食卓にアボカドが溢れるようになる前のことを思い出せるひとなんているだろうか? 大盛りのワカモレがナチョスを彩り、アボカドトーストがインスタを席巻している今、緑色の魅惑の果実は、卵や牛乳と並び、誰もが買い物リストに加える必需品となった。あろうことか、パートナーへのプロポーズのさいに、婚約指輪をアボカドのなかに隠す輩も現れている(ちなみに筆者の知り合いにそんなヤツはいないし、仲良くなれるとしてもお断りだが)。
実は、亜熱帯果実であるアボカドは、特定の生態系でしか育たない。原産地はメキシコ、中米、西インド諸島だ。トーストに欠かせないアボカドは、高温多湿の生育環境を好む。もし寒い冬のある土地でアボカドが食べられるとすれば、そのアボカドは、はるか遠くの地から運ばれていると考えて間違いない。
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英国はまさにそうだ。2018年5月17日の『The Guardian』の記事によると、英国での輸入アボカドブームのせいで、チリの農業地域、ペトルカ(Petorca)では、生命の源である水が吸いつくされているという。チリ最大のアボカド生産地であるペトルカで収穫されたアボカドは、大半がテスコ(Tesco)、アルディ(Aldi)、リドル(Lidl)を始めとする英国の巨大スーパーマーケットチェーンへ供給されている。英国におけるアボカドの需要は、2017年だけでも27%増加しており、その需要に応えるべく、ペトルカの生産者は違法に地下水を流用してアボカドを栽培しているそうだ。その結果、干ばつが発生し、住民は政府の給水トラックの水を飲まざるを得ない状況だ。しかし給水トラックの水は汚染されているため、煮沸、もしくは市販の水を購入しなければならない、とペトルカ住民は訴えている。
「ここでは、人よりアボカドの数のほうが多いです。なのに、住民の飲料水だけが不足している。アボカド用水は不足しません」と証言するのは、きれいな飲料水の配給を推進する現地の活動家、ベロニカ・ビルチェス(Veronica Vilches)だ。
2016年、チリは1万7000トンものアボカドを英国に輸出した。そのうち67%が、ペトルカがあるバルパライソ州で収穫されたアボカドだ。そもそも降水量が少ない乾燥地のペトルカは、密集したアボカド農園へ水を行きわたらせるため、地下水を利用している。アボカドは吸水量が極めて多く、たった1キロのアボカドを育てるだけでも2000リットルの水が必要だ。〈ウォーター・フットプリント・ネットワーク(Water Footprint Network)〉の報告書によると、その数字は、同量のオレンジを育てる水量の4倍、トマトの10倍である。生産者が、アボカドの成長に必要な水量を確保するために、水道管や井戸を違法に設置して河川から水を引いた結果、河川が干上がってしまった、と住民は証言する。2011年、チリの水管理公社が人工衛星で偵察したところ、少なくとも65ヶ所で違法水道が見つかった。以来、状況は悪化の一途をたどっている。
そして、住民たちが飲んだり、庭の水やりや洗いものに使える浄水はほぼ枯渇したという。
「アボカド栽培地1ヘクタールにつき、1日10万リットルもの水が必要です。その数字は、1000人が1日に使用する水量に匹敵します」と農学者で活動家のロドリゴ・マンダカ(Rodrigo Mundaca)は『The Guardian』で言明している。
干ばつを受け、ペトルカの住民にはひとりあたり1日50リットルの水が割り当てられ、トラックで給水されることになった。しかしトラックの水は汚くて、汚染物質まみれだ、と住民は主張する。2014年の水質検査では、本来糞便に含まれる大腸菌が、高いレベルで発見された。
「ヨーロッパ人たちに良質のアボカドを届けるため、私たちは糞便まみれの水を飲む羽目になっているんです」とビルチェスは『The Guardian』のインタビューで訴えた。英国の大規模食料品店チェーンをまとめる英国小売業協会(British Retail Consortium)は、小売業者による状況の調査を予定している、と『The Guardian』に答えている。
アボカドが、〈ワカモレにグリーンピースを加えるか否か〉以上に深刻な論争の的になったのはこれが初めてではない。2016年、メキシコの悪徳農家たちが、自分たちのアボカド農園を拡大するため、保護されているヤシの森を伐採したとして逮捕された。2017年には、フードテック企業〈It’s Fresh!〉による調査で、アボカドのカーボンフットプリントが、バナナの2倍、コーヒーの3倍にものぼると判明した。
結論は明白だ。アボカドは環境を破壊し、生命を脅かしている。もし今後、アボカドのなかにダイヤモンドの指輪を埋め込むつもりなら、それがどれほど愚かな行為かということと同時に、この事実についても考えてほしい。ワカモレは、まさに〈過度な〉トッピングなのだ。
This article originally appeared on VICE US.