ヴィーガンから生まれた多様性。激ウマ・ヴィーガン料理〈SUNPEDAL〉

ヴィーガンから生まれた多様性。 激ウマ・ヴィーガン料理〈SUNPEDAL〉

2019年12月26日。SUNPEDALの取材の際、はじめてYOKOさんがつくったヴィーガン料理を口にした。あれから1ヶ月。正直いうと中毒症状が出ている。しかし、ケータリングを頼む仕事の機会をつくらない限り食べられないのがもどかしい。

植物性の食品のみで生活するヴィーガン。動物愛護の観点から革製品なども身につけない、環境問題への意識、日本で多いとされる美容の観点、宗教上の理由など、そのライフスタイルを選択する動機は様々だ。

ここで紹介する〈SUNPEDAL〉のオーナーYOKOさんは、そのどれとも異なる動機でヴィーガンを選択し、ヴィーガン料理をつくる。SUNPEDALの調理場には、ロンドンへの留学時に購入したという〈Coca-Cola〉の文字が入ったヴィンテージミラーが飾られていた。「今は絶対に飲むことはないんですけどね」と微笑む。

肉、魚、卵、乳製品、さらには、できあいの調味料や化学調味料は一切使わず、甘味料も果物からとった甘みだけしか使用しないヴィーガン料理を提供するYOKOさんに、自身のクリエイティブ、ヴィーガンというライフスタイルの選択、そして、そこから生まれた多様性に基づいた考え方について聞いた。

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まず、めちゃくちゃ美味かったです。職業柄会食も多いし、食いしん坊なので、美味しいとされるお店も数多くいってる方ですが、ちょっとビビりました(笑)。

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ありがとうございます。私はお肉もお魚も卵もバターもメイン料理になるようなものがない限られた材料で料理をつくるのが何より楽しくて。しかも、そうやって言ってもらえると、震えあがるくらい感動するんです(笑)。

また、僕は外食でも必ず大盛りにするし、人より食べる方だと思うんですが、マジでお腹いっぱいです。もっと食べたいですが、もう入りません(笑)。

ヴィーガン料理でも満足感を得られるようにボリュームも意識しています。でも、体は軽くないですか?お肉お魚がない分、消化が早いので、食べたあとでも、体は軽くて動きやすいと思います。また、大豆を加工した大豆ミートの唐揚げのような〈もどき料理〉とサラダっていうイメージがあるようですが、私が伝えたい料理は、また別で。初めて食べる初めての味を届けることなんです。

無国籍料理というのはわかりますが、複雑すぎて、なんと表現していいか…。

めずらしい野菜を使ったり、色んな国のスパイスやハーブと、日本の調味料を合わせてつくるフュージョンなヴィーガン料理が、お料理のコンセプトです。例えば、今回お持ちした、カレーを詰めたお稲荷さんもそうですが、中東でよく使われている調味料と、日本の醤油とかお味噌を組み合わせてつくるひとって、多分いないんじゃないかと思います。しかも、無限大に味が広がっていくので面白いんです。

この〈レンズ豆とダル豆カリー稲荷寿司フムスのせ〉は、中東料理のフムス、カレー粉と日本のお稲荷さん、それにあまり食べたことがないレンズ豆とダル豆のミックス。メニューを見てもなかなか味が想像できないので、このレシピが浮かぶのが不思議でなりません。

ロンドンに留学していたときに、イランとスペインのハーフの女性の家に滞在していたのですが、その方がもともと料理人をされていて、イランや中東とスペイン、さらにイギリスの要素も入った料理をつくってくれてました。また、いろいろな国を旅をして、いく先々で食卓を囲む機会があり、その国の調理法を教えてもらっていたんです。そういう自分の経験をもとに、あとは感覚で味をつくりあげていきます。

なるほど。ケータリングのメニューは、毎回異なるそうですが、実際にメニューやレシピをどのように考えていくのですか?

配達が終わって移動しているとき、駅まで歩いているとき、自転車に乗ってるときは、この食材とこの食材を組み合わせようとか、頭の中で常に試作をしていて。ただ、レシピを構築することで頭がいっぱいで、それ以外のことについて全然記憶できなくて(笑)。実際に料理をつくるときには、食べるひとのこと、例えば辛い料理が好きだ、とか、この色が好きって言ってたな、とかを思い出してつくると、そこからまた異なるものが広がるんです。

色の話が出ましたが、YOKOさんの料理は、色彩も大きな特徴ですよね。紫とかイエローとかピンクとか、蛍光色とか、ビビッドで美しいですが、同時にケミカルにも感じます。野菜や豆の色をそのままというより、もう少しファンタジーというか、創造的な視点から生まれてますよね。

ヴィーガン料理って、どうしても食べたことないひとからしたら、「どうせサラダと豆と米でしょ」みたいなマイナスなイメージしかなくて。それをどう払拭するかって考えたときに、「なんだこれ」って思ってもらえるビビッドな色にしようって思ったんです。私の目的としては、とにかくヴィーガン料理に興味を持ってもらうことなので。ただ、海藻だったり、お野菜や果物から抽出した、天然100%の色素を使っているので、一見体に悪そうにも見えるかもしれませんが、体に良いもので色を付けています。色彩は、旅行したときに日本にはない組み合わせとか、空や海の色とか、無意識のうちに料理の参考にしてると思います。

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ちなみに、難しかったオーダーはありましたか?

ケーキのオーダーを受たときに、どんなものが好きですかって聞いたら「テクノをイメージしたケーキをつくってください」って言われたことがあって。そのときは、毎日テクノを聞いて、悶々と考えてましたね。

どのような道筋をたててケーキをつくったんですか?

テクノは真っ暗で目をつぶって、何も考えずに聴くくらいのほうが好きなので、まず明るい色というよりは、暗い色にしようと。グレーとかブルーとか寒色系で、電子音というかシンセサイザーから感じるドット感をイメージして、トッピングのフルーツを、グラデーションに見えるようにつくりました。そうやって割とハードルが高いリクエストを頂いたときは、燃えますね。

面白いですね。ヴィーガン料理かどうかを抜きにして単純に美味しいですが、そもそもヴィーガンになったのは?

大学生のときに気付いたら2週間くらいお肉を食べない時期がありました。それから、オンオフでベジタリアン生活をしていたんです。ただ、前職のヴィーガンレストランに就職したときに、お客さんから「ヴィーガンになって変わりました?」とか、聞かれるたびに、ヴィーガンじゃないことで、自分の言葉で返せないことがもどかしくて。食べてもない、誰かがおいしいと言った料理をおいしいって届けるのは、サービスとしておかしいと思うし。やっぱり、自分が感じたままお客さんに伝えたかったので、ヴィーガン生活をするようになりました。

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ヴィーガンとして過ごして変わったことがあれば、教えてください。

お客さんが来て「あ、ヴィーガンなの?じゃあもう友達じゃん」ってヴィーガン同士って結束がすごく強いんです。今までになかったひととの繋がり方があって友達が数えきれないくらい増えたんです。食ってやっぱり、人にとってすごく大切なものだと思っていて、それをガラリと変えることで、社会に対する考え方だったり、食の選び方だったり、人との付き合い方だったり、見るものだったりが、ある意味、世界が反転するような感覚があって、すごく楽しかったんです。自分がヴィーガンでいることが誇りで、ヴィーガン熱がマックスで、その良さを他人に伝えたくってしょうがないっていう時期がありました。

なるほど。

ただ、そのときは居心地がいいんですけど。そこからぽっと外れたときに、自分がどれだけニッチなジャンルにいて、アウトサイダー的な場所にいるかってことに気づかされたんです。ぽっと宮城県の地元に帰ったりすると、東京と比べてヴィーガンのお店も少ないし、ヴィーガンの知り合いもいないので、いわゆるアウェーって言葉がぴったりで。それに、姉から「ヴィーガンやっている人って、どうして自分が正しいって顔するの?」って言われたんです。確かに正しいかって言われると、正しくも正しくなくもないなって。あと、例えば「パンケーキ食べに行こう!」って誘われても、ヴィーガンだったらいけないですよね。そうすると、ソーシャライズがドンドンしにくくなっていったり、ヴィーガンのことをあまり知らないひとから、宗教まがいとか、引かれることもあったりするんです。周りから白い目で見られると、余計にヴィーガン同士でしかつるまなくって、そういうシーンを見てきたときに、このままでは、おかしいぞって。

確かに、ヴィーガンが生活のすべてではないですよね。それに思想や意見が違って当たり前だし、それを認めあえないと苦しいですよね。

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あるとき、2人がベジタリアンで4人が普通に何でも食べるオーストラリアの友達が旅行できたときに、「僕たち違う店にいくから、君たちもどこかで食べて」とか、どこで食べるって会話をさらっとしていて。個人のチョイスでそういう決断ができる姿を見たときに、こういうふうになれたら、もっと生きやすいのにって感じたんです。ヴィーガンであることで、そのコミュニティにしかいられないと、狭い世界でずっと生きていくことになって社会から逸脱しちゃうから、私はもうちょっと開けた形でいたいなと思って。それからヴィーガンじゃない友達とも会うようになったし、一緒にご飯にいっても、枝豆しか食べられなくても、私はそれでもいいと思えるようになったんです。ヴィーガンコミュニティをもっと俯瞰的に見たいって思うようになりました。

そんな多様性を受け入れられる考え方が現在の活動につながっているのですね。

今では「明日からあなたもヴィーガンになりましょう」とか、全く思わなくなりましたし、私の料理を食べたひとが、そのあとに焼肉を食べようが、魚の照り焼きとごはんを食べようが、全然いいんですよ。ただ、ヴィーガンの料理を食べてもらうことで、中華だったりイタリアンだったり日本食だったりと同じように、ジャンルのひとつとしてカテゴライズしてもらい、世の中に、こういう菜食主義のひとがいる、でも、それはそのひとの個性であって、宗教でも変なコミュニティでもないんだよってことを伝えたいんです。ヴィーガンって、たまに食べるのいいよねってくらいに、ヴィーガンを知ってもらうきっかけになれたらと思います。

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とてもニュートラルで面白い考え方ですね。ちなみに幼少期から、食に対してのこだわりは強かったのですか?

父親が漁業系の会社をやっていて、食にこだわりのあるひとで、海外のレストランで食べて感動した料理を家で再現してくれたりとか。料理がすごく上手でしたし。贅沢をさせてるんじゃなくて、ちゃんとおいしいものがわかる子に育ってほしいから、回らない寿司屋にしか連れていかないってスタンスでした。

小さい頃に好きだった食べ物って、何だったんですか?

ラーメン(笑)。好きでしたね。

食べさせてもらえたんですか?

ラーメンのあるお蕎麦屋さんにいって、私だけラーメンを頼んでました。

いわゆる中華そばですね。

そうです。あとは、食が細くて給食もいつも食べきれなくて、居残りグループに残らされて。牛乳がすごい苦手だったので、トイレで我慢できなくて吐いちゃうんです。それをみた他の子も吐いちゃって。ゲログループを作られてしまって。

今の時代では信じられないですが、当時はよく聞く話でしたね。

お菓子とか中華そばとか、いわゆる、親が食べさせたいものは、ほとんど食べなかったです。

他にも嫌いな食べ物はあったんですか?

生魚も食べられなかったです。私は覚えてないんですけど、母が言うには、マグロの刺身が好きで大量に食べたら喉につっかえて、そこから一切食べなくなったみたいです。だからヴィーガン関係なく、生魚は得意じゃなかったです。

小さい頃は、食へのコンプレックスがあったんですね。

母親が自然食スーパーで買い物するようなひとだったので、それこそマクドナルドとかは食べさせてもらえなかったんです。幼稚園のお弁当に、冷凍のエビグラタンを入れて欲しくて、泣き叫んで喧嘩したことがあります。だから、高校生になってアルバイトをして、自分でお金を持つようになったら1回爆発しましたね、ジャンクが(笑)。

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どういうことですか?

家ではそういうものを食べさせてもらえないから、学校が終わったらマックにいってポテトやバーガーを食べたりしてましたね。

マックを食べたいっていう欲求はあったんですね。

あったと思います。ただ、しばらくすると、母がマクロビオティックにはまり出して、いわゆる玄米菜食、玄米とおかずっていう料理にはまり出して。当初嫌だったんですけど、食べ進めていくうちにだんだん好きになっていき、そこから、そういうごはんがおいしいって思えるようになっていきましたね。

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なるほど。食に関心が高い家庭で育ち、ヴィーガンにも興味を持つようになるのですね。ちなみに、ヴィーガンの生活をしていると、きれいになるものですか?

どうなんでしょう。私もレストランに勤めていて、ヴィーガン歴20年くらいのひととか、完全なヴィーガンファミリーを見てきましたけど、きれいかはわからないですが、若く見えるひとが多いような印象があります。 ただ、顔が土色でこの人大丈夫かなって人もいます。たぶん、これしか食べちゃいけないって頭で食べちゃってるんだろうなって。

楽しむってことが大事なんですね。

もちろん、ヴィーガンだと必然的に野菜が多くなるので、普通のひとより食物繊維を多く摂るし、そういう意味ではビタミンとか、肌に良い影響もあるかもしれないです。だけど、バランス良く摂らないと、たんぱく質とかすごく不足しちゃて、ひとにもよるんですけど、身体が冷えちゃうし、身体にあわないひともいると思います。

YOKOさんにとって美しいってことはどういうことですか?

美しいってこと…。食、あるいはヴィーガンってことを置いといたとしても、自分らしく生きてるひとって、すごく美しく見えると思うんです。自分に誇りを持ってやってることがあって、自分のポリシーがちゃんとあって仕事をしてるひと、それが真の意味での美しさだと思っています。

ご自身が作る料理は美しいものになっていると思いますか?

まだまだ自分の思っているところには達してないと思います。不完全なものを提供しているわけじゃないんですけど、自分としては、見た目も味もまだ全然納得がいってないです。

技術的なことですか?

それもあります。自分のなかで、料理人として、バックグラウンドがないことに劣等感はあって。技術だったり、基礎的なことは、母親から教わったこと以外、分からないわけで、そういうところからくる自分への自信のなさは、自分の核のなかにすごくあります。何年か経って、お客様が少しずつ増えてきても、そこの不安は取り除けていないです。

先ほどおっしゃってた、自分の信念があって、それをもとに生きているひとが美しい、という意味ではいかがですか?自分がつくるものって、結局自分のなかからしか出てこない、自分の写し鏡だともいえますよね。

目標を追いかけることが、自分の性格上あっていると思うんですが、それがなくなっちゃうと、飽きやすくてやめちゃうんです。だから今までのバックグラウンドも、オーガニックコスメの仕事がしたい、海外に行こう、でも食の仕事も興味がある、チーズに興味を持った、でもチーズよりもっと深い食のところを見たいから、究極のヴィーガンをやってみようって、一見バラバラに思うかもしれませんが、私のなかでは全部繋がっているんです。
そのときそのときで、私の体にあってるもの、自分が欲しているものを追い求めていて。もしかしたら何年後かにヴィーガン料理ではないものを欲するかもしれないし、そのときは、その心の声のまま、変えればいいと思っているし。ただ、そうやって、自分自身の心の声を聞きながら、ずっと私のなかで追求してやってるから、きっとこの先、今よりも自信が持てるようになると思うし、きっと私自身も私がつくるものも美しくなれるんじゃないかなって思います。

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