うつ病で抱えた70万円の借金を私はどう完済したか

もし手数料が免除されていなかったら、今でも借金に苦しんでいたことだろう。
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
Gina Tonic debt column

うつ病について、誰も教えてくれないことがある。それは、うつ病はお金がかかるということ。働けず、疾病手当ももらえず、頼れる裕福な家族もおらず、一日中家のベッドで寝ているしかなければ、シカゴ・タウンのピザの代金やアパートの家賃などでお金は出ていく一方だ。

自分の体験を振り返ってみると、私は何も4日間の治療セッションや海外旅行にお金(当座借越も含む)を使っていたわけではない。ただ日々を生き抜こうとしていただけだ。無収入でトイレットペーパー、スナック菓子、電話代などを払っていたら、私の累積債務は4500ポンド(約70万円)に達していた。

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私のうつ病は、数々の緊急事態が連続して起こったことで誘発された。2015年に大学を卒業した私は、学生寮を出て、ルームメイトとふたりでアパートに暮らしはじめた。向こうは夜勤、私はフリーランサーとして日中働いていたため、ただでさえ大学時代のルーティンを失って苦しんでいた私は、ひとりぼっちで孤独だと感じた。ホンモノの仕事、つまりオフィスワーク的な仕事に就いていれば入れたであろうシステムの外で、途方に暮れていた。さらに同時期、私ははじめて祖父母を亡くした。肉親と大げんかをした。

それらの問題に対処すること自体大変だが、私は21歳の駆け出しフリーランサーで、収入も安定していなかった。時間の8割を自分のために使っていた。笑えるのは、そんな状況に陥る前に、すでに私は一度借金をして、返済までしていたことだ。

3年の大学生活の中で、私の当座借越額は一時限度額の2000ポンド(約30万円)に達した。しかし販売員としてフルタイムで働き、大学を卒業する頃には完済できた(低金利の学生ローンからも拝借したが)。立派な〈大人〉として、ライターという夢のキャリアの一歩を踏み出すときには身の回りをきちんと整えておきたかった。もし事情が違えば、始まりにふさわしい状況だったといえるはずだ。

学生用当座借越システムでは、卒業後最長3年、無利子でお金を借りられる。私が口座を開いていたサンタンデール銀行は、当座借越の限度額がいちばん大きかった。だから18歳の私はこの銀行を選んだのだ。ローンや当座借越のお金について、学生たちはみんな「自由に使えるお金だ」と解釈する。全て使うのも無理はない。私の場合は2倍使ったのだが。

精神的にどん底にいた時期は、より多くのお金が必要だった。1〜2ヶ月サンタンデールの当座借越を利用したあと、ありがたいことに、友人が社会保障事務所への電話連絡を手伝ってくれた。おかげで4ヶ月分の家賃と精神疾患保障(週およそ100ポンド(約1万5000円))を得ることができた。ただ、これはユニバーサル・クレジットが導入される前で、家賃保障は賃貸住宅仲介業者に直接支払われたので、他のことには利用できなかった。もしできていたら、間違いなく使っていただろう。

精神疾患保障は、私の口座に直接振り込まれた。そのお金で、各種請求書の支払いや、食料品、時にはケタミンを購入した。食費なんて30ペンス(約50円)で十分だとか主張するバカもいるけれど、私の場合、生活費は保障されなかった。そこでどうしたかというと、お察しのとおり、別の銀行の当座借越を利用した。

16歳の頃から口座を持っていたハリファックス銀行は、1500ポンド(約23万円)の当座借越を即時承認してくれた。私はそれをすぐに、細々したものの支払いに使った。より多くの友人と住むために新しい家に引っ越したので、敷金と仲介手数料が必要だった。気分が上向き、パブに行って友達に会った。もちろんそのためにはお金が必要だが、うつ状態になってから何ヶ月も遠ざかっていたことだ。働けるほど回復していたわけではなかったが、生活が持ち直しはじめた。

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当時の状況を整理すると、当座借越の3500ポンド(約53万円)に加え、母親からの借金もあった。1回あたりは少額でも、頻繁に借りていたので総額1000ポンド(約15万円)に達していた。返済する前提だったので、自分の状態が落ち着き、最低賃金の仕事を始められるようになったとき、週10ポンドずつ返済していくと母に約束した。個人的には銀行からの借金を片付ける前に、生身の人間(私の場合は親戚)に返済するほうがいいと思った。

週10ポンドなんて微々たるものに聞こえるかもしれないが、2年強で計1040ポンドを完済できた。これでひとつは片付いた。このゴールを達成できたことで、残りの借金に関しても返済計画を立てる自信がついた。私はまず、サンタンデールよりもハリファックスを優先することにした。なぜならサンタンデールの当座借越は当時、まだ無利子期間だったからだ。一方ハリファックスは、当座借越のために1日1ポンドの手数料を払わされていた。

当座借越を返済するということは、基本的に口座の残高をマイナスからプラスにすることだ。私は自分が、あればあるほどお金を使ってしまうタイプだと知っていたので、残高を黒字化するのは難しそうだと感じた。そこで、私はハリファックスに電話をし、毎月同じ日に、自動的に当座借越の限度額を100ポンドずつ減らしてもらえないかと頼んだ。そうすることで、最終的に当座借越をゼロにするのだ。

私は知らなかったのだが、銀行の窓口係に電話で自分の精神疾患について説明したら、ハリファックスを含む多くの銀行では、返済に苦しむ債務者への救済策を用意していると教えてもらった。

結局、ハリファックスでは前述の〈限度額削減計画〉を実行すると同時に、完済するまで手数料を免除してもらえることになった。自殺未遂や、精神疾患がひどくなった日付などを率直に伝えたことで、ハリファックスは精神疾患を抱えたひとびとのための独自の救済措置を適用することができ、手数料免除がかなったのだ。手数料を払い続けなければいけない限り一生返済できない、と銀行にはっきり主張したことがダメ押しになったのかもしれない。1日あたり1ポンドの手数料が免除されたことで、毎月30ポンドが浮いた。おかげで、毎月100ポンドの返済がかなり楽になった。

最低賃金で働いていた3年前、私の月収は約1100ポンド(16〜7万円)だった。母親とハリファックスへの返済は合わせて月110ポンド。ハリファックスの救済措置に背中を押された私は、サンタンデールにも連絡をし、同じ措置を講じてもらうべく頼んでみた。驚くべきことに、競合他社でも同様の救済策を用意していた。そのあと一度、サンタンデールに裏切られて手数料を取られたことがあったが、泣きながら電話をしたら、払った手数料は返金された。さらにサンタンデールはミスを認め、賠償金として75ポンドが支払われた。それから2年が経った今、借金はゼロだ。借金完済を伝える銀行からの手紙は、今でも額に入れて保管している。

誰もうつ病はお金がかかると発信しないので、救済策の存在が、それを必要とするひとに知られていない。しかし、自分の置かれた状況を借入先になるべく多く話してみれば、適切な救済策を講じてもらえるはずだ。

処方箋の発行日、救急搬送された日、入院日などを銀行に伝えるのは恥ずかしいかもしれないが、それらの情報を明かしていなければ、おそらく私は破産していただろう。精神疾患を患った1年のあいだに重ねた4500ポンドの借金から私が解放されたのは、返済計画や手数料免除があったおかげだ。

@GINATONIC