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新型コロナウイルスがインフルエンサー市場に与えた影響

ブランドが慎重になり、契約やスポンサーシップが激減するいっぽう、いまだに希望を失っていないSNSスターもいる。

by Hannah Ewens; translated by Nozomi Otaki
13 May 2020, 5:46am

かつてルイザ=クリスティの生活は、インフルエンサーを中心に回っていた。

以前、Atlantic Recordsでインフルエンサーマーケティングの指揮を執っていた彼女は、インフルエンサーのライブやフェスへの参加をセッティングしたり、TikTok動画で同社の楽曲を使用してもらうためのプロモーション料の支払いを担当していた。ルイザがフルタイムのインフルエンサー兼コンサルタントとしてフリーランスになったのは、新型コロナウイルスのパンデミックが英国を直撃し、多くの企業が社員に在宅勤務を要請するほんの数日前のことだった。

「新型コロナについては、私がAtlantic Recordsを辞める前から同僚と話していました」と彼女はノースロンドンのアパートから電話で語った。「イベントは全てキャンセルされ、ファンの女の子たちに好評だったアーティストのポップアップストアもなくなりました。どうすればオンラインでオーディエンスの関心を惹きつけ、彼らが興味を失ったりノイズに惑わされないようにできるのか、同時に無神経だと思われないようにするにはどうするべきか話し合いました」

今の情勢において、ブランドとインフルエンサーは〈無神経さ〉を露呈してしまうリスクが高い。アリエル・チャーナスなど、新型コロナのコンテンツで炎上するインフルエンサーも増えている。彼らのフィードをスクロールすれば、コンテンツ制作のために外出することのできない現実に向き合おうと努力したり、フォロワーのなかに感染者や日々感染リスクにさらされている地域に必要不可欠なサービスの従事者がいる可能性に配慮していることは一目瞭然だ。論文並みに長いエモーショナルなキャプションで、家にこもることの大切さを説くインフルエンサーもいる。いっぽう、いつも通りの投稿を続けて、こんな時に取るに足らないアイテムを売り込む必要があるのか、と自身のフォロワーから問い詰められるインフルエンサーもいる。

そもそもパンデミックが起こる前から、メディアと世間はインフルエンサーに対して批判的になっていた。今は誰もが、深刻な〈インフルエンサー疲れ〉に陥っている。では、新型コロナが猛威を振るう英国で、インフルエンサーたちはどのように過ごしているのだろう。

ルイザの3月と4月のスケジュールは仕事で埋まっていたが、英国でロックダウンが始まり、ブランドが出資をためらうようになった今では、業界の他のブロガーやインフルエンサーと同様、収入の確保に奮闘している。インフルエンサーは自営業者なので、仕事は不安定だ。英国の複数の大学が発表した最近の研究によると、ロックダウンの1週間前から収入が減っていた正社員は26%だが、同様の自営業者は75%にのぼる。ユニバーサル・クレジット(※低所得層向けの給付制度)の申請件数は、今や200万件に迫る勢いだ。

今回取材した9人のインフルエンサーは、新型コロナによって、全部ではないにしろかなりの量の仕事を失っていた。「メールはほとんど来ませんし、新規の案件はゼロです」と吐露するのは、ファッション/ライフスタイルインフルエンサーのハンナ・ルイーズだ。「既に決まっていたり進行中だったプロジェクトも延期になりました」。幸い、あるブランドは案件の延期が決定したあとも報酬を払い続けてくれているが、こんなケースは滅多にないという。「数千ポンド規模の仕事を失っているひとも少なくありません」

今のインフルエンサーコミュニティには、不安や混乱が渦巻いている。感染が拡大したタイミングも最悪だった。英国サリーを拠点とするライフスタイル/音楽インフルエンサーのソフィ・エグルトンはこう断言する。「ブランドはクリスマスに予算を費やすので、年の初めは仕事が減る傾向にあります。年始に十分な収入が入らなければ、経済的に困窮してしまいます」

ブランドと代理店のあいだで、インフルエンサーは完全に途方に暮れている、とハンナ・ルイーズは説明する。「あらゆる仕事の最終段階にいるインフルエンサーは、〈最下層〉にいるといえます。私たちには何が起きているのかまったくわからないんです」

その結果、トップ層のインフルエンサーと下層のインフルエンサーのあいだに対立が生まれている。今回取材したインフルエンサーたちは、今年中はギャラの提示額を大幅に下げるつもりだ、と回答した。「今は、マイクロインフルエンサー(※特定のコミュニティやジャンルで強い影響力を持つ、ジャンル特化型のインフルエンサー)が有名インフルエンサーと競うようになりました」とソフィはいう。「広告やスポンサードコンテンツをめぐる競争は、これからますます激しくなるでしょう」

現在の雇用不安は、あらゆるジャンルのインフルエンサーに共通しているが、なかにはより大きな損害を被っているひともいる。当然ながらトラベルインフルエンサーは、収入の大部分を失っている。トラベルブロガーのケルシー・ハインリックス(@kelseyinlondon)も、19万人を超えるフォロワーに、次のトラベルコンテンツの予定を伝えられずにいる。

英国のロックダウンが発表される前、ケルシーは南の島へブランド主催の旅行に出かけていた。「家に帰って写真を編集していたら、PR担当者から写真を投稿せず、次の機会にとっておいてほしい、という連絡がありました。誰も島に行けないときにプロモーションをしてほしくないそうです。ちょっと戸惑いましたが、わかりましたと答えました」

体験型ウェブサイトの契約もローマ出張も延期になった。では、何が彼女のトラベルコンテンツの穴を埋めるのだろう。「今のところは見当もつきません。そのことばかり考えてしまいます」と彼女は打ち明ける。彼女が最近投稿しているのは、これまでの旅行の振り返りや、自宅の美しい部屋を収めた室内の写真ばかりだが、彼女の普段の投稿内容とかけ離れているわけではない。いっぽう他のブロガーたちは〈インテリア〉をアップするなど、コンテンツを多様化させているが、これによってオーディエンスが遠ざかってしまうリスクもある。何を投稿すればいいかわからず、更新ペースを落としてグリッド投稿に頼るインフルエンサーもいる。

しかし、ずっとコンテンツの更新を止めておくわけにはいかない。ケルシーとソフィは、多くのブロガー仲間が違う業界でサイドビジネスを始めるために改めて勉強し直したり、オンライン講座を受講したりしていることに気づいた。

そのうちブランドとの契約や広告案件が大量に舞い込んでくるだろう、と楽観視しているインフルエンサーもいる。インフルエンサーマーケティングのプラットフォーム〈Influencer Intelligence〉が発表した論文「COVID-19 Means For Influencer Marketing」は、ブランドには慎重になりつつも、引き続きインフルエンサーとのタイアップを行なうよう呼びかけている。「メッセージの内容やクリエイティブを調整したり、現在の消費者の関心や需要にセンシティブになる必要はあるが、ブランドがプロモーションマーケティングを完全に中止するのは間違いだろう」

本論文はリップスティック効果(不況時に安価なぜいたく品が売れるという消費傾向)に焦点を当て、ロックダウン中は高級なラグジュアリーブランドが打撃を受けるいっぽうで、より安価なアイテムの売上が伸びるとしている。

ロンドンに住む24歳のベス(@bethsandland)は、アフィリエイトプラットフォーム〈RewardStyle〉から、彼女のアフィリエイトリンクを介したオンライン購入が42%アップしたというメールを受け取った。パンデミックのさなかでもアフィリエイトリンクは効果がある、と彼女は前向きに捉えている。「みんなが家で楽しく過ごす方法を探すなかで、オンラインショッピングの売上は伸びています。ブロガーのアフィリエイトリンクは、人びとを後押しするきっかけになるでしょう」

幸運なことに、ベスは1万5000人以上のフォロワーを抱えるブッククラブのアカウントも運営していて、こちらでも成功を収めている。コロナ危機を通して、彼女はコンテンツの内容を「大きく変える」ことなく、「自分の活動が人びとの励みになると確信する」ことができたという。重要なのは、彼女はもともと業界で生き残れるよう、自身のコンテンツを多様化させていたということだ。副業もしている比較的フォロワー数が少ないインフルエンサーのなかには、なんとかこの難局を乗り切ろうとしているひともいれば、全く新しい分野に進出しているひともいる。トラベル/ライフスタイルブロガーのロージー(@ohsorosie)は、スポンサーによるホテルの無料宿泊がキャンセルされ、トラベルキットの広告案件も延期になったため、パートタイムでカリグラファーの仕事を始めた。彼女は将来を見据え、「インフルエンサーとしてフルタイムで働くことに慎重になった」という。

最悪のタイミングでフリーランスの世界に飛び込んでしまったにもかかわらず、ルイザ=クリスティは大して心配していない。彼女は他のインフルエンサー以上にブランドの動きを熟知している。アルコールブランドなどの企業は、夏に向けて大々的にインフルエンサーとの案件に着手するだろう、と彼女は予想している。「十分なお金が入ったら、ブランドはそのまま溜め込んだり広告を出したりはしません。インフルエンサーのほうが良いコンテンツをつくるのは周知の事実ですから」と彼女は説明する。「5人のインフルエンサーに家でコンテンツをつくってもらうほうが、1回の撮影で5人のモデルを起用して予算を使い果たしてしまうよりも、ずっと良いでしょう」

フェスなどのイベントの中止による損失をカバーしてくれるのは、ルイザ=クリスティが当てにしているような、この状況を逆手に取る企画なのかもしれない。ちなみにルイザ、ハンナ・ルイーズ、ソフィは、アルコールブランドを介してライブへの参加が決まっていたという。

結局のところ、インフルエンサーたちは、オーディエンスにコンテンツを提供することで、自分たちの業界はパンデミックを無傷で切り抜けることができる、と信じている。今回の取材中、インフルエンサーたちとの会話に何度も登場したのが〈現実逃避〉という言葉だ。ハンナ・ルイーズは3月末、自身のInstagramでこのご時世にアフィリエイトリンクや普段通りのコンテンツを投稿することは問題があるのか、不快に感じるかどうかを、オーディエンスに問いかけた。「インフルエンサーにはできるだけいつも通りでいてほしい、というフォロワーが圧倒的に多いです」と彼女は断言する。「そもそもみんながインフルエンサーをフォローする目的の半分は、現実逃避ですから」

This article originally appeared on VICE UK.

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