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インクを浴びながらNYタイムズの 印刷機を見守り続ける熟練修理工

「インクまみれになっているヤツほど、金を稼いでいるって証拠なんだ」。グレッグ•ゼラファは、そう教えてくれた。彼は、「ニューヨーク・タイムズ紙」の印刷工場のうち、クイーンズにある本工場で、印刷機をメンテナンスする機械工の主任を務めている。

『ニューヨーク・タイムズ(New York Times)』が所有する数ある印刷工場のうち、クイーンズにある本工場で、印刷機修理工の主任を務めるグレッグ・ゼラファ(Greg Zerafa)は、「インクまみれになっているヤツほど、金を稼いでいる証拠なんだ」と教えてくれた。ジェリー・グリーニー(Jerry Greaney)が「裏を返せば、インクにまみれない日は、太陽が昇らない日と同じ」と割って入る。彼も機械工として31年間、『ニューヨーク・タイムズ』を支えてきた。

左から:グレッグ・ゼラファ、クリス・ベデット、 ジェリー・グリーニー

ゼラファ、グリーニー、クリス・ベデット(Chris Bedetto)に会うため、『ニューヨーク・タイムズ』の印刷工場を訪ねた。彼らは修理工チームとして、83フロアにわたるタイムズ紙の印刷機を見守っている。平日の夜は約30万部、週末には100万部を超える新聞がこの工場で印刷されている。

Photo by Gabe Bornstein

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「俺たちの新聞がいち番よくできている」とベデットが続けた。「ポスト(Post : The New York Post)、その他すべて、マンガ週刊誌のレベルだ。到底、俺たちには及ばない」

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VSIモーターを交換するゼラファ。Photo by Gabe Bornstein

印刷工場はいつも騒がしい。アメリカン・フットボール場ほどもある印刷機で、明日の新聞が印刷され、折りたたまれ、梱包される。さらに刷り上がった新聞は、頭上に架けられた爬虫類のようなベルト・コンベアーで配送センターに運ばれる。忙しくない時間帯でも、チラシ、時間的制約のない…例えば「Style Magazine」などを印刷し続けている。

溢れたインク、回転するギア、忙しく駆け回っている作業員たちを見ていると、ふと、印刷の黄金時代にいるような気分になる。機械工たちは、発行部数が落ちているのを知っている。買収、人員削減で、同僚が減っているのもわかっている。8つの印刷機を24時間フル稼動しなくとも、翌日の発行部数を賄えてしまう。そして、印刷機の修理に必要な部品業者の多くは、既に倒産している。現在では、その必要な部品を自分たちでつくるか、より稀なものは、eBayやAmazonで見つけるしかない。そんな状況はもちろん、印刷物の減少だけを観ても、彼らは、現在の印刷業界の現状を真っ先に察知できるのだ。

Photo by Gabe Bornstein

3人の昔話は楽しかった。タイムズ紙の工場が、まだタイムズ・スクエアにあった頃、近所にあった「The Academy」というライヴハウスのドアマンが、夜勤中の彼らをいつも入場させてくれた話。年越しカウントダウン恒例のタイムズスクエア・ボールが工場内に転がってきた話。ダイアナ妃、ジョン・F・ケネディJr、フランク・シナトラが逝去した夜には「印刷機を止めろ」と怒号が飛んだ話。2機目の飛行機がツインタワーに激突した日は指示があるまで仕事が終わらなかった話。変圧器が火を吹き次の日の新聞が危うく発送できなくなりそうだった夜の話。もちろん、すべて彼らが対処し、新聞は無事発送された。

Photo by Xavier Aaronson