極左活動家が〈ブラック・ブロック〉で抱える問題
フィラデルフィアでの抗議. Photo by Adri Murguia and Robert Burton

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極左活動家が〈ブラック・ブロック〉で抱える問題

政治への関心が高まり、数百万人が路上で怒りをあらわにしている今日においても、〈ブラック・ブロック〉という戦略を採用する極左活動家たちは、異端の存在だ。彼らの抗議は、器物破損だけでなく、極右活動家や警察との暴力的な対立も辞さない。活動に身を投じることを決心し、活動の象徴である黒い服や覆面を身につけた瞬間から、生活は激変する。

政治への関心が高まり、数百万人が路上で怒りをあらわにしている今日においても、〈ブラック・ブロック(black bloc)〉という戦略を採用する極左活動家たちは、異端の存在だ。彼らの抗議は、器物破損だけでなく、極右活動家や警察との暴力的な対立も辞さない。活動に身を投じることを決心し、活動の象徴である黒い服や覆面を身につけた瞬間から、生活は激変する。過激な極右活動家から攻撃されるだけでなく、ネットで個人情報を晒され、友人、家族、雇用主に活動を知られる不安が活動家たちには、常に付きまとうのだ。

今回、ブラック・ブロックが心身に与える負担を探るべく、〈アンティファ(Antifa、反ファシスト運動)〉に携わる、数名の活動家と接触した。匿名を条件に、電話やメッセージアプリで、最大の不安、活動が起こしうる結果、また、自身の活動を疑問視した経験はないか尋ねた。

「二重生活を送るなかで、ともに闘う仲間はとても大切です。同じ経験を共有するのです」とヴァイオレット(Violet)は電話で語る。彼女はユダヤ系のトランスジェンダーの女性で、フィラデルフィアに住んでいる。「それがブラック・ブロックの良いところでもあります。仲間と行動すれば、正体が明かされる可能性も低くなります」

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ヴァイオレットは「収監やナチによる暴力はとても恐ろしい」と認めながらも付け加えた。「本当に大変な時期には、果たして活動する価値はあるのか、と自問することもあります。でも(白人至上主義者の)危険な活動を目の当たりにすれば、自分たちの活動に疑問は感じません。立ち向かわなければなりません」

ヴァイオレットを始め、取材に応じてくれた活動家たちは、ブラック・ブロックの暴力行為は自己防衛として必須なのだ、と繰り返し言明した。「私たちの行動が自己防衛だとしても、世間の大勢は、ナチへの暴力に反対します。左派だからといって、誰もが私たちのやり方に賛成してくれるわけではありません」とヴァイオレット。「仲間はたくさんいますが、私の行動が公になったときにも、味方になってくれるとは限りません。だから不安なんです」

彼らが支持を得られない現状についての所感を尋ねると、彼女はひと息ついてから答えた。「私たちの意見に賛成し、ナチに反対していたはずの人に、私たちの闘い方を激しく非難されると、孤立を痛感します」。彼女は苛立ちをにじませた。「ナチズムやファシズムといった暴力的なイデオロギーに対して、暴力をもって対処することに、誰もが心のどこかで賛成しています。警察や軍隊によるナチへの暴力は、誰もが認めるはずです。それに対して、ナチを止めようとする私たちの活動を認めないのはどうしてでしょう。 連中がゲットーをつくり始めてから、暴力を認めても遅いのです。世間に認められないのは、とても孤独で恐ろしいです」

社会福祉事業に従事するイヴリン(Evelyn)は、西海岸の街に住む、労働階級の白人女性だ。電話の向こうの彼女は、ブラック・ブロックに伴うリスクを例示した。「襲われ、撃たれ、刺され、家を荒らされ、尾行され、ネットで個人情報を晒された友達もいます」とイヴリン。「これを知って、もっと必死に闘わなければいけない、と決意を新たにしました。とても危険ですが、決して負けられない闘いなのです」

ヴァイオレットと同じく、イヴリンも、ブラック・ブロックだけが暴力ではない、と強調した。社会の辺縁にいる人々、有色人種は、体制の暴力にずっと晒されている、と彼女。「白人は、彼らの安全を脅かした責任を取るべきです。私たちはどんな危険を冒してでも、他の白人に真実を教え、反撃の最前線に立たなければなりません」

「私は、インターネットが普及する以前から、人種差別反対運動に参加していました。当時は、匿名での活動という選択肢はなく、ファシストに家や車を壊され、職場までつきまとわれたりしました」。過去数十年に渡り、西海岸で人種差別やファシズムへの反対運動に参加しているパトリックも、電話取材に応じてくれた。「監視の目が厳しくなっているので、今の活動については明かしていません。正体を知ったら、周りの人は過剰に反応するでしょう。最近〈Antifuh(Antifaの蔑称)〉が話題になっているので、みんな私を心配するはずです」

長年活動してきたパトリックは、左派活動家に対する極右の攻撃が、ときに最悪の結果をもたらすのもよく理解している。「〈反レイシスト同盟(Anti-Racist Action)〉の窓口を務めていたリン・ニューボーン(Lin Newborn)は、1998年、ナチに殺されました。また、友達のルーク・クイナー(Luke Querner)は、ナチに撃たれ、下半身不随になりました」とパトリック。「名前は明かせませんが、ナチに背中と胸を刺され、両手首を切られた友達もいます。彼は死んだと勘違いされて放置されましたが、運よく助かりました」

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パトリックによると、白人至上主義者に両親を脅された友人、顔を刺された仲間もいるらしい。彼も同様の経験をしており、瓶が割れるほどの勢いで殴打され、家にレンガを投げ込まれたりもした。彼曰く、仲間の体験と比べれば、何でもないという。だが、他の活動家と同じように、仲間や自身が襲われた経験をへて、より熱心に活動するようになったそうだ。

パトリックの友人であるアリソン(Allison)は、トランスジェンダーの女性で、軍隊経験者だ。祖父も第二次世界大戦中にナチスと戦った、と誇らしげな彼女は、どんな犠牲を払おうとも活動を続けるしかない、硬い意志を表明した。「政治的活動にさほど熱心でない友達、非暴力的な手段で抗議する人からは、孤立している、と感じたりもします」と彼女は電話越しに吐露する。「実戦で本物の銃弾や爆弾を使い、兵士や民間人の最期を看取った経験もあります。危険は承知のうえです」

しかし、アリソンが最も恐れているのは、白人至上主義者ではなく、警察だ。「もし個人情報が晒されたら、公権力に狙われる可能性が高くなるでしょうから、心配です。ごく普通の白人至上主義者やネオナチなら、不意を突かれる可能性はまずありません。私の生活や自由を脅かしているのは、腐敗した警察です」

アンティファには、警察への強い不信感が染み付いている。パトリックに〈ポートランドのナチ警官(Portland Nazi cop)〉と検索するよう勧められた。本名はマーク・クリューガー警部(Captain Mark Kruger)で、公園の木に戦死したナチス党員の名前を彫った板を打ち付け、平和的な抗議者に過剰な武力を行使したとして、地元活動家のあいだでは有名だ。〈警官の見張り役〉を担当する活動家たちが、最近、現ポートランド市警察の薬物対策課課長を務めるクリューガーはじめ、数人の警官の自宅を盗撮した。この活動家たちは、軽犯罪で告発された。

アリソンは、彼女が参加する活動が窮地に立たされていることを承知している。それだけに、友人たちに彼女と同様の献身を望んでいる。「この生死をかけた闘いが友達に理解されなければ、もちろん、孤独を感じます。私の市民権を政府や社会に否定されたり、米国民としての権利を制限するべきだ、という意見などを目の当たりにして、不安にならないわけがないでしょう」

疲労や不安から、活動をやめようと悩んだ経験はないのか、と訊くと、彼女は答えた。「危機管理を怠らないよう常に気を張っていると、精神的、感情的に参ってしまうときもありますが、これまで通り続けるつもりです」

今回取材に応じてくれた各者ともに、活動をやめるつもりはない、と口を揃えたが、それに伴う負担は認めている。アリソンによれば、極右活動家たちは、彼らほど当局からの脅威を感じていないという。

「私たちの生活、活動、信念は、政府機関や関連企業に監視され、収集された情報が売買されています。敵と違い、私たちは、全体主義体制から目の敵にされています。白昼堂々、武装デモ行進に興じる余裕は、私たちにはありません」