レコード屋の言葉:第2回 〈Reggae Shop NAT〉

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レコード屋の言葉:第2回 〈Reggae Shop NAT〉

「本来と別のところに入れられちゃうと大事件になるからです! こんだけあるから、なかなか見つけられなくなるんですよ!」

「ダウンロードじゃわからない」「ストリーミングじゃわからない」はてさて、なにがわからないのだろうか? それは人からの言葉。RCサクセションもBLACK FLAGもジョン・コルトレーンもBUTTHOLE SURFERSもツェッペリンもMAYHEMもN.W.Aも、みんな誰かの口から聞いた。音楽が好みだったのか、そうじゃなかったのかは置いといて、先輩だったり、クラスのヤツ、好きな異性、おしゃれな友達の言葉があったからこそ、その音楽に出会えた。辿り着けた。周りの大好きなみんなからの言葉だ。

そしてレコード屋も。カウンター越に矢の如く放たれる聞きなれないアーティト名、バンド名、ジャンル名。矢が心のど真ん中に刺さるたび、音楽がどんどん好きになった。ずっとカウンター前を陣取っていた。今考えれば、大迷惑だったろうに。本当にすいません。そう、ダウンロードでもストリーミングでも、レコ屋さんの言葉は聞けやしない。そんなプレイリスト見たことない。だからもう1回、言葉を聞きにいこう。今度は大人の話も。

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第2回は、日本有数のレコード街、東京・西新宿にある〈Reggae Shop NAT〉。 目の前は柏木公園。学生時代、レコード漁りの際には、ここで一服しながら戦利品の確認をしたものだ。お店でゲットしたフライヤーでさえも宝物だった。現在も柏木公園は、サラリーマンのみなさま、お姉さん、ご高齢の先輩方、プラス、わんちゃんのホッとひと息スポットである。

〈Reggae Shop NAT〉は、その名の通りレゲエ専門店だ。それもレコードオンリーの頑固ショップである。ビールも飲めるらしい。前オーナーから引き継いで12年。とんでもない数の7インチ・シングルに囲まれて、店主の道正和行氏が出迎えてくれた。

お店は、おひとりでやられているんですか?

私のほか、アルバイトがふたりおります。

年中無休ですよね? 道正さんは、いつお休みされているんですか?

一応、水曜か木曜はアルバイトに任せているんですが、なんだかんだいって、店に来ちゃうこともよくありますね。

じゃあ、毎日がお忙しいと。

どうなんでしょう(笑)。でも、この店を始めたのが、26歳のときなのですが、当時は店をやりつつ、ラジオで生放送をやったり、クラブでDJすることも今より多かったので、それに比べれば静かになりました。

今、おいくつですか?

37歳です。ですから、店は12年目になりました。

やはり気になるんですけど、小滝橋通りにも〈NAT records〉さんがありますよね? こちらの〈Reggae Shop NAT〉さんとは、どういうご関係なのでしょうか?

僕もよくわかっていないんです(笑)。94年の暮れか、95年の頭に、僕の前のオーナーが独立して、〈Reggae Shop NAT〉をスタートさせたんです。そして99年には、この場所に移転した…と聞いておりますが、人づてなので、よく知らないんです。この場所には元々〈WOODSTOCK〉というレコード屋があったそうです。

ちなみに道正さんは、NAT recordsの店員さんだったんですか?

いえ、95年というと、茨城の高校生でした。アルバイトで稼いだお金をもって、このあたりにレコードを買いに来ることもありました。

普通のお客さんだったんですね。

はい。東京の大学に進学してから、この店によく来るようになりました。それで、先代のオーナーとも親しくなったんです。一緒にDJもするようになったり。

そんなお客さんが、なぜお店を引き継ぐことになったのでしょうか?

2004年頃でしょうか。ズズズッと、レコードが売れない時期がやってまいりまして。先代オーナーも、やる気がなくなってきたみたいで。急にある日「この店、買わない?」って。

おおー! そのときはなにをされていたんですか?

ただのフリーターです。まぁ、買う人が見つかったら、在庫から棚から備品まで、全部含めて売ると。見つからなかったら、店を畳むっていっていたんです。なんか、そんな話をしているうちに、ちょっと心がグラつき始めたんですね。東京都の起業支援みたいな制度でお金を借りることができたので、わりとすんなり話が進み、2006年の8月にこの店を譲渡していただきました。

でもこれまでレコード屋さんの経験は…

まったくないです(笑)。更に経営なんて、まったくわかりませんでしたし。

どうされたんですか? いきなり店にポツーンですか?

一応、先代との引き継ぎ作業はあったのですが、それこそ1ヶ月もやりませんでした。

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不安になりませんでしたか? 寂しくなったり。

まぁ、これまでのお客さんも来てくれていたので、その辺はなんとか。それに若かったし、あまり深く考えていなかったかもしれません。

でもレコードが売れない時期だったんですよね? 「レコードって、こんなに売れないものなのか!!」なんて、ビックリしませんでしたか?

いえ、それまでやっていませんでしたし、比較対象も知らなかったので、売れているのか、売れていないのかが、わからなかったんですよ。もちろん返済もありますし、家賃も払わなきゃいけない。でも大変なのか、どうなのかもわからなかった。でもお金はどんどん減っていきましたね。

「あ、今月払えない!」なんてことは?

正直、あちこちへの支払いが滞ったことはありました。そうなって初めて本気で経営について考え始めるようになりました。

経営学の本とか読んだのですか?

読みましたけど、あんまり参考にならなかったですね。というか、何が書いてあるのかよくわかりませんでした(笑)。

では、どのような手腕で右肩上がりに?

まったく上がってませんけど(笑)。そもそも店を始めたときから、レコードがどんどん売れなくなるのは、わかっていたんです。案の定、他のレコード屋さんが、どんどん無くなりました。でも、ここで頑張ったらライバルも減ったことだし、何とかなるんじゃないかと軽く考えていたんです。でも、そんな簡単なことではなかったのですが。

具体的に、どのような改善をされたんですか?

できることをちょっとずつ、細かいところをちょっとずつ、やっつけていきました。通販に関することや、店のディスプレイなど、長い時間をかけた工夫も全く効果がなく、辛いことも多かったです。

こちらでは、レゲエのレコードのみを扱ってらっしゃいますが、どちらから仕入れてらっしゃるのですか? やはり、本国のジャマイカ盤が多いのですか?

そうですね。うちにあるのは、7インチが9割、LP、12インチの3~4割がジャマイカ製です。ジャマイカ製以外だと、ほとんどが英国、米国製です。ただ、この10年で大きく状況が変わりました。2009〜2010年頃なんですけど、ジャマイカでレコードが作られなくなったのです。

それはプレスをしなくなったということですか?

はい。現在も同じ状況でして、それからジャマイカではレコードをほとんど作っていないようです。

ではジャマイカの新しいアーティストの作品は、どうなっているんですか? CDですか?

データでやりとりすることが多いようです。新曲のリリースという概念も変わってきていますよね。ただ、英国やヨーロッパ、米国のレーベルが、再発盤や新譜をリリースしているので、そういった新品は、今も入荷しています。

でも当時は、レコードは売れなくなる、レコードはつくられなくなる、最悪の状況だったのではないですか?

ですので、中古盤にシフトしたんです。

ああ、前回の〈タチバナ〉さんと同じですね。どうやって中古の在庫を集めたのですか?

メインは買取ですね。知り合いを通じて、様々な人に売ってもらったり、もちろん飛び込みの方からも買ったり。海外へ買い付けにも行きました。

やっぱり昔からレゲエがお好きだったんですか?

突っ込んで聴くようになったのは、上京してからですね。2000年頃はレゲエがブームで、街中や有線、ラジオでもよく耳にしましたし、クラブやレコード店でいろいろな人と知り合っていくうちに楽しくなって、夢中になりました。

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中古盤の切り替えのときには、ご自身のレコードを店頭に並べたりは?

いや、それはしなかったですね。というのも、僕が持っているレコードって、売れ線とはズレているんです。店に出しても売れないヤツでしたから(笑)。

マイナーなレゲエ? アンダーグラウンドなレゲエですか?

ただニーズがないものです(笑)。ただ、そういったレコードも今は店頭にあります。僕にとっては良作なので、そこにはきちんと価値を付けて売っています。

そういったレコードにお客さんが反応すると、やはり嬉しいですか?

嬉しいですね。ただ、いきなりプッシュしてもとりあってもらえないので、少しずつアピールしています。今もDJをやっているので、コツコツとクラブで回したりしながら。

ちょっと気付いたのですが、ここに〈NEW・新作〉というコーナーがありますよね? コレは…

僕がつくりました。

あ! レーベルもされているんですか?

はい、始めました。まだ2タイトルだけなんですけど、〈Shinjuku Tracks〉といいます(笑)。

カッコイイですね!

ありがとうございます。中古盤を売る仕事をずっとしていて、違うこともしたくなったんですね。音楽を通じて知り合った周囲の友人、アーティストに協力してもらって、いい作品を作ることができています。

7インチのみのレーベルなんですか?

そういうわけではないんですけど、今はとりあえず。

前から不思議だったんですけど、レゲエの7インチって、ジャケットがないんですよね。

でも60年代なんか、ラベルすら印刷してなかった場合も多いんですよ。真っ白。ほら、こんな感じです。これは元持ち主が、なにか落書きしてますけど。

うわぁ、本当になにもない! では、どうやって中身を確認するんですか? カッティングされている文字ですか?

いえ、聴いて判断します。とてもシンプルです(笑)。ブランク盤って呼ばれます。

ちなみにレゲエの古いレコードって、いつくらいのものになるんですか?

ウチにあるものだと、60年代の初めくらいですね。それより古いものも存在しています。

激レア盤とかもあるんですか?

レア盤って概念は難しいですね。レゲエって、小さな国のローカル音楽なので、プレス枚数も少ないし、全部レア盤といえば、レア盤ですよね。米国や日本の音楽のレコードと比べたら。

現在は、インターネットのオークションサイトもありますが、これによりレゲエのレコード価値にも変化はありましたか?

変わりましたね。それを絶対的な価値基準として捉えていいのかはわかりませんが。僕は、ネット上の価値基準とも添い寝しながら、ちょっと違うアプローチをするようにしています。情報として絶対に頭に入れておかないといけませんし。完全に切り離している訳ではありません。

店内にはターンテーブルもありますけど、試聴ウェルカムなんですか?

はい。レゲエのレコード屋は、レコードをかけて売る、〈かけ売り〉というのが昔から当たり前なんですよ。逆に試聴しないで買う方はあまりいらっしゃいませんね。

曲を聴いて買えるから安心ですね。

品質の問題もあります。盤の中心がズレているのなんてザラですし、傷が付いていたり、ゆがんでいたり。それを確認するための試聴でもあるんです。

なるほど!!

仮にその曲を知っている方でも、必ず試聴して、盤質チェックをします。ですから、僕たちもレコードを店に出すときは、チェックしていますよ。

音の好みを確認するのが、試聴だと認識していました。レゲエには、違う側面があると。

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レゲエって、他のジャンルとはまったく異なる要素がたくさんあります。例えば、〈ダブ〉もそうですね。今でいうリミックスで、リリースした曲を別ミックスにするスタイルです。これもレゲエならですし、歌とは違う形のディージェイというヴォーカルスタイルも他では見当たりません。今では当たり前ですが。あとは同じカラオケでありがら、まったく違うヴォーカルを乗せたり。だから同じオケなのに、10種類も違うレコードとか出ちゃう。それも同時発売されるから、棚に同じオケのシングルがズラーッと並ぶんです(笑)。

それをお客さんは全部買うんですか?

もちろん、そういうお客様もいらっしゃいます。でも大体は、贔屓のヴォーカリストとか、ディージェイや、ヒット曲で選ぶお客様が多いですね。レゲエは独特な要素が多くて、そこが面白いんですよね。

〈Reggae Shop NAT〉さんは、通販もやられているんですか?

はい。日本全国、さらには海外からもオーダーが来ています。

なんか昔からの勝手なイメージなんですけど、レゲエっていうと、やっぱり…

大阪ですか?

そうです!

今も大阪からの通販が1番多いです。トレンドの傾向も関東とはちょっと違うんですよ。

でもレゲエのレコードって、盤質チェックが必要なんですよね? 通販だとできませんよね?

いえ、サイトでも試聴できます。そこで盤質チェックもできますよ。サイトに掲載した商品は、全て試聴できます。1枚、1枚ターンテーブルに乗っけて、すべてMP3ファイルにして公開しています。

とんでもない仕事量じゃないですか!

レゲエの通販サイトでは当たり前ですよ。

そこまでやってらっしゃるんだから、通販も絶好調なのでは?

そうですね、割合は伸びています。海外からもオーダーいただくいっぽう、中野区、世田谷区、さらにいうと新宿区からもオーダーが来るんですよ(笑)。

え! こんなに近いのに?

もちろんお客さまですから、嬉しいんですけどね。近くにお住まいの方でしたら、本当はお店に来ていただきたいですけどね。

さて、最後に。今後はどのようにお考えですか? 〈Reggae Shop NAT〉さんの未来をどのように考えてらっしゃいますか?

そうですね。店を閉めるか、閉めないか、ってことは考えています。通販サイトのみにしてしまうか、どうかってことです。してしまえば、店舗の家賃は要らないですし、様々な経費が浮く。単純に考えれば、経費が大きく減るから、もっとレコードを安く販売できます。多くのお客さんにとってはそっちの方が嬉しいことですよね。とはいえ、そもそも僕がこの店を始めたのも、この店があったからですし、たくさんの大切な出会いがありました。お客さま同士でも、そういったことがあります。店舗があるからこそですよね。

そうですよね。

あと簡単な例だと、レコードを実際に触れて選ぶのも、店じゃないとできないですよね。店でレコード見るのって、僕にとってはそれ自体〈遊び〉なんですけど、パソコンじゃ同じ体験はできませんよね。

はい。

でも実際は、その遊びは、今はあまり求められてはいないかもしれません。僕が知る限りでは。この楽しい遊びをどうやって提案していこうか、どうやったらわかってもらえるか、それも考えています。余計なことかもしれませんけど。でも店を始めた当初から、小さな目標を決めて、ちょっとずつ変えながら、ここまで来たので、この流れを続けていきたいですね。レーベルを始めたのも、そのひとつですし。

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はい。それに、これだけレコードがあったら、サクサクのしがいもありますしね。

はい。めちゃくちゃ楽しいんだけどなぁ(笑)。

ちなみに店内あちこちにある『箱から出したレコードは、お手数ですが、カウンターまで、お戻しください』のポップですが、そこまでアフターサービスされているんですか?

いえいえ、これは超重要事項です! 本来と別のところに入れられちゃうと大事件になるからです! こんだけあるから、なかなか見つけられなくなるんですよ!

ああー! レゲエにはジャケットもないし!

店内全て捜さなければなりません。とんでもない時間がかかります。なので、これだけは絶対に守ってください。新規のお客さまも、そこだけはお願いします(笑)。

Reggae Shop NAT
〒160-0023 東京都新宿区西新宿7-9-5 オークプラザ1F
tel:03-5337-7558
営業時間:13:00~20:00 年中無休

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レコード屋の言葉:第1回〈中古レコードのタチバナ〉