©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
アートという名を堂々と使う人が基本的に嫌いだ。なんか偉そうだし、分かった風の物言いを上から目線で語ろうとする人ばかりに出会ってきたからかもしれない。また、なんとか自分の作品をアートに装おうと、難しい言葉や難解に振る舞うあざとさを、少しでも見て取れてしまうと、作品に対しても一気に冷めてしまう。ことアートこそ、単純にやりたいからやってる、やるしかないといった純粋さこそが、その表現の魅力なんじゃないかと勝手に解釈している先入観のため、より一層そう感じるのかもしれない。もちろん人それぞれ複雑な胸の内と繊細な環境があるのだろうし、こちらの勝手な思い込みや無知な部分が多いことは十分承知のつもりではあるのだが。
「若き写真家が見る歪んだ世界」、連載第3回目は好きこそ物の上手なれ、そんな格言を地で行く写真家、水谷吉法の作品とインタビューをお送りしたい。
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まず、作品を作る際のコンセプトを教えてください。
僕は作品を作るときに日常の中で面白いと感じることや、自分が好奇心を持って撮影できるものを形にしています。したがってテーマは日常ではあるんですが、特にスタイルを決めないで自分がその時々にやりたいことを素直にやっていこうと思っています。
まだ、若いですが、とても多くの作品を発表していますよね?
写真を本格的に撮り始めて4年、5年くらいなんですが、とにかく写真を撮るという行為が楽しくてしょうがないんです。毎日カメラを持って家を出て、毎日撮影ができたらと思ってます。もちろん1枚も撮れない日もありますが、何千枚とシャッターをきることもあります。基本的には街を歩いていると面白いことが急に起こって、それに対して単純にシャッターを押したみたいなことの積み重ねでしかないと思ってます。だから、新しいものを作るというよりは、僕の視点で記録している感覚に近いかもしれません。特に僕は頭が良くないので、頭で考えられることなんてたかがしれてると思ってるんです。そのため写真のひとつの魅力である偶然性みたいなことに委ねている部分もあります。そうやって撮り溜めていったら、ひとつの作品としてまとめられるものができてくるといった感じです。先日やりたいことを書き出してみたら、10個くらいはすぐに浮かんできて。例えば、雨シリーズとか、電車で寝てる人のシリーズとか。まだまだ、作品にしたいものはたくさんあります。
なるほど。ではここで今回クローズアップする作品のひとつひとつについてを具体的に聞かせてください。
「YUSURIKA」
©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
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©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
僕は福井県の出身で東京に出てきて10年くらい経つのですが、何が撮りたいかって考えたときに自然が撮りたいなって思い川に行ったことがあったのですが、そしたらたまたま白いツブツブが写って。これはなんだろうって調べたら、ユスリカって蚊であることがわかって。肉眼ではこんな風には見えないんですけど、それが面白いなって。もちろんユスリカが写ってないものもありますが、シリーズとしてまとめています。
「Tokyo Parrot」
©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
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©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
このシリーズはワカケホンセイインコという60年代、70年代くらいに海外から連れてこられたインコを中心としたものです。朝アルバイトへ行くために近くの駅まで歩いていたら、近所の萩原さんという大邸宅の大きなケヤキに毎朝5匹くらい停まっているのに気づいて。調べたら大岡山に寝ぐらがあって夕方になると、そこに帰ることがわかって行ってみたんです。そしたら鳥の大群がいて、かなり強い衝撃を受けました。間違いなく作品になるとも確信できたんです。東京は大都市だし、まさかインコがこんなにいる訳がないって思っていたこともあって摩訶不思議な感覚でした。
「Colors」
©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
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©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
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このシリーズは日常目に付いた色だったり、形だったりが面白いって思ったものを撮っています。一見誰でも撮れそうな感じがすると思います。女の子とかでiphoneや写メで、単純に可愛いくて見た目が面白いって言って写真を撮る人が良くいると思うんですけど、その感覚と近いんだと思います。そういう時って見た目のインパクトを求めると思うんです。だから説明的な言葉みたいなものは全くなくて、色が強いと目を引くし、形が面白ければ目を引くし、ただそれだけなんです。アートとして評価もされていますが、それは時代性もあると思います。ただ僕的には、どう見てもらうかは自由だと思っていて、そもそも、写真はペラペラの紙であるだけで、作家やキュレイターの方々が意味とか説明とかを載せて行くことも良くあると思うんですが、この作品に関しては、そういうのはどうでも良いって思ってて、ビジュアルの面白さをとことん追求して見せれたらと思うんです。写真は写真だけでひとりでに言葉を持って歩いていくものだとも思ってるので。
「TAXI DRIVER」
©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
現在7年くらい喫茶店でアルバイトをしていて、ママといっしょにご飯や買い出しに行ったりするんですけど、ママが85歳で足が悪いから毎回タクシーに乗って行くんです。そのときに乗った瞬間にパチッと、7年分撮り溜めたものです。
「Dirty Books」
©Yoshinori Mizutani courtesy of IMA Gallery
中学校のとき友だちと川沿いにエロ本を探しに行ってたんですが、東京に上京し川のシリーズの作品を作っていたときに、やっぱりところどころにエロ本があるんですよね。昔を思い出して面白いなと撮り溜めました。
今回は5つの作品について紹介してもらいましたが、確かに色いろなテイストの作品がありますね。
年齢が若いということを、自分なりに言い訳にして(笑)、とにかくやりたいことをやろうと思ってます。また、ひとつの作品を作っていく過程で、色んな振り幅というか、人間でいう色んな引き出しが持たせられたら面白いなって。笑いが取れれば良いなって思うし、かっこ良かったり、ちょっとエッチだったり、綺麗だったりとか、ひとつの作品としてまとめるときに、そういう要素を散りばめるように考えるんです。スタイルがあることは良いことですが、僕の場合は、まとまり過ぎないようにしたいんです。それと関連してるかどうかはわかりませんが、お酒が好きなんでお酒を飲みながら勢いで撮影することもありますしね。それで彼女の裸とか勝手に撮ってアップして、あとでゴメンって謝ることもありますが、なんとか別れずやってこれてるので大丈夫なんじゃないかと勝手に思ってます(笑)。
また、20代で写真集を3冊、さらに、これだけの量の作品やアイディアが生み出せれていることからも、本当に写真を楽しんでやっていることが感じられます。
1人でやっていると作品のことで、悩んじゃったりするんですけどね(笑)。ちょっと前まで人見知りで他人と喋ることができなかったですし。そういうのは一応あるんですけど、でもとにかく写真を撮ることが楽しくてしょうがないですし、他の写真家の作品や記事を読んでいるのも楽しいですし、今は写真が生活のすべてみたいになっていて、大袈裟かもしれないですが生きがいになっていて、写真とともに生活している感じですね。
水谷吉法
1987年生まれ。福井県出身。2014年にアートフォト業界で権威のあるオランダ「Foam」誌が主催する「Talent Call 2014」に選出されたことを皮切りに、ヨーロッパや中近東でのグループ展に参加する。展覧会に合わせてIMA photobooksより写真集「Colors」、「Tokyo Parrots」をリリースする。日本でも「TOKYO FRONT LINE PHOTO AWARD 2012」、「JAPAN PHOTO AWARD 2013」も受賞するなど国内外で注目を集める。http://www.yoshinori-mizutani.com
また、現在新たな作品のため女性モデルを募集中。例え火の中水の中、水着も裸も厭わない、ただお顔出しは嫌よといった、勇猛果敢でありながらちょっぴり繊細な水谷&Viceファンの方々、お名前、ご年齢、性別、ご職業、全身とバストアップの写真をこちらまでお送りいただければと思います。vicejpch@gmail.com