レイプ犯の弁護に就く弁護士に10の質問

「性犯罪者は何か問題を抱えているから事件を起こすのだ、と私は考えています。被告側の弁護人としてのわれわれの役割は、被告人の問題を説明し、適当な刑罰を判断することです」
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translated by Ai Nakayama
Tokyo, JP
レイプ犯の弁護に就く弁護士に10の質問
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レイプ犯の弁護に就くなんて、道徳的に破綻した行為のように思える。推定無罪は近代法の基本原則だが、レイプ犯の弁護を仕事にあえて選ぶ弁護士がいるなんて、到底理解しがたい。戦争犯罪人やたばこメーカーの弁護に就くようなものだ。

これが、レイプ犯弁護についての第三者の印象、感情である。

当事者はどう考えているのだろうか。それを探るため、私は、オーストラリア第2の都市、メルボルンの刑事事件専門弁護士アンソニー・アイザックス(Anthony Isaacs)に話を聞いた。アイザックス弁護士は、この39年間で、200人近いレイプ、性的暴行事件の容疑者の弁護に就いてきた。アイザックス弁護士は彼のオフィスの外で、私を握手で迎え入れると、彼のふたりの息子に私を紹介し、コーヒーを出してくれた。そのあいだにも彼は、自分が弁護を担当した数々の残忍な事件のあらましを話してくれた。そして私たちは席につき、レイプの容疑で告訴された被疑者の弁護について、意見を交わし合った。

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まずは倫理的な話から始めましょう。あなたは、自分が正しいことをしている自信がありますか?
もちろんです。世間では、〈性的暴行で起訴される=有罪〉と認識されていますが、容疑に合理的疑いの余地なしと証明できるか否か確認するため、あらゆる証拠を調べるのは当然であり、必須です。それこそが近代法の基本です。 被疑者が犯罪を認める場合は、事件の様々な背景や状況を確認し、裁判所に適当な結論を提示するのがわれわれの仕事です。われわれは基本的に、起訴を避けるべく交渉をします。あまり知られていませんが、刑事裁判の大半は、有罪の答弁を前提に進められますからね。私は刑事事件しか弁護しません。刑事事件専門なんです。

あなた自身、依頼人は有罪だとわかっていても、弁護に就いたことはありますか?
あります。証拠を調べることについては、何の問題もありません。検察側が、合理的疑いの余地がないレベルまで犯罪を証明できないなら、しょうがないですよね。証拠が、求められる基準に達していなかったんですから。近代法は、証拠調べを基礎としています。依頼人が起訴されていようが、確固たる証拠があろうが、私はかまいません。依頼人が私の弁護を必要としているなら、それが私の仕事です。

では、有罪だと思われる依頼人を弁護することはよくあると?
われわれは、依頼人の意志に従って行動します。例えば最近担当した性的暴行事件では、有罪の証拠が有力でした。そこでわれわれは依頼人に、もし自分の罪を認めれば、基本的には裁判に持ち込むよりも軽い刑罰で済むだろう、と伝えました。しかし依頼人はそのアドバイスには従わず裁判に持ち込み、結局有罪判決を受けました。控訴しましたが、控訴審でも有罪となりました。

そんな依頼人たちを弁護するのは嫌ではないか、と訊かれたら、はっきりと「嫌じゃない」と答えます。現在の司法制度は、証拠調べを基礎としています。依頼人が起訴されていようが、確固たる証拠があろうが、私はかまいません。

有罪と思われる依頼人の無罪を勝ち取ったことはありますか?
数年前に弁護した、レイプの罪で起訴された依頼人は、裁判所から無罪判決を言い渡されました。裁判所から出るとき、依頼人は、彼が罪を犯したと明らかにするような言葉を口にしました。私がよろこぶはずもないとは彼もわかっていたでしょうが、私はそういったことには心を乱されません。近代法においては、合理的疑いの余地がない、と証明できなければそれまでです。有罪とならなかったからといって、無罪であるわけではないですし。

実際、私は自分の依頼人にも、彼らの行為にも、賛同してはいません。世間には、私のような弁護士も社会のいち部であると理解していただきたい。われわれだって、父であり、夫であり、息子であり、母であり、妻であり、娘です。この社会で起きた事件については、われわれも世間一般と同じように感じますよ。

あなたの依頼人を訴えた被害者に、申し訳ないとは思いませんか?
証言を耳にして、心が痛むことはあります。事件が被害者にどんな影響を与えたかを聞くのはつらいです。私が最悪だと感じたのは、事件によって身体的、精神的に崩壊した被害者の生活の実情を聞いたときです。アルコール依存症、薬物依存症になったりとか。生活がいかにして崩壊したかを訴える証言には、誰でも胸が痛むはずです。

レイプ犯の弁護をやめたくなったことはありますか?
心が痛みますし、精神的にもつらいので、実際にやめる弁護士もいます。でも私はないですね。これまで、残忍な犯罪行為に及んだ人びとの弁護を務めてきました。かつて、老人ホームで老女ばかりを狙った連続レイプ事件の被告人となった依頼人を弁護した経験もあります。彼は自分の罪を認めましたが、それでも大変でした。彼は様々な問題を抱えていたんです。性犯罪者は何か問題を抱えているから事件を起こすのだ、と私は考えています。被告側の弁護人としてのわれわれの役割は、被告人の問題を説明し、適当な刑罰を判断することです。

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夜、眠れなくなったりしませんか?
前は、ストレスが溜まったときはお酒に走ってました。でもここ3年半は飲んでないです。あとはブラックジョークを飛ばしたりしますね。とにかく笑わなきゃやってられないときもあります。友人とディナーへ行ったりもします。でも大体最近どう、と訊かれて、担当している依頼人の話をすると、みんな言葉を失います。私はそんなとき、彼はそこまで悪いんだろうか、と疑問に思います。依頼人の事情も聞くべきです。そうすれば行為がどれほど不適切かはよくわからなくなります。

あなたが選択したキャリアについて、周りから批判は受けませんか?
「どうして犯罪者のために行動できるの?」とは訊かれます。あとは〈犬〉とけなされたり、自分が恥ずかしくないのか、といわれたり。証人席に立つ女性を打ちのめしている、と非難されたり、無罪判決について責められたりもします。そういうときは、「何が問題なんですか? その人が有罪というのなら、それはなぜですか?」と尋ねます。

あとは、親友の親友と、侃々諤々の議論を交わしたこともあります。みんなでディナーに出かけたとき、その男性が、陪審員に選ばれたときの話を始めたんです。彼は、大半の陪審員たちに被告の有罪を納得させたといいました。そこで私は、「当初彼らは有罪に納得していなかったのに、それであなたはいいんですか?」と問いました。私が自分の職業を明かすと、彼は被告側の弁護人を非難し、われわれがいかに人びとをだまし、答えられないような質問ばかりしていじめているかを滔々と説いてきました。もちろんそれはいいがかりです。

そもそも、被告人が本当に無罪のケースなんてあるんですか? めったにないように思えるんですが。
例えば、双方ともかなり飲んで酔っていたり、ドラッグを使ったりしているケースです。事後、後悔の念や社会的な罪悪感に襲われたり、何も思い出せなかったり、もしくは第三者から何が起きたかほのめかされる。そうして、レイプ事件として告訴するに至るのです。大方、原告側は、自分は酩酊状態だったため同意できなかったはずだ、と主張します。

性的暴行事件でよくあるのは、浮気をした女性が苦境に陥り、レイプされたと主張する、というケースです。みんな、そんなのナンセンスだ、といいます。どうしてそんなことをする必要があるのか、と。でも実際、今進行中の案件では、依頼人はこう訴えています。行為には何も問題がなかった。しかし、依頼人がいうところの実に濃厚なセックスの結果、女性の首や胸元にキスマークやアザが残った。翌日女性がそれをみて、彼氏にどう弁明すればいいんだ、と頭を悩ませた。その結果、警察へ足を運び、自分はレイプされた、と届け出た。私自身は、何が真実かはわかりませんが、依頼人はこう証言しているんです。裁くのは私ではありませんからね。

でももし原告側がレイプされていたら?
こういいます。「陪審の前で、あなたが同意していなかった、と合理的疑いの余地がないくらいに証明してください」

でも、もし彼女がレイプ被害者だとしたら、あまりにも冷たい返答です。
でも、陪審裁判以外に解決方法がありますか? 他に何ができますか? 無実の人間が刑務所に入れられないよう保証するのが近代法です。もちろん、それでも冤罪はまだありますが、無実の人間を守る方法としては、有罪であることを合理的疑いの余地がないくらいに証明するのが最善です。

Interview edited for clarity and length.

This article originally appeared on VICE AU.