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タイの医療用マリファナ合法化により全てが変わるかもしれない!?

他のアジア諸国もこれに続くのだろうか?

by Caleb Quinley
12 February 2019, 2:26am

栽培アシスタントが列ごとに大麻を検査する。イタリアにて。Photo by Alessandro Bianchi/Reuters

タイ王国が、アジアで2カ国目、東南アジアでは初めて医療用マリファナ合法化に踏み切った。推進派は、嗜好品としての合法化も遠くはない、と主張する。

世界有数の厳格な薬物取締法が施行されている同国にとって、画期的な決断になるだろう。タイの刑務所収容人数は東南アジアで最多、世界でも6位。そのなかでもっとも多いのが、軽微な薬物犯罪により検挙された人びとだ。わずか15年前、タイではドゥテルテ・スタイルの〈薬物戦争〉が推し進められた結果、大麻の売人数名を含む、薬物の売人数百名が死亡した。しかし、合法化推進派グループ〈Highland Network〉の最高マーケティング責任者、キティ・チョパカ(Kitty Chopaka)をはじめとする専門家は、タイにおけるマリファナの歴史について証言する。

「マリファナはタイ文化のいち部です」とキティ。「何世紀ものあいだ、農民たちは、クラトム(ミトラガイナ)の葉を噛んでいます。さらに、家では水タバコを吸う。そうすることで食欲も増し、リラックスでき、よく眠れるんです。そしてその次の日も、また次の日も同じことを繰り返してきました」

しかし東南アジアでは、ドラッグ合法化への抵抗が新たな局面を迎えている。フィリピンでは、ドゥテルテ大統領の厳しい取り締まりにより、これまでに1万2000人以上が死亡。そのうちのほとんどは、同大統領の就任以来急増した超法規的措置により銃殺された。

マレーシアでは、29歳の男性がFacebookで医療用カンナビス・オイルを販売した罪で、絞首刑を宣告された(現在は事件の再調査が進んでいる)。インドネシアでは、ドゥテルテ大統領の容赦ない政策が好意的に受け止められており、インドネシア警察は麻薬取引の容疑で約100人の命を奪った。そのなかには、10グラムのドラッグを所持で逮捕された容疑者もいた。

タイ警察も毎年、押収した大麻を含む麻薬を全て焼却処分していた。しかし、現在のタイは違う。2018年9月には、100キログラムにも及ぶ大麻を、研究用として医療専門家に譲渡した。状況は大きく変わりつつある。

ソムヨット・キッティムンコン(Somyot Kittimunkong)博士は、タイでの変化は火を見るよりも明らかだという。博士は、タイ国内の医療用大麻合法化の推進派として、長年第一線で闘ってきた。博士の主張によると、大麻はパーキンソン病や特定の種類のがんをはじめとする病気の治療に使用できる、という科学的根拠があるという。そう主張するのは博士だけではない。

53歳のソムヨット博士はこう説明する。「医師、裁判官、政府高官など、いろんなひとを見てきました。多くのひとが、がん治療の一環としてカンナビス・オイルを使用しているんです。兵士、警官もそう。タイではあらゆる職業のひとが、がん治療にカンナビス・オイルを取り入れているんです」

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ソムヨット・キッティムンコン博士

私たちは、タイ保健省内にあるソムヨット博士のオフィスの近くの、日当たりがよいカフェで話をした。広々として緑豊かなキャンパスに設けられたバンコク郊外の政府施設だ。カフェのスピーカーからメロウなボサノバが流れるなか、学者然として温厚な皮膚科医のソムヨット博士は、自身がマリファナに関心を抱くようになった経緯を教えてくれた。

「私の弟が…」と博士は切りだし、一瞬、間を置いた。まるで、のどに絡みつく感情を払うように咳ばらいをすると、こう続けた。「私の弟は、甲状腺がんを患っていました。私は弟のために治療法を探しましたが、何も効かなかった。そして弟は他界しました。その後、大麻でがんを治せると知ったんです。元々、カンナビス・オイルががん細胞を破壊する仕組みの研究結果しかありませんでしたが、私はさらに、参考になるような情報を探しました」

この研究が実証されているとは言い難い。確かに、カンナビノイドが肺がん、乳がん、さらに脳腫瘍を含む様々な疾病に有効な治療法となりうる、と主張している研究は、論文審査のあるまっとうな医学専門誌に掲載されただけでも数百もあるが、そのうちのほとんどが、人体に発生した実際のがん細胞ではなく、研究室でつくられたがん細胞を使用している。大規模な臨床試験が実施されない限り、マリファナに含まれるカンナビノイドが、がん患者の治療に有効なのか否かは不明だ。

しかし、バンコク、チュラロンコン大学(Chulalongkorn University)の社会研究所(Social Research Institute)所長、ニヤダ・キアティン=アングスリー(Niyada Kiatying-Angsulee)博士は、タイのようにマリファナの栽培、使用を法律で禁じている国では、臨床試験が不可能だという。現在、大学の研究者たちが禁止薬物を研究するさいは、政府から特別な承認を得なければならない。ニヤダ博士のチームも医療用クラトムとマリファナの研究をしており、承認を得られないわけではないが、そのプロセスは研究に差し障る。

「人体への使用は禁止されています。臨床試験ができません」とニヤダ博士。「カンナビスを栽培、使用は違法であり、その罰は重い。現行の法律では、医師によるカンナビスの処方も認められていません」とニヤダ博士。「文献レビューや他国の法律、そして既に他国で販売が認められている医薬品から、カンナビスの医療的効果は明らかです。私たちは医学的見地から、使用を推進しています」

そういう研究者の声に、親身になって耳を傾けたのがソムヨット博士だった。ソムヨット博士は政府機関で働いており、これまでに『Marijuana is Medicine That Cures Cancer』も上梓している。この著書により、タイにおける彼の注目度は上がった。そして彼は水面下で、医療用カンナビスの合法化を現在の軍事政権に必死に訴えた。カンナビス・オイルは、がんに効く可能性があるのになぜ違法薬物に指定されているのか、と疑問を抱いた彼は、政府にマリファナへの姿勢を改めるよう働きかけるグループを結成する。

「私たちのグループは、いくつかの党と接触を図り、この国の経済成長のためにも大麻の栽培を認可すべきだ、と訴えています」とソムヨット博士。「水面下とはいえ、動いていることには変わりない。できるかぎり多くの政党に働きかけています」

政府は合法化によりもたらされる利益に驚いていた、とHighland Networkのキティは証言する。この事実は、軍事政権にとって保健、健康にまつわるどの議論よりも強力な動機となり得る。タイ政府は、歳入の多くを消費税に頼っている。消費税が歳入を占める率は西洋諸国に比べると高く、2017年の歳入のうち、33%が消費税だった。タイ政府にとって、消費税は最大の収入源だ。マリファナのように、消費税の課税対象となる新たな品物を認可すれば、政府の利益も増加する。

「現在、少なくとも米国では、ウィードが利益を生んでいます」とキティ。「オレゴンでは、20億から40億ドル(約2100億~4200億円)規模の市場が形成されています。オレゴン州だけで、です。タイも巨大市場になるでしょう。政府は、マリファナが利益となること、国民の健康に良い影響を与える可能性があることを認識しています」

タイ人が抱くマリファナの印象も変わりつつある。今や、タイ人の大半が医療用マリファナに賛成しているのだ。2018年8月に公開された、バンコクの大学院〈National Institute of Development Administration〉の調査では、調査対象となったタイ人の72.4%が医療用マリファナ合法化を支持していることが判明した。タイにおけるマリファナや薬物使用の印象が変化しつつある何よりの証拠だ。2016年には、タイの司法大臣も「世界は薬物戦争に敗北した」と主張し、覚せい剤の合法化に言及した。これも、コストがかかり、勝利もできない薬物戦争にタイ全体が疲弊している事実を示している。

「倫理や思想ではなく、科学的根拠を元にした政策決定へと変化している。好ましい変化です」と説明するのは、〈International Drug Policy Consortium(国際薬物政策協会)〉のアジア地域長、グロリア・ライ(Gloria Lai)。「おそらく他のアジア諸国も追随するでしょう。既に、韓国、スリランカ、フィリピンで医療用カンナビス合法化に向けた議論が進んでいます」

タイ政府の関心も高い。政府は、専門家チームを、大麻産業の現場を学ぶためカナダに送り込んだ。保健省も今や、大麻合法化に向けた取り組みの支援に乗り出している。

もし医療用カンナビスの合法化が実現すれば、全面的な大麻解禁、つまり、嗜好品としての大麻の個人栽培が解禁される可能性もある、とソムヨット博士は考えている。政府閣僚は、治療法としての大麻の臨床試験を可能にするための、薬物取締法の改正に積極的だ。

この改正法案は、現在、タイの国家立法議会本会議に入る前の審査中で、専門家によると、審査を通ることは間違いないとされている。議員たちは、2019年3月に予定されている総選挙で法律成立が遅れることを懸念し、政府が権力を行使して、投票なしで法律を成立するよう迫っている。

法律成立を見越し、既に包括的合法化について主張している面々もいる。

「合法化に賛成たくさんの関係者、政治家に会いましたが、彼らの多くが包括的な合法化に賛成しています」とソムヨット博士。「ビジネス目的のカンナビス栽培も認可することを公約に掲げようとしている政党もあると聞きました」

ここで私の頭には疑問が浮かんだ。どうして急に大麻合法化に向けた動きが加速しているのか。ソムヨット博士は、薬物自体の世間における認識が変化していることを指摘する。米国でもそうだが、近年、マリファナ合法化は徐々に支持されるようになっている。タイは軍事政権だが、それでも政策決定において民意は重要だ。

「受容されてきてるんです」とソムヨット博士。「国民が受け入れ始めている。今は、世間の声がモノをいう時代ですから」

さらに博士によると、もし、タイでの合法化計画がうまく進めば、東南アジア諸国も後に続くだろうと予測している。それは、東南アジア地域全体の薬物への意識を変化させるはずだ。タイで合法化が本当に実現すれば、国際的な趨勢の大きな転換点となるだろう、と博士は期待する。

「ラオス、カンボジア、ベトナム、ミャンマーなど大麻の利用が黙認されている国でマリファナを栽培したがっているタイ人もいます。そういった国々の指導者、首相たちは、『タイが合法化を進めれば、わが国も進める』と表明しています。つまり、タイで動きがあれば、地域全体、そして世界全体も動くということです」

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