同性愛嫌悪、ホモフォビアが歌われてきた歴史が、米国のラップシーンにはある。それを追随する形で生まれた日本のヒップホップシーンにおいても、当然のように、これらのワードが飛び交っていた。そんなシーンにおいて、LGBTQを自認するひとびとが中心となった〈西新宿パンティーズ〉を取材した。自らの性が差別されがちな世界に、あえて踏み込んだ理由、そして、何を歌うのか?

日本語ラップとホモフォビア、 そしてゲイ、エイズ、性癖について 〈西新宿パンティーズ〉が語る!!

同性愛嫌悪、ホモフォビアが歌われてきた歴史が、米国のラップシーンにはある。それを追随する形で生まれた日本のヒップホップシーンにおいても、当然のように、これらのワードが飛び交っていた。そんなシーンにおいて、LGBTQを自認するひとびとが中心となった〈西新宿パンティーズ〉を取材した。自らの性が差別されがちな世界に、あえて踏み込んだ理由、そして、何を歌うのか?

アートやファッション、音楽といった文化は、その時代ごとの政治や社会に呼応するように表出されるのは、いうまでもない事実だろう。ときに保守的に、ときにカウンターとして、あるいは、予言的な作品もあるだろう。気候変動、ジェンダー、格差といった差し迫った問題に対して、日々、リアルタイムで新たな表現が生まれている。一方で、文化を保存する、伝統を継承することは大切なことだが、既存の社会観念を守ろうとする行為は、自分たちが偉くなれた社会背景を維持しようと躍起になっていることにも繋がっていることに気づかない、ダサいおじさんたちには理解できるわけがない。そういった動きは、男女の二元論でしか捉えられなかったり、〈生産性〉でしか測れない、といった概念にもつながるのだろう。

〈生産性で人を測るな/SAY NO HATE 絶対に黙るな〉というポリティカルなリリックと、〈開いたアナルは私のリアル〉という下ネタを並列にラップする西新宿パンティーズは、新宿二丁目をベースに活動する3人組。パンティーを覆面のように被る奇妙なスタイルが特徴の、クィア・ラップクルーだ。彼らに、LGBTQの人々がラップすることへの苦悩や日本語ラップとホモフォビア、そしてパンティーについて話を聞いた。

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インタビュー後、「ひとつ被ってみてはいかがですか?」と勧められ、パンティーを被りながら新宿二丁目を闊歩した。ギャル、サラリーマン、カップル、ガイコクジン、ケーサツ、ヘンタイ…。快楽を巡り集まるひとびとがつくる、この街特有の空気だろうか。不思議と街に溶け込み、リラックスした感覚を得られ、心地よささえ感じた。

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左からSnoopバタ子、MCくんに君、あでぃぽい

はじめまして。なぜ、みなさんはパンティーを被るのでしょうか?

MCくんに君(以下、くんに君):逆に聞きますが、パンティーを被りたいと思いませんか?

単純に被りたいです。ただ、自分がパンティーを被っているところを女性が見たら、〈変態〉だと思われたりちょっとマズイだろうなと、その行為に対して抵抗があります。

くんに君:僕はパンティーが大好きなので、抵抗など一切ありません。もともとは、大好きなヒップホップクルーのMSCが覆面を被って活動していたのに着想を得て、パンティーを被ったらカッコイイんじゃないかと始めたのですが、実はパンティーは自分をさらけ出すために被っている面があります。パンティーを被ることで顔を隠すのではなくて、自分の欲望をさらけ出しているのです。そう考えると、あなたは何かが邪魔をしてパンティーを被れないだけでしょう。

なるほど。ではなぜ、被るのが男性用下着ではないのですか?

くんに君:イヤイヤ、男性用のいわゆるパンツとパンティーでは格が違いますね。レースといった素材もいろいろあって、ただのコットンの布である男性用下着と比べて、パンティーは断然レベルが上です。

ゲイを表明しているおふたりはいかがでしょうか? パンティーはお好きですか?

Snoopバタ子(以下、バタ子)・あでぃぽい:全く、興味ないです。

あでぃぽい:ライブに出るときに被ると仕事モードに入るというか、ユニフォームのような物ですね。奇抜なことをして、みんなを楽しませられたらいいんじゃないかなっていう気持ちで被っています。というか、僕は途中からグループに入ったので、メンバーになったときには既にパンティー被り集団になっていたのですが。

パンティーはどこから入手していますか?

あでぃぽい:自分たちで買ったり、下着メーカーに勤めていて廃棄するものを大量に横流ししてくれる、パンティープッシャーが仲間にいます。ですが、僕はパンティーへのこだわりとかは一切ないですね。

くんに君:ふたりとのパンティーに対する温度差は感じますね。生地の面積が大きいパンティーを選んだり、扱い方が雑だったり。正直、なんでもいいんだなって思うときはあります。ちなみに僕は、ピンクのパンティーが好みでして。

わかりました。それでは、パンティーの話は一旦これくらいにして、グループの成り立ちを教えてください。

くんに君:バタ子さんが以前、働いていた西新宿の飲み屋でメンバーに会いました。今は幽霊部員になってしまったパンティー師匠というひとがいるのですが、3.11の震災後に東電に対して何かメッセージを出そうとなりまして。曲をつくってライブをやったら結構、ウケて。それで、ちょっと味を占めたというワケです。

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そこで、なぜラップをしようと思ったのですか? 特にギャングスタ・ラップに見られる傾向ですが 、ラップにはゲイなどに対する攻撃的でホモフォビックな表現もあります。日本語ラップにおいても そういう表現が問題になった歴史があり、ゲイがラップをすることに偏見もあるかと思います。

くんに君:ヒップホップカルチャーにみられるホモフォビアに対して挑戦していこうとか、そういう意識は私にはまったくないんですよ。ゲイのメンバーもいるのでリアルを歌っていると、例えば〈開くアナルは私のリアル〉(『僕らがパンティーを被る理由』より)というように、自然とそういうリリックができるんです。もちろん、安倍晋三とか社会に対して言いたいことは山ほどあるんですが、ヒップホップのホモフォビアに対してだけの視点で曲をつくろうとは思っていません。ラップに関しては、簡単に遊べる敷居の低さもあってやっています。敷居が低いので誰でもできるということで、ゲイのひとにも広がっていっているだけだと思います。自分たちが何かを変えたいとか、そういうのではなくて単純にラップの力なんだろうなと。

バタ子:僕自身は、ちょっと違う考えがありまして。もともとレゲエが好きで、10年前くらいに代々木公園の〈ジャマイカフェスティバル〉にバーを出店したことがありました。そこのステージで、DJが「オカマはいるか?」みたいに、ゲイをディスるんですよ。それからいろいろ考えて、当時mixiで〈レゲエとオカマ〉というフォーラムをつくって、いろいろなひととやりとりしました。サウンドクルーを組んでレゲエをやっているけど、ゲイというのを言えなくて隠している子は結構います。だったら、嫌な思いをしないようにウチらでやればいいんじゃない?と、2009年ごろに〈二丁目レゲエ祭〉というイベントを始めたんです。

〈バティマン (オカマ野郎) 〉などと攻撃したり、レゲエは特に同性愛に厳しい側面がありますね。

バタ子:同性愛に対しては、宗教も絡んできて最も厳しい世界といえるのではないでしょうか。日本は、それがカッコいいとコピーしてきた歴史があります。心から同性愛嫌悪なのかはわかりませんが、本場のレゲエがそういうスタンスなので、ただ海外の真似をしたというひとも多いのでしょう。でも、状況は少し変化してきています。LGBTQのダンサーチームが優勝したり、理解され始めてきています。僕は10年前に渋谷のクラブで働いていて、毎週レゲエのイベントをやっていました。イベントでは毎回、出演するクルーがホモフォビックなワードをいうわけです。そして、彼らからは僕がゲイであることを出さないようにと言われていました。音楽関係でLGBTQのひとも結構いるのですが、レゲエの世界は特に言えない、隠さなきゃいけないという感じでしたね。

くんに君:盲目的にジャマイカの文化を信じてしまうようなひともいるので。僕はクンニが好きなのですが、ラスタファリアンってクンニが禁止されているらしいんですね。以前、レゲエクルーのひととクンニポーズをしようと言ったら、「それはできない」と断られました。日本でバティマンなどと攻撃するのも変だけど、さすがにクンニまで制限するのはちょっと、と思いました。

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クンニ好きからすると解せないと(笑)。 新宿二丁目のクラブでフリースタイルラップバトルの〈オネエスタイルダンジョン〉が開催されたり、 10 年前と比べると、新宿二丁目にはこれまであまりなかったレゲエやラップのイベントが 増えているように感じられます。

あでぃぽい:10年前とはかなり状況が違いますね。先日も二丁目のクラブで〈BATTY MAN-バティマン-〉という、レゲエのイベントが開催されました。

それは、いわゆる〈 N ワード〉を、黒人たちが自ら使うようなイメージですか?

あでぃぽい:そうですね。ホモフォビアに対して中指を立てるという感じではなくて、「オレらバティマン、イエーイ!」みたいな。オネエスタイルダンジョンもそうなんですが、ネガティブな要素をポジティブに取り入れるのは、二丁目らしいなと思います。僕は以前〈日本語ラップナイト〉というイベントを二丁目で主催していました。福岡県の出身で10年前に東京に上京してきたんですが、福岡ではあまり出会えなかったヒップホップ好きなゲイにたくさん出会えました。当時、二丁目にはあまりヒップホップやラップのイベントがなかったので、自分たちの居場所をつくろうと、知り合ったひとたちと日本語ラップナイトを始めたんです。

バタ子:10年前だとまだ、イベントに出演してくれたレゲエシンガーが「なんでそんなオカマの現場に出たんだ?」とたたかれたり、騒然とすることもありましたね。

では、状況はだいぶ良くなってきているということでしょうか。以前、オネエスタイルダンジョンに MSC の漢が参加したと聞きましたが。

バタ子:審査員として来てくれました。本当はあまり気乗りしなかったみたいですけど(笑)。知り合いのマネージャーさんを通してお願いしたので、漢さん的には勝手に決まっていたという感じだそうですが(笑)。

MSC といえば、メンバーのラッパー・プライマルが数年前に自身のセクシャリティについてカミングアウトして、話題になりました。

あでぃぽい:あれは衝撃でした。

くんに君:まあ、一定数そういうひとはいるので、僕は特に何も思いませんでした。

あでぃぽい:でも、あれを言うのって勇気がいることだと思います。あのMSCというマッチョな世界で公表するのは、すごいことだと思いますね。

バタ子:女性が好きなんだろうなと勝手に思っていたので、すごいなあと思いました。結果、スケジュールの問題でかないませんでしたが、そのあとイベントにオファーしてOKをもらっていました。ライブをしてもらって、みんなに聴いて欲しかったんですけどね。個人的にも、色々お話を聞きたかったので。

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カミングアウトをするラッパーがいる一方、最近では 2018 年に北海道の大御所ラッパー・ B.I.G.JOE Twitter で「何かゲイみたいなラッパー増えたな?」と呟いて非難されました。その通りの意味ではなくて、〈ワックなラッパー〉を指すとのちに釈明しましたが、ラップとホモフォビアの問題として、例えばダサいラッパー〉の隠喩としてホモフォビックなワードを使うということがあるかと思います。これについては、どう思いますか?

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あでぃぽい:けなし文句としてそういう言葉を出すのが、そもそも意識として大丈夫か?と思います。たとえ話だったとしても〈ホモ野郎〉とか、言葉にしてますからね。その上、言い訳までされると、どんどんダサくなっていきますね。

くんに君:B.I.G.JOEさんが以前、THA BLUE HERBのILL-BOSSTINOさんをディスった時に〈オカマ野郎〉と言っているんですが、それに対してILL-BOSSTINOが「俺は同性愛者じゃないけど仮にそうだったとして何が問題あるんだ?」というようなことを言っていて。その時に、BOSSさんは最高だなって思いました(笑)。カッコいいひとは、ホモフォビックなことを言わないんだなと。ただ、僕はB.I.G.JOEさんも、ILL-BOSSTINOさんも大ファンです。

あでぃぽい:2002年のキングギドラ『ドライブハイ』の事件のときもそうでしたよね。僕は、中学の思春期頃から日本語ラップを聴き始めまして。そのときには、キングギドラを聴かなくなっていたのもあるのですが、ゲイに対する攻撃だと意識をして聴いていませんでした。その当時、聴いていたMSCの曲にもホモフォビックな歌詞が出てくるのですが、あまり自覚がなくて今聴くと、「すごいことを言ってるな」と思うような曲も普通に聴いていましたね。今のほうが鋭敏になっているのかもしれません。

それは、ご自身がさまざまな経験を経て、または社会が同性愛嫌悪を許さないように変わっていったということでしょうか?

あでぃぽい:そうですね、社会の変化もあると思います。それと、僕は中学のときに自分の性に気が付いたのですが、幸い、自分はおかしいんじゃないか?と、悩んだ経験はないんです。でもその分、ゲイであることにアイデンティティが持てていなかったのかもしれません。東京でいろんな人の考え方や出来事に触れて、自分のアイデンティティのひとつだと自覚できるようになってから、ホモフォビアに対する感じ方も変わったように思います。

ゲイでもそうでなくても、多様なひとと出会って性についてのアイデンティティを築ければ、理解は深まりそうですね。

くんに君:なぜ、不良の世界のひとたちにホモフォビアな傾向が多々見られるかということに関して、持論がありまして。彼らは過剰に男らしさを求めた結果、ゲイを排除するというのはあると思います。それとは別に、決めつけの前提は良くないのですが、不良には刑務所と縁がある方も多いはずです。刑務所のなかは、基本的に同性だけの環境です。そのなかで不自然に発生する同性愛があるのではないかと。そして、そこへの嫌悪感があるのではないかと思っています。解決策としては、刑務所の〈オナニー環境〉を改善するべきだと思います。そして、ひとつ言いたいのは、マリファナごときで刑務所に入れるのもやめた方がいいのでは?ということです。

あでぃぽい:〈オナニー環境〉って、なかなか聞かないワードですね(笑)。劣悪なオナニー環境に置かれていると、ホモフォビアが生まれるということですか?

くんに君:例えば、会社でストレスを抱えているひとが家庭で発散したり、痴漢に走ってしまったり。人間はストレスを抱えると、それをどこかで発散したくなる。映画などでも、刑務所内での同性の強姦の描写はよくあります。少年院や刑務所で、そういう行為が本当にあるのかはわかりませんが、その恐怖感とストレスから不良のなかにホモフォビアが生まれる面もあるのではないでしょうか。故に全くの仮説なのですが、刑務所内でのエロ本やアダルトサイトの解放が、不自然な同性愛の撲滅、ひいては不良のなかでのホモフォビアを無くすことにつながるのではないかと。ところで、〈裏アゲサゲ〉をご存知ですか?

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はい、巨大アダルト動画サイトですね。

くんに君:〈裏アゲサゲ〉を見てもらえば一目瞭然ですが、巨乳・素人・熟女など、いろいろな性癖が細分化されてカテゴリー化されていて、そのなかにはゲイもあります。アダルト業界が発達したことで、世の中にはさまざまな性癖があるのだなと可視化されてきたと思います。

ネットの発達によって、いろいろな性的な趣向が並列になっていくということでしょうか?

くんに君:はい、そう思ってます。さらに言うと、VRオナニーに可能性を感じています。VRオナニーを数年前に体験したのですが、あれは〈ネクストレベルオナニー〉です。未来学者のレイ・カーツワイルが、「2020年代後半にはVRで見える世界と、今見ている世界は変わらなくなる」と言っていまして。そうなると、さまざまな性が平等になっていくのではないでしょうか。つまり、性の民主化です。快適なオナニーライフを送ることで、他人の性癖なんてどうでもよくなると思います。このように、インターネットやデジタルテクノロジーの発達が、多様な性を可視化したのは大きいと思います。それによって、ゲイもただの性的な趣向のひとつだと認知されてきた面もあるのではないでしょうか?

その人が生まれ持った性を性的な趣向と同一に考えるのは、ちょっと違くないですか?

あでぃぽい:〈性的嗜好〉と〈性的指向〉の話ですよね。〈嗜好品〉の嗜好か、〈指し向かう〉という意味の指向かの違いで、後者の方は生まれ持った自分の性自認と同じ意味で、生まれながらにして選択できないものだという。

バタ子:ゲイは性的な趣向のひとつなのか?ということは、メンバー同士でもよく話しています。僕自身は「なんでゲイなんだろう?」と考えたとき、「あ、チンコが好きだわ」と思うんですが。そうすると、「これは性的な趣向なのかな?」と思う部分もありつつ、そもそも根源的に「人を好きになることとはどういうことなのか?」という狭間で悩んでいます。当事者でも、「なぜ男が好きなのか?」と聞かれても説明できないのです。そう考えると、同性愛者を攻撃する人は、実は自分がホモの世界にいることに気付いてしまったのではないかと思います。

それは、どういうことでしょうか?

バタ子:「憧れの先輩について行きます」みたいな不良の先輩後輩の関係って、ホモそのものじゃないですか。ホモな関係性にいることに自分自身が気づいてしまって、それを認めたくないから攻撃的になってしまうこともあるのではないかと思います。なので、そういう世界に置かれているひとについてはなんとも思いません。ただし、まったく関係のないところからやってきて、攻撃してくる杉田水脈とかは別ですが。

不良の世界で上下関係を学んで、ゲイを必要以上に攻撃してくるひとたちもある意味、当事者だということですね。また、バタ子さんは『 STANDARD 』の曲中で、〈持病はエイズと慢性イボ痔〉と、ハードなカミングアウトをされていますが、そこまで表現しようと思った理由は何かありますか?

バタ子:エイズって、ゲイのなかでもダメな病気のような扱いをされていて、言えない人も多いんです。なぜ言えないかというと、生でセックスをしたとか淫らな性生活がバレてしまうかもと気にするんですが、でも病気は病気だよ、という気持ちです。僕はぶっちゃけ、昔いろいろなひととキメセックスをしていた激しい時期がありまして。でも自分の責任だし、恥ずかしいことではないと思っています。

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くんに君:エイズも性病の 1種ですよね。ただ、すぐに治るものではないという。

一般的な性病も不妊に繋がったりしますもんね。 ラップでの表現は、苦労せずにできましたか?

バタ子:はい、それは自分のことを語るだけなので。

あでぃぽい:自分のことだから表現できるというのもありますよね。ラップというのが、自分のリアルを歌うものですから。

それでは、エイズを公表することで周囲から何か反応はありましたか?

バタ子:元カレからは、あんまり言わないでと言われました。困るひともいるので、公表しすぎるとよくない側面はあります。

くんに君:でも、エイズに対する偏見も少しずつは減ってきているのではないかなと思います。きちんと付き合えば、治療していける病気だと世間に知られ始めていますよね。

バタ子:ただ、ゲイのなかで流行ったエイズの原因の多くが性行為だと思います。僕は障害者手帳を持っているのですが、日本でエイズの患者は薬が安くなったりと保障されています。でも、そういう権利は薬害エイズの訴訟で得てきたものなんです。薬害エイズの被害者の方が訴訟して、国から保障を勝ち取ってきた歴史があり、僕の場合は自分の快楽のためにセックスをしてエイズに感染したという違いがあります。そこが、ちょっとツライところですね。税金を使って生かしてもらっているけれど、元々は全然関係ないところで輸血によってエイズを患ってしまったひとたちが声を上げてきたもので。だから、エイズのことについて歌うときも少し葛藤があります。

〈自己責任〉だと負い目を感じているひとが、たくさんいるのでしょうか?

バタ子:多いですね。例えばアメリカだと〈アクトアップ〉の活動とか、ゲイでも関係なく当事者が声を上げることが普通なので、日本との違いを感じますね。だから、日本のLGBTQ業界って結構、当事者ではないひとたちが頑張ってくれている側面があると思うんです。〈プライドパレード〉にしても、HIV啓発の団体にしても、すごくありがたいことですが。なので、日本語ラップにして声を上げるということは、当事者としては葛藤もありつつ、やっていこうと。

くんに君:他の病気と同じで、バタ子さんが負い目を感じる必要はないと思いますよ。僕はホモフォビアと闘うというような意識はありませんでしたけど、メンバーにはそういう意識があるんだなって、今日はじめて知りましたね。

バタ子:パンティーもラップも結構、繋がっていて。パンティーを被って自分を解放する行為と、ホモフォビアとか病気とか、全部ひっくるめてやっちゃえって。それは全部繋がっていると思って、活動しています。

〈パンティーの前には国境は無い〉と STANDARD 』のなかでのリ リックに見られるように、パンティーを被り己を解放することが、性の解放にもつながるのでしょうか。

くんに君:同性愛って男/女というジェンダー観があって成り立っているから、一度その壁を取り外すと、新しい世界にいけるんじゃないかなと。ただ、我々はもう十分にパンティーを被ってきたので、そろそろパンティーから卒業しなければいけない時期かと思います。〈VRオナニーズ〉とかにレベルアップして、性の民主化、平等化といった新たな世界を目指していこうかなと考えています。

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