魔女狩りの犠牲者が続出するカンボジアで起きる悲劇

魔術を使った、との理由で、伝統医療関係者の殺害される事件が、カンボジアでは後を絶たない。

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10 januari 2016, 6:50am

当時83歳だった祈祷師ヘム・ティは、コンポントム州で行われた17才の少女の葬式に参列した。ヘム・ティが葬式を後にすると、彼が参列者に呪いをかけた、少女が死んだのは彼が呪いをかけたせいだ、と噂された。

「亡くなった少女の父親によると、Hem Tyは葬式に現れ、少女に掛けてあったシーツを捲り、彼女の足を触った」。プラサット・バライン地区ドウン村の警察署長フン・スウォンは回想した。「それから、彼は『魔術師』と呼ばれるようになった」

ドウン村の道路を横切る犬ドウン村の道路を横切る犬

ドウン村の道路を横切る犬

ヘム・ティが、死んだ少女の足に触れた理由は、わからない。彼はただ、少女が本当に死んでいるか確かめていたのだろう、という声もある。「夫は村人から尊敬されていた」。未亡人となったヘム・ティの妻、セッ・ロゥンは現在69歳だ。

仏塔の近くで僧侶として生活していたヘム・ティは、24歳から伝統的な薬学を学び始めた。僧院を出てからは、遠い親戚にあたる夫人と結婚し、居を構え、10人の子供を育てた。彼は、それから何十年間、農業を生業にする傍ら、日々、様々な病人を訪れ、治療を施していた。


「子供が夜泣きすると、夫があやしてくれました。水を口に含み、祝福のために子供の顔に吹きかけていました」。セッ・ロゥンは、自宅で語ってくれた。「夫は木の皮を煎じ、出産後の女性に飲ませていました。身体中の悪い血を排出する、と信じていたのです」

しかし村には、ヘム・ティの行為を訝しむ者もいた。彼が葬式でが少女の足に触れたのは、魂を奪うためだったのでは、と疑っている。シェムリアップの医師でさえ、村人の云う「骨の病」を治せなかったのだから、娘は黒魔術の犠牲になったに違いない、と少女の父親は信じて疑わない。

ヘム・ティの悪い噂が村に広まると、それを信じた村人たちは、彼の家族にまで嫌がらせをするようになった。家族が飼っていた犬は毒を盛られ、新しい家を建てる為に用意していた木材には火を付けられた。そして、11月4日、カシューナッツ農園へ働きに出たヘム・ティは、夕食時になっても家に戻って来なかった。

ヘム・ティと家族が以前暮らしていた家で、友達と話すヘム・ティの娘ティ・ルォン

「父を探したけれど、見つかりませんでした。話を聞きつけた他の町民も、一緒に探してくれました。6人でカシューナッツ農園へ父を探しに行ったんです」ヘム・ティの娘、ティ・ルォンはこう話した。

彼女たちは、2時間ほど探し回り、無惨に変わり果てたヘム・ティを発見した。

「午後7時になっても父は見つかりませんでしたが、池に釣り竿を入れてたら、シャツに引っ掛かりました。皆で引っ張ると、死んだ父が浮かんできたんです。父の頭は、5回も斧で叩かれ、割れていました」

魔術を使った、との理由で、伝統医療関係者の殺害される事件が、カンボジアでは後を絶たない。ヘム・ティも被害者のひとりだ。昨年の4月には、シェムリアップ市タケオで、暴徒と化した600人の村人に、男性一人が石でなぶり殺しにされた。老人数人の死をめぐって、その男に非があるとされたようだ。7月には、モンドルキリ州の男3人が、魔術を使ったとされる男性を殺害した、と供述。それから数日後には、コンポンスプー州で心霊治療家の首が切り落とされる事件が起きた。

Hem Tyの息子、家族が以前暮らしていた家

『Vanishing Act: A Glimpse Into Cambodia’s World of Magic』の著者、ジャーナリストのリュン・パターソンは「リンチ殺人が続発する背景には、迷信と、地方の村人の過酷な生活がある」と分析する。「魔女狩りの歴史は数百年前に始まる。その事実からしても、カンボジアの地方で起きる事件は、人間の真相に関わる重要な問題を孕んでいる。人間は、現象から規則性やパターンを見出そうとする。目の前で起きていることの原因を探ろうともする。過酷な現実を目の前に、原因もわからず、己の無力さを痛感すると、実際にはあり得ない物語を頭の中でつくりあげてしまう」

カンボジアの文化、歴史、碑文に精通しているヴォン・ソセアラによれば、昔から伝わる黒魔術の歴史は一千年前に起源があるそうだ。ヴォン・ソセアラもリュン・パターソンと同様に、リンチ殺人の原因は、村人が疑わない迷信に加え、政治的、経済的不安が影響しているのでは、と予想している。

ヴォン・ソセアラは「村民たちの教育水準は低い。物理的手段、医学等、科学の力で解決できない問題に突き当たると、村民は、きまって黒魔術を頼りにする」と教えてくれた。

ヘム・ティが殺された一ヶ月後、12月3日木曜、地区警察署長のチィン・チゥムは、容疑者を見つけた、と発表。村の警察署長フン・スウォンは、こう宣言した。「私は魔術師や黒魔術など信じない。信じるのは国家の定めた『法律』だ。迷信に踊らされ暴力に走ることのないよう、村民を『教育』する」

セッ・ロゥン

ヘム・ティと暮らしていた簡素な家の中で、妻セッ・ロゥンは小さなアルバムを見せてくれた。写真には亡き夫が写っている。彼女は涙ながらに訴えた。「夫を殺した犯人が、いつ私を殺しくるか、不安です。それに私には、なぜ夫が責められなければならなかったのか、理解できません。夫は善良な人間でした。絶対に、人を傷つけたりしませんでした」

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