自国〈ウイグル〉に誇りをもつ女性

「〈女性だから〉夜遅くに出歩くのはやめなさい」「〈女性だから〉部屋を綺麗に掃除しなさい」「〈女性だから〉美味しい料理をつくりなさい」。「女性だから」は母の口癖でした。

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dec 15 2018, 1:00am

女性の社会的地位、格差についての議論が増えるのと同時に、〈女性が働きやすい職場〉〈女性が輝ける社会〉〈女性がつくる未来〉を目指し、女性を応援する制度や価値観を生みだそうとする動きが社会全体に広がっている。だが、ここでいう〈女性〉とは、果たしてどんな女性なのか。女性に関する問題について真剣に考えている女性、考えていない女性、そんなのどうでもいい女性、それどころじゃない女性、自分にとって都合のいい現状にただあぐらをかいている女性。世の中にはいろんな女性がいるのに、〈女性〉とひとくくりにされたまま、「女性はこうあるべきだ」「女性ガンバレ」と応援されてもピンとこない。

「いろんな女性がいるんだから、〈女性〉とひとくくりにしないでください!」と社会に主張する気は全くないし、そんなことを訴えても何にもならない。それよりも、まず、当事者である私たち女性ひとりひとりが「私にとって〈女性〉とは何なのか」本人独自の考えを持つべきではないのか。女性が100人いたら、100通りの答えを知りたい。「あなたにとって〈女性〉とは?」

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マイルジャングリ(31)

「女性とは」と考えたことはありますか?

自分にとって女性とは何か、と考えるタイミングはあまりないですが、女性として育てられたので、自分が女性だという意識は強いです。

女性としてどのように育てられたんですか?

私の出身はウイグルなんです。ウイグルはイスラム教徒が多く、私もイスラム教徒なので、守らなければならない教えがたくさんあります。例えば、イスラム教徒の女性はスカーフを巻いて顔を隠していますよね。イスラム教では、女性は〈宝〉と同じ扱いなので、大切なモノを家族以外には見せないように、隠すことで守っているんです。短いスカートを履いてはいけないし、肌を露出した服装がダメなのも、女性は大切な宝だからです。

女性だから禁止されていることは、他にもありますか?

母から受けた教育でいえば「女性は立ったまま水を飲んではいけない」とか。行儀が悪く、男性っぽい印象を与えてしまうからです。料理や家事のさいに邪魔になるので、爪はなるべく短く切り、ネイルも禁止です。「〈女性だから〉夜遅くに出歩くのはやめなさい」「〈女性だから〉部屋を綺麗に掃除しなさい」「〈女性だから〉美味しい料理をつくりなさい」。「女性だから」は母の口癖でした。

教育熱心なお母さんだったんですか?

確かに、母は小学校の先生だったので、教育熱心な部分はあったのかもしれません。でも私の家庭だけではなく、ウイグルの女性はみんなだいたい同じような教育を受けてきたはずです。母世代は、常に顔にスカーフを巻いて生活していましたが、今では古い習慣もだんだんとなくなってきたのか、モスクに入るなど、特別なとき以外はスカーフを巻かない女性も増えました。

「女性は宝」とおっしゃってましたが、例えば男性と付き合って、結婚する前にキスをしたり、色々するのはアリなんですか?

基本的にはダメなんです。恋愛についても、イスラム教のルールを意識しながら、ウイグル民族の道徳から外れるような行為はしません。

ウイグルでは、働くのは男性、家事や子育ては女性、という役割分担はありますか?

ウイグルの男性は、自分は男だから家事はやらなくていい、と奥さんを家政婦扱いするかたが多い気がします。でも、私の父は違う考えをもっていました。自分でできることは自分でやるし、家庭は女性だけが支えるものではなく、夫婦ふたりで支えていくものだという考えでした。なので、父と母の役割分担はそんなに感じなかったですね。仕事も家事も子育ても分担していましたが、力仕事は男性である父がやる、という分担はありましたけど。そんな父のおかげで、私は日本の大学に留学することができました。

ウイグルでは、女性は大学に進学しないのが普通なんですか?

もちろん大学を卒業する女性はいます。でも、私の実家があるトルファンの田舎には、私以外、留学して海外の大学を卒業した女性は誰もいませんでした。ウイグルの女性は、自立できないまま結婚して、専業主婦になる場合が多かったんです。でもその状態で離婚してしまったら、その女性は社会復帰もできないじゃないですか。父は女性にも自立が必要だと考えたし、自身が金銭的な理由で大学進学を諦めたので、大学進学の夢を自身の7人の子どもたちに託しました。

7人も兄弟がいるんですね。7人全員が大学に進学したんですか?

そうです。でも「農業を手伝わせずに大学に進学させるなんてバカだ」と親戚や近所のかたから散々いわれていました。「働き手を手放すなんて後悔する」という忠告に、父は「きっと5、6年後にはそっちが後悔しているだろう」と返していました。その言葉通り、大学を出た私の兄や姉はいい仕事に就いて、給料をすべて親に渡すようになったんです。そのあたりから、子どもを大学に進学させる親もだんだんと増えはじめたので、私が交換留学生として日本に発つことが決まったときは、家族も近所のひともすごく喜んでくれました。女性でも、努力して勉強すれば海外の大学に留学もできるんだ、とみんな希望をもっていました。

初めて来日したのはいつですか?

初めて日本にきたのは、今から8年前です。当時は23歳でした。大学2年生のときに交換留学生を選定する試験を受け、300人の生徒のうち合格者4人の枠にはいることができたんです。その後、日本の大学を卒業して、改めて語学学校で日本語を学び、今は起業して自分たちの会社を経営しています。

海外で起業するなんてすごいですね。

起業するにあたり、日本に住むウイグル出身の男性からアドバイスをもらうために、数人と話しました。でも「あなたは女性なんだから起業なんかしないで 早めに結婚して子供を産んで、主婦になったら?」と。それが女性のいちばんの仕事なんだから、とほとんどの男性にいわれたんです。彼らの奥さんはみんな専業主婦なので、私もその女性たちと同じ扱いをされたのでしょうが〈女性だから〉という理由で、起業したいという話を本気だと思われなかったのは悔しかった。女性でも起業できるというところを見せてやりたくて、会社の立ち上げから申請の仕方もすべて調べて、仲間たちと起業しました。

見返したかったんですね。起業した会社ではどんなお仕事をしているんですか?

去年までは、ウイグルや中国からきたひとたちに人間ドックの紹介をする仕事をしていました。でも、去年の11月くらいから、その仕事を続けるのがすごく厳しくなってしまったんです。

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それはなぜですか?

ウイグルのかたは、みんなパスポートを没収されてしまい、自由に海外に行けなくなりました。患者さんがいなければ、私の仕事も成り立たないので、それからはヨーロッパにいるウイグルのかた向けに人間ドックの紹介をするようになりました。

日本を出て、ヨーロッパに移住してしまったほうが仕事はしやすいのではないですか?

8年日本に住んで、文化や言葉にも慣れました。今、ヨーロッパにいるウイグルのかたの家族は、再教育施設に収容されています。私は自分の家族を守るためにも、今は日本から出られません。

ウイグルに住んでいるご家族と連絡はとっているんですか?

2週間に1回くらいだけですね。「生きてますか」「元気ですか」というやりとりくらいです。私の弟夫婦、兄夫婦は中国の再教育施設に収容されていて、その子どもたちを私の両親が預かっている状態なんです。だから私は、自分のことを中国人だと思いたくないんです。個人レベルの話でいえば、私には中国人の友達もいましたし、その友達はすごくいいひとでした。でも、いくら中国人の友達がいいひとだったとしても、今私たちが置かれている状況とは話が別ですからね。

その友達はウイグルのことについてどのくらい知っていたんですか?

留学していた日本の大学で「どこの出身のかたですか?」と彼女に声をかけられて「新疆ウイグル自治区です」と答えたら、すごくびっくりしていました。インターネットの情報から、中国にこんなところがあるんだ、くらいの知識はもっていたみたいですが、ウイグル出身のひとと直接会うのは初めてだと。それからは一緒にご飯を食べたり、一緒に日本語を勉強したりして過ごしました。彼女の親も「娘と仲良くしてね」と本当に親切にしてくれました。でももう、今は連絡をとっていません。

家族とも友人とも、頻繁には連絡を取らないんですね。

どんな連絡をとっているか、検閲されますからね。そういう状況になってから、毎晩自分のケータイにある写真を眺めて寝ていたんです。でも去年ひったくりに遭い、家族の写真や動画、メッセージがたくさん入ったケータイを盗まれてしまったんです。ケータイは買い換えればそれで済みますけど、連絡がとれないなか、ケータイのなかの思い出が私の心の支えだったので、盗まれたときは本当にショックでした。

ひったくり犯からすれば、金銭目的のただのひったくりだったのかもしれませんけど、もし自分がその立場だったらと想像するとすごくショックです。

国に帰れないというのは、そういうことです。もっと身近な話をすると、私は7人兄弟のうちひとりだけ結婚していないんです。去年、父が大きな病気をしたこともあり、親が元気なうちに結婚して、早く孫の顔を見せてあげたいという気持ちもあります。でも今、結婚する相手がいたとしても、家族に紹介することすらできません。ウイグルの情勢が徐々に報道されるようになりましたが、自分で経験してみないとわからないこともたくさんありますからね。

女性として、今自分にできることは何だと考えていますか?

いまウイグルのために私ができることは、起業した女性として、しっかり働いて自分の会社を守ることですね。ウイグルにいる女性たちに直接手を差し伸べることはできないけど、まずはウイグルから日本に来ているひとたちをサポートしたいです。女性同士でしか話せないこともあるし、女性だから共感できることもあります。私はウイグルの女性として生まれて幸せです。

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