しかも彼は話の途中でマスクを外したんだ。他の人とは2メートル距離をとったほうがいい、っていわれてたから、僕たちは後ろに下がった。だけど彼はどんどん近づいてくるんだ。そのまま会話を続けようとしていたら、ちょうど通りかかったおじさんが僕たちの様子を見て、その男性にマスクを戻せ、外すなんてバカだ、って注意してくれた。そしたらその具合の悪そうな男性はマスクを戻して謝り、忘れてたとか何とかいった。僕とジョシュは「いったい何が起こってるんだ?」って顔を見合わせてた。

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──今回の体験から学んだことはありますか?
ジョシュ:こんなことがあったけど、中国は楽しい場所だよ。仕事として滑る機会をもらえたのは最高だった。中国や中国人については、ネガティブな意見が飛び交ってる気がする。コロナウイルスが広まる前からずっとね。でも、みんなすごく感じが良くてフレンドリーだよ。

ロブ:これまでいろんな場所を旅して回りながら、特に中国のあちこちで、信じられないような体験をしてきた。中国はほんとに奇妙な場所だ。毎日外に出るたびにヤバいものに出くわす。武漢での生活を通して気づいたのは、この国はメディアのイメージほど悪くないっていうこと。避難したこともクリスマス島への隔離も、僕らにとっては特に問題なかったし、貴重な体験になったよ。

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This article originally appeared on VICE AU.