2016年のある日、マーシャル大学のジェイソン・モリセット(Jason Morrissette)教授は、『バットマン:アーカム・ナイト』(Batman: Arkham Knight, 2015)をプレイしていた。暗がりをさまよっていた彼は、偶然、飲料自動販売機を見つけた。多くのゲームと同様に、『アーカム・ナイト』にも、実在する商品は登場しない。余計なコストがかかるからだ。その代わりに開発者は、架空のジュース〈Sparkle Fizz〉をつくった。「ゴッサム・シティの薄暗いところにあったカラフルな自販機は、とても目立ちました」と教授はメール取材に応じた。あるとき、モリセット教授は、ビデオゲーム内の様々な自販機を誰かがリストアップするべきだ、と冗談交じりにツイートしたが、その後、自らリスト作成に取り掛かった。こうして始まった〈the Video Game Soda Machine Project (ビデオゲーム内飲料自販機プロジェクト)〉は、3月5日、大きな節目を迎えた。リストの2000台目に、麻薬カルテルを追う米麻薬取締局の捜査官が主人公の、知る人ぞ知る2006年発売の3人称シューティングゲーム『El Matador』に登場する自販機が追加されたのだ。
モリセット教授のいちばんのお気に入りは、「あまりにも時代錯誤で笑ってしまった」という、『The Secret of Monkey Island』(1990)に登場する〈Grog〉の自販機だ。その次に、『バイオハザード オペレーション・ラクーンシティ』(Resident Evil: Opera-tion Raccoon City, 2012)の〈Juicy Raccoon〉、『killer7』(2005)の〈Handsomeman Executive Cola〉が気に入っているそうだ。
興味深いことに、『バイオハザード2』(Resident Evil 2, 1998)のお蔵入りになったプロトタイプには、本物のペプシ自販機が設置されていた。もし、カプコン社がそのまま制作を進めていたら変更されただろうが、実在する商品の自販機が登場するゲームも、ないわけではない。例えば、アルカイダのプロパガンダ団体が開発した、2006年のシューティングゲーム『Quest for Bush』には、ペプシのマークが頻繁に出てくる。
「このゲームをダウンロードしてプレイしていたら、どんなリストになっていたか、想像するのも恐ろしいです」と教授。〈ソフトドリンク〉という表現を好むモリセット教授は、ファンとしてこうした画像を集めているわけではない。このプロジェクトは、彼の研究にも関わっている。教授は、近く開催される学会で、〈I’d Like to Buy the World a Nuka-Cola: The Purposes and Meanings of Video Game Soda Machines(直訳:世界のみんなに〈Nuka-Cola〉をおごりたい:ビデオゲームにおける飲料自動販売機の目的と意義)〉という論文を発表する予定だ。
論文要旨:
ビデオゲームに相当の時間を費やしてきたプレイヤーであれば、ゲーム内の飲料自販機を目にしたことがあるはずだ。『Fallout』シリーズの〈Nuka-Cola〉、『Monkey Is-land』シリーズの〈Grog〉など、ゲームには驚くほどの頻度で飲料自販機が登場する。なぜ飲料自販機がこれほど頻繁にビデオゲームに登場するのか? その目的や価値は? 本論文ではこうした疑問を解くため、ビデオゲームに登場する飲料自販機の特徴を明らかにし、自販機が果たす様々な役割を、美術、滑稽さ、作品の主題などの観点から分析し、定性的な批評を試みる。その結果、自販機は、われわれの世界に近しい仮想空間を舞台にしたビデオゲームの現実感を演出するために重要な役割を果たしつつ、現代資本主義の消費主義的価値観を強化している、とわかるだろう。本論文執筆に際し、著者が管理するウェブサイト〈the Video Game Soda Machine Project〉に掲載した、ゲームの主要なプラットフォーム、主要なジャンルに登場する飲料自販機2000台のリストを参照した。