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Fashion

業界が求める赤ちゃんとは?

スカウトマンが明かすインドネシアの赤ちゃんモデル事情。

by Alia Marsha
12 March 2019, 12:57am

7ヶ月の甥っ子ほどかわいい赤ちゃんはいない。おばの贔屓目では決してない。私が白くてぷくぷくのほっぺや、まんまるの瞳や、ふわふわでムチムチのからだの写真を公開すると、普段よりも断然多い〈いいね〉をもらえる。そこで私は考える。この子はモデルになれるのでは、と。Instagramは数々のスターを生み出してきた。もし甥っ子に素質があるなら、キャリアのスタートは早いほうがいい。

私はInstagramの赤ちゃん投稿をスクロールしまくった。金持ちファミリーの嫡子が、タオルやベビークリーム、粉ミルクなどで遊んでいる写真が溢れている。しかし、赤ちゃんインフルエンサーはだいたい、すでに有名なインフルエンサーの赤ちゃんだ。つまり、生まれながらのインフルエンサー。エコー写真でぼんやり写っているころから何百万人が〈いいね〉を押している。だからこそ彼らは稼げるわけだ。

そして赤ちゃん投稿をスクロールし続けた私は気づいた。Instagramには、自力で名を上げた赤ちゃんなんていない。それでは、赤ちゃんモデル志願者はどうやって業界に足を踏み入れればいいのだろう。そこでは私は、インドネシアのチャイルドモデル業界で10年働くタリサ・ラフマ・エコチャンドラ(Talitha Rahma Ekochandra)に話をきき、乳歯が生えるまでにインスタセレブの仲間入りをするためにはどうしたらいいか探った。

タリサのモデル事務所では、生後6ヶ月から10歳までの実にかわいらしいタレントたちが所属している。現在の登録者数は数万人。モデルたちは、おむつなどの赤ちゃん用品や、料理用オイルのテレビCM、街頭広告、チラシなどにキャスティングされている。みんな、トイレの使いかたさえ教わっていないくらい幼いのに、すでに私なんかよりもずっと有名だ。ぷくぷくほっぺのセレブたちのおかげで、新規参入のハードルは相当上がっている。

自分の子ども(あるいは幼いきょうだいでも、いとこでも何でもいい)を広告に出演させたい、と考えているひとは少なからずいるだろう。街頭広告1箇所に顔が載れば、ギャラは2500万ルピア(約20万円)。この国の一般的な社会人たちの月給よりずっと上だ。テレビCMなら1500万ルピア(約12万円)。それでも最低限の生活ができる額だ。

赤ちゃんモデルにはなにが必要なのか? タリサにアドバイスを請うた。

(筆者注:私たちとしては、すべての赤ちゃんをかわいくて愛らしくて広告に載るに値する生きものだと考えています。ここでは、モデル業界に根付く赤ちゃんの美の規範をそのままご紹介していますが、それは読者のみなさんに業界のシステムや、業界の求める特性がいかに細かくていかに差別的かを知っていただきたいからです。私たちは、赤ちゃんモデル業界にも多様なイメージが溢れることを願っています。以下が現状の業界人たちに求められる理想の赤ちゃん像です)

ピンクがかった白い肌

インドネシア市場では、白い肌の赤ちゃんが好まれる。巨大な美白業界を思えば当然だろう。しかし、赤ちゃんの場合、真珠のような白い肌だけでは不充分。少しの「赤み」が必要だ、とタリサは説明する。

私はこれまで、頬がナチュラルなピンク色の赤ちゃんなど現実にみたこともないので、本当にそんな赤ちゃんが存在しているかが疑わしい。例を示してほしくて、私はこう尋ねた。「スンダ族の赤ちゃんとか?」。スンダ族とは、インドネシア人口第2位の割合を占める民族で、白い肌で有名だ。タリサは一瞬虚を突かれた様子をみせたあと、私の疑問を否定した。

「何と例えればいいか…。中国人みたいな感じですね。でも小さい目は人気がないので中国人であればいいわけでもなくて」とタリサ。「中国人の赤ちゃんだとしても、大きい目じゃないと。理想としては、中国人に間違えられかねないほど白い肌の、インドネシア人の赤ちゃんですかね」

まさに先ほど申し上げたとおり、細かい注文だ。

フサフサの髪

タリサによると「ヘルメットみたいに」髪の毛が多い子どもだと、企業はよろこぶそうだ。髪色は絶対に黒でなければならない。インドネシアのエンタメ業界では、白人や白人とのダブルは引く手あまただが、赤ちゃん業界においては、あまりに〈白人〉寄りだとチャンスが少ない。なぜなら髪色が重要視されるからだ。インドネシアの赤ちゃんは、髪色が暗くなくてはならない。

「〈ブール(bule: インドネシア語で〈白人〉を意味する)〉の子どもでも、ブロンドヘアならダメですね」とタリサ。

髪色のルールはいかにもバカらしい。髪なんて生えていなくてもかわいい赤ちゃんはたくさんいる。私の母によれば、わたしの兄も3歳になるまで完全にハゲていて、兄の毛髪が生えるように母はあらゆる自然療法を試したという。でも、昔の家族写真に映る兄はものすごくかわいいので、心配する必要はなかったと思う(とはいえ、いずれにせよ兄は赤ちゃん界のスターモデルにはなれなかっただろうけど)。

赤ちゃんの毛髪は、母親のホルモンや遺伝子など、コントロールできない要素により決定される。毛髪のような個人の趣味嗜好でキャリアが決まってしまうなんてひどい話だ。しかし、人生とは往々にしてフェアじゃない。その真実については、早くから知っておいたほうがいいだろう。

あるいはうまくいけば、世界的な活躍のチャンスもある。インドネシアのテレビCMは、基本的にアジア圏の他国のCMを言語だけ吹き替えてそのまま流している。色素の薄い瞳にピンク色のほっぺをしたインドネシア人の赤ちゃんが、タイの赤ちゃんとして粉ミルクの広告に登場する可能性もあるということだ。

真珠のように輝く白い歯

赤ちゃんというより、少し成長した幼児の話だ。歯が1~2本しか生えていないならいいのだが、幼児期に入った子どもたちの場合は、歯並びのよい白い歯じゃなければいけない。タリサによれば、広告担当者が幼児モデルを選ぶさいは、必ずいちばんきれいな歯の子が選ばれるという。というわけであまり甘いモノを食べさせないように(もちろんタバコなんてご法度だ。タバコを吸っていることで有名な子どももいたが、そんな方法で有名になってもしょうがない。しかも歯にも悪い)。

タリサによれば、どうにかして我が子をテレビCMに出演させたい、とオーディション前に義歯を我が子の歯にのりでくっつける母親もいるらしい。ショービズ界では子どもの笑顔さえニセモノだ。

行動は早めに。なぜならかわいいときは一瞬だから!

赤ちゃんモデルのキャリアは驚くほど短い。基本的にはおよそ3ヶ月で、とにかくふわふわでかわいかった第1フェーズが終わってしまう。かわいい赤ちゃんも、成人すれば普通、というパターンが大半だ、とタリサ。そのため、もっと大きくなり、成長してから我が子をモデル業界入りさせる親もいる。しかし、自分の赤ちゃんがモデル並みにかわいいと思うなら、善は急げだ。

ただ、赤ちゃんモデルを卒業しても、ショービズ業界に未来がある。演技レッスンを受け、シネトロン(インドネシア製ドラマのこと)業界に職を見つける元赤ちゃんモデルたちは多い。シネトロンではベタな恋愛ドラマが無限につくられているので、スターを夢みる若者たちの需要があり、出世できるチャンスもある。

私は貧困にあえいでいるところだし、赤ちゃんモデルの寿命は短いということで、まずは私のかわいい甥っ子がスターになれるチャンスはあるのか確認しなければ、とタリサに甥っ子の写真を送り、意見を求めた。しかし返信はない。悪い兆候だ。ようやくタリサから返事がきたと思ったら、「ちょっと髪が薄いかな :)」とのこと。きっとスターは、生まれながらのスターなのだろう。