Food

イスラエル人もこっそりと食べに行くパレスチナのアイスクリーム屋

「とろけたチーズのようにアイスがのびるんです。二度とあのアイスが食べられないと思うと、本当に悲しくなります」

by Justin Fornal
31 July 2019, 4:33am

Photos by Christopher Beauchamp 

テルアビブへ向かう飛行機で、隣に座っていた女性が、私に礼儀正しく話しかけてきた。

「イスラエルのどこに宿泊するんですか?」

「ヨルダン川西岸地区の予定です。ラマッラに泊まります」

ラマッラはパレスチナ自治政府の首都機能を担う都市であり、イスラエル人は立ち入り禁止とされている。そのため、ラマッラという答えが、女性の気に障ってしまうのではないかと私は案じた。しかし私の懸念に反し、彼女の瞳は輝いた。

「まあ、いいですね! うらやましい」と女性はいう。「あの街に滞在するなら、〈ルカブ・アイスクリーム〉には絶対寄ってください。私も幼い頃よく通ってたんです。アイスがとろけたチーズのようにのびるんです。二度とあのアイスが食べられないと思うと、本当に悲しいです」

1995年9月に調印された暫定自治拡大合意(オスロ合意II)に基づき、西岸地区とガザ地区は、ABCの3つのエリアに正式に区分された。この3エリアはイスラエル政府とパレスチナ自治政府双方が承認し、区分を遵守して統治することになっている。ラマッラなど、エリアAに置かれた街では、行政や治安をパレスチナ自治政府が担う。イスラエル軍は、強制捜査やテロ容疑者の逮捕のために頻繁に当エリア内に侵入しているものの、イスラエルの民間人がエリア内に立ち入るのは違法だ。エリアBは、イスラエルとパレスチナによって合同統治され、〈厳密には〉イスラエル人の入植地は含まれないとされている。エリアCは、西岸地区でも完全にイスラエルが実権を握っている場所で、前哨基地も入植地も含まれる。

ラマッラなどエリアAへ向かう道では、当局による標識がこう警告している。〈イスラエル国民の立ち入り禁止。命の危険があり、イスラエル国法律に違反する〉

その警告は、ただアイスクリームを食べにいきたい民間人にも適用される。

ラマッラは、エルサレムの約9キロ北に位置し、パレスチナでもっともリベラルな都市として知られている。街の非公式な中心となっているアル・マナラ広場(Al-Manara Square)は、中央に5体のライオンの石像が置かれている環状交差点だ。アル・マナラ広場は街歩きで現在地を把握するためのランドマークであるだけでなく、事実上、イスラエル政府への抗議運動の中心地でもある。広場から延びる繁華街は、夜になると、レストラン、ナイトクラブ、ケバブ屋台、バーへ向かう地元住民や観光客で溢れかえる。広場から東へ3ブロックほど離れると、ルカブ・ストリートという名前の通りがある。そこに立つのが、ラマッラでもっとも愛されている甘味処、〈ルカブ・アイスクリーム・パーラー(Rukab’s Ice Cream Parlor)〉だ。

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ルカブのアイスクリームはのび~~~~る

夜遅くまで営業しているこのアイス屋は、1941年にオープンし、今や「手作り〈ドンドゥルマ〉といえばここ」といわれるほど、名声を確立している。ドンドゥルマとはトルコ風アイスのことで、原料にマスティックを含む。マスティックとは、マスティックの木から採取された樹脂で、米国では〈アラビア・ガム〉と呼ばれている。原産地はギリシャのヒオス島。手作業で収穫され、固形状で海上輸送されてイスラエルに届くマスティックが、ルカブ・アイスクリームの独特のねばり気と味を生み出している。

入店するとすぐに、カラフルなアイスをタフィーのように練る売り子の男性を目にする。バナナ、ストロベリー、ピスタチオ以外にも、地元住民に愛されるフレーバーは数多い。すべてのフレーバーにマスティックが使われているが、私が夢中になったのは、この店オリジナル・レシピの〈ルカブ・アラビア・ガム〉味だ。ミルク、砂糖、マスティックを主原料としており、他に多くは使われていない。ひとくち含むと、まず冷たさとなめらかさ、そのあとにクリアでウッディな香りを堪能できる。最高級のシダーとマツが使用されているためだ。コーンに乗ったドンドゥルマを口いっぱいにほおばる瞬間は、まるでダンスのよう。アイスを口に含み、コーンからのびるアイスを歯ですばやく噛み切る。

現オーナーのひとり、ジミー・ルカブ(Jimmy Rukab)は、正しいアイスの食べかたを教えてくれると同時に、ルカブ一族の物語を大仰な口調で披露してくれた。「私の祖父は1941年にこの店をオープンしたが、それよりも前から、屋台でアイスクリームを売っていたんだ。彼の父親は、ヤッファのオレンジ農場で働いていたが、急に亡くなってしまった。当時祖父はたったの15歳だったが、家族全員で、生きるために奮闘しなければならなかった。祖父の母、つまり私の曾祖母が、マスティックを原料とした昔ながらのトルコアイスのレシピを知っていた。毎日、曾祖母が桶1杯ぶんのアイスクリームをつくり、祖父が街中で売り歩いていた。最初は生活のためだった商売が、立派なビジネスになった」

通りの角にたたずむルカブ・アイスクリームの店先には、ピンクのネオンサインが光る。そのさまは、ノーマン・ロックウェル(Norman Rockwell)が描いた街を思わせる。店の外観をよく見ると、2017年の年末、通りで起きた暴動に巻き込まれたさいの損傷が残っていた。ジミーは、ゴム弾や実弾により店の外壁に残された痕を、30ヶ所指摘した。

「ある夜、イスラエル軍がラマッラに侵入し、学校の化学の授業で使う化学用品を取り扱う本屋から、化学薬品を没収した。パレスチナの住民たちが軍に石を投げつけると、軍はゴム弾と数発の実弾を撃ち、弾は4人に当たった。出勤してみたら、歩道に大きな血だまりがいくつか残っていた。でも次の日には、まるで何事もなかったかのようだった。ここでは、そうやって日々が流れていく」

ジミーは、ラマッラにあるクエーカー教の高校に通い、その後、ビジネスを学ぶためマサチューセッツ・ボストン大学(University of Massachusetts Boston)に進学した。彼は米国市民権を取得したが、ラマッラに戻り、家族経営のアイス屋を発展させる道を選んだ。そして彼が呼ぶところの「パレスチナ人起業家の楽観的な新世代」のいち員となる。しかし、政情の変化のため、街と地域は常に不安定な状態に置かれている。ジミーは、店の売り上げが、街の緊張レベルを測定するリトマス試験紙となっているという。

「ドナルド・トランプ(Donald Trump)が米国大使館のエルサレム移転を決めたさい、この街の緊張は高まった。しかも、よりによってパレスチナ人にとって重要な意味をもつ〈ナクバの日〉に移転を計画していたから、さらに良くなかった。このニュースが飛びこんできたとき、抗議のために火を掲げて街に出た運動家たちとイスラエル軍とのあいだに大規模な衝突が起こった。多くのパレスチナ住民が、本格的な暴動に発展するんじゃないかと恐れていた。暴動が起こると、店の売り上げは大幅に下がる。みんな、日々倹約に努めるようになるからね。戦争が始まる可能性があり不安なときは、まず、不必要なものへの支出から削るようになる」

「アイスクリームを食べるのは、必要だからじゃない。食べたいからだ。今、ウチの店は繁盛してる。客足が遠のき、みんながアイスを買わなくなったら、それは何か良くないことが起きる前兆だ」

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マスティックの樹脂

ルカブ・アイスクリームの角を曲がると、人気のケバブ屋台がある。遅くまで営業しており、無料の自家製ピクルスを無制限でトッピングできる。ピクルスの種類はおよそ15種類だ。通行人はみんな楽しげで、フレンドリーに挨拶してくれる。パレスチナ人たちはバカじゃないので、米国人の大半がトランプ大統領や彼の政策に反対していることはわかってる、とジミーが私に教えてくれた。私はジミーに、ルカブ・アイスクリームに来るために、ラマッラに不法侵入するイスラエル人もいるというのは本当か、と尋ねた。

「たまに、イスラエル人グループがカナダのパスポートを使ってラマッラにこっそり入り込み、ウチのアイスクリームを食べにくる。彼らがいくらパレスチナ人のふりをしようとしても、私は言葉のアクセントでイスラエル人だとわかる。実は、私の姉妹のトフィーのレシピをベースにして、キャラメルバナナ味を考案したばかりなんだ。みんな、新フレーバーの噂を聞きつけて、盛り上がってるよ」

店に戻ると、食べてけ、とジミーがキャラメルバナナ味のアイスを手渡してくれた。その夜、閉店時間になっても、店の周りにはアイスをほおばりながら、政治を語る男性数人がいた。ジミーは、パレスチナの不透明な先行きを案じ、ため息をつく。

「店で働いていると、近所の人たちが根も葉もない噂を話しあっているのを耳にする。次に何が起こるか私たちもわからないから、変な空気だ。イスラエルとパレスチナの首脳は友人同士だから、和平協定に向けて計画推進中だ、という噂もある。住民たちが変化に適応できるように、すごくゆっくり進めているんだ、とね。イスラエルの首都は西エルサレム、パレスチナの主都は東エルサレムになるかもしれない」

「どんな計画であれ、今度は上手くいくことを祈るよ」

This article originally appeared on VICE US.