コロコロコミックは欠かせない:頑固!地域密着型ショップ・ガイド『おもちゃのマミー』(自由が丘)

FYI.

This story is over 5 years old.

コロコロコミックは欠かせない:頑固!地域密着型ショップ・ガイド『おもちゃのマミー』(自由が丘)

「とにかく100人に来てもらう。遊ぶだけでもいい。100人のうち、ひとりでも買ってくれたらオッケーだと。10人しか来なかったら、買うのは0.1人ですから(笑)」

初めての駅で降りる。初めての商店街を歩く。牛丼、ハンバーガー、ラーメン、フライドチキン、カレー、アイス、コーヒー、弁当、焼肉、リカーショップ、レンタルDVD、カラオケ、ドラッグストア、マッサージ、100均、1000円カット、本屋、家電量販店、そしてコンビニ。おなじみのチェーン店があるとホッとする。その数で街の優劣をつけてしまう。おなじみが見当たらなければ、〈なにも無い街〉と決めつけてしまう。ああ、そんな基準で街を評価している自分がいる。

気がつけば、どこも似たり寄ったりの街並みになった。店は増えるけど、そこには目新しさ、物珍しさしか存在しない。街と歩んできた時間なんてどこにもない。〈街は生きている〉というけれど、ベタなロゴが増え続ける状況が、〈生きている〉ってことなのだろうか。

いや、違う。それは私たちが、オギャーしたときの街と仲良くしていないだけ。ベタロゴ店に甘えているだけなのだ。時代のシステムに対応しながらも、束の間の時流なんぞには惑わされず、そのときのアイデアとパワーで、街を生きるタフネスな人たちこそが、〈生きている街〉をつくってきた、そしてつくっているのだ。そこを忘れてはいけない。

Advertisement

地域に根ざし、地域のみんなに愛される強靭なお店に入ってみよう。そして、現在も街と共に生きている人に会ってみよう。

東京都目黒区自由が丘。〈住みたい街ランキング〉の常連であり、英語だか仏語だか伊語だかわからない名前の店がごまんとあり、大きな犬がわっさわっさと闊歩し、マダムたちがお昼からシャンパーンをチン!と交わす、超お洒落ハイソサエティな街である。最近では外国人観光客もよく目にするようになった。

「銀座とか上野、浅草の同業者は、お客さんの半分以上が外国人観光客だそうです。でもウチは3%くらいですね(笑)。自由が丘に来られる外国人観光客って、何度も来日されている方が多いんですよ。それもお買い物ではなくて、スイーツ目当てです(笑)」

そう語るのは、1967年創業、今年で51年目を迎える〈おもちゃのマミー〉の吉田夏子店長だ。

おもちゃのマミーは、自由が丘駅正面口のロータリー近くでスタートした。創業者は吉田店長のお父さま。気象予報士の石原良純氏も、少年時代はマミーに通っていたという。「大きくて感動した。ドキドキワクワクした」とは良純少年の弁。

子供にとっておもちゃ屋さんは、魅力だらけのスーパーヘヴンであるが、同時にスーパーヘルな現実も存在する。「絶対になにも買ってもらえない」とわかりつつ、「なにも要らないから」といいつつ、「なにか買ってもらえるかもしれない」「サプライズあるかもしれない」「パパ、ちょっと機嫌いいかも」「この前、留守番したしな」「85点取ったしな」「いや、絶対ない」「いや、もしかしたら」「晩メシ、カレーがいい」「いや、ハンバーグがいい」「85点取ったしな」「肩もみしたしな」なんてのを回転させながら、おもちゃを凝視する子供たち。そして最終的には店内で泣きわめく。「おもちゃ屋の子だったら良かったのにー!!」は、絶対禁句。ママに肩もみしたくらいでは帳消しにならない。

「でも私はずっと、『邪魔になるから、店には来るな』っていわれていました。ですから、〈おもちゃ屋さんの子供〉という意識は少なかったですね。学校では〈マミーの子供〉で有名でしたけど(笑)。でも家におもちゃはたくさんありました。父がどんどん持って帰ってくるんで。ただ、自分が選んだものではないし、欲しくないものまであったので、おもちゃに対しては、それほど興味はなく、外遊びのほうが好きでしたね」

そんな吉田さんが、2代目店長になったのは2006年。ちょうど現店舗に移転するタイミングでもあった。

「どんどんおもちゃ屋が閉店していた時期でした。移転の告知もうまく進められなかったので、『ああ、遂にマミーも潰れたか』なんて噂も立ったり(笑)。2年くらいは、本当にしんどかったです」

シャンパーン・マダムとデカイ犬が闊歩する自由が丘のど真ん中で、吉田店長は模索を続ける。考えに考えて答えを見つけた。そうだ。子供たちが闊歩してくれなきゃ意味がない。

「昔のおもちゃ屋さんって、子供に対し、『買わないなら、おもちゃに触るな。ここは遊び場じゃない』そんな雰囲気があったんです。いわゆる殿様商売ですね。でも大型店もできましたし、家電量販店でもおもちゃを扱うようになっていたので、これからは殿様じゃ無理だと考えていました。そこで、とにかくもっと気軽に来てもらうように努めたんです。おもちゃを触れるようにサンプルを出したり、様々なイベントを始めたり、タカラトミーさんのご協力をいただいて、遊べるプラレール・コーナーを設置したり。とにかく100人に来てもらう。遊ぶだけでもいい。100人のうち、ひとりでも買ってくれたらオッケーだと。10人しか来なかったら、買うのは0.1人ですから(笑)」

Advertisement

その努力が集客に繋がった。現在では、小学生男子に絶大な人気を誇る現代版ベーゴマ〈ベイブレード〉のオフィシャルショップ〈wbba.ストア〉にも認定されている。入荷が少ない新型ベイブレードも、マミーなら発売日にきっちり並んでいるのだ。おひとりさま1個限りのヨダレもんベイだ。

「2010年頃にもベイブレード・ブームはあったのですが、ベイブレード自体がなかなか入ってきませんでした。『ベイブレードが仕入れられない』『ベイブレード大会は、用意も大変だし、人手も必要』、そんな理由で、ベイブレード大会をやめる販売店さんもたくさんいました。ただウチは、売り物のベイブレードが無くても、大会は開催していたんです。目的のベイブレードを買えなくても、その子の弟がトミカを買うかもしれない、違うものを買うかもしれない。そしたら店自体も少しずつ元気になってきたんですね」

ベイブレードは、1個900円で買える。さらに男子に人気の〈遊★戯★王〉〈デュエル・マスターズ〉〈バディファイト〉などのカードゲームは、1パック150円から500円くらい。気軽に買えるところもクソガキには魅力だ。では、5千円から1万円もする仮面ライダーのベルト、戦隊モノ合体ロボットなどはどうなのだろう? クソガキは今も腰にベルトを巻いているのか?

「やはり今はアマゾンさんや、家電量販店が強くて。この手のおもちゃは、戦略的に値段をガンと下げられてしまうので、うちでは年々少なくなっています。ベルトや戦隊モノの大きなロボットは、ほとんどがオープンプライスなんですよ。うちもアマゾンさんやトイザらスさんなどの値段を調べて、それほど遜色のないようにしています。ただ、どんどん利益が出しにくい状況になっているので、それが原因で個人のおもちゃ屋は少なくなっているんです」

本社一括で仕入れる大型店や家電量販店、それに低コストで運営できるネット販売と比べると、リアル店舗が厳しい状況にあることは安易にわかる。だが、ここで素人はこう考える。「本やCDみたいに、返品すればいいじゃないですか」しかし、吉田店長の回答に驚愕した。

「おもちゃって、基本は返品できないんです。完全買取なんです。私は以前アパレル・メーカーで働いていたんですけど、期が終わるとバンバン商品が返ってきていました。それに慣れていたので、おもちゃ屋のシステムにはとてもショックを受けましたね。ですから、慎重に仕入れをしなければなりません。これまでもたくさん失敗しましたよ(笑)」

私が子供だった頃、仮面ライダーはひとりだった。(注:ライダーマンは特別)ゴレンジャーもずっと5人だった。しかし今では、どんどんライダーが増える。ウルトラマンも増える。そして戦隊モノでは、最終的に10人以上になることもある。赤や緑だけじゃない。ゴールド、シルバー、ヴァイオレット、そしてシアンなんてのも出てくる。そのたびに新ベルト、新ロボ、新武器が発売される。少子化だからこそ、商品の数はどんどん増えているのだ。

ちなみに現在放送中の戦隊モノ『怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』は、最初から6人体制だ。これからどんだけ増えるのかもマミーさんはチェックしなければならない。きっちりと子供たちのシーンを追わなければならないのだ。『仮面ライダービルド』『アイカツスターズ!』『ベイブレードバースト ゴッド』『遊★戯★王VRAINS』『デュエル・マスターズ』『ポケットモンスター』『スナックワールド』『妖怪ウォッチ』『アイドルタイム プリパラ』『ウルトラマンオーブ』などなど、ほぼテレビ東京漬けの日々を過ごさなくてはならない。

Advertisement

「あとは『おはスタ』ですね(笑)。また、男の子のおもちゃ担当は、必ずコロコロコミックをチェックしています。あれは男子のバイブルですから、コロコロを読んでいないと、おもちゃ屋は務まりません(笑)。コロコロに掲載されるまで、新商品の画像は公開されないこともあります。コピー防止のためもあり、おもちゃ屋用のカタログも画像は黒塗りするくらい徹底しています。もちろん、私たちは商談会で現物を確認できるんですが、そこでも撮影はNGです。コロコロの影響力は本当にすごいです」

うちの子もコロコロ読者だ。先日騒ぎとなったマンガでも大爆笑してしまうほどの熱狂的下ネタ大好きコロコロ・フリークだ。しかし、1番お客さんに近いおもちゃ屋さんが、自由に情報を扱えない状況は、いかがなものだろう。

「そこに目くじらを立ててもしようがありません。そういう時代になったんです。メーカーさんも、自社グループの通販サイトを立ち上げる時代なんですから。じゃあ、どうしたらリアル店舗に来てくれるのか? お客さんが集まってくれるのか? ウチが考えるのはそこだけです」

ベイブレード大会を始め、マミーではひっきりなしにイベントが開催されている。デュエル・マスターズ大会、トミカ・プラレール遊び放題、ブレイク轟牙体験会、NERF試し撃ち、更にはおもちゃ病院も開院した。しかし、イベントを開催するには、それなりのスタッフが必要になる。人件費もかかる。マミーには、若いスタッフがたくさんいる。

「うちのお客さんとして通っていた子だったり、自由が丘育ちの私の同級生の子どもが、アルバイトしてくれています。あと、自由が丘のお祭りでは、産業能率大学の学生さんが手伝ってくれています。自由が丘の商店街振興組合と産業能率大学がコラボレーションしていて、その授業のひとつ、また、サークル活動として、たくさんの学生さんがボランティアで働いてくれているんですよ」

自由が丘という街全体がマミーのような小売店を応援していたのだ。マダムたち、犬たちが穏やかに自由が丘で暮らせるのも、商店街のおっちゃんたちによるアイデアと努力の賜物だった。そして、年に数回開催される自由が丘のお祭りでも、マミーは主役になる。〈おもちゃ博 in Jiyugaoka〉では、おもちゃ広場が設けられ、秋祭りで神輿を担げば、1000円分の〈マミーおもちゃ券〉がプレゼントされる。こりゃクソガキもワッショイするしかない。

マミーには、流行り廃りとは関係のない、いろんなおもちゃもズラリと並んでいる。プラモデル、野球盤、モデルガン、トランプ、知恵の輪、手品セット、将棋、けん玉、パズル、フリスビー、ボール、チャンバラセット、シャボン玉セット、ダーツ、ブロック、ボードゲーム、そしてカブトムシの餌まで。1年に1回だけしか動かないような商品もあるハズだ。もっとスマートになってもいいのではないだろうか。

「いえいえ。リアル店舗は、こういうのがないと生き残れません。ベルトだったら、スマホをタッチすれば買えますけど、けん玉とかボールは、サイズ感もあるから、やっぱり〈見たいおもちゃ〉なんですよね。意外に思われるでしょうけど、羽子板とかカイトとか、すごく売れるんですよ」

おもちゃ屋さんの現実はとても厳しい。それでもマミーのみなさんはニコニコしている。とても優しく、ときには厳しく、おもちゃで遊ぶ楽しさを子供たちに伝えている。店内で泣き叫ぶ子供の気持ちが理解できてしまうほど、マミーには、魅力いっぱいのおもちゃと、魅力いっぱいのスタッフさんがいるのだから。

「お子さんと一緒にママ、パパ、おじいちゃん、おばあちゃんもいらっしゃるので、今後は親御さんたちを繋ぐ場をつくりたいと考えています。それが、現在取り組んでいる〈マミークラブ〉というもので、クリスマスパーティーやひな祭りパーティーなどを開催します。それが売り上げに反映するかはわかりませんが、こういうのがウチのやり方なんです。正直にいうと、どこかで潮目が変わって欲しいとは思っていますけど、地道に数字を積み重ねていくしかありません。200円持って、『カード1パックください』っていう子供たちがたくさん来てくれる店を目指しています」

おもちゃのマミー
東京都目黒区自由が丘1-7-14 ドゥーブルビル1階
営業時間:平日 11:00~20:00 土・日・祝日 10:30~20:00 (無休)
TEL:03-3717-3333