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12年間イーストロンドンのリアルを撮影してきた男

週末には街が多くの若者で溢れ返り、ときには人が多すぎて通りを歩くのに苦労することもあるくらい、ロンドンの中心地に負けず劣らずの盛り上がりを見せるイーストロンドン。そんなイーストロンドンを12年間にわたり撮影し続けて来た写真家ドギー・ウォーレスが、自身の作品をまとめた写真集『Shoreditch Wild Life』を出版した。

by Joel Golby
24 December 2014, 5:35pm

私たちの知らない「ロンドン」

結局イーストロンドンが一番面白い。これが実際にロンドンで暮らしてみた個人的な感想だ。元々治安が良い地域ではないので、一部の観光ガイドには未だに「夜に出歩くのは危険」なんて書かれていることもあるし、ロンドンに住んでいても「イーストに行ったことなんてない」という人にもたまに出会う。

週末には街が多くの若者で溢れ返り、ときには人が多すぎて通りを歩くのに苦労することもあるくらい、ロンドンの中心地に負けず劣らずの盛り上がりを見せるイーストロンドン。そんな盛り上がりを見て「イーストは商業的なった」とか「これからはサウスエンドの方が面白くなってくる」とか、色んな意見を聞くが、それは見てるポイントがずれてるだけだ。

結局のところ、ロンドンはイーストが一番面白い。個人的な意見としては、イーストの本当の姿を見られるのは平日だと思う。特に朝だ。平日の朝にダルストンからホクストン、さらにショアディッチ脚注①)を抜けてブリックレーンに向かって歩いていると、週末の喧噪が思い出せないほど静かな街の中で、マーケットでランチの仕込みをしている人、ベーグルをほおばりながら駅に向かう人、朝8時から営業しているラフトレード・イースト脚注②)でゆったりコーヒーを飲んでいる人を見かける。

週末の若々しい喧騒と、ここで暮らす人たちが作るのんびりとした日常、この二面性こそがイーストロンドンの魅力だ。この両面を体験しなければ、イーストロンドンを語ることは出来ない。

そんなイーストロンドンを12年間にわたり撮影し続けて来た写真家ドギー・ウォーレスが、自身の作品をまとめた写真集『Shoreditch Wild Life』を出版した。ショアディッチに生きる様々な世代、民族、職業の人たちの姿がなんとも面白い。生きていることのリアリティさが滲み出ている。ここ10年強のイーストロンドンの隆盛と、そして影を堪能出来るはずだ。

そんなイーストロンドンの生き証人ドギー・ウォーレスにインタビューを敢行。イーストロンドンの変化から、ドギー流のリアリティのある写真の撮り方の秘訣までを語ってもらった。『Shoreditch Wild Life』の写真とともに、イーストロンドンのリアルをお楽しみ頂きたい。

写真家ドギー・ウォーレスにインタビュー

VICE:ショアディッチの写真はいつから撮っているの?

ドギー・ウォーレス:12年くらい前かな。お店の場所が変わったり色々あったけど、一番の違いはカメラがデジタルになったことだね。昔はフィルムで撮っていたけど、もうフィルムには戻らないかな。なくしちゃったし。

ー12年となると、この街の色んな変化を見てきたんだね?

僕にとっては良い方に向かって行った。12年前はこの辺りを「ショアディッチ」なんて呼ぶことはなくて「ホクストン・ブリックレーン」とか「オールドストリート・ブリックレーン」って呼んでいた。ブリックレーンにもthe Vibe Bar脚注③)とSandra’s bar脚注④)くらいしかなかったし、Shoreditch House(脚注⑤)と他のエリアの間には、本当に何もなかったよ。オーバーグラウンド(脚注⑥)の電車が通ったおかげで、昔はカムデン(脚注⑦)で遊んでいたような連中がこぞって週末に電車で遊びに来るようになったんだ。ショアディッチに刺激を求めてね。

ー最近ショアディッチは「ハイソな美容院や高すぎるお洒落カフェが集まっている場所だ」なんて非難されることも多いけど、それについてどう思う?

人間ってのは常に何かをからかっていたい生き物なのさ。とはいえ非難は的を得ていると思う。色んなバーにたくさんの絵が飾ってあったりするけれど、ちっとも良く見えてこない。ミーハーな感じがしてね。でも僕の出版した本には週末だけ遊びにくるようなミーハーな若者だけでなくて、実際にそこで暮らしている人もたくさん出てくる。日曜の朝にやってるブリックレーンマーケットのスタッフとかね。クラバーとか一見今風の奴らだけにフォーカスしたくなかったのさ。いい感じにミックスされているはずだよ。数十年後に大英図書館でこの本を観た人が「これがショアディッチだったのか!」なんて叫んでくれたら最高だね。

撮影許可なし?ドギー流の撮影手法

ーどうやって、街中の人に気付かれないように撮っているの?

2つのフラッシュを使ってハイスピード撮影をしているんだよ。晴れた日だと気付かれることはないね。ちょっと暗がりだと厳しいけど、本当に晴れた日なんかはハイスピードでなくても、真正面から目に向けて撮らない限りは大丈夫。素早く動き回らないといけないけどね。要するにチャレンジしてみるってことだよ。ほとんどの場合何とかなるから、本能に従って撮るだけさ。

ーストリートやバスの中で写真を撮られるのをプライバシーの侵害だと思う人もいると思うんだけど、撮るなって言われたり、写真を消すように言われたりしたことはある?

消すように言われることもあるけれど、まあ消さないね。ストリートマジシャンみたいなもので、写真を撮ったらすぐにそこを離れればいいんだよ。以前ビクトリアパーク脚注⑧)で犬を連れている女の子の写真を撮ったときに「撮らないで」って言われたんだけど、こう言ってやったよ。「公園の写真を撮ってたんだけど何か?」ってね。

まあ、ちょっと行き過ぎなところもあるのは分かってるけど、そういうことなんだよ。もし君が小説家だったら、実際の人に基づいたキャラクターを登場させるでしょ? それと同じで実際に何かを見て、それをアートに変えていってるだけのこと。

写真を撮ることにケチをつけたらキリがない。ちょっと前にフランスでニュースになっていたけど、ゲッティが発表したような細かい決まりを無視して写真を撮ったり使ったりしちゃいけないんだってね。例えば道を撮影したくても、誰か一人でも通りにいたら写真を撮っちゃいけないってことだよね。もしプロがトラファルガー広場脚注⑨)で写真を撮ろうと思ったら、人をストップさせて撮影しないといけないってこと?ショッピングセンターで撮るときも?そんな写真がいいものだとは全く思わないね。

ー『Shoreditch Wild Life』には口が開いていたり、かなりリアルな写真が多いと思うんだけど、ああいった写真を撮る技術はどうやって身につけたの?

確かに人が口を開けた瞬間をたくさん撮ってるかもね。あれは2回のフラッシュに対する反応なんだ。誰かと話していたり、叫んでいたり、自分を表現していたり。2回目のフラッシュはそんな瞬間を捉えてくれるんだよね。


ーでは最後に。スタジオでポーズを決めているモデルより、普通に暮らしている人を撮る方が楽しい?

僕はこれまでにきちんとポーズを決めて撮ったことなんて一度もない。だってそんなの退屈すぎるでしょ?

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ドギー・ウォーレスの他の作品はこちら

Text by Tsuda Shotaro

脚注①ショアディッチ:ロンドン東部にある街ショアディッチ。ライブハウス、クラブ、パブ、アパレルショップなどが集まる若者の街。ショアディッチを起点に徒歩10分圏内にホクストン(北)、ブリックレーン(南東)、オールドストリート(西)が位置する。ダルストン(北)までは徒歩30分

脚注②ラフトレード・イースト:ブリックレーンの真ん中にある老舗レコードショップ

脚注③the Vibe Bar:ブリックレーンにあるバー。昼間はライブ、夜にはクラブイベントが行われる

脚注④Sandra's bar:ブリックレーンの西に位置するコマーシャルストリートにあるパブ。現在の店名はThe Golden Heart。

脚注⑤Shoreditch House:ショアディッチ駅前にあるウェアハウス

脚注⑥オーバーグラウンド:ロンドン地下鉄(アンダーグラウンド)に対し、主に地上を走ることから命名された鉄道

脚注⑦カムデン:ロンドン北部にある街。音楽、ファッションの街として有名

脚注⑧ビクトリアパーク:イーストロンドンにあるロンドンで最も歴史のある公園。フェスやコンサートが行われることも多い

脚注⑨トラファルガー広場:ロンドンの中心地ウェストミンスターにある広場