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写真で振り返る90年代レイヴ・カルチャー

1990年代、レイヴ・カルチャーは、草創期のガラージを鳴らしながら、ドロまみれの無料野外パーティーから、クラブに舞台を移した。ロンドンのウエスト・エンドのティーンエイジャーたちがハマっていたのは、ジャングルとガラージ、そして、そのふたつのジャンルを結びつける、異形のレイヴ・パーティーだった。

by Tshepo Mokoena
16 February 2018, 10:58am

1998年2月14日〈One Nation〉で踊り騒ぐレイヴァーたち. All archive photography by Tristan O’Neill

1990年代、レイヴ・カルチャーは、草創期のガラージを鳴らしながら、ドロまみれの無料野外パーティーから、クラブに舞台を移した。ソウル・ミルトン(Saul Milton)も、立派なレイヴァーだった。ドラムンベース・デュオ、CHASE & STATUSの〈チェイス〉として知られるミルトンだが、かつて、ロンドンのウエスト・エンドのティーンエイジャーだった彼がハマっていたのは、ジャングルとガラージ、そして、そのふたつのジャンルを結びつける、異形のレイヴ・パーティーだった。

ゴールドのチェーンがプリントされたモスキーノのシルク・シャツ、デザイナーズ・ブランドのゆるいバギージーンズ、すり減ったリーボックのスニーカー。そんな恰好でキメた英国の若者たちが、暗いダンスフロアで、汗でテカった肌をレンズの前にさらしている。そんな写真を観たことがあるだろう。2月1日から、ロンドン中心部で開催中のエキシビション、「Super Sharp」に展示されているのは、イタリアン・モードとブリティッシュ・ミュージックの混淆だ。

Photo from Jungle Splash Rocket

「当時は、18~19歳でしたが、音楽とファッションのつながり、ストリート、社会での出来事に関心がありました。すべてがリンクしていたからです」とミルトンは「Super Sharp」オープン1週間前のインタビューに応えている。「ダーブレイ・ストリートの〈Black Market Records〉に入り浸ってました。ドラムンベースやジャングルといえば、あそこです。レコード屋のメッカです」とミルトンは笑う。「例えば、モスキーノのジャケットとヴェルサーチのジーンズで歩いているときに、似たような恰好の若者を見かけたら、互いに頷いてましたよ。モスキーノのシャツとか、いわゆる当時の週末を彷彿させる連中ですね。『ジャングルとかガラージとか、知ってるよね? レイヴにもいたでしょ? そうじゃなきゃその服着ないよね? 俺らくらいしかそんな恰好しないよ』という合図です。まさに、自分たちだけの秘密、俺たちだけの特別なクラブ、みたいな感じでした。突然ジャングルが流行りだしたとき、つまり、あのヒットが歌ったように、ジャングルが〈massive〉になると、古参は嫌がりました。『ふざけんなよ、誰だよ、周りに言いふらしたの。秘密だったのに』とね」

選ばれしOGたちには申し訳ないが、その秘密にスポットを当てたのが今回の「Super Sharp」だ。1千点にもおよぶミルトンのコレクションから選ばれた、90年代のモスキーノのアイテムが並ぶ。「ヨーロッパの個人コレクションでは、最大なんじゃないかな?」とミルトン。さらに、写真家活動から引退したトリスタン・オニール(Tristan O’Neill)がクラブで撮影したオリジナル写真も展示(後ほど何枚か紹介する)。展示のコンセプトは、英国で人気の古着売買コミュニティ〈Wavey Garms〉のそれと近い。つまり、何が起きてもおかしくない放埓な、それはそれで魅力的なフリー・パーティーから、多幸感ダダ漏れのパリピが集う、エレクトロ・ミュージック・ラヴァース御用達のクラブに、ナイトライフの舞台が移行する〈黄金時代〉を回顧しているのだ。90年代のレイヴ・カルチャーを収めた写真集、90年代当時のクラブランド情報誌を眺めているような気分にさせてくれるエキシビションだ。

At One Nation, on 29 September 1997

34歳のキュレーター、トリー・ターク(Tory Turk)は、本エキシビションを成功させるツボを、ある程度わかっている。彼女は、カルチャー史のブックマークのような、世界最大の雑誌アーカイヴ〈Hyman Archive〉のキュレーターも務めているのだ。タークがミルトンに出会ったのは、4年前、ストリート・スタイルをテーマにしたエキシビションの制作だった。ふたりは、今回、再びタッグを組み、タークのカルチャーに関する膨大な知識、ミルトンの圧倒的な衣類コレクションと音楽の素養、それぞれの強みを最大限に発揮している。

タークによると、本エキシビションの背景には、インターネット以前の時代を知らない若者たちに、サブカルチャーのエッセンスを伝えたい、という想いがあるそうだ。「クラブという環境で、サブカルチャーが有機的に変化する。そんな世界を知らない若者たちにです。今では、何かが起きるとしたらSNS、スマホのなかです。若いオーディエンスに、あの時代にタイムスリップしたかのような印象を与えたいんです」。それに対して、現在は、何でもすぐにメインストリームに取り込まれ、ネットで拡散してしまうので、〈サブ〉カルチャーが成立しなくなっているのでは、と述べると、タークは同意した。「そうですね。すべてが早過ぎます。90年代は、エネルギーを費やさなければなりませんでした。クラブに通い、面白いことを見つけ出し、紙のチケットを購入しなければならなかった。今と比べれば、かなり手間暇がかかりました。好き嫌いを超えて、どっぷりサブカルチャーに参加していたんです」

At One Nation, New Years 1997

ここ最近、それぞれの時代の若者は、みんな、自分の青春時代がいちばんだ、と信じて年を重ねてきた。元レイヴァーたちがYouTubeのテクノミックスに、昔を懐かしむようなコメントを残したり、インターネット以前に青春時代を過ごしたオールド・ミレニアルズがクソいまいましいスマホで、四六時中Instagramをチェックするキッズたちにため息をつくのにはワケがある。人間が懐旧の念に駆られると、脳内ではドーパミンが放出されるからだ。その結果、心身が過去への陶酔感で満たされるのだ。

ミルトンは、ノスタルジアに浸るのも「仕方がない」と笑う。彼も、〈俺らの時代はよかった〉と文句ばかりのオヤジになるはずだという。現在36歳のミルトンは、数々のクラブを憶えている。「ガラージ・レイヴなら、〈The End〉〈Hanover Grand〉〈Roast〉〈Vauxhall Coliseum〉。〈Fabric〉が完成したときのこと…。話はいくらでもあります。でも、多くのクラブが閉店してしまった。私が育った〈Bagley’s〉もです」。しかし、クラブが残した遺産、クラブで生まれた思い出は、バラ色の甘美な記憶として、みんなのなかに在り続ける。モスキーノのシャツ、グッチのローファーで完璧にキメて、ダンスフロアで身体を揺らすレイヴァーをとらえた写真も残っている。

One Nation rave, Valentine's day 1998

エキシビションの展示写真の大半を撮影したトリスタン・オニールが今は何をしているのか、タークに尋ねると「大工をしてますよ」と教えてくれた。「展示写真は、90年代、オニールがハードコア・アシッド・ハウスやジャングルにハマっていた頃に撮影したんです。当時の雰囲気を見事にとらえていますよね。情熱から使命感が生まれていたのでしょう」。「Super Sharp」についてオニールに説明すると、よろこんで写真を提供してくれたそうだが、困惑もしていたという。「戸惑っていましたね」とタークは笑う。「『え? 何でこんなのが欲しいの?』といった感じでした。でもしゃべっているうちに、当時を思い出したみたいですよ。彼がカメラを向けると、全身モスキーノの被写体がえらく王様気取りだった、とか」。当時の写真には、最近撮影されたといわれても違和感のないものもある。しかし、当時のレイヴァーたちは、〈街中で頷く〉瞬間が甦りはしないことをわかっている。

「Super Sharp」は、2月1日から4月21日までロンドンの〈Fashion Space Gallery〉で開催。CHASE & STATUSによる、90年代クラブ・カルチャー、ファッション、音楽がテーマの回顧シリーズ「RTRN 2 Jungle」の第1弾。展示写真のいち部を以下に掲載する。

Innovation at Camden Palace, 17 August 1996
At club night ‘Heat’ held at Hastings Pier, May 1997
At One Nation, September 1997
At Heat on Hastings Pier in May 1997
At the MC Hyper D memorial, at the End in London on 4 August 1998
At One Nation, Valentine's Day 1998
At Heat, 14 November 1997
At United Dance, 1998
The late MC Hyper D at club night Roast in October 1995