Health

美容整形ツアーの光と影

かつてバカンスがもたらしてくれたのは、生活リズムの変化だったが、今は容姿の変化。

by Tabi Jackson Gee
04 April 2019, 1:00am

バカンス中にちょっと美容整形をしてみようかな、と考えたことがあるひとは少なからずいるはずだ。東欧での豊胸手術から、世界的な人気を誇る美容外科施設でのラグジュアリーな五つ星サービスまで、メディカルツーリズムの人気は高まりつつある。もしあなたが燃やしても有り余るくらいのお金を持っていて、痛みだってなんのその、というタイプなら、美容整形にオススメのプランをご紹介しよう。

たとえば世界的にも有名な、バリのメディカルスパでの1日はこんな感じ。起床後、乗馬ならぬ〈乗象〉体験。それから森を散歩し、ボトックスの注射を打つ。そしてランチ。

あるいは、顔の美容整形といえば韓国だろう。美容整形手術率世界一を誇る韓国では、〈エギョ(愛嬌)〉文化が席巻しており、大きな瞳のベビーフェイスで、かわいらしく、SnapChatのフィルターを使ったような顔が人気だ。韓国の整形手術は安価で、結果も確実なため、海外から多くの整形希望者が訪れ、韓国のGDP(国内総生産)に大きく貢献している。

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美容整形手術率世界一を誇る韓国。Illustration: Blake Kirpes

ところ変わってタイでは、美容整形パッケージを売り出している〈Gorgeous Getaways〉のような企業がある。数万ドルで、好きなだけ宿泊でき、一流のおもてなしを堪能できるプランだ。もちろん完全にプライバシーが守られており、新しい容姿で思う存分日光浴ができる。

アジアだけではなく、アフリカもご紹介しよう。メディカルツーリズム業界で少しずつ存在感を高めつつあるのは、南アフリカのケープタウン。〈サファリ手術〉の旅程は、第1週:フェイスリフト、第2週:野生動物ウォッチング。もちろん順番を逆にして、野生動物を見てから施術に挑んでも構わない。動物たちを怖がらせないためにはそのほうがいいかもしれない。

お尻の整形をお望みなら、絶対にブラジルだ。2012年、ブラジル政府は美容整形手術の税控除を決定。経験豊富な外科医による手術も簡単に申し込め、しかも安価だ。あるいは鼻を高くしたいなら、鼻整形が得意なイランがいいだろう。

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豊尻手術といえばブラジル。Illustration: Blake Kirpes

成長の一途をたどる美容整形ツーリズム業界だが、世界各地で多数の悲劇が報告され、悪い意味で注目が集まっている。2018年7月にはリオデジャネイロで、8月にはトルコで美容整形手術を受けた患者が死亡する事件が起き、大きく報道された。どちらも豊尻の手術だった。

世界中の女性たちが命を危険に晒しながら医師の手に身を委ね、自らの身体の〈改善〉に励んでいる。ほとんど女性に限った話だ(〈改善〉と書いたが、あるいは、均質化された理想の女性像に近づこうとしている、と述べたほうが正しいかもしれない)。ここでキム・カーダシアン(Kim Kardashian)を責めてもしょうがないのだが、責めたくもなる。カーダシアン家の女性たちはまるで「家父長制の二重スパイ」のようだ、と英国の女優/モデルのジャミーラ・ジャミル(Jameela Jamil)も述べていた。

誇張ではない。実際のデータを見ればすぐにわかる。美容形成外科の国際学会(ISAPS)の研究によると、2016年、世界中で美容整形手術を受けた全患者の86.2%が女性。手術の件数でいうと計2036万2655件にものぼる。いっぽう、男性は13.8%。件数は全世界で326万4254件だった。

女性人気トップ5の施術は、豊胸術(シリコンインプラント)、脂肪吸引、目の整形、腹部整形、バストアップ。

男女合わせた施術のなかで、前年の2015年と比べ45%も増加したのは小陰唇縮小手術。いっぽう、前年比28%減で、いちばん人気がない施術はペニス増大術だった。

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英国の美容整形外科医たちは、海外での美容整形に規制がないことを憂慮する。Illustration: Blake Kirpes

「ここには、不健全な事実しかありません」と指摘するのは、マンチェスターを拠点とする美容整形/乳房再建専門の顧問医師、ジェラルド・ラム(Gerard Lambe)博士。「小陰唇の整形件数は私の実感としても増加しています。実際に手術もしますし、間違いなく流行っています。小陰唇の整形を希望する若い女性は少なくありません」

メディカルツーリズムも海外での肉体改造(外科手術の有無にかかわらず)も、今に始まったことではない。スイスでは〈F.X. マイヤー治療法(F.X. Mayr Cure)〉を実践しているクリニックがある。ソーダブレッドと水だけの食事で1週間過ごし、さらに腸洗浄も施して内臓や生活をリセットできる、と謳うプログラムだ(実際、参加者たちが気にしているのは内臓の健康ではなく、ダイエット&美肌を目指しているはず)。

さらに、ヨガ、ブートキャンプ、デトックスの旅行プランもある。第三者に大金を支払い、7日間、自分の健康管理を委ねるプログラムだ。依存症リハビリセンターも現在人気の旅行先だ。お金があるなら、雨が多くどんよりしたロンドンの修道院より、エリック・クラプトン(Eric Clapton)が設立したアンティグアの〈クロスロード・センター〉に行くに越したことはない。

ただし、美容整形施設と高級リハビリセンターには大きな、そして決定的な違いがある。英語を喋る熟練の医療スタッフも、患者の安全、退院後にも続く回復への道のりまでのサポートも後者にしかない。海外の街の怪しげな地域で、適当な処置しか行わないエセ美容整形外科医には、そこまで望めない。

ラム博士は、施術の成功のために大切なのは、手術の同意前に最低でも2回、直接患者と顔を合わせることだ、と強調する。「少しでも引っかかる点があれば、予診票を渡して質問に答えてもらいます。14〜15問程度で、回答に時間はかかりません。これに答えてもらうと、身体醜形障害の可能性を確認できます」。ラム博士が主張するように、少なくとも2度、医師と患者が顔を合わせれば、的確な診察もしてもらえるし、患者の考えが変わる場合もある。

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旅行業界におけるビッグビジネス、フェイスリフト。Illustration: Blake Kirpes

しかし、大金を払い、海を渡ってここまできたのだから、医師と話しただけで考えを変えるひとはあまりいないだろう。では、実際に怪しい施設を目の当たりして怖気づいたら? 残念ながら、もう後戻りするには遅すぎる。

「恐ろしいですよ。たとえば韓国に行ったら、言葉もわからない。流暢な英語を話せるひとが多いわけでもないので」とラム博士。20年のキャリアを誇る博士は、世界的なメディカルツーリズム業界の規制の少なさを憂慮している。「そうなると患者は心細いですし、何をされてもおかしくないという恐怖を抱く。韓国まで行ってしまったら、手術を受けざるを得ないんです。たとえ施術側が、手術をしないほうがいいと思っても、患者にはそれを伝えてくれません」

先ほど紹介したような、美容整形手術がもたらした悲劇は、涙が出るほど高額なクリニックで起きたものではない。クレバーなマーケティングテクニックで人びとを騙し、信じられないほど安価なサービスを提供する企業が起こした事故だ。1000ドル以下のトルコ豊尻旅行を予約したとしたら、良いサービスは期待できない。

しかも、同じ医師に会えることは二度とない。もし帰国後に問題が発生したら、自分が受けた手術の経験がある外科医を探さなくてはならない。医師が見つかったとしても、カルテはないし、自分がどんな施術を受けたのかはわからない。非常に面倒なことになる。

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海外での施術における「問題発生率は高い」と専門家は証言する。Illustration: Blake Kirpes

「評判の良い施設でも、問題発生率が30%に及ぶことはあまり知られていません。しかも、そのうち多くが海外での施術です」と説明するのは、ロンドンのアングリア・ラスキン大学美容外科教授で、英国美容外科協会(Association of Plastic Surgeons)会長のジム・フレイム(Jim Frame)博士。

美容外科の専門家であるフレイム博士も、SNSの流行や若い女性への影響、メディカルツーリズムへの影響を認識している。とはいえフレイム博士は、美容整形をネガティブに扱う報道には懐疑的だ。

「私の実感としても、若い女性の間で隆鼻術は流行しており、メディアの力を感じています」と博士。「私は、英国のリアリティ番組『The Only Way Is Essex』に出演していた女性の施術を担当しました。わずか数週間後、彼女はもう国営テレビに出演していました。テレビに映る彼女からは、手術で得られたよろこびがにじみ出ていましたね。多くのひとが同じように感じていると思います」

若い女性たちへの影響力を有しているすべてのひとにそれなりの責任があるし、闇に包まれたInstagramマーケティングにも大きな責任があるはずだが、実際は責任感のかけらもないのが現状だ。「Instagramで、身体醜形障害を患っていると思われる女性たちを目撃しました。彼女たちは手術を重ね、私からすれば〈普通〉とはほど遠い容貌になってしまっている」とラム博士。「彼女たちはこれからも手術をしていくのでしょうが、そのさいのリスクをまったく考慮していません。美容整形のプロモーションとしては完全に間違っていますし、弱い人間が犠牲になっているんです」

ただ、悪いことばかりではない。モラルを飛び越えた世界から生まれた美しいストーリーもある。たとえば、2016年に逝去したイヴォ・ピタンギ(Ivo Pitanguy)医師はブラジルの美容整形の権威で、数々の著名人の施術を担当し、ブラジルを美容整形大国へと押し上げたことで知られる。彼の神がかった施術を求め、アングラ・ドス・レイスにあるプライベートアイランドを訪ねたとされるのは、ジャクリーン・ケネデイ(Jacqueline Kennedy)、エリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)、ソフィア・ローレン(Sophia Loren)をはじめとする超セレブたち。しかしピタンギ医師はセレブだけではなく、大きな火傷や奇形を患う何千人にも及ぶ女性たちの施術を無料で引き受けた。

完璧な容姿へのこだわりから、素敵なストーリーが生まれることもある。