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韓国に蔓延する疫病 盗撮ポルノ

公共の場を取り戻そうと闘う韓国の女性たち。
公共の場を取り戻そうと闘う韓国の女性たち。
2018年3月8日の国際女性デーに、韓国ソウルで〈#MeToo〉運動のデモに参加した女性たち。REUTERS/Kim Hong-Ji

韓国語で〈モルカ〉と呼ばれる盗撮は、社会的死に喩えられ、毎年数千もの女性たちが被害に遭っている。しかし、韓国で〈#MeToo〉運動が広まるにつれ、公共のトイレ、更衣室、自宅の寝室さえも危険地帯に変えてきた長年の問題を根絶しよう、という流れが生まれ始めている。

今や、ソウルなどの都市部にあるトイレでは、ネジの端など、小型カメラを隠せそうなあらゆる小さな隙間にトイレットペーパーが詰めこまれた光景が当たり前になっている。インターネットでは〈モルカ対策キット〉を売る女性もいる。キットには、カメラのレンズを壊せるピンク色のアイスピック、相手の同意なしに誰かを撮影したさいの罰則を記した警告ステッカー、怪しい穴を埋めるためのシリコンが揃っている。

そこまでしなくてはならないのは、韓国のインターネットで視聴できるポルノの多くが、広い意味でのモルカに分類されるからだ。そこには、トイレで放尿中の女性の盗撮映像や、彼氏にこっそり録画され、のちに〈リベンジポルノ〉として公開されたセックス動画が含まれる。

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今年6月、ソウルの恵化付近で行なわれたモルカ反対デモには、2万2000人以上の女性が参加した。彼女たちは〈私の生活はあなたのポルノじゃない〉と書かれたプラカードや警察官の肖像を掲げていた。警察は、モルカを犯罪として取り締まる法律があるにもかかわらず、多くの被害者の声を無視し続けてきたとして、これまで何度も批判されてきた。公式データによれば、2012~17年のあいだに盗撮用カメラを仕掛けたとして、加害者が逮捕されるに至ったケースはわずか2.6%だという。

「韓国の女性が現状を指摘すると、気にしすぎだ、とあしらわれてきました。自分たちが自分たちを取り巻く状況を悪化させてるんじゃないか、と」。デモの主催者は、ニュースサイト〈Korea Exposé〉に匿名メールで語った。

「私たちは、性差別を悪化させる現状を糾弾する権利があることを主張します。私たちは、生きづらさをもたらす問題を取り上げているんです」と主催者のメールには書かれていた。このデモをきっかけに、ソウル市役所は、これまで月にいち度だった女性用トイレにおけるカメラ探索を毎日実施する、と約束した。また、女性家族省が発足した〈デジタル性犯罪被害支援センター〉は、ネット上に流布された盗撮データ削除の支援を行なっている。韓国女性人権振興院のリュ・ヘジンは、今年4月の支援センター発足以来、動画削除の依頼は1万5000件にも及ぶ、とロイターのインタビューに答えている。

「手に負えない状況です」とリュは証言する。「支援チームが発足してから、被害者からの声が数多く寄せられています」

しかし、それでも問題全体のわずかいち部にすぎないとされる。国営通信社の聯合ニュースの報道によると、モルカの被害件数は2012年の2400件から2017年の6500件へと増加の一途をたどっている。しかもこの件数が含むのは、被害女性が盗撮に気づき、警察に被害届が受理されたものだけだ。

「被害届を出さない女性もいるんです」と〈Digital Sexual Crime Out〉の創設者で、モルカのさらなる厳罰化を求めるパク・スヨンは指摘する。

韓国で盗撮がここまで広がっている理由を明確に説明するのは、専門家でも難しい。しかし、韓国のように技術が進んでいる国で、正式な(そして当然合意の上の)ポルノ作品の制作が禁止されていることが理由のひとつに挙げられている。ユーザーが女性のヌード画像をアップロードし、他のユーザーがそれを評価するシステムの〈Soranet〉など、合意のないポルノイメージが閲覧できるサイトが閉鎖された結果、ポルノを探す場として、TumblrのようなSNSが一般的になった。SNSユーザーの多くはモルカを、例えば隣国日本のポルノ業界で制作されたポルノよりも〈自然な〉ポルノのかたちとして認識している。これは、盗撮ポルノを取り締まる警察にも浸透している事実だ。京畿大学校の犯罪心理学者、イ・スジョンはNPRのインタビューで、「歪な性文化が一般的になっています」と指摘した。

しかしそれと同時に、盗撮は、性差別、ダブルスタンダード、男女の賃金格差などといった問題を抱えているあらゆる先進国に見られるひとつの症状でもある。

人気K-POPグループApinkのソン・ナウンは、〈GIRLS CAN DO ANYTHING〉と書かれた携帯ケースを握っている写真をInstagramで投稿したところ、「フェミニズムを称揚している」としてバッシングを浴び、写真の削除に追い込まれた。

韓国においても、大きな成果を目指して〈#MeToo〉運動が行なわれてきた。特に、かつて大統領候補とも目された忠清南道の元知事で、性的暴行罪で起訴されたアン・ヒジョンに無罪判決が出たあと、その勢いは増した。

複数の有名な女性たちが〈#MeToo〉運動を前進させようと自身の受けたセクハラや性暴力について語り、韓国女性にモルカなどの問題に直接立ち向かう勇気を与えているが、モルカは被害者に、長期間続く重度のトラウマをもたらす〈疫病〉だ。

「モルカの被害は永遠に消えない。だから被害者は鬱状態に陥ります」とリュはロイターに語る。「インターネット上に、ずっと残ってしまうんです。まさに、社会的死をもたらします」