Photos by Charles Fréger

妖怪ポートレート シャルル・フレジェ 『YOKAI NO SHIMA』

日本の伝統行事で、古来から受け継がれる衣装をまとった人々のポートレートを納めた写真集『YOKAI NO SHIMA』がリリーすされる。今回はシャルル・フレジェ本人に作品について聞いてみた。

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04 juli 2016, 2:05pm

Photos by Charles Fréger

ヨーロッパ各地の祝祭や儀式に現れる、原始の名残がある獣人(仮面をかぶったり、動物の毛皮などで出来た衣装をまとい、こん棒などの武器を手にした)をまとめた『WILDER MANN』。そんなシリーズに続き、日本の伝統行事で、古来から受け継がれる衣装をまとった人々のポートレートを納めた写真集『YOKAI NO SHIMA』がリリースされる。若手建築家、松島潤平が手がけた会場も印象的だった、銀座メゾンエルメス フォーラムでの展示にて、シャルル・フレジェ本人に今回の作品について聞いてみた。

カセ鳥
五穀豊穣と商売繁盛、または火伏せのため、山形県に伝わる行事で、腰に藁を巻き、手拭いで顔を覆い、ケンダイという蓑をかぶる人に、頭から水を浴びせる。
© Charles Fréger/ Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

衣装をテーマにしていると伺いましたが、衣装に興味を持ったきっかけを教えてください。

伝統的な集団が創り出す衣装には、様々な歴史、意味、価値、背景が含まれている。今回紹介する『YOKAINOSHIMA』だけでなく他のシリーズもそうだが、いつも惹かれるのは衣装の素材なんだ。ウール、べルベット、動物の革といろいろと素材があるが、それぞれ独特の質感を持っている。衣装になった際、そのひとつひとつに意味があり、複雑に入り混じっている。ストリートから出てきた服とは違う。それをファッションと呼ぶかはわからないが、そう呼ぶとしたら、彼らは優れたファッションデザイナーだ。伝統的な集団に会うたびに、彼らが衣装に誇りを持っていることに気づかされる。

今回のプロジェクトで特別に印象に残っている作品はありますか?

お互いの素材が意味を持ちながら、それが何層にも重なり合っているスタイルが好きだ。例えば男性の着物、浴衣の上にワラやヤシの葉を身に着けているものは特に興味深い。鹿児島のガラッパ(水中や水辺に住む妖怪、河童)の頭にかぶった茶色いワラ、あれはすごく気に入った。それぞれの成り立ちや意味を持った別々の素材が重なり合ったとき、異質なものが共存する、その様が好きなんだ。

ガラッパ
鹿児島県の南さつま市金峰町で行われる五穀豊穣と水難から免れるために水神を祭るヨッカプイ。そんな地方に生息するとされる妖怪、河童。
© Charles Fréger/ Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

『YOKAINOSHIMA』の制作中、実際に祭りに参加したのですか?

そんなには多くないけど何度かは参加した。ただ、祭りに参加するために来たわけではないからね。祭り自体を撮影するのは、私のやり方ではないし、時間も必要になる。私の場合は祭りに行って現地の人たちの合意を得るのではなくて、事前にアポイントを取ってから撮影をする。だから今回、撮影の許可が下りないケースがいくつかあって、その場合は祭りに参加して撮影するようにした。年に1度しか着ない衣装だから脆くて、撮影のために持ち出すことはできないと言われた行事もあったし。だがこの作品の9割は、祭りとは関係のない時期に撮影した。

これまでに何度か日本の文化を撮影していますが、日本文化に惹かれる理由は何ですか?

日本は協調性があり、制服文化が盛んな国だと思っていたから、すごく興味を持っていて是非とも撮影してみたかった。2002年に撮影した力士たちは独特のコミュニティーを形成しているし、まわしやマゲといった特徴のある衣装もそうだけど、身体の形にも共通性がある。だからこそ、身体が「力士」の撮影では重要だった。それから「成人式」を撮ったときも、同じ意識があった。若い女性たちが大人になるときに同じ形の身体を目指すというか、そのコミュニティーの一員となるために、ある衣装を着るというか。元々日本が好きだったのはあるけど、とにかく一度は訪れて写真を撮りたかったんだ。今でも惹かれる気持ちは変わらない。

ではヨーロッパで撮影した『WILDER MANN』に続き、『YOKAINOSHIMA』。2つの作品で共通しているテーマがあると聞きました。

『WILDER MANN』と『YOKAINOSHIMA』をつないだのは、歳神だ。ヨーロッパで『WILDER MANN』を撮影したあと、ナマハゲを知り、それが豊作を祈願した民族行事であると分かったとき共通項を見出せた。違いといえば『YOKAINOSHIMA』では人々がよりそのキャラクターを演じている感じが強いのに対して、『WILDER MANN』では、人々がその動物に変容してしまう感じが強かった。だけど調べてみると、『YOKAINOSHIMA』で撮影したものの方が物語があって、いろんな風俗と繋がっていたり、多様性があると気づいたんだ。

バブゲリ
毛皮でできたスラティというフードを被り、山羊の毛皮の衣装をまとい、既婚女性の体に擦り付け、多産をもたらすとされるブルガリアの獣人。
ヴィルダー
1890年から5年ごとにオーストリアで行われているシュライヒャーラウフェンというカーニバルに登場する。祖先は冬の悪魔、暗闇の化身ともされている。
カレトス
ポルトガルのラザヒンで行われているカー二バルにあらわれ、ハンの木を手彫りでつくった仮面、ワラ、動物の毛皮などを着用し登場する。

文化や祭りについても、いろいろリサーチされたでしょうが、被写体を目の前にしたとき、どんな衝動から写真を撮るのですか?また、写真にどんなメッセージを込めているのでしょうか?

私が写真を撮るのは、かなり直感的だ。シルエットが懐かしく感じられるときもあれば、すごく異質に感じられるときもある。説明するのが難しいな。撮るものに対して期待したり興奮して撮ることもあれば、単純に記録するという気持ちで撮る場合もある。もちろん、シルエット自体に惹かれるときもある。

では、写真について、より詳しく聞きたいのですが、衣装を着た人、背景である森や地面や空が、衣装のレイヤードだけでなく写真自体も何層にもなっている表現だと感じます。何層にも重なっているという点は、写真を撮るときにも意識されているのですか?

その通り。違うレイヤーが重なり合っているという状態が好きなんだ。背景としての風景、人のキャラクター、色、形、質感の組み合わせを考えて撮影している。それが上手くいくときもあれば、あまり機能しないときもある。けれど、そうした組み合わせ方を常に意識している。

海や山を背景にすると、人物が異質なものとして浮かび上がってくるのが面白いですね。撮影する際、最も意識している点を教えてください。

一番気をつけるのはラインだ。写真を見てもらえればわかると思うけど、背景のラインが写真全体の中でどこに入るのか、必ず考えるようにしている。それから静かな場所を選ぶようにしている。風景も見てもらいたいが、風景が写真全体を飲み込んで欲しくない。例えば、森を写すときも、背景としては静かに写るようにしている。写真をよく見れば、背景のディテールも見えてくるだろうが、ポートレートのために余白を残している。人物も背景も合わせてひとつの作品でなければならない。だからポートレートを撮るときは、人物を風景の中のどこに立たせるか、時間をかけて決める。ゲームのように、まずは風景を決め、そこに人物を置いて、写真を撮り始める。それが私のやり方だ。だからこそ、どこで撮影するか、場所選びが何よりも重要だと思っている。

早乙女
宮城県仙台市の民芸芸能である田植踊は、稲の出来が神の力に左右されると考えられていた。年始に豊作を祈願し行われていた祭りに登場する女性。
© Charles Fréger/ Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

人物のポーズに関しても、彫刻のように美しいものもありますが、ユーモアがあるものもあります。ポーズを決めるときは、どんなことを考えて撮影しているのですか?

それは人物によって変えている。君が言うようにユーモアのあるシルエットもあれば、ワイルドで粗野な感じのポーズもある。『WILDER MANN』や『YOKAINOSHIMA』では、そういう趣向が強かったかもしれない。強いて言うなら、その状況に応じて決めるようにしてるから、自分なりにしっくり来るものを探すようにしてる。前を向いてもらったり、振り付けをするような感じで決めることもある。また、天気にも影響されるんだけど、例えば雲の感じとかによってポーズも変える。とにかく状況次第かな。その一瞬を構成する様々な要素を組み合わせて考える。自分が納得のいくように調整したいんだけど、もちろん、すべてをコントロールするのは不可能だから、全てを組み合わせてしっくり来るものを、その都度探し最善をつくすようにしている。

衣装も、人も、風景も、いろんなレイヤーが重なっているとはいえ、すごくシンプルで、ストイックで、ミニマムな表現に感じられます。

自分の目の前には再現なく世界が広がっている。それは風景であり、祭りであり、伝統であったりする。だけど写真の前に立った人は、ケーキに乗ったチェリーを見るように、何かひとつのものに焦点を絞る。ルポルタージュのように全体を見るのではなく、ある特定のものの細部を見せようと意識する。確かに私の作品は特に技術的に言えばミニマムかもしれない。「少ないものが多くを語る」というだろう? ミニマリズムは、必ずしも抽象的に見せることがすべてじゃない。例えばスタジオのような場所で、背景を白にして撮影する必要はない。人物と状況と風景の組み合わせが好きだからこそ、その組み合わせは、かなり緻密に計算して撮影している。

インスピレーションはどのように湧いてくるのですか?

撮りたいものに、偶然出会うことが多い。街で誰かとすれ違ってアイデアが浮かぶ場合もあるし、以前ガソリンスタンドで雑誌を立ち読みしていて、アイデアが浮かんだ経験もある。何か見つけようとしているときは、なかなか見つからない。向こうからやってくる場合が多いから、直感に任せるようにしている。あるプロジェクトが次のプロジェクトに繋がるケースもあれば、全く別のプロジェクトをやるときもある。自分がやりたいものが見つかるまで、とにかく待っているんだ。

シャルル・フレジェ

1975年フランス生まれ。衣装をテーマとする様々なポートレートを発表する。代表作としてヨーロッパ各地の伝統的な祝祭の儀式に登場する生き物に仮装した姿をおさめた『WILDER MAN』がある。また、日本列島58カ所の祭りの伝統衣装を取り上げた写真集『YOKAI NO SHIMA』をリリースする。

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