ドレイクが次に取り入れるのはインド訛り?

ドレイクはこれまでも色々な発音、訛り、世界中のスタイルを多用してきた。そんな彼が次に取り入れるのはインド訛りだと私は予測する。
Ashwin Rodrigues
Brooklyn, US
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
Drake
Image via Getty

本記事の執筆当時(8月12日)、ビルボードホット100にはカナダ出身のラッパー、ドレイクの楽曲が4曲ランクインしている。「Toosie Slide」では鷹揚とした声でTikTokダンスをレクチャーし、「Popstar」ではヴァレーのラップに似た、スタッカートの効いたリラックスしたラップ、「Greece」ではザ・ウィークエンドを彷彿とさせる歌声、「Life is Good」ではドレイク印の「アクセントのない」フロウ…。彼はそれぞれの楽曲でまったく違う表情を見せている。彼は8月7日に公開されたポップカーンの最新アルバム『Fixtape』の収録曲「Twist & Turn」にも参加し、ポップカーンのアクセントを模して歌っている。ドレイクはこれまで、世界中のあらゆるスタイルや発音をビュッフェ形式で食してきた。まだ登場していないのはインド訛りくらいかもしれない。

今年7月に発表されたヘッディー・ワンとの最新のコラボレーションでは、「Arabic ting(アラブ系の女)」について歌うヴァースでアラビア語を織り交ぜた(CNNによれば、「俺たちいっしょにいたほうがイケてるぜ」という意味だそうだ)。2018年のバッド・バニーとのコラボ曲「Mia」では、ロメオ・サントスとコラボした「Odio」以来のスペイン語に挑戦し、NPRはそれを〈ドリクア(Doricua:Drake+boricua(〈プエルトリコ人〉を意味するスペイン語))〉と称した。〈THE FADER〉のコントリビューターでトロント生まれのロウィヤ・カメイアは、アルバム『If You're Reading This It's Too Late』でドレイクが使用した「強いカナダ訛りと西インド諸島のアクセントの中間」にあるような発音について、「トロントの黒人のスタンダードな話し方」と述べた。また、彼がVine動画で披露した英国訛りのフレーズは、スケプタが「Shutdown」の冒頭にサンプリングし、作品として永遠に残ることになった。

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ドレイクはこれまでも色々な発音や訛りを多用してきたが、『大乱闘スマッシュブラザーズ』のカービィのように、他文化を吸収してイノベーションを起こす余地はまだあると私は思う。

ドレイクは〈マシン〉だ。例えるならFacebook。面白いネタやトレンドを見つければ、彼はそれらを現在進行中の作品に組み入れてアップデートする。そんな彼が次に取り入れるのはインド訛りだと私は予測する。

インドってヨガやターメリックだけじゃないんだ、と世間が気付き始めているきっかけは、今流行りのNetflixシリーズ『今ドキ! インド婚活事情』。スーパー仲人の女性が、全てのインド人、インド系米国人にふさわしい人生の伴侶を見つけるシリーズだ。論理的に考えれば、ドレイクは次の作品でインド訛りを取り入れ、私たちの文化を次のレベルへと引き上げてくれるはずだ。しかし、そこでひとつ実存的な問題が生じる。ドレイクが作品に取り入れていない訛りは、存在しているといえないのか? インド系のひとびとは〈V〉と〈W〉の発音に区別をつけない傾向にあるが、もしドレイクがOVO(彼自身が手がけるファッションブランド)を「オーウィーオー」を発音してくれれば、『今ドキ! インド婚活事情』の人気が廃れても、インド訛りは世間の記憶に残り続けることになるだろう。

彼がインド訛りを適切に取り入れることができれば、ボリウッド作品の言葉にももっと注目が集まるようになるだろうが、もし下手なことをすれば、ラップ界のハンク・アザリア(※『ザ・シンプソンズ』で南インド出身のキャラクターを演じ、降板となった声優)になってしまう危険もある。しかし、10億人を超えるヒンディー語話者がオーディエンスとなるメリットはいずれにせよ大きいので、挑発する価値はあるかもしれない。もちろん、インド志向になるドレイクに100%賛同できないひともいるだろう。著名なドレイク専門家たちも、こういう彼の「意図的な」ムーブを手放しで賞賛してはいない。ファンならば、彼の行動をマフィアのボスのような大胆な決断としてとらえるかもしれないが、ファンじゃなければ、あるグループを対象とした、まがいものの策略にしか思えない。

近年、自らが育ってきた文化以外の他文化を〈借りる〉ことへの意識が高まっている。ある文化にオマージュを捧げることと、単純に注目を浴びるための意匠として用いることには大きな違いがある。ドレイクがインド文化を取り入れることに怒るインド人もいるだろうが、多くはオーブリー・ドレイク・グラハム…改めオーブリー・ドレイク・ガラム(※インド語で「暑い」「熱い」の意)を歓迎するだろう。私たちの文化を、ドレイクにしかできないやり方で讃えてくれるのだから。