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ヤクザ、ダイバシティー、インバウンド!! タトゥーと温泉問題の行方

ヤクザとジャパニーズスタイルのタトゥーを入れている人は、決してイコールではない。多様な国籍や人種、性を認めようとするように、多様な趣味嗜好を認めたって良い。日本でタトゥーを入れている人が規制されていることは事実だ。温泉、海水浴場、スポーツジムなど。これらの問題を、どう解決していくべきか、タトゥー専門誌の元編集長であり、現在はバイリンガル・ウェブサイト『Tattoo Friendly』を運営する川崎美穂に話を聞いた。

by Yuichi Abiko
01 October 2019, 5:56am

音楽、ファッション、アートなどの文化や会社組織が、各個人の政治思想をタブー視することで、文化はただのエンターテイメントに成り下がり、ビジネスは金を稼ぐためだけのツールとなってしまった、ともいえる現在の日本社会。
ジェンダーの問題など多様性を叫びながら、一方で自分に都合の悪い物事や気に入らない物事にはクレームなどで噛みつきたがる風潮がある。この相反する価値観がバランスをとれず混在してしまっている。
現代社会の問題のひとつに、タトゥーを取り巻く環境もあげられるだろう。タトゥーを入れている人は全員悪い人と認定して良いのか? その人は温泉に入ってはダメなのか? 怖いからといって何も悪いことをしていない人々を存外に扱っても良いのだろうか?
多様性と自己都合の狭間で揺れ動くタトゥー問題について、タトゥーと温泉や海水浴の問題を中心にしたバイリンガル・ウェブサイト『Tattoo Friendly』を運営する川崎美穂に話を聞いた。

インタビューが終わり、墨田区にある川崎さんの事務所をあとにすると、街中は陽気に浮かれる人の熱気で満ちている。この日は隅田川花火大会があった7月27日。そもそも自分の表現以外で盛り上がる人々を見るのが気に食わない自分にとって、苦痛でしかない帰り道であったが、今日ばかりは、花火でもみてみようかなと、道を引き返し花火大会に向かった。

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タトゥーを取り巻く日本の現状に驚かされるとともに、バカらしく感じることも多々あります。タトゥーと温泉の問題や、医師免許がなければタトゥーを入れられないと彫師が検挙されたことではじまった大阪での裁判など、ある意味、とても遅れているというか、日本人として恥ずかしささえ感じます。

いやいや、そんなことはないんですよ。むしろ、前進しているとも言えます。

どういうことですか?

世界のタトゥーシーンと日本のタトゥー史を俯瞰してみると、来るべきときが来たなって感じです。

タトゥーの歴史という大きな視点で捉えたら前進していると?

日本におけるタトゥーの歴史は、現在推測できる範囲でも約1万6000年前から存在してきました。それが大きく変化したのが江戸時代後期です。鳶や町火消の風習としてはじまり、浮世絵をはじめ歌舞伎や浄瑠璃、落語や講談など様々な文化と結びつき、世界でも類をみない美しい装飾に発展しました。いまのタトゥーカルチャーのルーツが確立されたのです。一方で江戸時代には、幕府が軽犯罪者への刑罰として〈入墨〉を採用しています。開国して明治時代になると、諸外国への体裁を取り繕うため入墨刑は廃止されましたが、独自の文化をもっていたアイヌ(北海道)や沖縄などの女性たちがおこなっていたタトゥーの風習まで禁止されてしまいます。憧れの対象だったタトゥーが、排除の歴史を辿ることになるのです。
装飾としてのタトゥーも規制の対象になりました。とはいえ生粋の江戸っ子を中心にタトゥーの愛好家は多く、また、ジャパニーズタトゥーは来日記念のお土産として人気がありました。ヨーロッパのセレブのあいだでタトゥーが流行していたんです。
装飾としてのタトゥーは、規制されていた明治、大正、昭和前期も途絶えることなく、脈々と彫り継がれてきました。その間、愛好家たちはタトゥーコンテストを開催するなど、日本独自のアート性の高いタトゥーをずっと誇りにしてきました。このタトゥーを規制する法律は、終戦後に施行された日本国憲法で撤廃されます。
1960年代になると、テレビの台頭で急速に斜陽産業化した映画界が〈ヤクザ映画〉をヒットさせ息を吹き返します。ヤクザ映画には、ジャパニーズタトゥーの絵を身体にペイントした役者が登場し、人気を博します。そこからジャパニーズタトゥー=ヤクザという認識が茶の間に定着していきます。ヤクザ映画は非常に人気のジャンルですが、80年代に入るとリアルの世界でヤクザの抗争が激化し、街なかで一般人を巻き込んだ事件に発展。1992年には暴力団対策法が施行され、社会から暴力団を追放しようとする動きが活発になります。この頃ブームに火がついたのが、レジャー施設として新たにオープンしたスーパー銭湯や健康ランドなどの日帰り温浴施設です。当時はまだ〈暴力団お断り〉と堂々と掲げるのは勇気のいることでしたから、やんわりと〈入れ墨お断り〉と表記されたのです。

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エミネムのタトゥーを担当したミスター・カートゥーンの特集記事。雑誌『TATTOO BURST』2007年7月号より

90年代以降、日本のユースカルチャーやサブカルチャーの台頭によって、タトゥーは文化として発展していきました。ミュージシャンなどが、アートやファッションとしてタトゥーを捉え、文化が広がっていきましたよね。

1985年ごろになると、日本にもアメリカンタトゥーを専門としたタトゥースタジオがオープンしはじめます。日本国内でタトゥーといえばジャパニーズスタイル一択でしたが、RED HOT CHILI PEPPERS(レッド・ホット・チリペッパーズ)みたいなミクスチャーバンドや、ヒップホップであれば2パックなど、それぞれの音楽ジャンルにタトゥーアイコンと呼べるヒーローが現れると、日本の若者もジャパニーズスタイル一択から、より自由に自分らしいタトゥースタイルを選択できるようになっていきました。それが90~00年代の出来事です。
若者が新しい流行を好むのは世の常ですが、一方で、国内では古臭いとされていたジャパニーズスタイルも、MOTLEY CRUE(モトリー・クルー)やレニー・クラヴィッツといったミュージシャンが、来日の際にジャパニーズスタイルのタトゥーを入れたことから、逆輸入の形で再評価されていくようになります。
ヤクザの羽振りがよかったときは、顧客にも一定数の暴力団組員がいたのは確かですが、それはどの商売も同じこと。昨今の日本でも、ジャパニーズタトゥーを入れている大多数が暴力団員ではない普通の人たちです。威嚇のためではなく、自国の文化を誇りにしたいという理由から好んで入れているのです。

そのように発展したタトゥーカルチャーが、2010年代になり、世間の風向きが変わったように感じます。世界を見渡すとミュージシャンだけでなく、サッカー選手など、タトゥーがマス化した印象があるので「日本だけなぜ?」といった疑問が湧いてしまいます。

90年代後半に起きた世界的なタトゥームーブメントが成熟を迎えた00年代、アメリカのケーブルテレビで『MIAMI INK』という番組が放映されました。タトゥースタジオを舞台に、本物のタトゥーアーティストたちが出演するリアリティ番組です。これが大反響を呼び、世界各国で放送されたのです。いままでタトゥースタジオの扉の向こうで、何がおこなわれいるのか知らなかった人たちが、リアルなタトゥーの現場を目撃することになりました。番組では、顧客とのコミュニケーションからタトゥーの図案を作成する過程、タトゥーイングするアーティストの技量やテクニックなど、タトゥースタジオ内のリアルな日常を映し、そこに垣間見える人間ドラマが見所のひとつでした。そして、番組に出演したタトゥーアーティストたちは、瞬く間にロックスターのような人気を得ます。その白熱ぶりは、どこへ行ってもサインを求める大勢の人たちに取り囲まれ、大行列ができるほど。『MIAMI INK』の登場によって、タトゥーは個人のヒストリーを象徴するボディアートであると広く認識されるようになりました。残念ながら日本では放送されませんでしたが、世界中でタトゥーが正しく理解されるようになったのは、この番組の影響です。

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『MIAMI INK』に登場した女性タトゥーアーティスト、キャット・ヴォン・ディーが表紙を飾った『TATTOO BURST』2007年3月号

『MIAMI INK』が放映された国と日本では、タトゥー文化の広がりにギャップが生まれたんですね。

そうです。先ほどの〈ジャパニーズスタイル=ヤクザ〉という認識が60年代以降まったく変わらないのは、マスメディアの責任も大きいと思います。現在日本のテレビ局は、ミュージシャンや格闘家まで、タトゥーを露出しないよう自主規制しています。一方で、映画やドラマに出てくるタトゥーを入れてる人は、ステレオタイプな暴力団役や犯罪者役ばかりで、喧嘩をしたり、人を襲ったり、殺しあうシーンに登場します。視聴者はタトゥーに対して恐怖心が植えつけられてしまうので、いつまでたっても〈犯罪者〉〈恐い〉と連想してしまうのは、無理もないことです。もっと最悪なのは、事件をおこした犯罪者にタトゥーがあると、これ見よがしな報道をすることです。ドラマであれ、報道であれ、凶暴な役柄や人物にタトゥーのイメージを商業利用したいのであれば、正しいカルチャーとしてのタトゥーも認めて番組を放送するなど、公正なバランスを保って欲しいと切に願うところです。そうしなければ社会が混乱するばかりで、無知のために起こる嫌悪は、一向に解消できないと思います。

そんななか、大阪では医師免許がない彫師が客にタトゥーを施したとして罪に問われた事件が裁判で争われ、大阪高裁では医師免許がなくても違法ではないという裁決が出ました。

他国の状況を考えると、アメリカではタトゥーがブームになった15年くらい前から各州ごとに保健所の認可や衛生講習の義務化などが定められました。EU圏では独自のインク成分の審査基準があります。日本には何も決まりがないため、彫師たちが自主的に世界基準に合わせた仕事をおこなっています。彫師は世界中を行き来しているので、世界のタトゥーコミュニティは繋がっています。そんななか、タトゥーを医師免許問題にしたのは、いかにも日本らしいと個人的には思いつつも、まさに、来るべきときが、日本にも来たなと。確かに、医師免許なんてバカバカしくも捉えられますが、日本でも社会がタトゥーの存在を無視できない時期がきたのだと、前向きに捉えています。世界のタトゥーシーンを見渡しても、日本でも、いずれ議論されるべきことだと、タトゥー産業に関わる人なら脳内でカウントダウンの準備ができていたと思うので、これを機にタトゥーの正しい知識を幅広く知ってもらい、タトゥーアーティストたちの地位向上のために努めるのが適切だと考えられます。

つまり、1985年ごろから始まった世界的なタトゥームーブメントが、90年代、僕らにとっては当然のものとなり、現在、社会や一般の人がそれをどう位置づけるのかまで来た、ということで、前進した、と川崎さんは捉えているのですね。

過去の歴史にみるタトゥーのネガティブなイメージは、べつに日本特有のものではありません。中国や英国でも犯罪者に刑罰としてタトゥーをしていた歴史はありますし、バッドボーイや裏社会の証だった時代もどこの国にもあります。刑務所内で囚人同士がタトゥーを入れたり、強制収容所に収監されたユダヤ人の腕に収容者番号のタトゥーが入れられた過去、奴隷として連れ去られた少数民族の女性が、逃亡を防止するために奴隷の印としてタトゥーが入れられたりなど、暗く悲しい歴史をもつ地域だってあるのです。でも、それらと現代のタトゥーが違うことくらい、みんなわかっています。日本は規制をすることで、情報をアップデートする機会が失われてしまい、それが悲劇を招いている大きな要因になっているのです。
いまは、どの国の社会も大きな変革期ですよね。インターネットの登場は、平成の黒船だと思ってるんです。江戸時代、鎖国によって閉鎖されていた社会が開かれたように、インターネットによって、情報がボーダレスに開かれていく時代になりました。便利な時代になった一方、ネットに繋がっている人と、そうではない高齢者などは、情報格差が生じています。だからこそ、テレビの役割は重要なんです。日々変化する社会に対してタトゥーがどういうものなのか、テレビだけを情報源にしている人たちにも正しい情報を伝えて欲しいのです。
インバウンドの収益は、今後の日本経済の重要な柱です。タトゥーと入浴の問題は、単にタトゥーが好きか嫌いかという問題ではなく、インバウンド対策であり、少子高齢化社会、雇用形態、移民政策など、現代社会が抱えているさまざまな課題に繋がっています。入浴施設ではタトゥー以外にも、手術後の痕を気にして入浴をあきらめてしまう人や、福祉風呂のバリアフリー化やリフトの設置、LGBTQへの対応など、時代のニーズに応える対策を講じています。さまざまな課題をどうやってクリアし、未来のビジョンをどう描くのか?これは新しい時代の国創りに関わることです。もはやタトゥーは未知のものではないのですから、好きとか嫌いという感覚だけではなく、一般教養として柔軟に学ぶ時期にきてるのだと思います。

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入墨刑の資料

なるほど。そんな川崎さんの社会認識のなかで、タトゥーと温泉など公共施設の問題をテーマにした『Tattoo Friendly』というサイトを立ち上げます。

2015年だったかと思うんですが、海外の友達からLINEにメッセージが届いたんです。「いま日本に来ているんだけど、宿泊先で入浴を断られて悲しい、どうしよう…」といった内容でした。ちょくちょく温泉旅行に来ていた友達だったのですが、突然そんな目にあったので、もうビックリして。急いで宿泊しているホテルの住所を聞き、そこから徒歩圏内でいける別の日帰り温泉施設の情報を送ったんです。まさか友達がそんな目にあうとは、非常にショックでした。たぶん、どこぞの知らない人が入浴を断られたニュースを見るだけでは実感できないと思いますが、友人や知人、恋人や家族がそういう目にあうと、きっとみんなショックを受けるはずです。そういった実体験に基づいて『Tattoo Friendly』は英語と日本語のバイリンガルサイトとして、2018年5月28日から配信をスタートしました。

川崎さんは、90年代後半以降のタトゥーシーンを牽引した『TATTOO BURST』の編集長でした。

2012年まで発行元の出版社に勤めていましたが、雑誌が休刊になったのを機に会社を退社し、漠然とですがタトゥーの情報をネットで配信したいと考えていたんです。ニュースをはじめ情報源がネットに移行している時代に、タトゥーに関するインターネット上の情報は、時代錯誤な都市伝説や根拠のないコピペしただけの素人の記事が出回っていたんです。だからインターネットで専門的な情報を配信したいなと。

当時ネット上では、どのようなタトゥーの記事があったのですか?

例えば、銭湯に入れないとか。あとはタトゥーを入れているとMRI検査を受けられないといった書き込みですね。わたし自身タトゥーがあってもMRI検査を受けた経験がありましたし、全身にタトゥーをしている彫師の方々でさえも検査を受けて何ら問題は起こっていません。タトゥーのインクに酸化鉄の成分が含まれていたら、その部分が熱を帯びる可能性があり、万が一のリスクを恐れた病院が、自主規制の範囲で断っていた例もあるようなのですが、これも一部の人を無視して排除すれば問題をスルーできると考えられていたからだと思われます。最近はリスクの説明をしたうえで承諾書にサインをするのが一般的になってきました。ようは、MRI検査を受けられないってことはないんです。
ケガの多いスポーツ選手にもタトゥー愛好家が多いですが、みんな普通に検査を受けていますから、日本だけMRI検査が受けられないってことはありえません。ただ、医療の世界も日進月歩ですから、医療機器の進化にあわせた臨機応変な対応は必要です。だからこの先、タトゥーシーンと医療は協力的な関係を築いていくのが望ましいと思います。

『TATTOO BURST』は、彫師やタトゥーに興味のある人に向けた専門誌でした。 『Tattoo Friendly』では、旅館やホテルなどを経営するオーナーさんの声もくみ取っていますよね。

タトゥーカルチャーと、それらに全然関係ない人たちとの接点、あいだにあるのが『Tattoo Friendly』だと考えています。メインコンテンツとしては〈日帰り温泉〉〈ホテル・旅館〉〈プール〉〈海水浴場〉〈スポーツジム〉の6つのカテゴリーにおいて、タトゥーを入れている人の利用状況を掲載しています。これらが主にタトゥーに対して何かしらの規制をしているからです。温泉に規制があることは海外にまで伝わっていますが、スポーツジムやビーチにまで規制が及んでいることは、あまり知られていないので非常に驚かれます。
あと、単にいいか、ダメかではなく「小さいのはOKだけど、大きいのはNG」だったり、温泉宿の場合「大浴場は利用してほしくないけど、貸切風呂ならいいですよ」とか「西洋柄はいいけど、和柄はダメ」とか、独自のルールを設けているところが多くて、それが利用者にとっては非常にわかりずらい。だから、各施設ごとに言われた通りの詳細を記載するようにしています。

温泉施設によってはシールで対応しているところもあるそうですね。

日本人と比べて、海外には身体の大きな人がたくさんいます。必然的にタトゥーの面積も大きいし、それをシールでカバーするのはちょっと無理がありますね。本来タトゥーってそんなに小さなサイズのものではありませんし、全身を使ったボディアートとして捉えている人も多くいます。手の届かない背中や、マオリのように顔面タトゥーの風習をもつ民族文化もあります。
シールは、小さなタトゥーをしている人が、子供をプールに連れて行くときなどには、とても便利なのですが、汗やカラダの汚れを洗い流す温泉で、全身にシールを貼ったら、逆にベタベタになってしまいますよ。それに、日本人であれば旅行前にネットでポチッと購入しておくことができますが、訪日観光客にとっては、そんな特殊なシールがあること自体が不思議ですし、どこで売っているのかもわかりません。仮に、もしシールで対応するのであれば、各施設でのシールの販売や無料配布なども検討して欲しいところです。

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タトゥーカバーシール。試しに市販のものをランダムに購入してみたところ、肌色の濃度に合わせた10センチほどのシールが4枚1組で販売されていた。

なるほど。サイトには、日本のタトゥー史も掲載していますよね。

〈入浴マナー〉〈温泉について(種類と効能)〉〈日本のタトゥー史〉の3つのコラムを掲載しています。日本のタトゥー史に関しては、日本ではタトゥーに対してどうして規制されているのか?と訊かれることが多いので、歴史を紐解きながら、わかりやすいように解説したつもりです。
入浴マナーは、タトゥーがどうこういう前に、入浴マナーを知らない人が多すぎるからしっかり表記して欲しい、と多くのオーナーさんから要望があり掲載することにしました。また、天然温泉の効能については、真の温泉の素晴らしさを知ってもらうには、この説明が欠かせないですよね。温泉は単に身体を温めるだけではなく、地域ごとにさまざまな泉質があり、入浴環境もバラエティに富んでいます。ぜひ各地を旅行して、相性のいい温泉と巡りあって欲しいと思います。

バイリンガルサイトというのも大きな特徴ですね。

統計データのある国を例にあげると、フランスでは10人に1人、ドイツでは5人に1人、米国とイタリアでは4人に1人、英国では3人に1人の割合で成人にタトゥーがあります。ちなみに日本では100人に1~2人程度です。しかも国内における暴力団組員の人数は、暴力団排除条例の効果もあって減少しています。
それから、これはあまり知られていませんが、もっかタトゥーのムーブメントはアジア市場に移行しています。中国全土にはタトゥーアーティストだけで約20万人いると推計されており、台湾や韓国をはじめ、タイやミャンマー、ネパールやインドでもタトゥースタジオが急増中。欧米のカルチャーよりも、日本のカルチャーの影響が大きいアジア諸国では、ジャパニーズタトゥーはとても人気のジャンルです。
このように、世界のタトゥー人口は今後増えることはあっても、決して減らないのです。このまま〈タトゥー=ヤクザ〉だからとか、タトゥーを隠せとか、タトゥーの人の利用を断わるなどしていたら、将来的な国益を損ないかねません。日本政府は、オリ・パラ開催の10年後にあたる2030年の訪日観光客数を6000万人と目標に掲げています。日本の人口が約1億2000万人ですから約半数に当たり、平たく見積もっても6000万人の約30%にタトゥーがあると思えば、バイリンガルでサイトを運営していくのは必然でした。

地方の高齢者が、外国人やタトゥーに触れたことがないのも理解できます。それにしてもです。なぜ、いまだにジャパニーズタトゥー=ヤクザとすりかえてしまうのか?という疑問はぬぐいきれません。それはタトゥーを純粋に楽しんでいる人々にとっては、とんだ災難というか、人権侵害にも感じます。

電話してそれぞれの宿に聞いてみると「警察の指導でタトゥーをお断りしているんです」って回答が結構多いのですが、念のため、その地域の警察に問い合わせてみると「そんな指導はしていません」って。どっちが嘘を言ってるのか気になって調べてみたところ、過去に暴力団の人たちが毎日来て居座られた宿があったそうで、対応を警察に相談したときに「警察の指導でって言いなさい」ってアドバイスされたのを、その地域全体でタトゥーを断る理由として、いまだに使っていることが判明しました。要は、大人の事情ってやつですよね。
そういう事情もあるわけですから、タトゥーをしている側の人も、もっと積極的に温泉施設の人とコミュニケーションをとって欲しいと思います。禁止されているところにコソコソ入らないのはもちろん、サイトにOKと表記されているから大丈夫だと大手を振って利用するのではなく、いまはまだ、時代の変革期の最中だということをしっかりと理解して欲しいのです。ジャパニーズタトゥーを入れているのであれば、入浴前に「わたしはヤクザではありませんが、趣味で日本的なタトゥーを入れています。他の利用者に誤解を招く可能性があるので、先にお知らせしておきます。誰にも迷惑をかけけるつもりはないので、もし誤解された方がクレームを言ってきた場合には、事情を説明してもらえると助かります」など、一言受付に声をかけてください。利用者の権利を主張するばかりでは何ら解決には向かいません。いまは歩み寄りが何より大事なのです。高齢者を不安にさせない配慮もタトゥーフレンドリーな環境への一歩です。

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温泉宿のコンサルトとして警察OBが入っていて、そのような指導をしているとも聞いたことがあります。暴力団の人から泊まりたいって連絡がきて、それを受け入れてしまうと法律に反してしまう。だけど、無下に断るのは怖い。そのときに警察OBが間に入って、対処しているところもあるようです。

へぇ~。いずれにせよ、温泉施設の経営側はもっか様子をうかがっている最中です。2019年3月に《イレズミ・タトゥーと多文化共生〈温泉タトゥー問題〉への取り組みを知る》というシンポジウムが開催されたのですが、そこに登壇された旅行専門誌、月刊『旅行読売』の元編集長の飯塚玲児さんの話が非常に興味深かったです。独自におこなったアンケートの結果、タトゥーの人を入浴させるべきか?という問いに、どうしたらいいのかわからないので「入浴条件などを法律や条例で決めてほしい」と願っている温泉宿が、結構あることが浮き彫りになりました。いいのか?ダメなのか?判断できないから、誰かに決めてもらい、それに従うのが一番楽だという意見です。
そもそも90年代より前は、タトゥーを断る施設はほとんどありませんでした。暴力団対策のための方便もタトゥーそのものを排除する流れに変わり、そしたらインバウンドで訪日観光客が大勢来るようになった。さらにジャパニーズタトゥーはヤクザのものではなく、タトゥーのいちジャンルとして世界で定着している。変化の速度が速すぎて、もはやなにが正しい判断なのか、わからないまま迷走してしまっているんです。クレームもネットへの書き込みという手段になり、ずいぶんとギスギスしてしまったし。リスクの伴う意思決定をするよりは、命令や要求に従っていたほうが、そりゃ誰かのせいにできるので面倒臭くないのはわかる。でも、個人の服装や装飾品まで国が法律で定めるなんて発想、私には理解できません。やはり各施設が判断すべきことなのですが、これに関しては、社会全体がタトゥーを理解していないことには、温泉施設側の独断でハウスルールを変更するのは難しいのだと思います。

なるほど、そんななか、先日も静岡県下田市の爪木崎海岸でタトゥーの露出や大音量の音楽などについて規制する法律が施行されるというニュースがありました。

この問題でもっとも的確な打開策を打ち出しているのは、熱海のサンビーチです。熱海の市長は先見的な目をもっていて、小さい子供や保護者が安心して海水浴を楽しめるようにと〈キッズエリア〉という区域を設けました。そこのエリアでは飲酒とタトゥーの露出は禁止されています。海水浴場全面をひとつのルールで縛るのではなく、多様性に配慮したすごく進歩的な対策だと思いました。いいか?ダメか?ではなく、それぞれが快適な環境を分けて設けるという発想ですよね。

ダイバーシティという言葉を、どう捉え実行するか、いま現在のひとつの解決策ですよね。

もっか開催中のラグビーワールドカップは、今回の日本大会がアジアで初の開催という歴史的な大会です。なかでも強豪チームといわれているニュージーランド代表の公認キャンプ地になったのが大分県の別府市。別府市役所の観光課に勤める河村達也さんに話を聞いたのですが、別府市の人たちはニュージーランドへ誘致活動に行った際、現地で選手たちと交流しながら別府の魅力を伝えたそうです。しかし、頭を悩ますわけです。別府といえば、当然、温泉が最大の魅力。もしキャンプ地に決定した場合、このままではタトゥーのある彼らが温泉を断られる可能性がある。来てもらうからには、やっぱり温泉を楽しんでもらいたい。そういう想いから、タトゥーがあっても利用できる市内の温泉情報マップを制作したのだそうです。ラグビー選手は紳士的なことで有名ですが、それに甘んじて郷に入っては郷に従えを押しつけるのではなく、迎える側も受け入れる態勢を整えておかないと結果的に悲しむ顔を見ることになる。そうなれば、お互い辛い思いをしますから。
それともうひとつ別府の対応策が優れていたのは、受け入れる側へ理解を求めるとともに、観光案内所ではタトゥーのある訪日観光客や留学生には、笑顔でのコミュニケーションを提案しています。とてもいい対策だと感心しました。これぞ日本の温泉文化に基づいた、歩み寄りの解決策ですよね。

川崎さんも『Tattoo Friendly』を通じて、社会に対してタトゥーの認知を広めていきたいと考えているのですよね

経営方針はそれぞれだから、利用できるところと、利用できないところがある。それはそれでよくて、利用者はそれを理解したうえで、棲み分ければいい。一番最悪なのは、無責任に中途半端な情報を流す人がいること。まるですべての温浴施設がタトゥーを断っているというような誤解を招く言い方をされると、入浴可能なところを利用してもクレームの対象にされかねない。
大人の嗜好品同様、タバコのように分煙や喫煙所の対策を取るのと同じで、アルコールを提供する居酒屋にも子供連れの入店を断ることろもある。だから、カルチャー側の意見を押し付けるだけでは解決の方向へ向かうのは難しい。まずは現状を受け入れて、そこから、いまは何がベストなのかを講じるべきだと思っています。社会は常に変化していくものです。昔はこうだった、ではなく、新しいことにも柔軟に対応できる社会であって欲しい、と個人的には思います。30年後のことは、30年後にまた考え直せばいいのです。このサイトをやり始めて、改めて気づかされたんだけど、日本は海に囲まれた火山の多い国だったって。温泉と海水浴場だらけですから(笑)。

ちょっと意外でした。川崎さんは、タトゥーの世界に寄り添ってきた人だから、タトゥーを入れていても、どこでも利用できるようになれば良い、という考えがあるのかと思ってました。

好きと嫌いがお風呂のなかで戦ってもしょうがないんですよ(笑)。

面白い発想ですね(笑)。

私はシーンを常に半歩後ろからみている立ち位置なので、半歩先にいく必要はないと思っているんです。もっというとタトゥーを広めるつもりもないんですよ。理解をしてもらう必要はあるけど、嫌いな人に好きになってもらおうとは思わないんです。いまはタトーのことなど考えなくても生きてこれた人たちが、タトゥーについて急に考えなくてはならなくなった時代。専門知識が求められれば提供するし、それが何かの役に立てばいいだけなので。
自分たちの権利を主張する前に、対応する人の不安も取り除いてあげる努力もしなきゃいけないし、自覚して行動することも大事。そういうことを少しずつ啓蒙していけたらいいなって。

『MIAMI INK』みたいなムーブメントを川崎さんが起こそうとは思ってないのですか?

いやいや、餅は餅屋だから。テレビ番組の制作は映像分野の人が頑張ればいいことで、情報提供くらいはできたとしても番組制作は無理です。いまの時代、Netflixなどもありますからね、遅かれ早かれ、きっと誰かが手がけていくことになるでしょう。時代にマッチした素晴らしい作品が、日本から世に出ることを期待しています。

これほどシーンに詳しくて、なおかつカルチャー側だけじゃなく、タトゥーカルチャーがどう社会にコミットしていくべきか、まで考えていて、独自の考えを持っていたら、僕であれば、そんな夢を描いてしまいそうです(笑)。

人生において夢なんてもったことがないんです、いつも目の前のものを受け入れるだけで精一杯だから(笑)。自分では決められない、抗えないものが、世の中にはいっぱいありますからね。例えば、生まれた家が貧乏だったとか、身長が170センチを超えられなかったとか、勤めていた会社が倒産の危機だとか、ひっくり返らない事実や不条理を嘆いてもしょうがないわけで。できることをできる範囲で、身の丈にあった生活をいかに楽しむかの方が私には重要なんです。

多様性、多様性と謳いながら、温泉宿へのクレームを入れる人が多いそうですが、社会全体が不条理を受け入れられない方向に向いていますよね。クレームを入れる人は、不条理に我慢がならないんでしょうね。ただ、川崎さんは、なんで、そんなに達観できるんですか?

そうですねぇ。そもそも社会は万能ではなく、理不尽だってことが前提にあります。誰しもが、何もかもが望まれた環境じゃないわけですから、現実を受け入れて乗り越えていくしかないでしょ。どうやったって社会からはみ出してしまうのであれば、その結果を受け入れるしかないし。あとは、運がいいか、悪いかだけで考えるようにしています。運がよけりゃ誰だって機嫌もよくなりますが、悪かったときには、それをいかに笑い話にできるか、それだけですよ。

そのような考え方だからこそ『Tattoo Friendly』を生み出せたんだ、とも思えます。『Tattoo Friendly』は、今後、社会のなかで、どんな役割を担っていければと考えているんですか?

社会っていうほど、そんなに大げさなことではないけど、いままで雑誌を創ることで積み重ねた経験や知識が、誰かの役に立っているのであれば存在意義はあると思うし、どこでもタトゥーを入れている人が規制されなくなったら、このサイトは御役御免、いらないわけですよ。

商売あがったりですね(笑)。

でも良い社会ですよね。それで、また変化のときがきたら、そのときに新しいことを考える。雑誌をやってきた姿勢と一緒です。

確かに、タトゥーに対して市民権を得ようとする行為に対して急ぎすぎなのかも知れないですね。

社会全体っていうのは、そんなにすごく早く変わらないですからね。江戸から明治に変わったときですら、大日本帝国憲法ができるまでに22年もかかっているんです。20年以上もノープランで走り続けた歴史を思えば、新しい時代が認められるには、時間がかかるんですよね。不条理だけど、うまく付き合っていかないといけないですよね。