シャーマンと過ごしたカザフスタンでの奇妙な冬

カザフスタンの女シャーマン、ビファティマ・デゥアレトワ。彼女のもとには、不治の病の治癒を願う者、薬物依存に打ち克とうとする者、妊娠を望む者が集う。羊を屠り、神に動物の魂を捧げて、邪悪な精霊を取り除くという、イスラム教の供儀〈クルバン〉を執りおこなう模様をまとめたフォト・レポート。

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15 februari 2017, 8:49am

スーフィズムはイスラム教の神秘主義一派で、ムスリム世界では少数派だ。スーフィーは信仰生活の秘密めいた様相に重きをおき、神との直接的で個人的な体験を追求する。

カザフスタンにイスラム教が到来したとき、スーフィズムは土着の遊牧民文化にあったアニミズムやシャーマンの伝統と結びついた。伝統的な治療師や占い師である〈バクシー〉は、スーフィズムに改宗したが生業は続けた。彼らはスーフィーの修道僧となり、極貧生活と苦行に耐え、禁欲を通じて他者に神への道を示した。

ビファティマ・デゥアレトワ(Bifatima Dualetova)は、カザフスタン最後のスーフィー修道僧のひとりとされる。わたしが初めて彼女に会ったのは、中央アジアを旅していた2010年9月だった。アルマトイに滞在していたとき、ウズベキスタンとの国境付近のウングルタスという小集落の外れに、女シャーマンが暮らしていると、泊めてくれた現地の人たちから聞いた。「村の一番端の家だよ。〈聖なる丘〉のふもとの」と彼らは教えてくれた。

わたしがその家を訪れたとき、彼女は不在だった。しかし、全国から訪れていた彼女の信者や患者が、ビファティマはカザフスタン南部のスーフィーの聖地に巡礼に出かけている、と教えてくれた。彼らの話を聞いて、バクシー文化をとりまく伝説と噂を知った。彼らはビファティマの力に、畏怖の念を抱いているようだった。彼らの勧めで、地下のモスクに泊まり、ビファティマの帰りを待った。1週間後、彼女は帰ってきた。しかし、わたしのビザが切れかけていたので、このときは少ししか会話できなかった。

2か月後、私は、リトアニアからインドまでバンで旅をしていて、雪の季節になる前に南下したいと考えていた。けれども、天候を読み違え、山越えできずにタジキスタンで足止めを食った。バンが故障続きだったのに加え、夜の気温はマイナス22℃まで冷え込んだ。エンジンを1時間以上切っていたら、タンク内でディーゼルが凍るほどだった。大げさでなく凍死しかかっていたところを、トラック運転手に何度も救われた。旅の続行を断念したわたしは、計画を変更し、もういちどビファティマに会うために、カザフスタンに向かった。

結局、わたしは2011年1月から3月まで、2か月以上にわたってビファティマに同行し、彼女の儀式や習慣を記録し、羊を放牧し、バンを修理して過ごした。

ビファティマの話では、彼女は11歳のときに初めて預言の〈ヴィジョン〉を視て、それに導かれるまま、何千キロもの距離を歩き、ウングルタスの聖なる丘に辿り着いたという。ここに集まる、莫大な宇宙のエネルギーを利用して、業によってもたらされた人々の問題を解決しているそうだ。

彼女は、しばしばイスラム教の供儀〈クルバン〉を執りおこなう。信者たちの上で羊を屠り、神に動物の魂を捧げて、邪悪な精霊を取り除く。信者はオスメス1頭ずつ、2頭の羊を連れてこなくてはならない。そして、ビファティマがクルバンを執りおこない、オスの羊を屠っている最中に、羊の下に潜り込む(メスは後にビファティマが所有する群れに加えられる)。最後に、信者は凍てつくほど冷たい小川に入り、ビファティマが罪を洗い清める。このプロセスは誕生を象徴していると彼女は説明する。産道を通って、血まみれで出てきたあと、水で清められるのだ。

いうまでもなく、これらすべてを目の当たりにするのは、一種のトリップ体験だった。しかし、自分とこれほどまでに異なる人たちとの共同生活自体がトリップだ。彼らは事実上のコミューンとして、形而上学的な農村生活を送っていた。数日だけ滞在する者もいれば、ビファティマを導師とあがめ、何年もここに暮らす者もいる。しかし、ほとんどの来訪者は3種類に区別される。不治の病の治癒を願う者、薬物依存に打ち克とうとする者、妊娠を望む者だ。スピリチュアルな高みをめざす、ロシアのニューエイジ運動家たちもよく見かけた。

昼間はコミュニティの全員が農場で働く。日常の仕事のひとつひとつに象徴的な意味がある。ビファティマは多くを語らない。先祖の英霊がそう命じている、と彼女が指示するままに人々は納屋を片付け、羊を放牧し、ガチョウを追いたてる。

写真家として、旅行家として、常にメインストリームの辺縁にあるコミュニティに魅了されてきた。わたしの作品のほとんどは、旅の途中で出会った直接の体験にもとづいており、コミュニティ内部から深く掘り下げたストーリーを語る。私は受動的に観察するタイプではない。

わたしは、この作品の制作にどっぷりとのめりこんだ。伝統的なカザフ人の文化は、欧米人にはショッキングだが、この地域では、大いに敬意を払われている。

ビファティマと過ごし、彼女が持つ、奇跡であろう力に圧倒された。まわりで起きている、ありとあらゆる物事を理解するためには、思考のスイッチを切るしかなかった。

羊の頭を調理する

羊の頭を調理する
ビファティマ・ドゥアレトワ
聖なる丘での瞑想で1日が始まる
昼間、シャーマンは訪問客たちを紅茶とバターブレッドでもてなす
家の入口に飾られた動物の頭蓋骨
小川の水で男性に清めの儀式を施すビファティマ
羊の出産
羊の出産を手助けする男性
祈るビファティマ
これから生贄にされる羊の下でうつ伏せになる男性
参加者の首を叩き、鬱屈したエネルギーを解放する儀式を、執りおこなうビファティマ
クルバンのあと小川で体を洗う信者たち
コミューンの最古参のひとり、アクスル。彼女はこの3年間ビファティマの元を頻繁に訪れている
清めの儀式の一環として、羊の肺で信者を叩くビファティマ
羊の肺を持っているビファティマ。壁の文字は、彼女がコミューンへの寄付を推奨する物のリスト
月に1度、ビファティマは滞在者全員の頭を剃る
儀式の残り物はしばしば犬に与えられる
信者を連れてスーフィーの聖地に巡礼に出かけるビファティマ
中央アジアのスーフィズム宗派の指導者、ホージャ・アフマド・ヤサヴィーの霊廟を訪れる信者たち
ホージャ・アフマド・ヤサヴィー廟の前で、祈りを唱えるビファティマ
聖なる丘での夕刻の祈祷
ビファティマとロシアから来た2人の信者
ビファティマの代理人、ジュマガリ
コミューンの人々
クルバンのあと、羊の血にまみれたまま紅茶を飲む信者
地下モスクでの夜の瞑想
ウングルタスへの道
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