メタル化するシカゴの名門レーベル THRILL JOCKEY

シカゴのレーベルTHRILL JOCKEYと言えば、TORTOISE、THE SEA & CAKE、A MINOR FOREST…そう、イメージはやはり「ポストロック」。しかしお気づきだろうか?ここのところあの勢力がジワジワと拡大していることを。そう「メタル」。

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22 June 2016, 6:46am

「ヘヴィメタル」と聞いて、最初にシカゴのレーベルTHRILL JOCKEYを思い浮かべる音楽ファンはほとんどいないだろう。未だ明確に定義できない「ポストロック」と呼ばれるジャンルを好む音楽ファンならば、真っ先にTORTOISE、THE SEA & CAKE、A MINOR FORESTといったバンドを思い浮かべるはずだ。複雑でジャズの色彩を帯びた彼らの楽曲は、「フムフム」としたり顔で接するのが正解であり、「ステージに向かってヘッドバンキングせよ!」なんて、悪魔からの命令もない。

しかし状況は変わったようだ。ポストロック、ドローン、クラウトロック、インディーロック、そしてダニエル・ヒグス(Daniel Higgs:LUNGFISH)の素晴らしいソロ作品などを経て、現在、THRILL JOCKEYは、メタルの境界線上を歩いている。聴く者の魂を吐き出させるエクスペリメンタル・スラッジ・メタル・デュオ、THE BODY。ポストブラックメタル界の異端児、LITURGY。ISISのアーロン・ターナー(Aaron Turner)が始めたSMAC。そしてスティーブン・タナー(Stephen Tanner:HARVEY MILK)のソロ・ユニットであるMUSIC BLUESもドゥームをかまし、伝説の暗黒プログレッシヴ・メタル・トリオYOBのマイク・シュミット(Mike Scheidt)も、音はアコースティックながら、THRILL JOCKEYからソロ・アルバムを発表した。

この不穏な動きを指揮しているのが、THRILL JOCKEYのオーナー、ベティーナ・リチャーズ (Bettina Richards)女史。レコード屋に行けば、隅から隅までチェックしなければ気が済まないこの音楽狂に、レーベルの謎を訊いた。

若い頃はどんな音楽を聴いていましたか?

ニール・ヤング(Neil Young)が本当に好きだった。もちろん今も好きだけど。高校の頃は、STYXみたいなイカレた音楽ばかり聴いていた。父のレコードでラジオ局ごっこをしたり、DJごっこをやったり。ミックステープもつくってた。

今のあなたを形成した「これだ!」という音楽との出会いはありましたか?

ファンジンに載っているようなアーティストたち。意識して目を通し、自分で探さなければ見つからないような人たちに夢中になった。「ルールなんて必要ない。自分のルールは自分でつくる」そんな感覚かな。それが今も続いてる。

あなたはメジャーのレコード会社で働いていたとき、LEMONHEADSやMEAT PUPPETSなどを担当していましたね。グランジ・ブーム真っ只中でしたが、どんな時代でしたか?この両バンドは、どちらも大成功したとはいえませんが。

そうね、正直言ってLEMONHEADSは自滅しただけ。あと当時のボスからは、「MEAT PUPPETSのボーカルをちゃんと歌えるようにしておけ!」なんて指示されていた。まったくねぇ(笑)。その後、NIRVANAがMTVアンプラグドにMEAT PUPPETSを呼んでくれてね、いきなりボスは「最高のバンドだな!」なんて褒め始めた。とても変な時代だったわ。

どんなライヴに行ってました?

なんでも行ったわ。CBGBにはしょっちゅう顔を出していたし、ニュージャージーのシティ・ガーデンズ…「くそったれガーデンズ」って呼ばれていたんだけど、そこまで車を飛ばしたこともあった。ヘヴィなバンドもたくさん。どこかの高校の変な体育館で、SEPULTURAを観たのを覚えてる。駐車場は、ステーションワゴンだらけでね、たくさんの母親たちが子供を待ってた。15歳くらいの男の子たちが、Tシャツを何百ドル分も買ってた。ニューヨークでいろいろなライヴを目にしたのもラッキーだったかも。ニッティング・ファクトリーでのサン・ラ(Sun Ra)とか。圧倒されたわ。

音楽に関しては、ずっと雑食だったんですね?

そう。あとは、一緒に仕事をした様々な人たち…例えばFREAKWATERのキャサリン・アーウィン(Catherine Irwin)なんかに、昔の音楽の良さも教えてもらった。私は今、そんな昔のレコードを必死に探してる(笑)。アーティストと仕事をして楽しいのは、彼らの好みがわかるから。

「ひとつのことに夢中になって突き進むと、そこは不思議の国に続くウサギの穴だった」と。

確かに!それで突然、5ヶ月ぶっ通しでダブを聴くようになる。

あなたのレーベルは、TORTOISEのようなバンドがメインでしたが、最近はヘヴィ系のリリースも多くなってきました。あらたな契約スタイルを始めたのですか?

それもそうだけど、バンドの方が私たちに関心を持ってくれている。LITURGYのハンター(Hunter Hunt-Hendrix)みたいなアーティストが、自らの音楽と、ボアダムスに共通性がある、そう気づいたら、彼らと私たちがコラボするのは必然なわけ。だってTHRILL JOCKEYはボアダムスをリリースしているんだから。それにLITURGYが成功したから、他のアーティストもやってみようと決めた。おかしいと思われたり、インチキ野郎、なんて貶されるのはわかってた。でも、何もしないでいるより、ひとつでも上手くいけばそれでいいじゃない。そう考えれば大胆になれるし、お互いにとってもメリットがあるの。

あなたのレーベルには、ジャンルの境界を気にしないバンドが本当にたくさん所属していますね。確かにボアダムスは良い例です。

そうね、LIGHTNING BOLTの新作も、数え切れないくらいのメタル系サイトがレビューしてくれた。でも私は、そもそもレーベルってものが好きじゃない。それをアイデンティティにしている人なんて、そんなにいないじゃない。もちろん、音楽ジャンルそのものをアイデンティティにしてる人もたくさんいる。特にメタルやヒップホップをやっている連中に多いわ。でも、ひとつのタイプの音楽しか聴かない人なんて、そんなにいない。THE BODYの音楽は、ヘヴィ中のどヘヴィだけど、リー(Lee Buford)と私のつながりは、FLEETWOOD MACの大ファンってことなの。

人間誰しも、ミュージシャンであれ、ファンであれ、歳月を経れば丸くなるものですが、あなたのレーベルは真逆ですね(笑)。

そうかもね。でもメアリー・ラティモア(Mary Lattimore)とジェフ・ジーグラー(Jeff Zeigler)のアルバムは、1968年のフィリップ・ガレル(Philippe Garrel)のサイレント映画『現像液(Le révélateur)』に捧げるサウンドトラックなの。とても美しいハープの音楽。

両極端をひとつにできる音楽はあるんでしょうか?

あるわよ!本当に素晴らしいメロディと、真に優れたリズム…いい?言うわよ、このレーベルには、地球上で最高のドラマーが揃っている。並みのドラマーなんて目じゃないわ。

SUMACのサウンドは、THE SEA & CAKEとまったく違います。でも両者が持っているアルバムのコレクションのなかには、共通したレコードが何枚もあるような気がします。

もちろん。アーロンにはマルチな才能がある。SUMACのアルバムは超ヘヴィだけど、アーロンのSUMACに対するアプローチは、みんなが彼の経歴から想像するようなものじゃないの。私たちは彼の作品を長い間手掛けているんだから。

これまで多くの人たちがヘヴィメタルを「バカバカしい音楽」とバカにしていました。筋金入りのTORTOISEファンを相手に、闘わなければならないのでは?

OVALが最初に来たときのことを考えたらどうってことない。オフィス用品店で、彼にツアー用のデスクトップコンピューターを買ったんだから。ラップトップじゃなくて、オフィスのセット。それでツアーに出た。みんな、まったく何をやっているのか理解できなかった。あのときのOVALに対する辛辣な批評は、私の想像を遥かに超えていたわ。

逆に「荒らされた!」なんて、メタルファンからの批判は?

ハンターがいろいろ詰られたのは知ってる。あの憎悪の凄まじさったら…。LITURGYが「Vitriol」(辛辣な言葉の意)という曲をつくったのは偶然ではないハズ。そういう気持ちを抱くファンもいるでしょうし、理解もできる。人は心から好きなものに対して縄張り意識を持つから、理解していない人間が乗り込んできた、と熱り立つんでしょう。でも、もう少し視野を広げる必要があるんじゃないかな。

現在THRILL JOCKEYに所属しているヘヴィなバンドを初めて聴いたときの感想をお願いします。ではまずLITURGY。

ハンターのアンチカリスマ性というのかしら、あれには驚いた。どう説明したらいいのか。彼は苦しんで、自らのメッセージを伝える作品をつくっているのに、ステージでは逆の行動をする。まるで後ろに隠れて、自分を出したくないみたいに。びっくりした。凄まじいステージパフォーマンスを期待してたのに。実際には真逆だったんだから。

ブラックメタルは、もともと挑戦的な音楽なのに、パフォーマンスを避けるのはある意味すごいですよね。

そうなの。白いTシャツを着て、下を向いて。義理の両親の家でディナーを食べてるような話し方をする。

OOZING WOUNDについてはどうですか?

ライブの間、ずっとニタニタした笑いを浮かべて…コントロール不能。LIGHTNING BOLT、BLACK PUSのブライアン(Brian Chippendale)の知り合いだったんだけど、とにかくポスターが最高だった。「BLACK PUS(黒ずんだ膿)」と「OOZING WOUND(血のにじみ出る傷口)」だなんて! 観に行かないワケがない!

OOZING WOUNDのどこが気に入ったんですか?あなたのクローゼットの奥には、TESTAMENTのパッチ付きGジャンでもあるんですか?

だったら面白いけどね!そういえば、私には7歳の双子がいるんだけど、あの子たちを産んだ後、最初のライブは、JUDAS PRIEST、MOTÖRHEAD、HEAVEN AND HELL、そしてTESTAMENTの共演だった。インディアナまで行ったわ。すごかった。レザーやデニムのベストを着たファンがたくさん。「インディアナのロックコンサートはこうじゃなきゃ!」って。

SUMACは?

出てきてすぐに観た。グッタリするけどとても複雑で、本当にいいライブだった。私はニタニタ笑ったりしなかったけど、首が痛くなったのは間違いないわ。

では、最後の質問です。メタルのライブで経験した一番変なエピソードを教えてください。

そうね、クラブの外で座ってたら、MUTILATION RITESのメンバーが全員出てきて、そばに座って、ずっと自分たちのアソコの話をしているの! 私たちもここに座ってるんですけど…。あれは本当におかしな経験だった!