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方向感覚とはいったい何か?

わたしたちの方向感覚は、脳、感覚、遺伝子、環境が複雑に絡み合って生じている。

by جيسيكا دوري
29 August 2019, 3:19am

Image Source/Steve Brezant

知らない場所からの帰り道、スマホの充電が切れた。そんなとき、自分の方向音痴レベルが露呈する。GPSがないと帰宅に2倍の時間がかかったひとも、逆に半分の時間で済んだひともいるかもしれない。時間をかけて(あるいはかけずに)無事に帰宅したあかつきには、自動車用スマホ充電器を購入したのではないだろうか。

しかし、どうして帰宅にこんなに時間がかかったのか、どうしてこんなにストレスだったのか、不思議に思ったことはないだろうか? 幸運な読者なら、どうやって自分は、カーナビアプリ〈Waze〉を使う半分の時間で帰宅できる近道を見つけられたのだろう、と疑問に思ったことは? その答えはこうだ。わたしたちの方向感覚、すなわち〈経路探索〉能力は、脳、感覚、遺伝子、環境が複雑に絡み合って生じているのだ。

「方向感覚は、正しくは〈感覚〉ではありません。むしろ複数の感覚が関与しています」と指摘するのは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California Santa Barbara)の〈Hegarty Spatial Thinking Lab〉で主任調査員を務めるメアリー・ヘガティ(Mary Hegarty)教授。目的地にたどり着くのに、視覚に多くを拠っている人は多いが、同時に私たちは、この文化で主要とされる五感に含まれていない感覚も使用している。例えば空間における自らの位置を把握する固有受容覚。そして、空間的定位とバランスを感じる前庭覚だ。

またヘガティ教授は、認知的因子もあるという。スマホの電源が切れたが何もできない、という状況で感じる不安のレベルが、方向感覚に影響する可能性がある。そして、自信や自己認識も関与し得る。例えば「紙袋から出る道すら見つけられないんじゃないの」などと、本気かふざけてかはさておき、親やパートナーにいわれてきたか否か、というようなことだ。また、神経学的、遺伝的、その他環境的因子も考慮すべきだ。

「個々人が、この複雑なタスクをどれほど正確に遂行するか、どのような神経機構、知覚プロセス、認知プロセスがそこに潜在し、タスクの遂行をサポートするか、失敗を緩和するためにそれらのプロセスをどのように予測、援助できるか、そういったことを明らかにしていく必要があります」と〈Center for Applied Brain and Cognitive Sciences〉の認知研究主幹、タッド・ブロイネ(Tad Brunye)博士は説明する。

経路探索能力に影響する神経学的要素の研究は、これまでに説得力のある結果を導き出しており、そのなかでももっとも意義深いのは、2014年にノーベル生理学・医学賞を受賞したジョン・オキーフ(John O’Keefe)博士、エドヴァルト・モーザー(Edvard Moser)博士、マイブリット・モーザー(May-Britt Moser)博士による〈場所細胞(place cell)〉の発見だ。神経科学研究によると、場所細胞は海馬にある。海馬は、記憶を司る脳部位であり、方向感覚にかなり密接に関与しているとされる。

ナビゲーションに関係する神経細胞としては、格子細胞(grid cell)、ボーダー細胞(border cell)、場所細胞、頭方位細胞(head direction cell)の4種類が知られている。ブロイネ博士によると、最近の研究で、ラットの方向感覚はこれら様々な細胞が相互に作用して生じることがわかっているという。しかし、まだ「その結果を人間の方向感覚にどう外挿できるかについては不明」だそうだ。

また、経路探索能力には男女差もあるようだ。2015年、女性よりも男性のほうが優れた方向感覚をもっている、とする研究が広く報道された。当研究では、バーチャル環境の3D迷路のなかを移動してもらう実験を行ない、その結果、男性のほうがより多くの近道を歩き、東西南北という基本方位を使用していた。そして最終的に、女性被験者よりも秀でた成績を上げた。

しかし、パデュー大学フォートウェイン校(Purdue University Fort Wayne)心理学教授で研究者のキャロル・ロートン(Carol Lawton)が主張するところによると、研究で発見された男女差は、生来のスキルや能力ではなく、男女のナビゲーション方式の違いに起因するもので、実験は、ナビゲーション方式の違いを際立たせるようになっているそうだ。

ロートン教授が著した、空間認識力と経路探索能力における男女差の研究は、広く引用されている。教授によると、男性は基本方位と距離測定を当てにする傾向が強く、女性は、ここでどちらに曲がった、などランドマーク(目印)を頼りにする傾向が強いという。つまり、実験で使用されたバーチャル環境が、迷路などのように目印がない状況だったり、被験者にまず基本方位を頼るよう求める状況であれば、男性が優れた結果を出すのも不思議ではない。

「注目すべきは、多くの実験で、経路探索能力に男女差はないとされていること、男女差が現れるのは、現地、もしくはその近くに、ルートを記憶するためのランドマークがないときだけだということです。ランドマークがない場合、経路探索は男性優位になるとされています」

一方、女性は、ロートン教授が呼ぶところの〈空間不安〉を高いレベルで有する。〈空間不安〉とは、未知の場所へ向かう経路を探すとき、もしくは既知のふたつの点をつなぐ新しいルートを進むときに生じる不安だ、と教授。「空間不安のレべルは、自身の安全を気にかける人びとにより高い傾向にあります」。つまり、女性が多くなる。

他の不安同様、空間不安も、それを有する個人にかなりの制約を課す。「空間不安のせいで、未知の環境に飛び込む意志をくじかれる女性がいる可能性があります。それが、職業や娯楽の可能性をも阻むことになるかもしれません。野外環境で自らの安全を感じられない限り、空間不安から生じる制約は社会正義の問題として考えるべきです」とロートン教授。

ナビゲーション能力は男性のほうが優れていると言い立てるような報道は、有害となり得る。経路探索能力については、自らの認識がそのまま能力につながる可能性がある、とする証拠もあるからだ。「自分の方向感覚は良い、といえれば、自分の方向感覚は良くなります」とヘガティ教授。つまり女性は、男性のほうが優れたナビゲーション能力をもっている、とする説を鵜呑みにしないだけで、能力が変わってくるかもしれないのだ。

ブロイネ博士もヘガティ教授も、GPSなしで行動すれば経路探索能力は鍛えられる、と口をそろえる。ナビに頼りすぎてしまうのは、自信のなさや空間不安の兆候といえる。今後の研究で、経路探索行動の認知プロセスをより詳しく調べ、パフォーマンスレベルの低さにつながる心理学的要因に介入できるようになることが期待される。

いっぽう、曲がり角をよく考えずに曲がりがちな方向音痴たちにも、まだ望みはある。いまいちな方向感覚を改善することは可能だ、とブロイネ博士は断言する。しかし、自転車のように、いち度習得すれば良い、というものではないという。なじみのない土地でスマホの充電が瀕死状態でも、自信をもって正しい方向に進めるようになるためには、できるかぎり頻繁に、経路探索のスキルを磨かなくてはならない。ベストな練習方法はシンプルだ。スマホを捨てよ、町へ出よう。

This article originally appeared on VICE US.

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