気候変動に巻き込まれる人間の将来について元キリバス大統領は語る

「海の中の教会があるのですが、以前、そのまわりには村がありました」

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27 September 2016, 9:17am

33の環礁で構成される南太平洋のキリバス共和国は、諸説あるものの、気候変動による領土消失の危機に瀕している。海面上昇につれ、高潮で生活環境が水浸しになる回数も増えている。島民たちは、30年もしないうちに島は水没するだろう、と信じ込んでいるようだ。

キリバスの窮状が世界に知れ渡ると、2003年7月〜2016年3月のあいだ大統領を務めたアノテ・トン氏にもスポットが当たるようになった。トン氏は、キリバスが急速に領土を失うのに直面し、自国民が難民にならぬよう、任期の大半を国民の移住準備に費やした。

前大統領は「尊厳ある移住」を計画し、キリバス国民のために700万坪強の土地をフィジーに購入、その一方、年間75人をニュージーランドに移住させもした。しかし、「尊厳」を守るには国外離散した自国民が祖国を忘れてはならない、と彼は信じ、子孫のために島嶼のひとつでも保護すべきだ、とも提唱している。

小島嶼開発途上国(SIDS)首脳とともにキリバスは2050年までに世界の脱化石燃料実現を提唱し、パリ協定では気温上昇を草稿より0.5度低い、1.5度以内に抑える、と目標を掲げた。現在は大統領職を退いたトン氏だが、環境保護の重要さ、気候変動の影響を受けて周縁化されてしまったコミュニティの脆弱性についてのメッセージを発し続けている。

Kiribati for Travellersより転載

気候変動はキリバスにどんな影響をもたらすのでしょうか。

キリバスの海抜は平均2メートルほどです。国土の幅は大変狭く、山岳部もありません。気候変動による地異の最前線で、われわれは、まったくもって危うい状況での生活を強いられています。

気候変動は、キリバスの住民にどんな影響をもたらすのでしょうか。

自らの村が水没してしまったために、そこを去らねばならないコミュニティはひとつふたつではありません。海の中の教会があるのですが、以前、そのまわりには村がありました。今のキリバスを襲う現実の象徴としてその教会を遺しておきたかったので、村人にお願いして防波堤を築いてもらいました。

私のコミュニティでは、防波堤が淡水池に崩れ落ちました。私はもうそこには住んでいませんが、農作物は枯れ、淡水レンズ* は破壊されてしまった、と報告を受けました。近い将来、コミュニティの住民は移住を余儀なくされるでしょう。

* 地下にできた真水溜まり

キリバス共和国の海抜は平均2メートルだそうですが、今でもそうなのでしょうか。

だいたいそんなところでしょう。潮位が上がれば、ほとんどのコミュニティは、波打ち際で生活せざるをえませんから、地所と住居は、大規模な大潮や、ちょっとした風で波が押し寄せれば壊されてしまいます。過去に洪水などなかった場所が、洪水に見舞われるようになりました。それがこんにち、われわれが向き合っている現実です。

Photo by Jonas Gratzer/LightRocket via Getty Images

住民はいつも洪水をおそれているのでしょうか。われわれは、家屋が損害を受け、移住を強いられてはじめて、身をもって洪水の恐ろしさを知ります。他にも何か、洪水がもたらす帰結があるのでしょうか。

土地が波を被れば、いろいろな不都合が生じます。まず、土地が水没すれば、地所は壊滅的被害を受けます。次に、淡水レンズが破壊されます。われわれは生活用水を地下水で賄っています。われわれの土地には川が流れていませんから、地下水が飲料水であり、生活用水です。淡水レンズがいったん破壊されると、汚れた水を飲まねばなりませんので、健康に悪影響があります。

キリバスを救う手立てはあるのでしょうか。

あるにはありますが、実現するためのリソースをどこで入手するのか、という疑問が自らの内に湧き上がります。数百億円もあれば、どんな対策でも実現可能でしょう。フローティング・アイランド計画が話題になれば、私の考えが必ず引き合いに出されます。われわれは、国際社会に頼らざるを得ない、と確信しています。われわれが直面している事態を改善するために可能な解決策を、ヨーロッパで説明してきたばかりです。もし、自ら何の手立ても講じず、気候変動を扱う政府の諮問機関による計画に従うだけであれば、われわれは、キリバスから去るしかないでしょう。

キリバスは何年くらい保つのでしょうか。

何かしら抜本的な対応がない限り、30−50年でしょう。

「尊厳ある移住」の概念について教えていただけますか。

われわれは、一部の国民が移住せざるをえない、という恐るべき現実を肝に銘じなければなりません。座して危機を待ちながら何もしない、というのは避けたい。だからこそ、私は「尊厳ある移住」を提唱しています。「気候変動による難民」になる可能性を示唆されるのが悔しくてなりません。難民にはなりたくありません。それは、良くない。

どうして良くないのでしょうか。

たいへん不名誉です。われわれは、故郷を失うかもしれませんが、尊厳まで失いたくはありません。もし、われわれが国民を導き、彼らが然るべき手管を身につければ、尊厳と実益をもたらす技術とともに移住できます。国民は逃げずに済む。彼らの移住先コミュニティに利益をもたらすメンバーとして参加できますし、能力次第ではリーダにでもなれるでしょう。そうなるのが私の望みです。われわれは、虐げられ、つまはじきにされるような移民にはなりたくありません。われわれは、ヨーロッパの現在から学ぶべきです。ヨーロッパや太平洋地域、オーストラリアに移住を希望した難民は、キャンプに押し込められています。

キリバスはフィジーに土地を購入しました。最終的にキリバス国民がそこに落ち着くのを望んでいるのでしょうか。

唯一、フィジーだけは協力、援助に前向きです。キリバス、ツバル国民が海面上昇により移住を余儀なくされたら、フィジーは前向きに受け入れてくれるでしょう。われわれは、国際社会の情け深い対応を期待しています。私は、誰にでも優しさがある、と信じていますから。