イギー・ポップとジム・ジャームッシュがお互い褒めちぎる

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イギー・ポップとジム・ジャームッシュがお互い褒めちぎる

イギー・ポップに直接頼まれ、ジム・ジャームッシュが8年がかりで制作したTHE STOOGESのドキュメンタリー映画『Gimme Danger』が遂に完成した。ふたりが出会ってから25年。一方が褒めれば、一方が照れる。ふたりは微笑ましいカップルのようだった。

私は、イギー・ポップ(Iggy Pop)の髪の毛に釘付けになっていた。実際に間近で見ると艶があり、滑らかで猫っ毛。風雨に晒されたチーク材のような肌の色よりも明るい茶髪だった。濡れたビー玉のようなダークブルーの瞳。「よく聞こえないんだけど」。柔らかいバリトンボイス。そして彼は、想像以上に弾けるような高笑いをする。その笑い声が聞けるのは、自分自身の思考プロセスを可笑しがるときと、映画監督のジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch)が何かをいったとき。この数日、ふたりはがっちりチームを組んで、8年がかりで制作したTHE STOOGESのドキュメンタリー映画『Gimme Danger』(9月2日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開)のプロモーションに勤しんでいる(タイトルはもちろんTHE STOOGESの曲から付けられた)。これまで『コーヒー&シガレッツ』(Coffee and Cigarettes,2004)、『ダウン・バイ・ロー』(Down by Law,1986)、『デッドマン』(Dead Man,1995)など、多くのカルト的人気を誇る作品を発表してきたジャームッシュは、基本的にインタビュー嫌いであり、コンタクトを取っても梨の礫が多かったのだが、イギーが隣にいるとまったく違う。「イギーはもう僕に飽きたかもしれないけど、僕は全然」、とジャームッシュは語る。「こうやってイギーとインタビューを受けるのは好きだね。自分の作品について取材を受けるのは最悪だけど、ここではイギーの話が聞ける。テーマがなんであれ、彼の話を聞くのが好きなんだ」。2人は微笑ましいカップルのようだ。質問に答えるときも、片方が褒めれば、もう片方が即座に照れる。

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2016年のイギーは精力的だった。2月には、ヌードで仰向けになり、股を開いて横たわる彼の姿を、21人のアーティストがスケッチするというイベントがあった(その作品は11月4日からブルックリン・ミュージアムにて展示されている)。3月には、プロデューサーにジョシュ・オム(Josh Homme)を迎えた17枚目のアルバム『ポスト・ポップ・ディプレッション(Post Pop Depression)』をリリースし、なんと50公演を超えるツアーを敢行した。また、役者として参加した2本の映画も公開。ヘンリー・ロリンズ(Henry Rollins)とグレース・ジョーンズ(Grace Jones)が出演する『Gutterdammerung』(日本未公開)、そして「美しく、性に奔放な若妻と暮らす、年老いたロックスター」が主人公のスリラー映画『Blood Orange』(日本未公開)だ。更に映画は続き、イタリアン・ホラーの巨匠、ダリオ・アルジェント(Dario Argento)監督作品の主演も決定。来年にはクランクインするという。10月末には、『Gimme Danger』の公開と同時に、ライヴDVD『Post Pop Depression Live At The Royal Albert Hall』をリリース。11月には、イギー自らがTHE STOOGESの歴史を語り、多くの写真や様々な逸話が詰まった書籍『Total Chaos:The Story of the Stooges』も発売された。とにかく半端ない仕事量だが、69歳のイギーは機を逃さない。THE IGUANASというバンドのドラマーとしてキャリアをスタートし、多岐に渡る予測不能な活動をしてきたイギーだが、更に新たな歴史が加わった。それが『Gimme Danger』だ。

イギーがジャームッシュに、THE STOOGESのドキュメンタリーを製作してくれ、と頼んでから8年、その間に状況は大きく変わった。2009年には、ギタリストのロン・アシュトン(Ron Asheton)、2014年にはドラマーのスコット・アシュトンが(Scott Asheton)が他界し、残念ながらイギーがTHE STOOGESの生存する唯一のオリジナルメンバーとなった(1975年には、初代ベーシストのデイヴ・アレクサンダー(Dave Alexander)が、肺炎の合併症で亡くなっている。享年27歳であった)。しかし、亡くなったオリジナルメンバーたちも、バンドに近しい関係者たちも、この『Gimme Danger』での、彼らの捉えられ方には満足するだろう。『Gimme Danger』は、真実に基づき、時系列でTHE STOOGESを追ったドキュメンタリー映画である。ここではバンドメンバーや、関係者たちへのインタビュー映像とともに、様々な記録が紹介されている。今回初めて公開されるライヴ映像もあり、更に記録が残っていない場面は、アニメーションが挿入されるなど、充実度も高い。時系列的な映画というと、「らしくない」と感じるジム・ジャームッシュ・ファンもいるだろう。しかし、今回ジム・ジャームッシュ監督は、THE STOOGESファンのために、バンドの足跡を忠実に映像に収めようと意識していた。そうして、ジム・ジャームッシュは『Gimme Danger』を完成させたのだ。

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初期のTHE STOOGES。彼らのリフ、ハイ・コード、ロー・コード。当時の混沌としたロックンロールバンドを観るのは、非常に興味深い体験だ。THE STOOGESのこれまでの活動は、散発的で、その期間を合計しても短く、現在進行形かつ、未来永劫残るであろうTHE STOOGESの影響は、活動期間の短さを軽く凌駕するもので、ジャームッシュはそれを強調した。もちろん、本作品の推進力になっているのは、イギー・ポップである。サルのように飛び跳ね、ヘビのように震え、半裸で変な動きをし、前歯も抜いてしまう放埓なパフォーマンスを持ったバンドのフロントマンだ。しかしイギーは、彼の人生は彼自身だけのものではないという。彼のストーリーは、バンドのストーリーでもあるのだ。

ふたりが初めて出会ったのは25年前ですよね。当時のお互いの印象を覚えていますか?

ポップ:ジムについては、映画で既に知っている気がしていた。『パーマネント・バケーション』(Permanent Vacation,1980)とか。とても好きだったよ。そして『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(Stranger than Paradise,1984)を観て、「おい、こいつはフロリダが嫌いなのか?」って訝しんだよ。とりあえずジムに会ったときには、フロリダについて話すのはやめようと決めていた。フロリダを訪れた経験はなかったけど、俺はミシガン州出身だろ? ミシガンのやつらは死ぬまでにフロリダに行きたいと願っているんだ。俺の夢だったんだ。

ジム:初めてTHE STOOGESを聴いたときからファンだった。16歳だね。だから初対面のときは、「やばい、イギー・ポップだ!」ってならないように努めた。クールを装ったね。僕たちは2人とも中西部の出身だから、すぐに打ち解けた。「ああ、本物のイギー・ポップだ。それに最高にクールだ」ってね。イギーは、そのスターオーラで相手を委縮させるような人間じゃなかった。

なぜ、THE STOOGESのストーリーをジムに任せたのですか?

ポップ:ジムは自分の作品に、最後の最後まで責任を持つ監督なんだ。それは、俺たちのバンドにも共通する基本的なポイントだ。自分たちの面倒は自分たちで見る。俺たちの音楽は俺たちのやり方でつくる。他の誰のものでもない。ジムの作品にもあらゆるところから、そんな雰囲気を感じていたんだ。しかもジムは中西部出身だろ。俺でも話しかけられる。彼とは仕事がきっかけで知り合ったけど、THE STOOGESをよく知っていたし、俺よりも音楽に詳しいんだ。

ジム:そんなことはない。イギーのラジオ番組で勉強してるんだ。

本作は、どこから着手したんですか?

ジム:まずはイギーへの長い「尋問」から始めた。まさに「尋問」だった。1日10時間撮影して、その次の日にまた4時間。イギーは、くたくたになっていたよ。次にその「尋問」の文字起こし。その時点では、時系列にはなっていなかった。紙の上で編集を始めながら、イギーをTHE STOOGESの口承歴史家と位置づけたんだ。これはTHE STOOGESの映画であって、イギー・ポップの伝記ではないと。そして、イギー以外の人たちを撮った。バンドと親しい人たち、そしてバンドメンバーたち。批評家や他のミュージシャンは使わないようにした。そして概要を決め、それを肉付けしていったんだ。ファンのための作品という内容になったね。いかにも「ジム・ジャームッシュらしい」映画にはしたくなかった。これはTHE STOOGESを讃える作品だからね。でも、最初は時系列にしようとは考えていなかった。小さなテーマやカテゴリーを、どんどん出していくアイデアもあった。それこそ僕らしいスタイルだからね。だけど編集の人間が、時系列順に並んでいた方が、パワフルになるんじゃないかと意見をくれたんだ。だからそっちを選び、そこにイカれたエピソードで彩っていったんだ。

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MC5の楽屋の外で「Kick Out the Jams」を聴きながら、バカみたいに震えているアニメーションが特に好きです。

ポップ:ああ、あの寒さはまだ覚えているよ! あのとき中西部では風が強くて、かなり寒かった。だからドアもかなり分厚かった。肉でも貯蔵するのかってくらい分厚いドアだった。何度も何度もドアを叩いたけど意味がなかった。最終的には楽屋に入れてくれたんだけど、恐縮しながら立ち尽くしていた。

昔のライヴ映像を観るのは、どんな気持ちですか? ほとんどの映像で、あなたはキマっていたと聞きましたが。

ポップ:確かにそうだ。覚えてるよ。そのときどんな気分だったかも覚えてる。俺はクスリについてはプロだったからね。ステージに上がる40分前にやって、意識が散漫にならないようにしていた。だから錯乱状態にはならなかったね。効いてきた、とわかるだけだ。俺の場合、クスリが効いてるときは、音楽が直接響くんだ。俺のパフォーマンス・スタイルは、身体を使うスタイルだろ。運動に近い。クスリが効きすぎないように動いているんだ。下手したらクスリに身体を乗っ取られて、サイケデリックな幻覚に入りこんでしまう。だけど、そうはならなかった。ピーナッツバターを塗りたくった俺の映像を観たらわかるだろ? 怒ったり、爆笑したり、さまざまな感情が存在している。奔放さとエクスタシーが支配しているんだ。正直なところ、俺はステージでは音楽だけに反応していた。だからライヴ後20分ほど経ったときに、最高にハイになるんだ(笑)。

ピークが打ち上げのときなんですね!

ポップ:そうだよ。俺はそんな感じでクスリをやってた。1970年代後半以降だね。でも長く続けていたわけじゃない。ブレーキをかけないと、その先は進めないからね。

8年の歳月をかけて『Gimme Danger』を完成させました。ジムは当初、かなりの金額を自費でつぎこんでいたようですが、そこまでした理由を教えてください。

ジム:イギーに、THE STOOGESの映画をつくらないか、と頼まれたわけだけど、僕は普通にTHE STOOGESのファンだからね。とにかく着手して、完成させたかったんだ。確かに資金の調達には時間がかかった。やっぱりリサーチや、許可を得るのにお金が必要だったんだ。この8年の間に、僕は他の映画を数本撮影した。デトロイトやモロッコのタンジェで撮影した『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(Only Lovers Left Alive,2013)、そして、これから年末にかけて公開予定の『Paterson』(8月26日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開)とか。だから、当時はかなりいろんなものが同時に進行していたんだけど、『Gimme Danger』も、しっかり進めていたよ。ただやはり時間はかかった。そんなときもイギーはいつも心が広かった。「他の作品に取り掛かるから、ちょっと中断する」と伝えたときも、「わかった。時間の制約は別にないから大丈夫。ちゃんと進んでるんだよね?」といってくれた。だから「もちろん進んでるよ」と答えていた。ただ、やっぱり時間はかかったね。

ポップ:THE STOOGESは、これまでユニークなタイムフレームで動いていた。4年半活動したら休止、また3~4年やって休止。1974年から2003年までは解散状態だったしね。だから、映画も長めの時間枠で考えていた。普通のスタイルでは考えていなかったよ。この映画は、むしろ時間という枠を超えた作品だ。いろんなバンドの映像や音源は、オフィシャルでもブートレグでもパラパラあるけれど、THE STOOGESについては、まだ十分に明らかにされていない。例えば、テレビ番組の『Behind the Music』では、俺自身も特集されたし、あのPOISONまでもが特集された。でもTHE STOOGESの特集はない。まだ日の目を見ていなかったり、知られていない情報や曲があるんだ。サウンド面についても、語られていなかった事実が多い。例えばファーストアルバム『イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ(The Stooges)』とかね。あの作品のサウンドに光を当てたかったんだ。ジムに質問されるまで気づかなかったバンドのストーリーもかなりあった。会社主導でつくられたグループも悪くはないけど、俺たちはそうじゃなかったし、そう動いてもいない。そもそも出版権って何? って感じだった。全く違ったんだ。

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ジム:僕にとっては、THE STOOGESのインスピレーションの源を明らかにするのが大事だった。イギーは、ミシガンのアナーバーにあったDiscount Recordsで働いていて、そこでさまざまなジャンルの音楽知識を吸収した。前衛音楽からモダンジャズ、インドネシアのガムラン音楽まで、あらゆる音楽を知っていた。つまり、THE STOOGESは、ガレージでTHE ROLLING STONESをコピーするところから始まったタイプのバンドじゃない。前衛的なノイズバンドとしてスタートしたんだ。現在の「アヴァン・ロック」と呼ばれるジャンルの範囲を定義するような活動をしていた。1966年とか、それくらいに結成されたんだけど、AEROSMITHの原点とか、そういうレベルのバンドじゃない。THE STOOGESはアートなんだ。だからこそ、活動を通して様々な問題を抱えていた。彼らはロックンロールの枠を広げていくバンドだった。最初は、THE PSYCHEDELIC STOOGESという名前のグループだったんだけど、根本にある探求精神が、THE STOOGESになっても、その活動に受け継がれていったんだ。

イギー、私は、最初あなたがドラマーだったとは知りませんでした。映画の中で、「皆のケツを見ているのに飽きたんだ」と語っていたのは最高でしたね。あなたは、フロントマンとして観客の前に立つようになってから、すぐに上半身裸になろうと決めたのですか? いつからあのパフォーマンスが始まったのでしょうか?

ポップ:2回目のギグからだね。上半身裸で、白塗りの顔で、ついでに靴も履かずにステージに立った。靴を履く必要がない限り裸足でいたよ。下はジーンズで、それだけだった。アイデアとしては下さえも脱ぐつもりだった。それによって自分自身を表現できるからね。だけど、服だってひとつの主張になる。普通にいろんな人がいる部屋で同じ格好をしていても、何の主張にもならないけれど、その格好でステージに立つと途端に主張となる。音楽が表現する部分以外については、俺は多くを語りたくなかった。ドリーミーで、それでいて力強い音楽だったから、それで十分だった。俺は扇動しようとしただけだ。そういうアイデアだったんだ。

ジム:アカデミックな話になるとあれだけど、裸になるという行為にはシャーマニズム的な意味合いがある。全裸でなくともね。そこには力が現れる。イギーはミシガン大学で一時期人類学を学び、上半身裸のファラオに衝撃を受けたと話していた。パワフルな行動なんだ。単に「俺、脱ぐとスゴイから脱ぐわ」って訳じゃない。

ポップ:まさにその通りだよ。

あなたのヌードをスケッチしたイベントがありましたよね。自分の身体に対して、そこまで不安がない状態になれるのはどうしてでしょう?

ポップ:ジェレミー・デラー(Jeremy Deller)のやつだね。彼は本当に才能がある素晴らしいアーティストだ。何年も前からこのプロジェクトについて話をされていて、そのときは不安だったんだけど、どうすればいいかって考えるようになった。人生の「スフレ」が完全に焼けたような気分で、つまり次にどうなるかというと、フランス語だと「bout de soufflé」っていうんだけど、スフレがシュッと萎むわけだ。完全に焼けたあとは萎んでしまう。だから、今のうちにやっておいた方がいいってね。それに、これを逃したら他に美術館に展示される機会なんてないとも考えた。ファッション関係で展示されるわけないし、俺はチャック・ベリー(Chuck Berry)じゃないから、「I Wanna Be Your Dog」が宇宙で流されもしないだろうしね。いや、もしかしたらあるかも。NASAで働く男と話したんだよ。進行中かもしれないな!

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近年、あなたは自分の歴史を振り返る作業をしていますよね。それにより、自分のこれまでのキャリアに対して、あるいは、今自分がいる場所に対して、どうお考えですか?

ポップ:そうだね、本当に自分のものだといえるものは、人生のごく一部でしかないと考えている。そう感じているから自伝を書いていないんだ。俺には、他人のストーリーを語る権利はない。いろんなキャラクターが俺という人間を形づくっている。俺が一番興味があるのはそこだ。いろいろなものが混ざって俺がいるんだ。

ジム:『Gimme Danger』は、THE STOOGESの映画だけど、イギーのナレーションが、作品の内容を導くガイドになっている。でも、僕たちが重要にしていたのは、イギー以外のメンバーを軽視しないで、讃えることだった。彼らについてもしっかりライトを当てて、敬意と称賛を表現したかったんだ。

やっと作品が完成したのに、他のオリジナルメンバーと共有できなかったのは残念ですね。

ポップ:そうだね。こういうのは初めてだったから正確を期したかった。オリジナルメンバーは、俺しか残ってない。内容には満足しているよ。ストーリーの語られ方がとてもいい。

ジム、あなたが監督したニール・ヤング(Neil Young)のドキュメンタリー『イヤー・オブ・ザ・ホース』(Year of the Horse,1997)では、ランドリールームでのインタビューカットが使われていました。そして今作でも、イギーへのインタビューがランドリールームで撮られています。何か意味がありますか?

ジム:高級ホテルのスイートルームにいるミュージシャンを見るのがいやだからだよ。彼らがいるところで撮るべきだ。例えば、ギタリストのジェームズ・ウィリアムソン(James Williamson)のインタビューは、楽屋で撮影した。そこにはシンクがあって、トイレも見えた。『イヤー・オブ・ザ・ホース』も同じ。あれはグラスゴーの楽屋で、彼らがそこにいたからそこで撮ったんだ。別に僕が、「一番みすぼらしく見える場所で撮ろう」って提案してるわけじゃない。「CRAZY HORSEのポンチョ(Frank “Poncho” Sampedro)はどこにいるんだ?」って訊いたら、「楽屋だよ」っていわれただけ。ジェームズのときだって同じ。イギーは、ランドリールームで撮ってくれって自分からいったんだ。

ポップ:ランドリールームのカットはクールだったからね。だから、いいランドリールームがあるぞって提案した。

ジム:窓もクールだったし、光の加減もよかった。洗濯機も新品じゃなくてヴィンテージものだったしね。

ジム、あなたはこれまで、自分の作品に何度かイギーをキャスティングしてきました。ですから、お付き合いも相当長いですよね。でも、『Gimme Danger』という大きなプロジェクトで彼と仕事をして、あらためてイギーという人間の知らなかったいち面が見えたのではありませんか?

ジム:彼の思考には驚かされたし、彼の記憶力には舌を巻いたよ。彼の頭のよさにはいつも感嘆してきた。アカデミックな意味で「賢い」のではなく、自分自身の「学びたい」という意思をもって形成された賢さをもつ人、そういう人が好きだ。ずっと尊敬しているのは、イギーは世界に対して、自分の知識を話したがるような人間ではなくて、毎朝目覚めると、「俺が知らないことはなんだろう」「俺を刺激してくれることはなんだろう」、そう自分に問いかけるようなところなんだ。それこそ本当に真の賢い人間だ。だけど、彼のそういうところはもう知っていたから、今回新しく知れた部分は……なんだろうね? でも、とにかくイギーの思考には常に感銘を受けている。イギーに、今読んでいる本を尋ねるのが好きなんだ。彼は、ローマ帝国の歴史についての本を読んでる。本当に面白い。彼が見つけてくる新しい音楽とか、歴史的な事実とか。彼にはいつも驚かされる。

素晴らしい人物なんですね。あなたはイギーの広告塔みたいになってますよ。

ジム:友人として本当に尊敬しているんだ。彼の友人である自分を誇りに思う。彼の作品や、彼が築いてきたものすべて、そして彼の人間性からもいろいろと学ばせてもらった。だからそれしかいえないよ。だけどこれはイギーには内緒にしてた。知られると恥ずかしいから!

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『ギミー・デンジャー』: 9月2日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開