人獣共通感染症結核とは

私たちが知っている結核は、咳をしたり、しゃべったり、歌ったりすることで、ヒトからヒトへ感染する。しかし、〈牛型結核〉は、低温殺菌処理されていないミルク、生肉、未調理の肉、もしくは、感染した動物との直接接触により感染する。このように、家畜からヒトに感染するタイプの結核を、〈人獣共通感染症結核〉という。

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22 January 2018, 4:00pm

Wolfgang Kaehler / Getty Images

メキシコ、ハリスコ州サポパン。毎朝6時、200頭のウシが列をなして食肉処理場に向かう。

処理場のスタッフのなかには、獣医が数人いる。獣医たちは、ウシが結核を患っているか否かを確認する重要な役割を担っている。私たちが知っている結核は、咳をしたり、しゃべったり、歌ったりすることでヒトからヒトへ感染する。しかし、〈牛型結核〉は、低温殺菌処理されていないミルク、生肉、未調理の肉、もしくは、感染した動物との直接接触により感染する。このように、家畜からヒトに感染するタイプの結核は、〈人獣共通感染症結核〉という。

ハリスコの放牧地から出荷されるウシは、すべて、処理前に傷の有無を、処理後にはリンパ節などの臓器に病変がないかを確認される。何か発見されたら、サンプルを研究所に送り、病変が結核か否かを確認しなくてはならない。かなりの手間だが、感染肉が市場に出回らないようにするためには、欠かせないプロセスだ。

しかし、獣医師で食肉処理場経営者のブリヒーダ・エスピノーサ(Brigida Espinoza)によると、所有する家畜の結核感染は、食肉販売で生計を立てる農家にとって壊滅的な打撃だという。「ウシが結核に感染していれば、収入の80%を失います」とエスピノーサ。

世界保健機関(WHO)の発表によると、2016年、14万7000人が人獣共通感染症結核に罹り、1万2500人が死亡した。ヒト型結核菌の感染者は毎年1000万人以上で、そのうち180万人が亡くなっているのに比べると、規模は小さいが、2035年までに結核感染をなくすという世界的な目標を達成するには、ひとつひとつの感染例が重要だ、と専門家たちは口をそろえる。

しかし、人獣共通感染症結核にかんして、いちばんの問題は、サハラ以南のアフリカや南アジアなど、もっとも被害が深刻な地域の住民がこの病気と感染経路について知らないことだ。さらに、人獣共通感染症結核の専門家で、ナイジェリアのイバダン大学で獣医学を教えるシミオン・キャドマス(Simeon Cadmus)教授によると、多くの国では、動物のスクリーニングや、肉の汚染検査の方針が定まっていない。

「貧困や無知が感染に拍車をかけています」と教授。「動物福祉システムが機能せず、獣医もおらず、公衆衛生が粗悪な環境において、大きな問題といえるでしょう」

2011年のある日、ケニアの首都、ナイロビから80キロほど離れたカジアドに住むティンピイヤン・レセニ(Timpiyian Leseni)は、彼女の腹部が日々膨れているのに気づいた。さらに、嘔吐や大量の寝汗に見舞われた。彼女は36歳だったが、急激に痩せ、約36kgまで体重が落ちた。

「排泄できなくなりました。膿が溜まり、肛門を塞いでしまったんです。私は、弱り、痩せ細りました」とレセニ。最終的に、彼女は、ナイロビの病院で、胃のなかにできた塊を除去してもらった。

「お医者さんは、結核、と診断しました。お腹の結核です。煮沸していないミルク、しっかり調理されていない肉を食べると罹るそうです」。レセニは愕然としたという。

彼女はマサイだ。マサイは、ケニア南部からタンザニア北部に住む先住民で、グローバル化や西洋文化の影響に抗い、伝統的な生活スタイルを貫こうとしてきた。そのなかに、ヤギやウシの生肉を食べ、ヤギの血を飲む食習慣も含まれる。

「私は、ヤギの血を吸って育ちました。それが私たちにとって、一般的な食生活なんです」とレセニ。胃から膿を除去したあと、彼女は、抗結核菌薬を6ヶ月飲み続けた。彼女は、部族に戻ると、動物の血や、未調理の肉を口にする危険性を周囲に訴えた。しかし、周りは聞く耳をもたず、その訴えを拒絶した。

「結核菌に感染する可能性がある、と注意を促しましたが、聞いてもらえませんでした。昔から口にしていた食物ですから」とレセニ。しかし、結局、彼女の忠告にみんなが耳を傾けるようになった。愛する人がレセニと同じ症状で亡くなった、という証言がどんどん集まってきたのだ。証言は、コミュニティ内に広まった。そして、レセニは、コミュニティのなかで〈TALAKU〉という組織を創設して、結核感染予防法の啓蒙活動を始めた。

「かつては、お皿やコップの使い回しで結核に感染する、と信じられていました。空気感染や、動物から感染する事実を知りませんでした」とレセニ。「しかし、今では、コミュニティも変わりつつあります。みんな、話を聞いてくれるようになりましたし、結核のリスクを減らすために、生活スタイルを改善しています」

動物からヒトに感染する結核の予防には、メキシコの対策が好例だ、と専門家はいう。しかし、発展途上の地域でメキシコのようなシステムを整えるのは難しい。各国の食料安全規格の改善、そして、より効果的な家畜向け、ヒト向け結核ワクチンの必要性が叫ばれている。ただし、実現の目処は、未だに立っていない。

「結核は、いちばんの殺人感染症です」とWHO情報・技術責任者のモニカ・ディアス(Monica Dias)は言明する。「結核との闘いは進歩していますが、人獣共通感染症結核への対策は、かなり遅れています」