〈ゲーム(麻薬売買)〉のプレイヤーたちは、そう簡単にリタイアしたり、長生きすることはできない。その結末は、刑務所送り、もしくは死。

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刑務所からの手紙 ①

〈ゲーム(麻薬売買)〉のプレイヤーたちは、そう簡単にリタイアしたり、長生きすることはできない。その結末は、刑務所送り、もしくは死。
SK
translated by Sem Kai

《以下の文章は、俺が投獄された理由の正当化でも、言い訳でもなく、また違法薬物の取引や売買という行為を賛美したり、賛同するものでは決してない。ただ単に、俺の個人的な状況や、観察、意見に基づく文章である》

「本当のクソッタレどもならわかってくれるだろうが、これは俺が今までに書いたなかでもっともリアルな文章だ。俺の真の言葉に耳を傾けてくれる全ての人間に幸あれ」

サルート! ブルックリンの仲間たち、VICE、YENTTOKYO(日本 / 世界でも最もドープで、最もリアルなブランド)、俺の人生の愛、そして親愛なる友でもあるKahleanに祝杯を。

数年前、俺がニューヨーク・ブルックリンのストリートライフから足を洗ったとき、「Barz and Bullets(札束と銃弾)の世界からはもうおさらばだ」と思っていた。大勢の仲間が犠牲となったこのゲームの宿命から。

〈ゲーム(麻薬売買)〉のプレイヤーたちは、そう簡単にリタイアしたり、長生きすることはできない。その結末は、刑務所送り、もしくは死だ。

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俺は、銃を向ける側、向けられる側、そのどちら側にもいたことがあるが、まだこうして生きている。読んでいただければわかるだろうが、俺の結末が死じゃなかったとはいえ、俺はそこまで幸運だったとは思えない。

俺は今、日本の東京にある刑務所内の独房でこの文章を書いている。刑務所には、最大6人まで収容可能な相部屋(たいていの場合、日本人が収容される)、俺たちみたいな外国人、特定の人間が収容される独房がある。独房の大きさはだいたい4畳ほどで、布団1枚、食事や物書き用の小さな机と椅子、本棚、トイレ、洗面台、特定の日時に特定のチャンネルだけ視聴が許される小さなテレビがある。窓の鉄格子や、部屋の鍵、常時続く刑務官による監視や、ナンセンスなルール、規制を除いては、他の国の刑務所よりも、ここはずっと寛容で快適な場所だろう。とにかくここは刑務所で、幸か不幸か、俺はアメリカ合衆国の国有財産に値している。そういうことだ。

俺のケースに関して、詳細を語ることはできないし、するつもりもない。簡単にいうと俺は、おおよそ1.4kgのマリファナの密輸と所持を共謀したとして、逮捕され、起訴され、有罪判決を下された。俺の共謀者の証言は、俺を不利な状況に追い込んだ。、その人物は、状況証拠と仮説、そして偏見により、無罪となり釈放された。しかし、俺のほうは、懲役6年の重い判決をくらった。みんなが「マジかよ! マリファナの刑にしては重すぎるじゃないか」と感じる気持ちもわかる。しかし、それだけじゃない。俺は弁護士の費用、そして、われわれが普段無意識のうちに当たり前のように享受している最もプライスレスな権利〈自由〉というものを取り返すために、約3万ドルもの費用を支払わなければならなかった。間違いの全ての責任は俺にあり、自身以外を責めるつもりは全くない。

日本はとても美しい国で、俺もこの国が大好きだ。清潔で安全で食べ物も素晴らしい。ただ、犯罪、特に違法薬物に関しては、とても厳しい国でもある。不法所持、密輸、売買、使用の罪で逮捕されれば、ほとんどの場合懲役をくらう。冗談なんて通じない。

俺のケースでは、いわゆる〈クリーン・コントロール・デリバリー〉と呼ばれる手法が使われた。知らないヤツのために教えてやるが、違法なモノ(たいていの場合は薬物)が入った荷物かなにかを警察か税関が発見すると、元々入っていた違法なモノを取り除き、別のモノに入れ替え(俺のケースでは、マリファナがお茶の葉に入れ替えられた)、警察の監視のもと再包装された荷物をリリースする。そして、それを受け取った人間をその場で逮捕するのだ。

聞くところによると、受取人がパッケージを開封し、中身を認知していた証拠が確認された時点で逮捕するのが普通らしいが、俺の場合はそこまで達していなかった。俺が逮捕された駅で、警察官がそのパッケージを開封し、そこに元々何が入っていたのかを、その場で伝えられた。俺にはそんなやり方で自分が所持の罪で逮捕されるのはとても不当で不公平なことに思えた。なぜならそこには、俺が箱の中身を認知していた証拠なんてないからだ。荷物は俺宛に届けられたものでもなかった。しかし、俺は弁護士でもなく、また日本の法律に詳しいわけでもなかった。

おそらく、その時の俺の髪型がドレッドロックスで、ダボダボのジーンズとYENTのフーディーを被ったサグな見た目の黒人だったという事実は、疑いをかけられるには十分だった。西洋の映画や文化では、俺みたいな外見の黒人はいつも犯罪者と決めつけられ、薬物と関連づけられる。

裁判の日、俺は拘置所から出され、容赦ないボディチェックを受け、写真を撮られたあとに手錠をかけられ、縛り上げられた。すべての過程のあいだ、俺はまるで動物のように扱われた。裁判所までは5分ほどの道のりで、会話は禁止された。地下通路から入場し、審問の時間が来るまで、監房で待たされた。俺は日本の刑事裁判でも米国でのそれと同じように、裁判官と陪審員がいるものだと思っていたが、実際は全く異なるものだった。

まずそこには3人の裁判官がいて、陪審員はひとりもいなかった。俺は、ふたりの警官のあいだに座らされ、自身の弁護士とコミュニケーションすらとれない状況にいた。初日には、実際に見つかったマリファナがテーブルの上に並べられた。申し立ての時間になると、裁判官がこのマリファナが俺のものかどうか、そしてこれを取り戻したいかどうかを尋ねてきた。ありえない。一体どこの裁判官がそんな馬鹿げた質問するっていうんだ? その後、警察官による証言が続いた。はっきりいっておくが、俺は警察に勤めるような人間の本質はどこでも同じだと思う。奴らは嘘をついたり、証拠を捏造したり、偏った証言をしたり、有罪判決を得るためであればどんなことだってやる。警察、検事、裁判官、みんな同じルールに則っているわけだから、当然のようにチームを組む。特に日本のように〈忠誠心〉が重要視されるような国であれば尚更だ。

自分に有罪判決が下されることなど、最初からわかっていた。入廷して裁判長の目を見た瞬間、彼の下す判決がすでに決まっている状況がはっきりと看て取れたし、裁判自体もまるで外向けのショーのようだった。世界の多くの国では「有罪であるということが証明されるまでは無実である」という裁判上の原則が存在している。しかし日本では、「無罪であると証明されるまで有罪」というのが原則のようだ。そして、刑事裁判の有罪率95%以上、という恐るべき数字が示す通り、1度起訴されれば、無罪の証明をすることはなかなか難しい。そして、裁判長がすでに判決を決めているであろう、という俺の予想は、俺の共謀者が1ヶ月以上も前にすでに釈放されている事実を告げられた時点で現実のモノとなった。