変化の兆しのない日本の人種差別問題

「スウェーデンにでも移住したいです。早くこの国を出たいです。あまりに長くいすぎました」
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
8:46, george floyd, racism, Japan
アロンゾは、ジョージ・フロイドさんの死後、日本では人種的不公正は変わっていないと感じる。写真:アロンゾ

東京に暮らす25歳のアロンゾは、日本人と黒人の親のもとに生まれた。休暇のさいに家族と米国で過ごすことはあっても、人生の大半を生きてきたのは日本だ。単一民族が圧倒的多数を占める国で〈ハーフ〉として育った彼は、これまで外国人として扱われ続けてきた。いくら流暢に日本語が喋れても意味がない。ジョージ・フロイドの死亡事件を契機としてブラック・ライブス・マター(BLM)運動が高まった今、彼は西洋世界が変化していくことを、慎重姿勢を保ちながらも期待の目で見つめている。一方、彼自身が暮らす日本は、人種差別が無くなる可能性など微塵も感じられない状態だ。

──日本のBLM運動において、この1年で起きたいちばんの変化は何でしょう。

アロンゾ:正直なところ、日本では何も変わっていないと思います。むしろ悪化していると言えるかもしれない。最近では、IOCが選手による抗議行動の禁止を正式に発表し、アスリートたちは〈BLM〉と書いてあるアイテムは一切着られなくなりました。IOCが一体どんなメッセージを発信したいのか、よくわかりません。

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僕はいまだに職質を受けますし、友人も嫌がらせを受けています。この国では、大きな変化が起こることはないでしょうね。それは日本人が変化を必要としていないからなのか、あるいは彼らが怠惰で、この問題に対処したくないと思っているからなのか、理由は定かではありません。日本は非常に閉鎖的な国で、外国人嫌いの性質があると思います。他の人種は歓迎しないし、知りたいとも思っていない。それは特定の人種にとどまりません。日本人以外のすべての人種に対してそうだと思います。

──人種差別問題において、この1年で「悪化しているかも」と思うのはどういった点ですか?

今の日本では、一般人も警察も、黒人の集団を見かけると警戒しますよね。敵意というわけではないですが、プレッシャー的なものを感じているような気がします。僕らが何かするんじゃないか、という。

──それはジョージ・フロイドの死亡事件、BLMのデモを受けた反応なのでしょうか。

BLMのデモ以来、ポジティブな変化は一切起こっていません。黒人の集団への警戒感ばかりが強まりました。キツいことを言うようですが、日本人は自分自身が人種によって差別される体験をするべきだと思います。アジア系へのヘイトクライムが増加しはじめた時、僕は日本人が人種差別を自分ごととしてとらえるきっかけになるんじゃないかと思ったんです。「君たちは日々こういう体験をしているのか」とわかってもらえるんじゃないかと。だけどこれまで日本では、アジア系ヘイトクライムへの抗議デモ等は起こっていない。ただただ興味が無いんだなと感じています。

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写真:アロンゾ

──ジョージ・フロイド死亡事件以来、あなたの中で変化はありましたか?

今の時点では、こんなことが2021年にもなって起こるなんて最悪だな、と思っています。俺、よく生きてるな、と。半年米国に滞在したことがあるんですが、アトランタで車に乗っていたら警察に止められたんです。今となっては、よく生きて帰ってこれたなという感じです。

今の時代にこんなことが起きるなんて、という驚きは、2014年、タミル・ライスが警官に撃たれて死亡した時以来、ずっと感じています。ジョージ・フロイドの時もそうでした。明らかに不当な力の行使で人の命が奪われているのに、有罪評決が出るのにもかなり時間がかかった。ジョージ・フロイドと彼の遺族には神のご加護があることを願います。今回は遺族が求めたとおりの正義が示されましたが、変革が起きた、とは言えない。彼の死の後ろには、数多くの問題が山積みです。最近になってアジア系ヘイトクライムが増加した事実からも、歴史は繰り返すことは明らかです。

──この1年でいちばん鮮明に記憶に残っていることは?その理由も教えてください。

BLMの抗議デモと同時に、外国人排斥デモが行われていたことを覚えています。〈ブラック・ライブス・マター(黒人の命も大切だ)〉という言葉を、僕らがポジティブなエネルギーを込めて叫ぶ一方、「私たちの国から出ていけ」という言葉を叫ぶ人々がかなりの数いた。それは日本という国の状況を端的に示していました。東京の、人出が多い街でそういう差別的なデモが行われているのに、誰も彼らを制止したり反論したりしないんです。

──今、日本で議論が不足していると思うトピックは何だと思いますか?

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人種全般についての議論ですね。そもそも人種について何か言うことが全く無い。何か言うとすれば、人種がマジョリティにとって厄介な問題となった時だけ、マズい状況になった時だけです。Nikeのコマーシャルとか、八村塁(NBAで活躍するプロバスケットボール選手)が人種差別を受けた時とか。

ニュースで八村選手が受けた差別体験を報じる時も、まるで自分たちの世界の外部で起きているかのような報じ方なんです。自分たちの暮らす世界で起きた、という報じ方はしない。全くの他人事として扱うんです。

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バスケットボールの八村阿蓮選手は、ほぼ毎日のように人種差別的なDM(ダイレクトメッセージ)が寄せられると明かした。写真:Patrick Smith / GETTY IMAGES NORTH AMERICA / Getty Images via AFP

──逆に、これから先の変化に向けて期待を寄せていることはありますか?

西洋社会もまだまだ変化が必要ですが、ジョージ・フロイドの事件の評決が出て、彼を殺した警官が自らの罪の責任を問われたこと自体はいいことだと思っています。僕の中でもまだ不安や心配は大きいですが、1歩前進したことは間違いない。後退はしていません。

日本では、オリンピックの開催に期待していた部分がありましたが、IOCがBLM運動の規制を発表したので…。ひざまずく行為も禁止ということですが、IOCはコリン・キャパニックがアメフトの試合で行なった抗議のことを念頭に置いているんだと思います。これまでひざまずいたのは彼しかいないので。具体的にその行為を禁止しているんです。

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写真:アロンゾ

──それにより発されたメッセージを、日本に暮らす黒人としてどのように受け取りましたか?

IOCが事なかれ主義であること、人種差別のことなんて全く関心が無いことが伝わりました。米国の友人たちには、日本に来る時には歓迎されると思わない方がいい、と言いたいですね。僕はこの国に暮らしているけど、他国に移住しようと考えています。僕を別の場所に連れて行ってくれるのなら…スウェーデンにでも移住したいです。早くこの国を出たいです。あまりに長くいすぎました。

人種差別や、差別への感覚の鈍さだけじゃない。経済を含め、何もかもうんざりです。嫌なところを挙げようと思えば何時間もかかる。ずっとこの国で暮らしていくのはキツい。僕の感覚は今の日本的には合いません。東京でも海外出身者とつるむことが多くなっています。

──日本がどんな国になれば、戻りたいと思いますか?

僕が戻るとしたら、日本人がドレッドヘアをやめた時、そしてみんなが人種の多様性に前向きなメッセージが書かれたシャツを着たり、そういった精神で活動するブランドを選ぶようになった時ですね。あとは外人ジョークや、〈外国人〉という言葉が消えたら、かな。外国人という言葉には、多くの含みがある。英語にすると〈foreigner〉だけど、〈foreigner〉と〈外国人〉は、持つニュアンスが違います。外国人は〈外の国の人〉という意味で、それ自体がひとつの強力なレッテルになる。日本人の価値観がにじみ出ていると思います。

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