1997年より毎年公開されている、〈劇場版名探偵コナン〉では、爆発シーンが頻出する。飛行機事故による航空燃料への引火爆発、メタンガスを利用した爆発など、爆弾が原因ではない爆発もあるが、複数の作品で、犯人は〈プラスチック爆弾〉を使用し爆発を起こしている。なぜ犯人は、プラスチック爆弾を犯行に使用するのだろうか?

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なぜコナンが追いかける犯人は〈プラスチック爆弾〉を使うのか

軍事評論家にもろもろ伺いました。Q:12作目『戦慄の楽譜』の冒頭シーンで、プラスチック爆弾により2人が死亡、1人が重傷を負う事件が起きています。この爆発では、どのくらいの量のプラスチック爆弾が使用されたと考えられますか?

「真実はいつもひとつ」の決め台詞で知られる、青山剛昌原作の大人気シリーズ、〈名探偵コナン〉の劇場版最新作『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018)が、興行収入72億円を突破し、昨年公開された『名探偵コナン から紅の恋歌』(2017)の興行収入を上回った。シリーズ22作目となる今作では、東京サミットの開催会場である超巨大施設〈エッジ・オブ・オーシャン〉を狙った大規模爆破事件が発生し、名探偵の毛利小五郎が犯行の容疑をかけられ、身柄を拘束されてしまう。父の突然の逮捕に、小五郎の娘、毛利蘭はショックを隠せない。主人公の江戸川コナンは、疑いをかけられた毛利小五郎のため、そして愛する蘭のため、事件の真犯人を追う。

今作も含め、劇場版名探偵コナンは、爆発シーンが頻出する。飛行機事故による航空燃料への引火爆発、メタンガスを利用した爆発など、爆弾が原因ではない爆発もあるが、劇場版名探偵コナン全22作品のうち、20作品でなんらかの爆発が起こり、うち数作品で、犯人は〈プラスチック爆弾〉を使用している。シリーズ1作目『時計仕掛けの摩天楼』(1997)での「青みを帯びたオレンジ色の閃光は、プラスチック爆弾の特徴だ」というコナンのセリフで〈プラスチック爆弾〉という言葉を初めて耳にしたコナンクラスタも多いだろう。

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なぜ犯人は、プラスチック爆弾を犯行に使用するのだろうか? 謎を解くため、かのよしのり氏(元自衛隊員・軍事評論家)に連絡をとった。

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犯人が使用する〈プラスチック爆弾〉とは、何なのでしょうか?

プラスチック爆弾とは、プラスチックでできている爆弾ではありません。粉末である爆薬をワックスなどの油脂に練り込んだ、粘土状の柔らかい爆弾です。粘土状にすることで、爆弾の大きさや形を手で自由に変形できるようになります。ようかんのように紙などで包装されていて、全体量の半分だけを使用したり、2包み、3包みの爆弾をひとつの塊に練り合わせて使用することもできます。

犯人はなぜ、プラスチック爆弾を使用するのでしょうか?

おそらく、アニメやドラマでプラスチック爆弾が使用されるのは、プラスチック爆弾が爆弾と気付かれにくい、という点が大きいでしょう。爆弾の見た目は本当に粘土のようで、素人には爆薬だと判断できません。植木鉢にでも入れて、そこに植物を刺しておけば、素人が爆弾を発見するのはまず無理です。プラスチック爆弾は、手で自由に変形できますので、例えば鉄の扉の蝶番だけを爆破させたりと、芸の細かい爆破に向いているんです。ただ、大規模にドカンと爆発させるのであれば、例えばダイナマイトなどを用いてもいい気がしますね。

しかし、ダイナマイトよりもプラスチック爆弾のほうが、爆弾だと気づかれにくいんですよね?

ダイナマイトときいて、筒状の爆弾をイメージするかもしれませんが、プラスチック爆弾と同じように柔らかい材料を紙やビニールに包んで筒状にしています。包装を剥がしてしまえば、ダイナマイトもプラスチック爆弾も似たようなものです。ただ、プラスチック爆弾は、ダイナマイトよりも軍事用途の使用を想定していますから、気温の変化で変質しにくいです。ダイナマイトは、気温が低すぎると爆発しなくなり、逆に暑すぎると、ダイナマイトの主剤である〈ニトログリセリン〉がにじみ出てきてしまいます。

爆弾についての知識が浅い素人でも扱いやすい爆弾だから、犯人はプラスチック爆弾を使用するのではないですか?

プラスチック爆弾の製造には、専門的な知識が必要なので、素人がつくりやすい、爆弾の材料が手に入りやすい、ということはありません。プラスチック爆弾を爆発させるには〈起爆用雷管〉が必要で、起爆用雷管なしで着火しただけでは、ただ燃えるだけで爆発はしません。起爆用雷管も、素人が簡単につくったり手に入れるのは困難です。もし本当に起爆用雷管を手に入れるなら、犯人は爆薬を扱っている工事現場や会社から盗むほかありません。

プラスチック爆弾に時限装置を搭載することは、現実的に可能なのでしょうか?

時限装置自体は、市販されているさまざまなタイマーや、時計の改造で簡単につくれます。電気雷管に乾電池1本程度の電流を流せれば、時限装置は成立します。ただし、犯人はその電気雷管をどこかから盗まなければなりませんね。

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シリーズ第1作『時計仕掛けの摩天楼』(1997)では、最初の犯行にプラスチック爆弾を使用した犯人が、ラストで建築物に時限爆弾を仕掛けます。時限装置が搭載されたプラスチック爆弾を解体する場合、劇中に出てくるようなカラフルなコードを1本1本切っていくことになりますか?

「俺の爆弾を処理できるか?」という挑戦をしたい愉快犯が、特別な仕掛けをしない限り、こんなに複雑な配線にはならないです。それに、〈後何分で爆発します〉とわかりやすく数字を出す必要もないですよね。この犯人は、爆弾の設計図に2本のコードをわざと書いていませんし、挑戦がしたくて、かなり頑張って仕掛けをつくったのではないか、と思います。

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12作目『戦慄の楽譜』(2008)の冒頭シーンで、プラスチック爆弾の爆発により2人が死亡、1人が重傷を負う事件が起きています。この爆発では、どのくらいの量のプラスチック爆弾が使用されたと考えられますか?

もし犯人の目的が〈建物を破壊する〉ならば、やはり爆弾は何kgも必要です。犯人の目的が〈人を殺傷する〉であれば、爆弾を丈夫な容器に入れ、爆発によって容器の破片を飛び散らせる可能性があります。例えば、ブロンズの置物のなかで爆弾を爆発させ破片を飛び散らせるなら、犯人は半径約10m圏内にいる被害者を殺傷するために、100gほどの爆弾を用意する必要があります。犯人が爆弾を丈夫な容器には入れず、爆風だけで被害者を殺傷する場合は、被害者のすぐ足元で500gの爆弾を爆発させる必要があるでしょう。この爆発だと、犯人はだいたい牛乳パック4、5本の量のプラスチック爆弾を用意したのではないか、と推測します。

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10作目『探偵たちの鎮魂歌』(2006)では、犯人によりプラスチック爆弾が搭載された時計型のIDをつけられてしまいます。犯人は「コンポジション4、つまりプラスチック爆弾が組み込まれていたんです」と発言しますが、〈コンポジション4〉とはなんですか?

〈コンポジション4〉とは、プラスチック爆弾のひとつです。〈C4〉と略されて呼ばれる場合もあります。第二次大戦中にはすでに〈C1〉が使用されていましたが、〈C1〉〈C2〉の段階では、温度の低い環境では爆弾が硬くなってしまい、自由自在に変形できる、という特性が発揮できませんでした。特性を維持できるよう改良され生まれたのが〈C4〉なんです。

20作目『純黒の悪夢』(2016)で、爆弾をみたFBI捜査官の赤井秀一が「C4だ」と発言しますが、あれもプラスチック爆弾なんですね。劇中では、コナンが爆弾を発見しますが、素人でもプラスチック爆弾を発見できるでしょうか?

「爆薬が仕掛けられている」という情報があればともかく、素人ですと発見は困難ですね。爆薬の臭いを嗅ぎ分ける訓練を受けた犬や、探知機材が必要です。最近は、盗まれた爆薬がテロに使われたときに、爆発前に発見するため、国際的な申し合わせで、犬や機械で探知しやすい臭いを爆弾に付けるようになりました。警察などの組織は、以前よりは爆薬を探知しやすくなりましたが、そのせいで起きてしまった事故もあります。2008年、プラスチック爆弾を舐めた自衛隊員22人が急性薬物中毒を起こしたんです。プラスチック爆弾は、舐めると甘いんです。自衛隊員は臭いの成分が有害だと知らずに、舐めてしまったんですね。中毒症状を起こしますので、みなさんは絶対に舐めないでください。

もしプラスチック爆弾を発見したら、被害を最小限に抑えるため、私たちには何ができますか?

被害を最小限に抑えるには、爆弾がどのような場所に仕掛けられているか、対応時間はどのくらいあるか、という状況によって様々でしょうが、例えば、水の入ったドラム缶のなかに爆弾を入れる、という対応も考えられます。しかし、犯人はひねりにひねった仕掛けをしているかもしれません。もし爆弾を見つけたら、警察に連絡して、一般人は避難するのがいちばんです。