『マッドマックス 怒りのデス・ロード』via YouTube

なぜ同じ映画を何度も観るのか

10月のある金曜の晩、9回目の『ダンケルク』を観るために、夜行バスで大阪に向かった。同じ映画を観るために劇場に通い始めたきっかけは、2015年公開の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。映画の特質や上映形式などをもとに、〈同じ作品を映画館で何度も観る理由〉を考えてみた。

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dec 26 2017, 7:17am

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』via YouTube

10月のある金曜の晩、夜行バスで大阪に向かった。目的は、大阪エキスポシティの『ダンケルク』(Dunkirk, 2017)IMAX次世代レーザー上映だ。来年のアカデミー賞で、同作が受賞、または、ノミネートされるだけで、おそらく再上映されるだろう。だが、最初の上映期間が終わる前に、どうしても、1度でいいからIMAX次世代レーザーを体験したかった。

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私は、ここ数年で、同じ映画を観るために映画館に通うようになった。きっかけは、2015年に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(Mad Max: Fury Road)だ。待望のシリーズ新作だったので、一部の映画ファンが沸き立っているのは知っていたが、前作も観ておらず、新作を観るつもりはなかった。しかし、公開後2週間が過ぎた頃、友人に誘われるままにチケットをとり、映画館に足を運んだ。映画が始まった瞬間、没入感に圧倒されてしまった。いったん、映像や音響云々という話は抜きにして、映画で〈トリップ感〉を体験したのは、この作品が初めてだった。帰りの電車で、勢いのままに次週のチケットを予約した。

それから1年、長らく続いた『マッドマックス』のリバイバル上映が終わりを迎える頃、『シン・ゴジラ』が公開された。こちらも、ほぼ前情報なく観たのだが、またしても、映画館に通うことになった。振り返れば、『マッドマックス』は11回、『シン・ゴジラ』は7回観た。この2作品のように劇場に足を運びたくなる映画は、もうないだろうと思っていた。しかし、『ダンケルク』が公開されてしまった。冒頭に記したように、私は、『ダンケルク』に駆り立てられて、夜行バスに乗り込んだのだ。

この話をすると大抵の友人には呆れられるか、少し引かれる。私自身も『マッドマックス』以前は、好きな作品をDVDで数回観ることはあれ、わざわざ安くない料金を払って劇場で繰り返し観るなんて想像もしていなかった。ところが、大ヒットを記録した『アナと雪の女王』(Frozen, 2013)のリピート鑑賞率は約10%、そして、『君の名は。』(2016)を観た20代男性の4人に1人がリピートした、という統計もある。気に入った作品を観るために、一定数が劇場に複数回足を運ぶようなので、〈同じ作品を映画館で何度も観る理由〉について考えてみたい。

そもそもなぜこの3作品だったのか

私は、映画館で何度も観る作品を、1年に1本、と決めているわけではない。今年2017年は『マグニフィセント・セブン』(The Magnificent Seven, 2016)に始まり、『キングコング:髑髏島の巨神』(Kong: Skull Island)、『関ヶ原』、『スパイダーマン ホームカミング』(Spider-Man: Homecoming)、『ベイビー・ドライバー』(Baby Driver)、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(Thor: Ragnarok)など、リピーターを呼ぶ話題作がたて続けに公開された。それ以前にも、『パシフィック・リム』(Pacific Rim, 2013)を始め、『キングスマン』(Kingsman: The Secret Service, 2014)や『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015)など、熱狂的なファンを生み、何度も再上映された作品は多種多様だ。そんななかで、なぜこの3本だったのだろうか。

その理由は、キャラクター描写の少なさに由来するのかもしれない。まず、『マッドマックス』には、時折、フラッシュバックのようなカットが挟まれる以外、トム・ハーディ(Tom Hardy)演じるマックスの過去をうかがえる場面はほとんどない。他のキャラクターも、彼ら自身の言葉で生い立ちが語られるシーンは非常に少ない。何よりもまず、台詞が少ない。ジョージ・ミラー(George Miller)監督自身がヒッチコック(Hitchcock)の言葉を引用して、「字幕なしでも日本人にわかる映画」と称しているくらいだ。

いっぽう『シン・ゴジラ』では、役者は長ったらしい台詞を物凄い勢いで捲し立てる。さらに「字幕なしでわかる」どころか、邦画なのに大量の字幕が、明らかに目で追えないスピードで切り替わっていく。しかし、登場人物たちの情報は、氏名と肩書きが明かされるだけで、どんどん物語が進む。

そして、3本目の『ダンケルク』は、キャラクター描写が3作品のなかで最も少ない。内面はおろか、名前すら明かされないキャラクターもいる。そもそも、主人公の名前であるトミー(Tommy)は、〈英国陸軍兵士〉を指す単語でもある。

3作品ともに、キャラクター描写がかなり削ぎ落とされている。描写が少ないと、観客の想像の余地が広がる。私は、それで十分なカタルシスを得られるのだが、これを長所と捉えるか、感情移入しにくいと捉えるかは、個人差だろう。私は、繰り返し観て、ストーリーや人間模様を掘り下げて楽しんだ。また、この3作品にはそれぞれ〈敵〉が登場する。マックス(Max)やフュリオサ(Furiosa)たちであれば〈イモータン・ジョー(Immortan Joe)〉、矢口を始めとする巨災対は〈ゴジラ〉、英国兵たちは姿の見えない〈ドイツ兵〉に攻撃される。しかし、それぞれの個人が、誰のために、何のために闘うのか、劇中では、はっきりとは明かされない。マックスは、イモータン・ジョーの妻たちに死んだ仲間を重ねていたのかもしれないし、巨災対のメンバーやトミーたちも、家族、友人、恋人のため、または、何らかの大義名分のもとで闘っていたかもしれないが、少なくとも、彼らの口からは何も語られない。そのおかげで、繰り返し観ることで映画の世界により深く入り込み、新たな要素を発見できる。

なぜ映画館で観るのか

NetflixやHuluを始めとするネット配信が当たり前になった昨今、好きな映画を観るために外出する必要はない。未配信の最新作も、2回分のチケット代でソフトが手に入る。そんな時代に、あえて映画館に通う理由は何か。私は『マッドマックス』も『シン・ゴジラ』もBlu-rayを購入した。映画館で9回観た『ダンケルク』も、つい先日届いたばかりだ。とはいえ、家で観た回数は、いずれも映画館に通った数を下回る。やはり、映画館で観るからこその良さがあった。

まず、当たり前だが、スクリーンが大きい。ここ数年で増えつつあるIMAXシアターは特にそうだ。難点は、劇場が限られていること、上映期間が短いことだが、『マッドマックス』や『シン・ゴジラ』は、出来る限りIMAX上映で観るようにしていた。だが、それ以上にIMAXの効果を実感したのは『ダンケルク』だった。チケットを予約しようとタイトルを検索すると、「IMAXで観るべき」という言葉が目に飛び込んできた。「IMAX=スクリーンが大きい」程度の知識しかなかったが、調べるうちに『ダンケルク』を通常上映で観るとは、一部のシーンで画面の上下がカットされることがわかった。つまり映画館でしか観られない画があるのだ。

通常上映、通常のIMAX、IMAX次世代レーザーの順にスクリーンが広がっていく。

通常上映、通常のIMAX、IMAX次世代レーザーの順にスクリーンが広がっていく。

上の画像GIFからもわかるように、通常のIMAX上映でも上下がカットされている。フィルムIMAX作品の完全な画を観られるのは、IMAX次世代レーザーだけだが、日本国内には、2017年現在、大阪エキスポシティの109シネマズにしかない。冒頭で触れたように、それこそ、大阪にわざわざ足を運んだ理由だ。劇場に足を踏み入れた瞬間、壁一面のスクリーンに圧倒された。〈1.43:1〉という画角は劇場で体感すると正方形に近く、巨大なインスタグラムのようだったが、映像の鮮明さは群を抜いていた。

スクリーンの大きさに限らず、近年、様々な上映形式が登場している。家庭でも楽しめるようになった3Dはいうまでもなく、匂い、水、座席の揺れなどで五感を刺激する4DXやMX4Dまで登場した。〈音〉の面では、2008年に始まり、今では全国各地に広まった爆音映画祭を始め、立川シネマシティの極上爆音上映や、川崎チネチッタのLIVE ZOUND(ライヴ ザウンド)がある。イベント形式の特別上映としては、発生可能上映、応援上映、絶叫上映などがある。こうした特性によって、同じ映画を観るにしても、ライブのような臨場感を味わえるのだ。なかでも、立川シネマシティは、『マッドマックス』の極上爆音上映にあたり、新たにサブウーファーを導入したという。再上映が繰り返された結果、数十回通った猛者もいるらしい。こういった上映形式の変化や映画館の工夫が、劇場で映画を観るという行為に、新たな価値を付加し、多くのリピーターを呼び込む結果になったのだろう。

これら3本の映画は、数多のリピーターを獲得した。もちろん、3本ともメジャーな製作、配給会社による話題作であり、数々の映画賞受賞、ノミネートをきっかけに再上映されたのも、リピーター獲得の要因だろう。公開終了後も何度かリバイバル上映が決まり、その度に、根強いファンで席が埋まった。この現象の背景には、SNSがひと役買っている。単に作品の感想を綴るだけでなく、『マッドマックス』では、ウォーボーイズの合言葉である〈V8〉をもじって〈V5〉や〈V14〉、『ダンケルク』では〈5ケルク〉〈14ケルク〉という言い回しで、SNSのプロフィール欄に鑑賞回数を示すユーザーが増加した。その結果、ある意味、鑑賞回数がステータス化して、リピーター・ブームを後押ししたのだろう。

ここまで延々と、リピート鑑賞に至る理由を挙げてきたが、映画館で繰り返し観る醍醐味は、個人的には〈予定調和〉にあると思う。たとえるならジェットコースターだ。落ちるタイミングやスピードが予めわかっていても、スリルや興奮を味わえる。「結末がわかっているのにどうして観るの?」とよく訊かれるが、誰もがサプライズを期待して映画を観るわけではないはずだ。繰り返し同じ物を観たり食べたりするのは、対象が惹起する笑い、興奮、リラックス効果を求めるからだ、という研究結果もある。3作品の内容は、リラックスからは程遠いかもしれないが、展開がわかっているだけに安心して楽しめるのは確かだ。〈予定調和〉には、映画館という環境が必要不可欠だ。家ではそもそもジェットコースターには乗れない。大きなスクリーンと音響設備の整った映画館でこそ、〈予定調和〉は、真に迫る体験になりうる。

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IMAXやMX4Dなどに加え、爆音上映を始めとする劇場側の工夫によって、映画館での鑑賞は、体感する〈アトラクション〉へと進化しつつある。さらに、SNSでの拡散、鑑賞回数のステータス化が、動員数を伸ばす新たなきっかけになったのだろう。ここ数年、劇場の入場者数はほぼ横這いだが、1人あたりの鑑賞本数増加を示す統計もある。これからも、映画上映の技術やフォーマットが発展し、映画に合わせた上映形式が多様化すれば、劇場での鑑賞に価値を見出す観客、リピーターが増えるだろう。年末の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』が公開され、年明けも『キングスマン』を始め、この先も多くの話題作が公開を控えている。話題にならずとも、SNSなどであっという間に情報が拡散されるので、未知の作品との出会いもあるかもしれない。家で手軽に映画を観られる今だからこそ、お気に入りの1本を心ゆくまで楽しめる劇場での体験を大切にしたい。

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