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口を噤むハリウッドの男たち

ジェームズ・フランコ、ユアン・マクレガー、アジズ・アンサリ、サム・ロックウェルは受賞者として壇上にあがったにも関わらずこの話題を避け、批判の的になった。「男同士の〈連帯感〉にはもううんざり。お願いだから声をあげて」と懇願する記事も掲載された。ツイッターには、影響力を持つ男性こそ〈性差別反対〉と声をあげるべきだ、という怒りの声があふれた。
Art by Laura Horstmann

2014年当時、ハリウッド、といえば性差別的な報道だった。メディアは、レッドカーペットを歩くセレブを追いかけるのに必死だった。ネイルや豪華な指輪を映すための小型カメラ〈mani cam(マニキュアカメラ)〉、エンターテインメント専門の米テレビ局『E!』の得意技である、頭からつま先までを舐めるように映す〈glam cam(グラマラス・カメラ)〉は、女性をモノとして扱っているも同然だった。ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)が「それ、同じことを男性にもするの?」とレッドカーペットで厳しく言い放ったのは記憶に新しい。女性たちは「今日はどんなドレスを着ているんですか?」など、くだらない質問しかしない記者に対して、批判の声をあげるようになった。それでも依然として残る性差別を撲滅し、レッドカーペットの記者たちにもっと本質的な質問をするよう促すため『ミス・レプリゼンテーション: 女性差別とメディアの責任』(Miss Representation, 2011)の監督、ジェニファー・シエベル・ニューサム(Jennifer Siebel Newsom)氏が立ち上げた運動が、〈#AskHerMore〉だ。

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2015年のアカデミー賞では、リース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon)やションダ・ライムズ(Shonda Rhimes)がこの運動を支持し、翌年のアカデミー賞で支持者はさらに増え、記者に具体的な質問を提案する著名人まで現れた。例えばサリー・フィールド(Sally Field)が『Variety』に提案した質問はこんな具合だ。「あなたの人生における最も喜ばしい瞬間、功績を振り返って順位をつけるとしたら、アカデミー賞受賞やノミネートは何位になるでしょうか?」。その後も〈#AskHerMore〉運動はレッドカーペットの記者たちに、女性に配慮した取材をするよう、そして世界にとって〈よいお手本〉となるよう、強く訴え続けてきた。

ハリウッド映画業界は、昨年10月の『New York Times』よる大スクープ、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)のセクハラ報道を機に急展開を迎え、この半年間、まるで〈最後の審判〉を迎えたような大激震の日々が続いている。男女問わず、多くの映画業界関係者たちが〈#MeToo〉のキャッチコピーのもとに経験を明らかにし、ケヴィン・スペイシー(Kevin Spacey)、ジェームズ・フランコ(James Franco)、マット・ラウアー(Matt Lauer)、ルイス・C・K(Louis C.K.)、ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)、ベン・アフレック(Ben Affleck)などの役者たちに対するセクハラ告発も相次いでいる。

この動きに呼応したハリウッドの女性たちは、女性による女性のための運動〈Time’s Up〉を始め、〈マイノリティ・グループが本来の力を発揮できない原因である職場での構造的な不平等と不公正〉を訴えた。今年のゴールデン・グローブ賞で、役者たちは、性差別と闘う活動家をパートナーに伴って登場し、その顔ぶれには〈#MeToo〉運動の創始者であるタラナ・バーク(Tarana Burke)や全米ドメスティック・ワーカー連盟(Domestic Workers United)の創設者、アイ・ジェン・プー(Ai-jen Poo)が並んでいた。レッドカーペットでは、デブラ・メッシング(Debra Messing)が『E!』からインタビューを受けているまさにその最中に、同社の性別による賃金格差を公然と非難し、ナタリー・ポートマン(Natalie Portman)は、監督賞のノミネートを紹介する際に〈全員が男性であること〉を強調した。恐らく私たちの記憶にもっとも強く残ったのは、映画業界における長年の功績を称えるセシル・B・デミル賞の受賞スピーチで、米国における人種やセクハラに対する力強いメッセージを発信した、オプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)だろう。

一方、男性たちはというと、業界にはびこる性差別について口を開くことはほとんどなかった。ジェームズ・フランコ(James Franco)、ユアン・マクレガー(Ewan McGregor)、アジズ・アンサリ(Aziz Ansari)、サム・ロックウェル(Sam Rockwell)は受賞者として壇上にあがったにも関わらずこの話題を避け、批判の的になった。ツイッターには、影響力を持つ男性こそ〈性差別反対〉と声をあげるべきだ、という怒りの声があふれ、『Guardian』は「男同士の〈連帯感〉にはもううんざり。お願いだから声をあげて」と懇願する記事を掲載した。〈Time’s Up〉は、女性によるムーブメントだが、セクハラは、性別を問わずあらゆる人に関わる問題であり、テリー・クルーズ(Terry Crews)やブレンダン・フレイザー(Brendan Fraser)が語った経験は、男性も被害者になることを世に示した。

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とはいえ、この歴史上の重大なターニングポイントにおいて、今まで苦しみとは無縁で生きてきたような男性たちに、軽々しく口を挟んだり、被害者に対して偉そうに説教をたれるようなことはしてほしくない。では男性はどうやってこの問題と向き合い、関わればよいのだろう? 大切なのは、〈男性である〉ことで、知らず知らずのうちに自分たちがどれだけの利益を享受し、苦しんでいる人の存在に目をつむってきたかに気づくことだ。そして今度こそ、見て見ぬふりをすることで繰り返されてきた負の連鎖を断ち切るのだと、強く誓うことだ。

私たちは、過去4年間にアカデミー賞の主演男優賞、助演男優賞、監督賞にノミネートされた人物たちに連絡を取り、平等な賃金、待遇、1票の格差の是正に全力をつくすこと、ハリウッド映画業界の性差別に自らが加担していることを明らかにし、不正を正すことを約束できるか、と問うた。ティモシー・シャラメ(Timothée Chalamet)、ゲイリー・オールドマン(Gary Oldman)、ポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)らが所属する芸能プロダクションにも連絡を取り、以下の質問を投げてみた。

● 最近の〈#MeToo〉、〈#TimesUp〉運動をふまえて、職場での性差別やセクハラを撲滅するために、私たちがすべきことはなんだと考えていますか?

● あなたは賃金の開示を行う意思がありますか? もし可能なら、団体交渉や最恵国待遇契約などの手段を使って、賃金格差の不利益を被っている人々(女性、有色人種、Xジェンダー、障碍者など)の賃金交渉を支援しますか?

この記事を掲載した2018年3月3日現在、ダニエル・カルーヤ(Daniel Kaluuya)、ウィレム・デフォー(Willem Dafoe)、リチャード・ジェンキンス(Richard Jenkins)、アンドリュー・ガーフィールド(Andrew Garfield)、ブルース・ダーン(Bruce Dern)の5名から返答を得たが、すべてがコメントを拒否するというものだった。新たな返答があり次第お知らせする。

私たちはレッドカーペットを取材する記者たちに対しても、〈#AskHimMore〉(男性にもっと突っ込んだ質問を)と促し、ジュリアナ・ランシック(Giuliana Rancic)やセクハラ疑惑の渦中にいるライアン・シークレスト(Ryan Seacrest)などのレポーターに連絡を取り、質問した。

● 男性に対して(特にセクハラ疑惑の渦中にある、またはそのような男性と親しい人に対して)、〈#MeToo〉、〈#TimesUp〉運動にどのような立場を表明するか、しっかりと取材することを約束できますか? 理由とともに答えてください。

● 役者に対して、賃金の透明化と格差の是正のために何をすべきと考えているか、しっかりと取材することを約束できますか?

これについても進捗があり次第お知らせする。

今までは、誰であろうと、男性に突っ込んだ質問〈#AskHimMore〉を試みると、脅迫や妨害行為のターゲットとなり、苦しい立場に追い込まれてきた。だからこそ、これからの〈#MeToo〉時代、あらゆるメディアにもっと本質的な取材に挑戦し、安全で公平な未来を築くために全力をつくそう、と呼びかけ続けていくことが重要なのだ。