いいから、さっさと公開しろ! 強制参加型反抗映画『孤高の遠吠』を 待ちながら vol.1 小林勇貴監督インタビュー 

出演者は本物の不良たちで、ほぼ全員が逮捕されているという問題作中の問題作『孤高の遠吠』を作った男に話を聞いた。

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15 June 2015, 5:45am

いきなりヘッドロックかまされて物語のなかにぶち込まれるような、問題作中の問題作『孤高の遠吠』(脚注①)。出演者は本物の不良たちで、ほぼ全員が逮捕されているという。まるで映画そのものが共同危険行為のようで刺激に満ちている。作った男に話を聞いた。

まず、シナリオはどうやって書くんですか?

出演者のひとりで助監督でもあるユキヤ君(脚注②)に不良の子たちを紹介してもらって話を聞くんです。もちろんユキヤ君本人からも聞きます。飲み屋さんに行って武勇伝でも事件でもなんでもいいから話してと言って、話してくれたことをメモする。それを何人も繰り返して、家に帰って面白いエピソードだけパソコンに打ち込んでいって、カテゴリーに分けて──。

どういうカテゴリーですか?

例えば「先輩絡み」や「単車絡み」、「窃盗」なんかです。それをプリントアウトして切って並べて、その切ってカードのようになった紙を見ながら、関連性があるもの同士を合体したりして、カテゴリーに分けたエピソードを再編集していきます。するとネタの塊がいくつもできて、それらが一つひとつのシーンになっていきます。でも、そこまではできても、すべてのシーンをブスッと串刺しにできるような勢いのある、芯のようなものが見つからないと詰まっちゃうんです。

芯のようなものとは?

不良の子たちが話してくれる体験談はどれも自分の日常にはありえないことだし、倫理観もあまりにかけ離れていて、なかには酷いなと思う話もあります。でも、ずっと聞いていると「そこは俺もわかる!」「いま世の中で腹が立つことってそこだわ!」って思えることがあって。例えば、彼らが先輩にねじ伏せられそうになったときの話なんかは自分のことのように聞いてしまいます。押さえつけてくるものへの怒りがわいて、そのパワーでシーンをぶっ刺して、そこから一気に書けるようになります。

あとは、はじめのシーンが頭に浮かばないとどうしようもないんです。『孤高の遠吠』は家を出ていくシーンで始まるじゃないですか。あれは自分の幼なじみの不良の子の話が元になってるんです。別の地域に行っちゃった子なんですけど、不良になってからの話ばかりするから、「はじめはどうだったの?」って聞いたんです。夜、びくびくしながら家をこっそり出て、親の原付に友達と2ケツ(2人乗り)して、そのまま走っていったんだと言ってました。その話を聞いた瞬間、映画のオープニングが浮かんだんですよ。

『孤高の遠吠』は小林監督の6作目ですが、ずっとそのスタイルでシナリオを書いてきたんですか?

話を聞いて書くのは3作目の『Super Tandem』(脚注③)からです。その前の2本は酔っ払って考えたことを勢いで撮っちゃったような感じで。『Super Tandem』のときは、友達が不良に拉致されてリンチされちゃって、リンチした奴とリンチされた友達の両方に話を聞いて書きました。4作目の『NIGHT SAFARI』(脚注④)は『孤高の遠吠』と同じく、さっき話したような感じで不良の子たちに話を聞いて書きました。

リンチされたのは『Super Tandem』の主役の子ですか?

はい。演じてくれている彼自身です。指とか岩でやられちゃったみたいで、完治して1カ月ぐらいのときに『Super Tandem』の撮影を始めました。彼は『NIGHT SAFARI』にも出てくれています。

小林監督は富士宮出身で、いまは東京ですよね。話を聞くのは富士宮で?

はい。仕事が休みの土曜に富士宮に帰って話を聞いて、日曜に東京に戻ります。

『孤高の遠吠』予告編

4人は不良の先輩から原付を買った。そこから地獄の旅が始まった

『孤高の遠吠』は、誰かひとりの登場人物を突出させないように撮られてますね。まるで主人公不在のように。

主人公って好きじゃないんです。現実にはいないじゃないですか、俺、主人公だよって人。ひとりではなく、4人を描きたいっていうのがありました。はじめは4人で歩いていたのが先輩たちにやられてバラバラになって、くっしゃくしゃになっちゃう。それを描きたかった。

4人がメインの物語ですが、彼らの名前が強く打ち出されることはありません。一方、彼らを翻弄する側の怖い先輩たちは「合計前科数六十九犯 モトキとユキヤ」とか、テロップで紹介されます。映画のなかの知名度の順列のつけ方が現実の不良世界のようで意外でした。

そうですね。無名の子は「お前誰だよ」ってなりますから。あとは、4人に関して言うと、固有の名前で印象づけるよりは、ぼかしておいて、どこかの誰かみたいになっているほうが、広がりがあって気持ちを重ねやすいかなと思いました。4人のなかの誰かを自分に似てるとか思いながら観てくれたり。

小林監督は4人のなかの誰になりたいですか?

いちばんなりたいのは、怖い先輩に車に乗せられて「テメエ、原付降りるか殺されるかどっちかでいいよ」と包丁で刺されそうになっても「降りたくないっス」と返した彼です。いま自分は仕事クビになっちゃって働き口を探しているんですけど、「原付降りろ」が「映画やめろ」に重なって聞こえるんです。映画撮るのやめちゃって、正社員で働いちゃえばいいじゃないかって世間は言いますよね。「降りたくないっス」で貫いたあの子は憧れです。

それにしても怖い先輩たちが魅力的です。

ガキのころから敵キャラが好きだったのが関係しているのかもしれません。『ライオン・キング』のスカー、『エイリアン4』のニューボーン、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』のダース・モールなんかも。敵ってカッコよく作ってあるんですよね。

キャストはどうやって探しましたか?

前作の『NIGHT SAFARI』を観てくれた子が出たいって言ってくることもあるし、あとは紹介ですね。「あいつ凄いですよ」みたいな。Facebookとかやってる子は、会う前から顔を見れるじゃないですか。凄いツラしてるんですね、ウメモトジンギ君とか。

映画では富士市からたったふたりで攻めてきた子ですね。

男前なのに凄みというか、怖さもあって。顔見てすぐに「出てほしい!」ってなりました(笑)。それで、ジンギ君があっちゃんを紹介してくれたんです。

あっちゃんは前半で4人をリンチした子ですね。ふたりは同い年ですか?

はい。メインの4人をとりまく怖い先輩連中は全員同い年です。みんな知ってて仲がいいんですよ。

彼らはいま何歳ですか?

21歳です。自分の3つ下です。ナカニシ君からも「映画出させろコラ!」っていうメールがFacebookに来たんです。「『NIGHT SAFARI』観たぞ」って。それで会いに行ったらリーゼントだった。リーゼントって凄いなって感動して「出て!」って言ったら「監督、マキヨシってヤベエ奴いんだけど。全身刺青入っちゃってて」とか言うから、今度はマキヨシ君に会いに行って。マキヨシ君は『仁義なき戦い』(脚注⑤)が凄く好きなんです。

マキヨシ君はナカニシ君とコンビの、4人に原付を売りつけた。

はい、金髪の。いきなり「おい! こら百姓」って言った子です。

あの「百姓」の台詞が効いてました。

なくしちゃいけない言葉です。そんな感じで出てくれる子たちが集まりました。

凶暴な先輩たち。モトキ、ユキヤ(上段左→右) マキヨシ、あっちゃん、ナカニシ(中段左→右) ウメモトジンギ、シンジョウマコト(下段左→右)

撮影のとき、台本を出演者に渡しますか?

『孤高の遠吠』のときは、撮影の途中でみんなに配りました。でも配ってすぐに、メインの4人のうちのひとりの子が失踪しちゃったんです。映画のなかで「お前にはつき合ってらんね」って言った子です。いろいろワルのトラブルに巻き込まれて富士宮にいれなくなっちゃって。友達からお金かき集めて「俺、県外に飛ぶから」って飛んでっちゃったんですよ。

飛んでっちゃったんですよって……。

それで配った台本が使えなくなっちゃったんです。3連休の土曜に彼がいなくなって、日月は撮影がなかったんで、その2日間で書きなおしました。

撮影は順撮り(脚注⑥)ですか?

ほぼ順撮りです。仕方ないので、さらわれたことにしたんです。

失踪した子はその後どうなったんですか?

それが撮ってる最中に帰ってきたんです。帰ってきたというか、ユキヤ君がつれ戻したんですけど。地元に出会い系みたいなのがあって、ユキヤ君が女のふりして登録したんです。そしたら失踪した子を見つけて、女のふりで「今度うちと会わない?」って絡んだら「会いたい、会いたい」ってなりますよね(笑)。駅で待ち合わせして、その子はすぐにエッチできるって思ったんでしょう、ウキウキして現れたところにユキヤ君の車がバーッと来て、ヤバい、騙された! と気づいて逃げたら、そっちにも1台、また逃げたらもう1台。

それは迷惑かけないで最後までやれってことで?

いろんな怖い先輩絡んで撮ってるし、映画を超えて、ただごとではない祭になっちゃってますから。そういう意味で顔潰すなってのもありますし、あとは彼らは土方仕事やってるんで現場からバックレられちゃうと困るんです。戻ってきたときは撮影終盤でしたが、ラストには間に合ったんですよ。

予測できないストーリー展開の裏に、こんな予期せぬ出来事があったとは。

だんだん麻痺してきますよ。ちょっとおかしくなってるというか。毎回思い通りにいかないから開きなおっちゃってます。でも、どんなに転がっても物語が破綻しないように繋ぎとめておくのが自分の仕事だと思ってます。

『孤高の遠吠』の撮影期間はどのぐらいでしたか?

半年かかりました。

『Super Tandem』は?

4カ月とか。『NIGHT SAFARI』も3、4カ月ですね。

シナリオの取材と同じで、撮影も休みの日にやったんですか?

はい。当時は仕事してましたから土曜日しか撮れないんです。毎週土曜日の始発で富士宮に帰って、夜に撮って、日曜の朝に東京に戻って編集をしました。

いきなり乱暴な質問ですが、演技ってどういうことだと思いますか?

演技ですか……。

質問を変えると、映画を観ていて鼻につく演技とかありますか?

不良に関して言うと、一部の監督が撮るものを除いた、不良を扱った映画での演技って、あれは差別ですよね。演技じゃなくて差別。「不良なんてコレだろぉ」みたいな。ぜんぜん違うなって思います。

『Super Tandem』も『NIGHT SAFARI』も『孤高の遠吠』も出てくる不良の子たちがとても自然でリアルでした。本物を出したからってそうなるわけじゃない。彼らをどうやって演出したんでしょうか?

本人の性格そのまんまの役を当てたりはしないんです。配役は顔で選んでます。本番で演技が少しぐらい上手くいかなかったとしても、そんなことより顔が持っている説得力のデカさのほうが大事だと思っています。

出てる子たちは、台本を読みたがるタイプと読みたがらないタイプに分かれるんですけど、読みたがる子はリハーサルでも凄く几帳面です。ユキヤ君とモトキ君の「合計前科数六十九犯」コンビはそうですね。「違った!」なんて言って自分でNG出したり。台詞はすぐ覚えるみたいで丸暗記してるんです。なんで学校ダメだったんだろ(笑)。じゃ、台本を読みたがらない子たちにどうやって演技をつけるかというと、やってもらう登場人物について、過去に何があって、どうなって、いまどういう状況で、どんな気持ちなのかを話すんです。すると、そこはやはり不良の物語なんで、「いますね、そういう奴」「いますいます。わかってきました」ってなる。それで役に入れるみたいです。台本読む子はこだわりがあるから何テイクも撮りますけど、読まない子はほとんど一発OKですね。

演出のときに伝える登場人物の過去には映画に写らないことも含まれる?

それも話します。で、盛りあがると「そういう奴ってさ、こういうこともしない?」となって仕草が増えていったり。アドリブやっちゃうこともあるし、注文したことと真逆のときもあるんですよ。でも、そこに説得力があれば屈しちゃいますね。その瞬間、彼らのファンになっちゃってる自分がいます。そうなるとシーンは増えますよね。だから役に関しては、あの子たちが作りあげてくれている部分も大いにあるんです。

ただでさえ目立つ子たちをロケで撮るのは大変だろうなと思いました。警察が来たり、通報されたりしたことはありませんでしたか?

通報は1回ありましたけど、あとはバシッと。「すぐ撮るぞ!」と言って撮り逃げですね。

窃盗団のアジトとか、ロケ地も印象的でした。

場所の選定と人集めと単車集めはユキヤ君が中心になってやってくれました。富士宮は自分も地元ですけど、あんなところ初めて行きました。

単車集めはどんなふうに。

当日でも来てくれてありがたかったです。「いまから原付1台貸してくれる奴いねぇ?」とかユキヤ君が携帯で後輩に聞くとすぐ来てくれます。ユキヤ君は先輩ですから「ありがとよ」で済ませてましたが。

映画のなかでも携帯で原付を探すシーンがありますね。不良のネットワークがリアルでした。

連絡をリレーして。あれ、本当にやるんですよね。

映画のなかの携帯の音が怖いですね。

携帯の音は人によって変えてます。ナカニシ君だけ最初から入っているような音で。この人はきっとこうだろうなと思って。

彫師のところでユキヤ君が刺青を入れてもらってる最中に携帯が鳴って、痛いはずなのにふつうに喋っているところが怖かったです。

本物の彫師さんに、手彫りで実際にやってもらっています。あそこはヤバい奴が次から次へと来る感じを出したかったんですよね。

次から次へと怖い先輩が登場して、どんどん事態が悪化していくという展開はどうやって考えましたか?

考えたというか、シナリオを書くために話を聞いてるときに俺自身が食らったことですから。怖い不良の子が次から次に出てくる。まだいるの!? っていうぐらい。

リンチされた子が翌日にリンチした先輩の隠れ家で弁当を食べるシーンが印象に残っています。状況としては拉致されたということですか?

拉致されたっていうより、引き取ってもらったっていうのが近いですね。恩を売るんですよ。不良の子に聞いた話なんですけど、奴隷化するのに必要なのは飴と鞭だそうで。「暴力で躾けてやって、たまに優しくしてやると簡単に奴隷になる」って言ってたんです。あれは、リンチのあとで引き取って、よくしてあげてる。弁当も与えて。

具体的なシーンについてもうひとつだけ。イラついた先輩がライターをチャッチャチャッチャ鳴らして「ブンブンブンブンうるせえんだよ」と言いながらアジトに入っていく主観ショット(脚注⑦)。あそこでガラッと空気が変わって不穏な感じになりました。

実は『NIGHT SAFARI』をご覧になった柳下毅一郎さんに、ヤバい先輩が出てきてもあんまりヤバさを感じなかったということを言われまして。もっと不穏を立たせれば不良映画は盛りあがるって──。

柳下さんから直接聞いたんですか?

いや、映画祭の人を介してです。それを聞いて、次は不穏さを絶対出してやるって思って、さっきの刺青入れてるシーンもそうですし、とにかくヤバい奴が出てくるシーンは「不穏祭」にしました。やってみると楽しかったです。

言われてよかったですね。

よかったです。くやしい思いをしてよかった。ちなみに、ライターをいじる先輩は実在するんですよ。拉致された子から聞いたんですけど、ずっとライターをチャッチャチャッチャやってる先輩がいて、急に顔の前でボッと火つけられたそうで。怖いですよね。絶対に映画でやりたいと思いました。

映画の撮り方はどうやって学びましたか?

けっこう本を読みました。知られてる本だと『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー』とか。あとは、自主映画の撮り方を書いたハウツー本や監督の対談集なんかをかき集めて。読んだら「はぁ~なるほど」て頷くことが多かったです。例えば、映画に出てくる扉には境界の意味があるとか、本を読むまでわかってませんでしたから。『孤高の遠吠』で先輩のアジトに原付買いに行くじゃないですか。先輩が開けた重い鉄の扉は、地獄の扉のイメージなんです。自分なりの境界はああいうものになりました。

初めて映画を撮ったのはいつですか?

2年前です。2013年から撮りだしました。当時働いていた会社は、仕事の最中に無駄話しても怒られなかったので、観た映画の話なんかをずっとしてたんです。あれが良かった、これがダメだったとか。うるさかっただけなのかもしれないですけど、「そんなに言うんだったら自分で撮ってみたら」と上司に言われて、その気になっちゃったんです。キヤノンのX5という一眼レフ持っていたので、動画機能で撮ろうと思いました。参考にする映画を言われたその日にTSUTAYAで借りて、次の週には撮影しました。

そのとき参考にした映画はなんですか?

石井聰互監督の『シャッフル』(脚注⑧)です。最初に撮るのは、走って逃げまわる映画にしたかったですよね。『シャッフル』の走ってるシーンは、リヤカーにカメラマンを乗せてバーッと引っ張って撮ったらしいんですよ。それを何かで読んで「そんなんでいいんだ。だったら俺だって絶対できる」って思ったんです。

映画を撮ることはひとりだけに打ち明けて、他の友達にはふつうに「遊ぼう」と言って呼び出しました。それでいきなり台本配って、カメラを出して、「いまから映画撮るから」。そうでもしないと、バーベキューでさえドタキャンする奴いますからね。

チェイスのシーンの撮影用にレンタカーを借りました。レンタカーの荷台に座って撮れば、リヤカーより安定して撮ることができます。それに自腹で車を借りたことがわかれば、誰も文句が言えないですよね。撮りたい気持ちを強烈にアピールして圧倒する作戦です。いくら本で勉強しても実際にはやったことがないから試行錯誤の連続でしたけど、みんな楽しんでました。走りまわったり、ノコギリ持って暴れたり。でも、1回撮影しただけで「楽しかったね」で終わっちゃったら困るんです。

形になるまでつき合ってもらわないと。

そう。速攻で編集してYouTubeにアップして、撮った翌日にはみんなに観てもらいました。自分たちがやったものが確実に形になることを証明しようと思って。そしたら案の定「続きもやりたい!」「いつ撮んの?」って言ってきました。

編集も初めてですよね。

初めてです。編集ソフトはMacに最初から入っているiMovieを使いました。動画並べていらないところを切るだけですから初めてでも使いやすくて。1日かかって撮影した素材が編集したら2分ぐらいにしかならなくて驚きました。

当時も土曜に富士宮に帰って地元の仲間と撮って、日曜に東京に戻って編集した。

はい。いまと同じやり方です。

映画が好きそうな友達を選んだんですか?

そのときも顔で選びました。ふだん遊んでいた友達と撮ったんですけど、やっぱり撮っていくたびにいなくなっていったんです。それがあるから、いつかは不良の子たちだって飽きちゃって、自分と一緒にやらなくなるのかな、とか頭をよぎることがあります。そんなこと考えてるときに『孤高の遠吠』の「お前にはつき合ってらんね」って言われるシーンが浮かびました。

リンチされた子がそれでも走り続けようとして、仲間に言われる台詞。

そうです。

『シャッフル』の話が出ましたけど、影響を受けた映画や好きな映画は、他にどんなのがありますか?

反抗的な人が出てくる映画がいいですね。一番好きなのは深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』(脚注⑨)です。ビデオでしたが小学5年生のときに観ました。当時、これは規制すべきだって国会議員が騒いだじゃないですか。レンタル開始のタイミングで急に全校集会が開かれて、「お前ら、絶対借りるな」と言われたんです。そんなこと言われたら絶対借りるじゃないですか。レンタルして、みんな集めて俺んちで観たんですよ。めちゃめちゃ怖かった。これから中学に上がるのにこんなことがあるの? 友達が友達でなくなっちゃうの?って思っちゃって。あと忘れられないのは、映画を観たしばらくあとで友達同士が殴り合いの喧嘩をしたことがあって、やられてるほうが起きあがったときに「お前なんか、バトル・ロワイアルになったとき、絶対殺してやる!」って──。

映画と現実の境界がなくなってる(笑)。

本当にあることになっちゃってる。『バトル・ロワイアル』には、大人に装着された首輪を外そうとする奴らが出てくるんです。腹腹時計(脚注⑩)を見ながら爆弾作ったり、ハッキングでサーバをダウンさせて爆弾を突っ込んで、すべてを転覆させようとする。殺し合いさせられるだけじゃなくて、逆らうのもアリなところがいい。あとは、松方弘樹が脱獄する映画が凄く好きです。中島貞夫監督の『脱獄広島殺人囚』(脚注⑪)。押さえつけられても絶対に屈服しないで脱獄を繰り返す。歯向かって生き生きしている映画は元気になりますね。

ところで『孤高の遠吠』のエンドロールに鈴木智彦(脚注⑫)さんの名前があるのはどうしてですか?

バイオレンスサンクスです。鈴木智彦さんの『我が一家全員死刑』(脚注⑬)という本に凄く衝撃を受けました。ノンストップでサイテーのことが起きるじゃないですか。しかも短期間にダレることなく。それこそ自分が映画でやりたいことなんです。『NIGHT SAFARI』は一晩の出来事です。『我が一家全員死刑』の4人殺しも最初の殺しから遺体発見、逮捕までたった数日の出来事ですよね。しかも、人殺したあとにホットケーキ食って、気が滅入ったとかでシャブ打って。凄いですよね。鈴木智彦さんが怖い人たちに取材して書かれたものを高校のころから読んでました。でも、まさか自分がそんなスタイルで映画を作るようになるなんて、想像すらできなかったです。

これまで映画を撮ってきたなかで「ダメだぁ、終わったぁ!」と思ったことはありますか?

ユキヤ君が捕まったときですね。なぜか成人式に日本刀を持っていっちゃって。『NIGHT SAFARI』を撮っている最中でした。

銃刀法違反。

はい。「袴には日本刀だぜ」とか言って(笑)。お父さんも見てたらしいんですけど、「おう、お前なんだそれ。シブいなぁ、行ってこい」って。

そんな動じない父親でありたいけど。

成人式が始まる前に「サムライだ!」って刀振りまわしちゃって、パトカーで連行されたんです。事情を知ってる子から「10日勾留か20日勾留っスよ」みたいなLINEが来て、「10日だったらすぐ撮影に復帰できます」と返事しました。その後「20日勾留でした!」って連絡が来て、その瞬間、「終わったぁ!」と思いました。「大丈夫っスよ、タイトルを『NIGHT SAMURAI』にすればいいんスから」とか冗談みたいなこと言ってる子もいましたけど。

『孤高の遠吠』に関して言うと、撮影中になぜか市内に暴走族が凄く増えまして、そのせいで警察に暴走族対策課ができたんです。暴走族映画の撮影中に暴走族対策課。撮影のたびに「そういえば、あいつ捕まりましたよ」「あいつも捕まりました」って出演者がどんどん減ってくんです。そのうちメインの子のひとりが「次、俺んとこ来るって話が流れてるんで、監督、俺のシーン先に撮っちゃってください」って──。そのときは「終わったかも」と思いました。あとは、さっき話した失踪事件もそうですね。撮影中も「終わったぁ!」と思ったことありますよ。暴走族が走りだすシーンがあるじゃないですか。あれを撮るときに旧車會が来ちゃって。

現役の子たちの先輩が来た。

そう。旧車會に話通さないと暴走族やれません。そのぐらい影響力が強いんです。ひとりの子がそわそわして「監督すみません……」って言うからなんだろうと思ったら、フルスモークのイカついセダンが砂利の上をメコメコメコってやってきて。「旧車會の人が来ちゃったんですよ」って言うから「どうゆうこと?」って聞いたら「ちょっとわかんないです」。セダンが目の前で停まってフルスモークのウインドウがウーンと開いて──。

そこにどんな人が?

丸刈りで眉毛がなくてゴツいネックレスしてる、いかにもヤクザって感じの人で、その人が黙って見ているだけなんです。かえって怖いじゃないですか。そしたら「監督、ちょっと下がっててください」ってさっきの子が言って、その人と話してくれて、そしたらセダンが動きだしたんです。よかったぁ、帰るんだと思ったら、なぜか駐車場に入っていって、ちょうど運転席から死角になるところに壊れかけた金網があるんですけど、そのままバックしたらぶつかるよと思いながら言えなくて見てたら、バリバリバリって。その瞬間「終わったぁ!」と思いました。絶対、俺のせいにされるって。

結局どうなったんですか?

「俺はもう暴走族じゃねえんだ」という謎の言葉を残して帰っていきました。そんな感じで毎度「終わったぁ!」の連続ですよ。

映画を撮っていて失敗から学んだことはなんですか?

『Super Tandem』のとき、ユキヤ君とか関係なく、まったく別の地域から本物の暴走族の人たちを呼んできてもらって、それが本当に怖かったんですよ。

夜、駐車場に円形に車を停めて、そこでリンチされるシーン。

そうです。そのシーンの人たちがみんな本物の不良で「おめえ、なんだごらあ」ってなっちゃって。ちょっと打ち合わせしたかっただけなのに「んなこといいから撮れえ」みたいな感じで。せっせと三脚準備して、脚を1本伸ばし、2本伸ばしたところで「オイ、それいつまでやってんだよ」って言われて、「いや、三脚だから3本まで」と内心思ったんですけど……。その失敗以来、三脚使わないようにしようと思いました。三脚は怒られる。

機材に関して言うと、『NIGHT SAFARI』のときはカメラに内蔵されたマイクで録ったので風の音が入ってるところがあります。入ったっていいじゃんという乱暴な気持ちでしたが、そのあと外付けのマイクとノイズを減らす風防を買いました。あとはナイトシーンのために高感度で撮れるカメラを買ったり。

まだ24歳ですか。この先まだまだ撮れますね。

実は、次があるって考えないようにしようと思ってて。鈴木清順監督って俺ぜんぜん詳しくないんですけど、早稲田松竹で特集上映があったときに観に行ったんです。映画館の壁に監督のインタビュー記事が張り出されてて、なんとなく読んでたら「一回一回、この映画を撮ったら終わりだと思ってるからね、気持ちの上では」って書いてあったんです。透明の畳(脚注⑭)とか出てくるんですよね、鈴木清順監督の映画。斬り合うシーンをガラスで作った畳の下から撮ってる。「『何でもやっちゃえ』てなもんですよ」とか書いてあって、うわぁ、カッコいいと衝撃を受けました。自分もこれが最後だと思って撮ろうと、そのとき思ったんです。

小林勇貴(こばやし・ゆうき)

1990年9月30日生まれ、静岡県富士宮市出身。監督作に『TOGA』(13)、『絶対安全カッターナイフ』(13)、『Super Tandem』(14)、『NIGHT SAFARI』(14)、『脱法ドライブ』(14)、『孤高の遠吠』(15)がある。『Super Tandem』で第36回PFF入選。『NIGHT SAFARI』でカナザワ映画祭賞受賞、TAMA NEW WAVEある視点入選

脚注①『孤高の遠吠』:(2015年/120分/カラー)出演者は、渡辺優津紀、神尾和希、日比野翔矢、増田亮太、中西秀斗、牧野慶樹、中込篤、赤池由稀也、小林元樹、梅本佳暉、石川ボン、他

脚注②ユキヤ君:赤池由稀也。静岡県富士宮市在住。小林勇貴監督作『NIGHT SAFARI』、『孤高の遠吠』に出演した他、キャスティング、ロケ地の選定、単車の手配などに奔走。2014年1月、模造刀を手に成人式に臨み、現行犯逮捕

脚注③『Super Tandem』:(2014年/40分/カラー)出演者は、大石淳也、荻田大輔、石川ボン、佐野由磨、小林直美、他

脚注④『NIGHT SAFARI』:(2014年/60分/カラー)出演者は、赤池由稀也、望月樹、助川寛、高木健史郎、岩間登、小林元樹、遠藤克樹、富田周、佐野太紀、常磐尚也、石川ボン、大石淳也、佐野有紀、赤坂美咲、小林直美、他

脚注⑤『仁義なき戦い』:戦後の広島抗争を題材に1973年に公開されたヤクザ映画。深作欣二が監督し、菅原文太が主役を演じる。シリーズ化され、いわゆる東映実録路線の先駆けとなった。第4作『頂上作戦』まで笠原和夫が脚本を担当

脚注⑥順撮り:シナリオの冒頭から順に撮影を進めること

脚注⑦主観ショット:登場人物の視線で撮影するカメラワーク。Point of View Shot(POV)の訳語

脚注⑧『シャッフル』:石井聰互監督の初期作品(1981年公開)。チンピラが自分を裏切り兄貴分と浮気した女を殺し、中年刑事がチンピラを追う。原作は大友克洋の短編漫画「RUN」

脚注⑨『バトル・ロワイアル』:高見広春の同名小説を深作欣二監督が映画化。キャッチコピーは『ねえ、友達殺したことある?』。公開された2000年は西鉄バス ジャック事件などの少年犯罪が社会問題となっていたこともあり、青少年への悪影響を恐れた衆議院議員石井紘基らが騒いだためR15+指定となったが逆効果 で、興行収入30億円を超える大ヒットを記録

脚注⑩腹腹時計:副題は「都市ゲリラ兵士読本」。爆弾の製造・使用法、ゲリラ戦の方法などを解説した教程本。1974年3月、東アジア反日武装戦線“狼” 情報部情宣局が地下出版した

脚注⑪『脱獄広島殺人囚』:殺人罪で41年7カ月の刑に服し、脱獄を7回繰り返した実在の人物を松方弘樹が演じる。キャッチコピーは「犬か猫になってもいい、俺 は〈シャバ〉に出たい!」。本作と『暴動島根刑務所』、『強盗放火殺人囚』で「松方弘樹東映脱獄3部作」と評されている。1974年公開

脚注⑫鈴木智彦:1966年生まれ。カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入る。『実話時代BULL』編集長を務めたのち、フリーライターに。主 な著書に『潜入ルポ ヤクザの修羅場』、『ヤクザ1000人に会いました!』、『ヤクザと原発 福島第一潜入記』、『我が一家全員死刑 福岡県大牟田市4人殺害事件「死刑囚」獄中手記』などがある。2015年7月『ヤクザ専門ライター 365日ビビりまくり日記』を出版予定

脚注⑬『我が一家全員死刑』:2004年9月に発生した大牟田市4人殺害事件の実行犯北村孝紘が拘置所内で書いた手記に、鈴木智彦による周辺取材を加筆した犯罪 ドキュメント。事件は加害者側と被害者側が家族ぐるみのつき合いで、双方4人ずつ(被害者側は友人1名含む)、さらに、加害者家族4人全員の死刑が確定するという犯罪史上に類をみないものだった

脚注⑭透明の畳:1965年公開の『刺青一代』、クライマックスの高橋英樹と河津清三郎の対決シーンはガラスの畳の下からあおりで撮影された。小林勇貴監督が読んだ記事は『清/順/映/画』(ワイズ出版刊)所収のインタビューと思われる