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ISに破壊されたパルミラ遺跡の現状とアサド政権の駆け引き

ISに破壊されたパルミラ遺跡の現状とアサド政権の駆け引き 2016年3月27日、日曜日、バッシャール・アル・アサド大統領率いるシリア軍が都市遺跡パルミラをISから奪還した。考古学者、古代遺跡専門家を含むシリア当局は、ほぼ1年に及ぶISの支配期間中に破壊された、同遺跡の被害調査を開始した。

2016年3月27日、日曜日、バッシャール・アル・アサド大統領率いるシリア軍が都市遺跡パルミラをISから奪還した。考古学者、古代遺跡専門家を含むシリア当局は、ほぼ1年に及ぶISの支配期間中に破壊された、同遺跡の被害調査を開始した。

大規模な略奪や粉砕の跡が随所に見受けられるものの、ローマ時代の都市構造はそのまま残っているようだ。国連は3月28日、できる限り早急に特命大使を現地に派遣する意向を表明した。

2015年5月、IS戦闘員により、パルミラ遺跡とタドモル(Tadmor)と呼ばれる現代都市から政府軍が追放された。地方の役人、国連の文化機関ユネスコを恐慌状態に陥れるために、過激武装組織は、都市の中でも最大規模を誇る最も有名な建造物であり2千年の歴史をもつベル神殿ほか、バールシャミン神殿など、複数の建造物を爆破する戦闘員の画像とビデオを、インターネット上で公開した。オアシスにあるほとんどの建造物は、パルミラ付近にローマ帝国との国境があった、西暦1~2年に建てられた。

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2015年8月、国連が撮影した衛星写真により、ベル神殿が瓦礫と化しているのが確認された。しかし、周囲の壁は元の状態のまま残っているように見えた。同年10月、ローマ帝国がペルシャ軍との戦いの勝利を祝して建立した凱旋門が破壊された。ベル神殿はISにとってイスラム的ではなかったが、宗教建築であった。しかし、凱旋門はそうでなかった。

ユネスコのジョヴァンニ・ボッカルディ(Giovanni Boccardi)文化局防災担当主任は、「破壊された神殿は地域の神々に捧げられたものであり、そこでは帝国内にある他の神殿とは異なる礼拝、慣習が日常化していた」と解説する。「(パルミラ遺跡は)世界最大の古代遺跡の1つである。中東有数の重要な遺跡であるのは言うまでもない。ローマ帝国内の他都市とは異なり、ギリシャ・ローマ風の外観構造にもかかわらず、内部にはそれとはまったく異なる風情と特徴があった」

政府軍による都市の奪還が発表された翌日、政府の文化財博物館総局マーモン・アブドルカリム(Maamoun Abdulkarim)局長は、芸術品と建造物の約80%は以前の状態のまま残っている、と報告した。

「中央道、広場、円形劇場、四面門、要塞など、都市の全景はそのままだ。ベル神殿の壁と門、そして聖所の巨大な扉も立ったまま残っている」

しかしボッカルディ文化局防災担当主任は、都市の博物館内部に大規模な損壊が認められる、と報告した。2015年、ISによる都市制圧に先んじて館職員が避難したため、大規模な収蔵品の多くが、ダマスカスに移動させられず、置き去りにされた。

「過去数日間で入手した衛星写真から、すでに損壊が判明していた物だけでなく、博物館の内部もひどい状態であるのが判明した。破壊された像の破片が床に散らばっている」

「すぐにでもパルミラを訪ね、より綿密な調査を実施したい。しかし現時点では安全性が確保されているのかすらわからない。もちろんシリアの文化財保護当局と連絡を取り、随時確認するつもりだ」

アブドルカリム局長は、2世紀に建てられ、博物館の入口に設置されていた〈アッラートのライオン(Lion of al-Lat)〉像も跡形もなく消失している、と報告した。

「博物館の内部は裁判所の地下牢のような状態で、遺跡附近にあるイスラム寺院2ヵ所も爆破された。また、多数の塔墓(石でできた分骨塔)も破壊されていた」

2015年5月のISによる都市制圧により、シリア政府軍の弱体化がささやかれた。アサド大統領は当時、その理由について、西側の人口集中地域を保護するためには砂漠の居留地から軍を撤退せざるをえなかった、と説明した。

約1年が経過し、現地の情勢は大きく変化した。昨年の秋、ロシアが反政府勢力の陣地を標的に爆撃を開始すると、シリアの同盟軍と民兵は、アレッポなどで続々と勝利を収めた。ロシア軍による爆撃下で壁際に追い詰められたシリアのIS、アルカイダ系ヌスラ戦線以外の反政府組織は、2016年2月末、国連の仲介による敵対行為停止に合意した。散発的な違反は見受けられるものの、この合意は、今日まで概ね守られている。

合意により、2015年5月以来続いていたIS優位のパワーバランスが覆された。政府軍は、他の地域で繰り広げられていた、より穏健な敵対勢力との戦いの鎮静化により、パルミラへの軍事力集中が可能になった。一連の戦況変化は、軍事的勝利だけでなく、広報的成功にもつながった。

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ISは、都市占拠を自ら大々的に報道した。同組織は、パルミラでの破壊、略奪行為を喧伝するなか、イラクとシリアの支配地域で略奪した文化遺産を売却しようとした。そういった行為は、ISによる支配が始まる以前からシリア各地で頻発していた。このような営利行為は、あらゆるテロ組織がイスラム教出現前から存在する芸術品に関して公言している内容とは矛盾する行為である。

シリアの文化遺産保護当局の前職員であり、現在は米国で教職に就いているアムル・アル・アズム(Amr al-Azm)氏は、ISが〈首都〉と自称するシリアのラッカ、トルコの闇市場に流された、パルミラから強奪された様々な芸術品に関して記録された文書を目にしたそうだ。目録の中には、ISによる占拠が開始される前に盗まれたものも含まれていたらしい。その事実は、内戦開始以来、シリア政府職員が略奪行為に手を染めていた事実を物語っている。

アズム氏は「(政府とISの)両者が略奪し、暴利を貪ってきた」と断言した。

文化財博物館総局のアブドルカリム局長は、十分な資金があればシリア政府は損壊したモニュメントを再建できるだろう、と予想する。

「バールシャミン神殿、ベル神殿、凱旋門のほか、多数の塔墓を再建する予定だ。まずは損壊の程度を調査し、2つの神殿復旧と再建に再利用できる資材を選定し、必要であればパルミア採石場から切り出した石で補修する」

アズム氏は穏健派を支援する方向に切り替える方針を発表し、今月の戦闘により、最小限の被害でIS駆逐が実現したことに、喜びを露にした。

「何よりも、激戦に発展するのを怖れていた。戦闘に適した地形の凱旋門周辺を中心に徹底的に破壊されるのでは、と予想していたが、驚くべきことに、そして喜ばしいことに、恐れていたほどの結果には至らなかった」

しかしアズム氏は、パルミラを奪還したアサド政権に好意的な報道に眉を顰める。「アサド政権はここ1~2年、ISに替わるであろう反政府勢力の排除に、計画的に取り組んでいる」

「遺跡再建の意思表明は政権に有利にはたらく。つまり、政権は国際的な評価を回復し、ユネスコは相好を崩すだろう」