「調子はどうだい ニガー?」「おい、俺がまだ許可を出したわけじゃねえんだから、その言葉を使うんじゃない」

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刑務所からの手紙 ③:最終回

「調子はどうだい ニガー?」「おい、俺がまだ許可を出したわけじゃねえんだから、その言葉を使うんじゃない」
SK
translated by Sem Kai

この糞ったれな場所では、毎日が日課と退屈さのなかで過ぎていく。刑務所は、囚人から、自由だけではなく、アイデンティティと個性すらも奪ってしまう場所だ。ここでは名前は意味をなくし、与えられた番号が自分となる。自分が何を着るか、何を食べるか、何時に寝て、何時に起きるか、決定権はない。眠かろうが眠くなかろうが、電気がまだ付いていたとしても、午後9時には寝床に入らなければならない。

天気のいい日は外で、悪い日はジムで、1日30分の運動が許される。ウェイトの様な運動器具なんてある訳ないから、俺たち外国人は、腕立て伏せや、腹筋、ランニングをしたりする。ジムにはバスケットボールのフープがあるが、ボールはない。もしあったとしても、もちろんプレイすることは許されない。卓球台は使うことができるから、たまにダブルスをしたりする。

数ヶ月に1度、検査のためにチンコをさし出さなければならない。その意味がわかるか? 何人かの囚人は(俺の知っている限り日本人しかいないが)、改造チンコを持っている。どうやって改造するのか詳しくは知らないし、興味もないが、どうやら竿の部分に切れ目を入れ、そこからビー玉の様なシリコンのボールを入れ込むらしい。そうすると、オナニーがより気持ちよくなり、彼らのビッチがセックスのときに更なる悦びを得られるらしい。

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外国人の誰ひとりとしてその様な〈オマケ〉を持っていないにせよ、俺たちもチンコの検査の受けなければならない。いっぽうで、日本人どもはすでに入っているボールの数を申請しなければならず、検査のたびにそれが増えていないかどうかを確認されるのだ。チンコを大きくみせるためにヤツらはそんなことをしているんだ、と俺たちは馬鹿にしているがな。

エイリアンの様な見た目のヤバいチンコをつけた彼らは、まるで性病男みたいだ。みんなのチンコを検査しなくちゃならない刑務官は、一体どんな気持ちなんだろうか。彼らがこの仕事に応募した際に、このことは職務内容に記載されていたのだろうか? 『条件:複数のチンコの検査を滞りなく遂行できること』と(笑)。

他の話といえば、今週、外国人用のセクションにふたりの新人が入ってきた。60歳近いドイツ人の男は、2kgの量で懲役10年を食らっていた。マジな話、日本の裁判官が判決を下す際に、どの様な基準で量刑を決めているのかイマイチわからない。10kgで10年の懲役の奴がいるいっぽうで、同じ量で同様、もしくはそれより少ない懲役をくらうヤツも居たりする。最近出所した香港出身の男は、200kg以上の量でたったの6年しか食らっていなかった。噂によると、主犯格の仲間のひとりをチクったらしい。もうひとりの新人はルーマニア人で、自分のことをあたかも大物マフィアのボスの様に語る。こいつのいうことは毎日変わるし、初日に「調子はどうだい ニガー?」ときたときには、はっきり突っ込んでやらなくてはならなかった。「おい、俺がまだ許可を出したわけじゃねえんだから、その言葉を使うんじゃない」とね。彼はすぐに謝罪してきて、それ以来俺から距離を置いている。

俺たちと違い、ほとんどの日本人は懲役が短く(平均3年ほどだ)、常習犯や再犯者ばかりで、ここが3度目や4度目というヤツもざらにいる。ひとりの年老いた日本人に会ったんだが、彼は84歳で、刑務所に入るのは今回で17回目だと教えてくれた。聞いたときは「マジかよ?」と驚いたが、この国の高齢者の人口は高く、こういう輩は外に出ても家族もいないし、仕事もない。

いっぽう、刑務所では、日に3回のメシ、充実した福祉、家賃のかからない寝床が提供される。そういう訳だから、彼らにとってここは我が家みたいなものなのかもしれない。どういう訳か、ほとんどの日本人、特にヤクザたちは、俺と問題なくやっていける様に努力してくれる。俺が仲良くしている年上の韓国人の男は、「お前は本当に友達が多いな。もしかしたらお前がこの刑務所で1番顔が広い男なんじゃないか?」といっていた。俺は、敬意の表し方が理由だと思っている。ここのヤツらは、人の性格を観て、人と接している扱っている。なんといっても、看守長ですら俺と上手く付き合ってくれる。

いつも性的な英語のフレーズを学びたがる日本人がひとりいるんだが、こいつはよりによって最も不適切な状況で学んだ言葉を使いたがる。例えばシャワーを浴びているときに、一番近くにいる人間に「Suck my dick, bitch(チンコしゃぶれよ、ビッチ)」なんていったりする。

俺が全く関わらないようにしているヤツらもいるね。俺たちが、〈Mr.Robot〉ってあだ名を付けた頭の悪いヤツがいるんだが、こいつはロリコンか、もしくは、電車で女の子を盗撮したり、痴漢するのが趣味な変態野郎だといわれてる。

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何故ここに居るのか説明したがらないヤツもいる。オープンな同性愛者たちは、特別な個室に収監されていて、オカマっぽい行為や行動は正式に禁止されている。今週に入って、何人かの日本人が釈放され、外国人用セクションでは、ふたりのメキシコ人が仮出所を認められたから、彼らはこれからいつ解放されてもおかしくない。

日本人と違い、俺たち外国人の囚人が仮出所を認められても、釈放される日が告知されることはない。その日の仕事が終わった時点で、明日、もしくは明後日に釈放されることが告げられる。外に出たらまず何をしたいか、もしくは食べたいかを質問してみると、ほとんど全員、日本人か外国人かに関わらず、ファストフード(バーガーキングやマクドナルド)を食べたい、と答える。俺には全く理解できない。個人的には、ラザニアかステーキのようなご馳走を食べたい。もしくは女の子(笑)。

とにかく、釈放予定のメキシコ人のMannyってヤツは、たったの4ヶ月しか出所を早めてもらえなかった。なぜなら彼は、喧嘩、というここで最も重罪とされ、出所を長引かせる行為で何度も懲罰を受けていたからだ。コイツは筋金入りのど阿呆で、シャブを何百グラムも飲み込んで、8年の懲役を食らっていた。警察がシャブを取り出すために手術したので、ヤツの腹には、大きな傷跡が残っている。最も狂っていることといえば、こいつは持っていたシャブの全てのパケに自分の名前を書いていたらしい。

もうひとりのメキシコ人は、前にも書いたストリッパーの男だ。この男は筋金入りの男色で、いつもオカマみたいな行動ばかりしている。トラブルに巻き込まれている人はもちろん、時には何の理由もなく、他人を嘲笑うのが大好きな男だ。そのくせ、自分がバカにされると気が狂った様に怒る様なヤツだ。コイツの仕事場は俺の目の前なんだが、ある日、ヤツは何を面白いと思ったのか、わざと自分で大きな屁をこいて大笑いしていた。

その日の仕事が終わり、着替えてみんなが牢屋に戻る頃に、こいつのボクサーパンツには、ハッキリとわかるほどの糞のシミが付いていた。刑務所から支給されるボクサーパンツは、不運なことに白色だ。そして翌日、洗濯の時間になるとメキシコ人の名前が呼ばれ、糞で汚れたパンツを自分で手洗いする様に指示されたのだ。

俺は、トロント出身の白人の友達を捕まえて、一緒にこいつのことを馬鹿にした。ヤツは「あれは血だ」と言い訳をし始めたが、それが状況をより悪くした。白人の男がカメラマンのふりをし、俺がリポーターになりきり、ヤツにインタビューを始めると、全員が爆笑し始めた。「PNNが現場から生中継です。今、明らかに『糞ったれ』な1日を過ごしておられる男性といます。『お漏らし』をしてパンツを汚してしまうのは、一体どういう気持ちなのでしょうか?」という質問に、 ヤツが「あれは血だ」と答えると、白人の男が「ケツから出血しているのですか? なぜワセリンを使用しなかったのでしょう?」といった具合にね。ヤツの顔はみるみる真っ赤になり、ものすごく怒っていたけど、みんなが大笑いしているもんだから、恥ずかしそうにもしていた。だから俺は「おい、オマエ怒ってんのか? 人生、『糞ったれなこと』も起こるもんさ」と声をかけたんだ(笑)。

その2日後、俺と白人の男がトラブルに見舞われた。番号が近いから、シャワーのときに俺たちは、いつも隣同士になるんだが、その日は〈ハンター〉が見回りに当たっていた。そして俺たちにはわからない、なんらかの理由で、ヤツは、俺たちふたりに普段よりも注意を払っていた。俺は、自分のシャンプーを使い切ってしまったものだから、白人の男にシャンプーをもらった。すると突然、ハンターが大きい声で俺たちの名前を叫び、俺たちは濡れたまま、丸裸でシャワールームから出なければならなかった。

ガラスで仕切られた刑務官の部屋に連れていかれ、ハンターに日本語で怒鳴られたが、彼が何をいっているのか全く理解できなかった。後でわかったことだが、シャンプーを他の囚人にあげることは、牢屋では深刻なルール違反だったのだ。俺は「なあ、知らなかったんだから、怒鳴るのをやめてくれないか? あんたがなんていっているのか全くわからないんだ」と答えた。みんなが俺たちのほうを見ていた。これが俺がうまく付き合っている看守長に報告されていなかったら、俺たちは間違いなく懲罰を受けて、独房送りにされ、様々な特権を失っていただろう。このクソったれな場所にはルールが多すぎて、ひとつひとつ覚えるのが大変なくらいだ。

翌日仕事をしていると、工場の全員に聞こえるほど大声で、看守長が俺たちに説教した。でも彼は、ある意味反抗的な男だから、俺たちにさりげなくウインクもしてくれた。今だからわかることだが、私語禁止の場所で話をすることを除いては、仕事中に周りをキョロキョロと見ることや、他の囚人に残した食事をあげることなど、全てここでは懲罰に値する違反行為だ。1番深刻な違反行為は、前にもいった通り、喧嘩だ。もし誰かに殴られたなら、決して殴り返さずに、殴られた箇所を手で抑えながら、無抵抗の姿勢に丸くなり、刑務官の到着を待たねばならない。その間、誰も介入してはならないし、喧嘩を静止することも禁止されている。

俺が育った場所ではそんなことはありえない。自分のことを守れない素振りをしなければならないなんてありえるか? そんなことは起きないことを願うばかりだ。わかってくれるかい?