All photos by Rob Williamson

インドピザのゴッドファーザー

オープン当初は、古き良きニューヨークスタイルのピザをスライスで販売していたが、「まかないのピザで、ちょっと遊んでみた」と彼は語る。「僕の生地は、誰にも真似できない。誰もつくり方を知らない。秘密なんだ」

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24 January 2018, 6:00pm

All photos by Rob Williamson

ご当地絶品グルメ〈インディアン・ピザ〉が生まれた飲食店〈ザンテ・ピザとインド料理(Zante Pizza & Indian Cuisine)〉のオーナーとして君臨する、ボリウッドの心やさしき見栄っ張りなシャー・ルク・カーン(Shah Rukh Khan)と、スフィンクスのような冷静さの若き日のオマル・シャリーフ(Omar Sharif)を足して2で割らない、黒髪で年齢不詳の怪偉丈夫〈ミスター・ザンテ〉がヤバい、という都市伝説がサンフランシスコではまことしやかに囁かれている。これは、私のヨタ話だが、とある金曜の午後、私にひと切れのチキン・ティッカ・マサラ・ピザをサーブしてくれた男性の話は、どうやら本当かもしれない。

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筆者が体験済みなので信じていただきたいのだが、信じられないくらい二日酔いに効く、イタリアンとインディアンのフュージョン・メニューを開発し、毎朝、調理しているのは、デリバリーのシン(Singh)だ、と彼はいう。シンは、17時であれば店にいるらしい。後日、インタビューのために店を訪ねると、彼の話がヨタだったとわかり、私は安心した。店のオーナーであるトニー(Tony)は、笑っていた。「誰だ、そんなこといったのは? あいつは何も知らないよ!」

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北インド出身のトニーは、シャー・ルク・カーンというよりも、ジェームズ・ガンドルフィーニ(James Gandolfini)だったが、年齢不詳さ加減は、想像通りだった。ダルヴィンダー・ムルタニ(Dalvinder Multani)、と本名を教えてくれたが、物心ついたときには既に〈トニー〉だったという。

「〈トニー〉は〈ムルタニ〉からだろうけど、いつのまにか〈トニー〉だよ」

米国に移住した当初、トニーは、〈グロリア(Gloria Pizza)〉で料理人として働き、ピザ生地をこねていた。グロリアは、かつて、クイーンズで営業していた伝説のピザ屋で、最近、フォレストヒルズで復活したばかりだ。1986年、トニーは、自らの店のオープンを夢見てサンフランシスコに移住し、同年、ザンテを購入した。イタリア料理屋なのに、ギリシャの小島にちなんだ〈ザンテ〉という屋号を選んだオーナーの引退がきっかけだった。

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オーナーとギリシャ人大家への敬意と、鋭いビジネスセンスを信じて、彼は屋号を継いだ。オープン当初はグロリアと同じく、古き良きニューヨークスタイルのピザをスライスで販売していたが、トニーの実験精神がすぐに目覚めた。彼は、「まかないのピザで、ちょっと遊んでみたんだ」と語る。「僕の生地は、誰にも真似できない。誰もつくり方を知らない。秘密なんだ」。そしてトニーは、声のトーンを落とした。「ピザには、好きなものを何でもトップしていいんだよ」

ザンテのインディアン・ピザは、通常、スライス売りだ。しかし、サンフランシスコの好景気に浮かれたテック企業の爆買いが増えたので、ザンテでは、丸々1枚予約するとお得なプランも用意している。〈ベスト・インディアン・ピザ – ベジタリアン〉、〈ベスト・インディアン・ピザ〉は、どちらも、以前から地元で大人気だ。その他にも、チキン、パニール、それぞれのティッカマサラ・ソース・ピザ、〈ベスト・インディアン・ピザ – ビーガン〉などのメニューがある。ほうれん草のカレー・ソースをベースに、細切れの紅く輝くタンドリーチキン、青ネギ、ナス、コリアンダー、その他いろいろなインド料理の食材がちりばめられた様は、ごく普通の焼きたてラージ・ピザにいたずらっ子が紙吹雪を撒き散らしてしまったような賑やかさだ。ピザをカウンターで食べると、必ず、金属容器に入ったタマリンドとミントのシンプルなソースがついてくるので、是非、店で食べていただきたい。

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最近のザンテのビジネスのほとんどは、サンフランシスコの金満テック企業へのデリバリーだ。大口注文への対応、料理人の欠勤がなければ、トニーが厨房に立つのは、週一度、火曜日だけだ。火曜日には、彼とスタッフが営業状況を確認するためにミーティングしている。

色褪せた2007年のザガット・サーベイによるレビューが額に収められ、入口の壁にかけられている。それを読むと、ザンテの〈奇妙な雰囲気〉が容赦なく描写されているが、確かに、店内は、時間の流れが止まっているかのような雰囲気だ。私がパニールとほうれん草のピザふた切れを食べた、タイル貼りのカウンター、その上にある、シーリングファンの木目調の羽根にはホコリひとつない。

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清潔なホールは、トニーのプライドの現れでもある。ホールの壁には、満点などまずありえない衛生検査証明書のコピーがなんと6枚も、これ見よがしに貼りつけてある。ザガットのレビューで〈ダサい内装〉と評された店内は、20世紀を知る面々にとっては、ホッとする雰囲気だ。40年前のインディアン・ピザ屋もこんな感じだったのだろう、と想像させる内装だ。たとえば、青を基調としたテーブルセッティング、俗っぽいポスター、キングフィッシャーやフライングホースなど、インドビールの販促ミラーのコレクションなどなど。

店内は、時間が止まったかのようだが、店の外、ミッション地区は、ザンテがオープンした1986年とはまったく様相が異なる。トニーは、「店をオープンした当時、この辺りは、かなり危険だった」と語る。「ケンカもあったし、発砲騒ぎもあった。この店は、一度もトラブルに巻き込まれていないけれど、隣の店には強盗が入り、全員が後ろ手に縛られてしまったから、僕たちがほどいてあげたんだ」

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かつては単なる〈ビーチへの抜け道〉でしかなかった〈リトル・サンタ・クルーズ〉も、急速に変化している地区だ。トニーが『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネ(Michael Corleone)だとしたら、〈ゴールデン・ゲート(Golden Gate Indian Cuisine & Pizza)〉のオーナー、スカ・G.(Sukha G.)は、間違いなく、フレド・コルレオーネ(Freido Corleone)だ。スカの語るストーリーは、無一文から身を立てる移民譚だが、そこに、料理店主ならではの口上がトッピングされるので、非常に興味深い。自らを〈スカ〉、時折、シーク教徒が自らの信仰心を示すために使用する〈シン(Singh)〉と称し、彼は話し続けた。しかし、元妻との離婚の話題になると、話を止めて内省し、「オフレコで頼むよ」と再開した。

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サンフランシスコに移住する以前、スカは、ドイツのイタリアン・レストランで働き、皿洗いから料理人にまで登りつめた。そこで、ピザ、ティラミスなどのイタリア料理を覚えたという。米国では、就労ビザを取得していなかったので、タラヴァル・ストリートにある飲食店でこっそりピザをつくっていた。現在は離婚したが、結婚すると、彼は、ゴールデン・ゲートで働き始めた。どうしても自分の店を持ちたかった彼は、そこで、オーナーにお願いした。

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「1ヶ月くらい働いてから、オーナーに、もし店を売りたくなったら教えてください、って頼んだんだ」とスカは当時を回想する。ゴールデン・ゲートには、既に、紅く色づけられた半生のナスとほうれん草ソースのオリジナル・インディアン・ピザがあったが、1996年、彼が店のオーナーになると、彼は、さらなるオリジナル・レシピを生みだした。それ以来、ゴールデン・ゲートが「史上最高に美味しい」と控えめに紹介するピザを、彼とキッチン・スタッフ4人でつくっている。

スカの話をトニーにしたところ、トニーは優しく笑った。「本当に! アイツ、ここで1年半働いてたんだよ」

ザンテの影響は、近いところではカリフォルニアのサニーベール、遠いところではシアトルにまで及ぶ。トニーによると、ザンテがグローバルな人気を獲得したのは、2010年、クッキング・チャンネルの『United Tastes of America』で紹介されてからだという。

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「日本人の男性が来て、『どうやったらこんなの閃くんですか? 夢でも見たんですか?』っていうんだ。タナカさんだったかな。名前も覚えてるよ」

他にも、印象深いファンがいたらしい。「南アフリカから来た女性は、僕のことをテレビで観たらしい。そしてサンフランシスコに着いたときに、タクシーの運転手に『ザンテまで連れてってください!』ってお願いしたみたいだよ」

トニーは、今のビジネスに長く関わりすぎたので、今さらフランチャイズ化するつもりはない、と打ち明けた。生まれてこのかた、ずっとザンテを経営しているような気分だ、ともいう。街の反対側にあるインディアン・ピザ店〈Preet Palace〉では、ゴールデン・ゲートで4年間修行したアフメド(Ahmed)がティッカを並べた丸い生地の上に具材を並べ、注文の電話を待ちながら、フィルモア・ストリートのぶっきらぼうな街並みを眺めている。

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「みんなに、『インドのピザはこんな感じなの?』って訊かれるんだけど、違うよ。これは、この店で生まれたピザなんだ。ここでしか食べられないよ」とトニーはニコっと笑った。


This post previously appeared on MUNCHIES in April, 2015.

This article originally appeared on VICE US.