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ジャマイカLGBTQの社会的地位改善を目指す奮闘

ジャマイカ国民の大勢は、LGBTQ市民の受け入れは神への背徳行為だ、と信じている。

ジャマイカではホームレスの増加が大きな問題になっている。同国では、2015年度の成人の失業率は13.2%。若者だけに限定すればその数値は38%にまで跳ね上がる。2016年1月、ニュースサイト「Jamaica Observer 」は、ホームレスの割合はここ3年で26%増加した、と報じている。ホームレス問題はとりわけ、同国LGBTQコミュニティで広まっており、若年ホームレス人口の少なくとも40%はLGBTQ市民だ。

ジャマイカのクィア問題への進歩的な視点は、あまり知られていない。2006年、『タイム(TIME)』は、この島国が「地球上で最も同性愛嫌悪が激しい場所」ではないか、と疑問を呈した。2014年度のヒューマン・ライツ・ウォッチによるアンケート結果報告によると、同国の半数以上の回答者が自身の性別やジェンダーを理由に暴力を受けた、と回答したそうだ。矯正レイプ、ジェンダー・クィアのドウェイン・ジョーンズ(Dwayne Jones、当時16歳)が暴徒に殺害された事件などが近年、同国でニュースのヘッドラインを飾った。1970〜80年代、同国でのLGBTQ市民による人権運動は今よりはるかに自由で、同性愛者向けのナイトクラブ、LGBTQ市民が集まるスペースは人目を憚らずに営業していた。その一方、今日では、高まり続ける同性愛嫌悪の感情が世間に広まっており、クィア活動家たちは控えめな集会を催すなど、内密に活動している。

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2014年、VICE Newsはジャマイカの首都キングストンで暮らすホームレスのクィアたちを特集し、そのクィアたちを「ガリー・クィーンズ(溝に住む女王たち)」と呼んだ。その企画は、同国のLGBTQホームレス問題に対して高まる国際的な懸念と同調していた。われわれの報道の直後にメディアの関心が高まったものの、いまなお2014年当時と同じグループがストリートでの生活を余儀なくされており、クィア市民が望む生活の改善は実現されていない。

ジャマイカ国内でLGBTQコミュニティがあまりに蔑ろにされている1因は、キリスト教徒が国民の70%を占めているからかもしれない。ジャマイカ国民の大勢は、LGBTQ市民の受け入れは神への背徳行為だ、と信じている。

そんな現実にもかかわらず、LGBTQコミュニティに救いを求めるのも容易ではない。 ジャマイカ国内のLGBTQ市民の現状にフォーカスしたVICELANDによるシリーズ「GAYCATION」の新エピソードで、同国の著名な人権活動家でLGBTQ市民の保護施設「ドウェインズ・ハウス(Dwayne’s House)」共同創設者のひとり、イヴォン・マカラ=ソーバーズ(Yvonne McCalla-Sobers)は、LGBTQ市民の精神構造を説き明かそうと試みた。「LGBTが高給取りになり、高級車に乗り、ゲート付きのコミュニティで生活できるようになれば、同性愛嫌悪に纏わる問題に悩まされずにすむでしょう。LGBTのみんながそのような生活を望むならば、同性愛を嫌悪する若者たちに気を遣う必要もなくなります」と彼女。「同性愛を嫌悪するジャマイカ人の内には、階級に基づく偏見と『なぜ私たちの注意を惹こうとするの? 私たちを貶めようとでもしているの?』という疑問が混在しています」

LGBTQコミュニティに属する中産階級メンバーのあいだでも、若年ホームレスへの同情がないのはいうまでもない。ジャマイカを代表するLGBTQ人権団体「J-Flag」は、「被害者意識、犯罪と暴力、性行為とHIVなどに焦点を当てたメディア報道や扇動により、ジャマイカのLGBTコミュニティに備わる多様性は覆い隠されてしまっている」と2014年度年次報告書で言及している。さらに、LGBTQ市民の人権運動に携わる中産階級のメンバーたちは、注力すべき問題を年ごとに選択するさい、若年ホームレス問題の解決ばかりを優先してしまうと、人権運動そのものがひとつの問題だけを解決するための運動だ、と捉えられてしまう可能性を懸念している。

「J-Flag」のデイン・ルイス(Dane Lewis)事務局長によると、LGBTQの若年ホームレスを保護施設に収容するにも、資金不足が最大の障壁になるそうだ。クィアの若年ホームレスの負担軽減に努めるNGO団体は、現場での問題解決に必要な資金援助を求めるべく、同国政府や国際機関と交渉を続けているが、急場しのぎの支援以外になす術がない状態が続いている。

「ホームレス問題解決のために投資した複数の出資者によって計画、設計されたプログラムを実施するには莫大な資金がかかるのが現実です」とルイスは断言する。「主要な開発機関に企画書を提出していますが、彼らの反応は好ましくはありません」

マカラ=ソーバーズとルイスは、「J-Flag」の創設者にちなんで名付けられた若年LGBTホームレス保護施設「ラリー・チャン・センター(Larry Chang Centre)」設立に向けて陣頭指揮を執っている。2人は2016年内に、この施設開設を実現するのに必要な、資金提供が得られるのを望んでいる。しかし、ジャマイカ国内に蔓延する同性愛嫌悪を踏まえると、LGBTQ組織のために働くスタッフ獲得、施設の保安が大きな課題になりそうだ。

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この施設が開設されるまでのあいだ、 LGBTQ市民を支援する数団体がジャマイカにはある。「反差別同盟(National Anti-Discrimination Alliance 、以下、NADA)」は「社会的、文化的偏見とは関係なく、すべての人間の人権と自由の保護に注力する」ジャマイカの組織で、2014年からLGBTQ市民用の隠れ家や個人避難住居を提供している。NADAは小規模で運営されており、その活動の大部分を、必要に応じて自宅のいち部を提供するのも厭わない親切なボランティアたちに頼っている。ボランティアたちが自宅のいち部を提供できなければ、NADAは活動資金をプールし、LGBTQ市民の保護施設として使用可能な物件を賃借りする。同団体が提供する保護施設は、1度に数名しか保護できず、その活動は口コミでしか広められていないが、確実に結果を残してきた。同国のLGBTQ市民を支援する闘いのなかで同施設は、ささやかながらも意義深い勝利の象徴でもある。

NADAの創設者であるアンドリュー・ヒギンス(Andrew Higgins)は、NADAがいまのところ反LGBTQグループの標的になるのを免れている理由は、組織を「親LGBTQ」組織ではなく、「反差別」組織として運営してきたからだ、と信じている。

NADAの保護施設は、数年におよぶホームレス生活経験者よりむしろ、新規ホームレスの保護を目的としている。長年ホームレスを続けているLGBTQ市民が集うコミュニティ内では、HIVやその他の医学的問題が高確率で発生するうえに、失業率も高く、職業訓練を必要とする割合も高いので、コミュニティ成員を社会復帰させるには、屋根付住居を提供する以上の労力を払わなければならない。したがって、限られた資金で運営されているNADAの保護施設にとっては、若年LGBTQ市民が長期的にホームレス生活を送るのを阻止すべく活動するのが得策だ。

しかし、マカラ=ソーバーズにとって、数年間ホームレス生活を続ける若者たちの問題を解決するのが何より重要だ。

「LGBTQの若者たちはトラウマを抱えています。何度も心に傷を負い、1つのトラウマの上にいくつものトラウマが重なっています。みんながそういった若者たちの振る舞いを話題にしますが、若者たちと同じ境遇に陥ったらどう振る舞うべきか、私には全く想像できません」とマカラ=ソーバーズは戸惑いを隠さない。「若者たちは身をもって解決策を教えてくれました。ジャマイカを去るしかないんです」

住居が提供されたとしても、長期にわたるホームレス生活を強いられた若者は、ジャマイカ国内で安心して生活できるとは信じていない。同国内では、若年LGBTQ市民の境遇改善に取り組む必要がこれまで以上に高まっている。